20 白チョコの塔のバグ①
バレンタインイベントのダンジョンには、石柱広場にできた、専用の転移ゲートから行くことができる。
ダンジョンは全部で4つ。
〈白チョコの塔〉、〈黒チョコの塔〉、〈ミルクチョコの塔〉そして、〈チョコ大王の塔〉。白、黒、ミルクチョコの塔にはそれぞれ、ホワイトチョコ伯爵、ビターチョコ元帥、ミルクチョコ王子が最上階のボスとして現れ、倒すと〈チョコキー〉を落とす。
三種類のチョコキーを手に入れると〈チョコ大王の塔〉に挑戦できる、という流れだ。
どの塔もBPT――つまり、8人のPTを推奨している。(8人以上の大規模PTを組んだ状態で入ることはできない)
塔はそれぞれ30用意されていて、1つの塔には、5組まで入ることができる。塔は内部で5等分されていて、各組がかち合うことはないようにできている。ただし、最上階だけは一部屋しかなく、どこかの組が部屋に入っている間は、他の組はその扉の前で待っていなければならない。
問題があるのは、〈白チョコの塔〉の23番である。
〈白チョコの塔〉のボスは本来ホワイトチョコ伯爵なのだが、そこに、手違いで〈ジャック・ランタン〉が出てくるようにしてしまった。去年のハロウィーンイベントで使ったモブで、うっかり入れてしまったらしい。
カナエは、二人を連れて早速、〈白チョコの塔〉の23番に転移した。
転移した先は、ダンジョンの中だった。
白い絨毯。
シャンデリアが一つ吊るされている、殺風景な部屋である。
壁は、よく見ると板チョコだ。
「すみません、私たち、戦いはてんでダメで……」
「すみません……」
二人はカナエに謝った。
「今回のダンジョンは、BPT推奨で、難易度は高めに設定しています。いつものイベンは、PT推奨でも、ソロでクリアできる可能性というか、ソロプレイヤーのことも配慮に入れて設計するのですが、今回は完全に、BPT推奨です」
「要するに、難しいと」
「はい……いけそうでしょうか?」
「それは、やってみなきゃわかりません」
カナエは、二人を後ろに引き連れて、通路を歩き始めた。
ホワイトチョコの兵隊が出てきた。ホワイトチョコファイター、ホワイトチョコアーマー、ホワイトチョコマジシャン。
通路は一本道で、常に戦闘は、挟撃を受けながらになる。
モブの一体一体の強さのランクは「B」相当(モンスターハウスのSランクに出現するモブと同程度の強さ)で、それが、廊下を歩いているだけで大量に襲ってくる。
とはいえ――いずれもカナエの敵ではなかった。
サクっと一階を踏破し、二階。
二階はBランクとB+ランクのモブが入り乱れて出現する。狭い廊下、クローズドルームトラップ。モンスターハウスのS難度の密集よりも濃い密集と、近距離から中距離までをカバーするモブの種類バランス。
「なかなかですね」
言いながら、それでもカナエには、まだ余裕があった。
モブの作ろうとする密集は、ショットガンの弾丸によって、ことごとく打ち砕かれた。
二階をクリアし、三階への階段を登る。
総務と研究者の二人は、まだ無傷である。
三階にはB+ランクのモブしか出現しない。
強敵はホウトチョコメイドとホワイトチョコ執事。見た目はホワイトチョコで間が抜けているが、実は非常に強い。素早さが自慢のベルセルク並みに、敏捷性が高いのだ。
「今回の目玉モブです。強プレイヤーであっても、なかなか倒せないようになっています。時間をかけている間に数がどんどん増えて――この階を突破するには、PTの連携が必要不可欠なのです!」
自分たちの作り出したモブの襲撃を受けながら、研究者は手を広げて叫んだ。
一階、二階と、せっかく作ったモブがあまりに簡単にやられてしまったので、研究者の気持ちは、モブの方に傾いていた。
確かに、下層に比べれば、難易度は格段に上がっているとカナエも思った。BPT推奨もよくわかる。アーマーソルジャーでなければ、三階モブの攻撃はどれもこれも一撃必殺になりうる。
PTを組むなら、まずモブのタゲをとるアーマーが必須だろう。しかし、アーマーだけでは、すばしこいここのモブに攻撃を当てられない。ベルセか、ソサが必要になってくる。
ホワイトチョコのメイドと執事は、武器を手に、カナエに殺到した。
なぜファイターやマジシャンよりも、メイドや執事のほうが強いのかよくわからない――というようなことを考えながら、カナエはショットガンのゼロ距離射撃で、一撃のもと、モブを粉砕していった。
甘い匂いが、チョコの欠片とともに広がる。
結局カナエは、危なげなく、全部倒してしまった。
しれっと四階へ続く階段を上ってゆくカナエの後ろで、研究者は白衣の袖で、涙をぬぐっていた。
「あんなに……あんなに苦労して設計したのに……ソロクリアされちゃうなんて……」
「まぁまぁ、それはしょうがないことだろう。相手はGMなんだから」
「GMだからって、ひどすぎる……」
階段を登りきると、ボス部屋の前に出た。
ダンプカーでも入場させる気なのか、というような、巨大な扉が待ち構えていた。
「カナエさん、とにかく出てくるモブを、片っ端から倒してください。ボス部屋に入ると、大量のモブがわきます。一回目は100、二回目は150、そのあと三回目は、200のモブと一緒に、ボスが出現します」
「ホワイトチョコ伯爵ですか?」
「そうです、ホワイトチョコ伯爵です。そして――ジャック・ランタンも恐らく、わきます」
「同時ですか?」
その質問には、研究者が答えた。
「同時です」
カナエは頷く。
「必要なのは、伯爵の落とす魔石です。魔石に修正パッチを入れる必要があります。――私たちも、中に入らないといけません」
「守りながら戦います」
「よろしくお願いします」
パパッと作戦会議を終え、いよいよカナエは、扉に手をかけた。




