表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/85

19 2月アプデのもたらしたもの②

 カナエは、妖精をいじめるベルセルクのもとへ、人をかき分けながら近づいていった。ベルセルクは剣を床に突き刺したまま、妖精が怯えるのを、にたにた笑って、隣の知り合いと下品なジョークを言い合っている。


「本ぐらい読めよ脳筋」


 カナエは、周りにも聞こえるくらいの、少し大きめの声で、そのプレイヤーに言った。


「あん? なんだおま――」


 ズバアアアンッ!


 銃声。

 倒れるベルセルク。


「て、てめっ――」


 ズバアアアンッ!

 二人目が倒れる。

 館内が一瞬で静まり返った。

 皆の視線が、カナエに向く。

 倒れている二人のプレイヤー。ショットガンを持ち、絶命して転がる二人の男を見下ろす、ロングコートの男。

 誰もが、そこでPKがあったと知る。


 ――あぁ、これは何かしゃべらないとダメなヤツだなと、カナエは悟った。

 日本ならともかくとして、メサイヤ・オンライン――プレイヤーの5分の1は日本国籍だが、あとの4は外国人だ。つまり、主張することを恥ずかしがっていたら、ここはやっていけない世界である。


 カナエは、近くの丸テーブルに飛び乗った。


「説明書すら読まずにギャーギャー騒ぎ立てるお馬鹿プレイヤーは、この俺が、相手してやるぜ」


 言ってみた。

 拍手が起こった。

 面白くないのは、運営スタッフに難癖をつけたり、激怒したりしていたプレイヤーである。決まりが悪い。


「おいおい、運営の犬かよ!」


「本に書いてないこともあるんですけど? お前の方が黙れよ」


「ガンナーとか、中二かよ!」


 カナエ、テーブルの上で手を広げ、役者よろしく、笑った。


「威勢がいいのはNPCにだけか? 文句があるならかかってきたらいい。もっともそんな奴は、ここでPKをする度胸すらない、口だけの負け犬プレイヤーなんだろうけどね」


 カナエは、これくらいの暴言では運営に注意すらされないのを知っていた。運営は、「繰り返し」「特定の個人団体」への「誹謗中傷」や、「人種や文化などに対する差別的発言や行為」に対しては、その内容や度合いによって対処するが、酒場などによくある口げんか程度には、口を挟まない。


 怒ったプレイヤーの一人が、カナエに魔法スキルによる攻撃を仕掛けた。

 レーザーのような光線。

 カナエはそれを、背面跳びのようにかわし、着地と同時に、剣を抜こうとしていた別の一人の腹を打ち抜いた。

 二人目、三人目……カナエがプレイヤーを倒すごとに、「わぁお!」という歓声が上がった。


「信じられねぇ! あいつ、ショットガンだよ!」


「ほっほ、嘘だろ! 超クールだぜ!」


「おぉ! すげぇ! 今の見たか!? 一発でぶっ殺しやがった!」


 日本人だけのコミュニテーではありえない盛り上がりを見せる。

 10人ばかり倒した後、カナエは再びテーブルに登り、オプションウィンドウから、小さな賽銭箱を取り出した。〈集金小箱〉と呼ばれるアイテムで、帽子やギターケースなど、形は各プレイヤーが選ぶことができる。カナエは、それを、賽銭箱にしていた。


 カナエが賽銭箱を置いたところ、金貨が飛び交った。

 中には、金貨を投げ入れてくる金持ちもいた。


「お前すげーよ! 最高だぜ!」


「友達になってくれよ。マジで、信じられねぇよ!」


「アプデで銃も強化されたのか!?」


 反応は概ね、カナエに友好的なものだった。

 集金合計――15万M。

 カナエ自身、信じられない金額だった。臨時収入を手に入れたカナエは、ホクホク顔でプレイベートルームに戻った。



 プライベートルームに戻ってきたカナエだったが、そこへ、訪問者があった。

 扉を開けると、スーツを着た男と白衣の男が並んで立っていた。

 二人とも若く、そして、ひどく疲労しているようだった。


「GMの、カナエさんでしょうか?」


 スーツの男が質問した。

 カナエがそうだと答えると、二人はばっと持っていたバッグを足元に置き、膝を付きそして――美しい土下座を披露した。


「どうか、助けてください!」


 日本人には土下座、と聞きかじり知識を仕入れてきた二人だった。

 カナエは、とりあえず二人の部屋にいれて、ソファーに座ってもらった。


「どうしたんですか?」


 若い、といってもカナエよりは年上で、よってカナエは、自然と敬語を使うのだった。二人は、運営局の社員だった。スーツの方は総務部、白衣の方はモブ開発室の研究者である。


「今回のアップデートで限定追加されたバレンタインイベントのイベントダンジョンのことなのですが、そこに出現するボスを、ま、間違えてしまったんです……」


 総務の男がそう言い、研究者がうな垂れた。


「ええと……ってことは、GMの仕事ですか!」


 ついに来た、とカナエは張り切った。

 が、総務は首を振った。


「申し訳ありません。これは、私たちの個人的な頼みです。どうか局には、内密にお願いしたいんです。すみません、本当に、すみません……」


「……まぁ、いいですけど」


 詮索はしない事にした。

 聞かないでも、二人の意図は解る。


「何をすればいいんですか?」


「白チョコの塔の23番に行き、最奥のボスを倒してほしいのです」


 カナエは、これを受けることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ