23 バレンタイン・エラー①
リビングでうとうとしていた奏恵を叩き起こしたのは一本の電話だった。
ゲンマエンタープライズのメサイヤ・オンライン事業部からの呼び出しである。
『すぐにログインしてほしい』。
「どうしたのお兄ちゃん? 出かけるの!?」
着替え始めた兄に、葵は質問した。
夜の10時半。
「いってきまーす」
奏恵は5分で家を出た。
いつものジム〈マッスルライフ〉は、もう終わっている。夜の出社の場合は、自転車で30分、幹線道路沿いの大型娯楽施設〈ビゲストウェイブ〉に行くことになっている。マンガ喫茶、カラオケ、ネットカフェ、ダーツにビリヤード、隣の温泉施設と業務提携している、そんな店である。
奏恵は、〈ビゲストウェイブ〉の受付で店の会員証とゲームのカードを見せ、VRMMOルームに入った。冷たくなった体を暖めて、ログイン――出社した。
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所変わって、メサイヤ広場。
青い月の夜空に浮かぶ――パンプキンヘッド。
「パンプキンヘッド!?」
パンプキンヘッドが、我を失ったカラスの群れのように、町を襲っていた。プレイヤーが戦っている。パンプキンヘッドは、大きな口をあんぐり開けて、所かまわず、がぶがぶと色んなものに噛みついてくる。
「なんだよこいつら!」
「なんでかぼちゃなんだ!?」
「あれ、バレンタインデーって、そういう日だっけ!?」
プレイヤーたちが騒いでいる。
カナエも今、同じ気持ちだった。バレンタインデーって、そういう日だったか。
『モンスター襲来イベントです! メサイヤの皆さん! 魔物から町を守ってください!』
運営のスタッフらしき男性が、マイクで声を拡張させて、プレイヤーに呼びかけている。そのスタッフも、片手に剣を持って戦っている。
「すみません、これ、どういうことですか!?」
「モンスターの襲来です! 魔物から町を――」
「GMのカナエです。会社から呼ばれてログインしました」
「GMの方でしたか! すみません、助けてください!」
何か、大きな問題が起きたのだと、カナエは悟った。
「本当は、チョコマン襲来イベントのはずだったんです。チョコレート王国の逆襲という……それが――」
言いかけたところで、男は背後からパンプキンヘッドに襲われ、絶命した。
カナエは、パンプキンヘッドを倒しながらギルド会館に入った。
ギルド会館では妖精たちが、パンプキンヘッドに襲われて、逃げ回っていた。プレイヤーたちも戦っていて、会館内は今や戦場と化していた。
『カナエさん、西の――〈理解の広場〉に行ってください!』
ケイからのVCがはいった。
遅れて、オプションウィンドウのメール欄に、GM部からのメールが入る。
要約すると――。
手違いで間違った種類のモブを、本来よりも大量に発生させてしまった。モブは、メサイヤの東側2キロの場所にネストを形成中。現状のネストランクはC+。GM部はこれに対して、以下のように対応する。
①ネストランクがB+を超えるまでは、ネストはプレイヤーに対応させる。
②ネストがB+ランクに到達した時点で、迅速にこれを破壊する。
また、メサイオン内部にて、局部的な魔物の発生ポイントあり。GM部はこれにも対応し、ポイントの拡大を防ぐ。
――ということだった。
カナエの向かった理解の広場は、メールで言う所の「局部的な魔物の発生ポイント」になっていた。
『カナエ様、大変なことになっていますわ!』
エトワからカナエにVCが入った。
「エトワも戦ってるの?」
『今、理解の広場に来ております!』
「ちょうど今向かってるよ。落ち合おう」
カナエはそれから数分で、理解の広場にやってきた。
理解の広場は、サマナーとプリーストの資格試験場や、各職業の試験場などに囲まれている。
そんな広場だが、今は青光のランタンを腰に下げたジャイアントチョコマン――ジャイアント・カンテラチョコマンたちが、暴れまわっていた。プレイヤーとモブが入り乱れて戦っている。
「カナエ様!」
いち早くカナエを見つけたエトワが、走ってやってきた。
早速PTを組み、戦闘に入る。
「まるでハロウィーンですわね!」
エトワは、楽しそうだった。
まるで、バレンタインデーとハロウィーンのコラボイベントである。運営はプレイヤーに対して、「コラボイベントだ」と先ほど発表したが、実際には、手違いである。
エトワのバフが、カナエにかけられた。
カナエは、迫りくるチョコマンを片っ端から倒していった。一般的なプレイヤーだと二人か三人がかりで倒すようなモブだが、カナエはそれを一人で次々と倒していった。
「すごいのいるぞ!」
「援軍だ!」
「ガンナーだとっ!?」
銃声は、広場にカナエの存在を知らしめた。ジャイアント・カンテラチョコマンたちは、その小賢しいプレイヤーを葬ろうと、カナエに殺到した。
チョコマンの脚を吹き飛ばし、二発目でどてっぱらに風穴を開ける。振り回してきた斧を腕ごと粉砕し、顔面に一撃。背後から飛びかかってきたチョコマンを、ショットガンの二連射でチョコ片に還す。
「あのガンに負けるな! やれぇえ!」
ベルセルクもアマーソルジャーも、そしてソーサラーも、カナエに負けじと応戦した。パンプキンヘッドとチョコマンは、どんどん数を減らしていった。
勝負はこのまま決するかに見えたその時、異変が起こった。
「カナエ様、あれは……」
エトワの見つめる広場の真ん中。
大量のチョコレートが集結していた。




