18 2月アプデのもたらしたもの①
ギルド会館がプレイヤーでパンクしているらしい。
その噂を聞きつけてギルド会館に足を運んだカナエは、その混雑に思わずたじろいでしまった。所々、市場の競りのような有様で、サポート窓口には長蛇の列ができている。テーブル席は全部埋まり、妖精たちが、ぱたぱた走り回っている。
2月のアップデートの目玉は二つあった。
一つは2月恒例のバレンタインデーイベント関連のもの。
そしてもう一つが、職業システムの実装。
混雑の原因は、職業システムだった。
今回実装された職業は3つ。〈霊薬調合士〉、〈裁縫士〉、〈農士〉。それぞれ免許があり、免許を持たないと、必要な道具や部屋を貸してもらえない。また、今回の職業システム実装に伴って、新しいアイテムが大量に追加された。
施設もいくつか新しくなった。
まず、メサイヤ広場のアイテムモールに、二号館ができた。今までのアイテムモールは〈一号館武具モール〉と名称変更され、武具関係のみが売られるようになった。追加された二号館は、〈二号館雑貨モール〉という名称で、武具以外のアイテムが売り出される。
そしてまた、今までアイテムモールの中にしかなかった〈アイテム鑑定場〉が、別館として、アイテムモールの隣にできた。平面にだだっ広い、市場のような建物である。
〈知恵の広場〉には、職業免許のための学び舎が追加された。
加えて、〈農士〉になると借りられる農場フィールドが、メサイオンの東部に作られた。東門から草原を歩いて5分程度の場所である。歩いてでも転移ゲートででも行くことはできるが、農地エリアに入れるのは、〈農士〉の免許、すなわち、〈錬種植育免許〉を持ったプレイヤーのみとなる。
――というような、アップデートの内容については、運営が町のいたるところに設置した、農家の無人販売所のような施設に置いてある本(無料)を読めばある程度理解することができる。
が、プレイヤーの多くは、本を読むことを嫌った。
そして、本に書かれていないこともあった。
その結果、多くのプレイヤーがギルド会館に押し入った。スタッフに怒鳴り散らしている者も一人や二人ではない。なぜかいきなり、会館の中でPKを始めるプレイヤーも出てきて、混沌は深まるばかりである。
「出て来いよクソ運営! 説明しろよ!」
「免許とかわけわかんねーんだよ! 職業くらいハードル下げろよ!」
「物売るってレベルじゃねぇぞ、オイ!」
今では運営側の人間となったカナエは、プレイヤーの運営に対する罵声に、びくびくするのだった。説明しろ、と詰め寄られても、全く説明できる自信がなかった。GM部からも、アップデートの事に関して、何も情報が来ていない。
カナエはまるっきり、一般のプレイヤーと同じメサイヤライフを送っていた。
「申し訳ありません、今確認を――」
「ああぁん!? ふざっけんじゃねーよ! こっちは時間使ってんだよ! てめぇ、おい、NPCじゃなくてGM出せよGM!」
「申し訳ございません。ですが、まずこの本を、あっ――」
どん、と妖精を、差し出されたアップデート解説本ごと突き飛ばしたプレイヤーがいた。妖精は床の上に尻もちをつき、近くにいたプレイヤーにぶつかってしまった。
「おっと……」
ぶつかられたプレイヤーは、飲もうとしていた酒を自分の顔にぶちまけた。
笑いが起こった。
「おい、ふざけんな!」
「申し訳ありません、申し訳ありません!」
妖精は、可愛そうに、謝罪を繰り返すしかない。
見れば、似たようなことがいたるところで起こっていた。
妖精たちスタッフは、プレイヤーに熱心に、彼女たちなりに、誠心誠意説明しようとしている。妖精の多くは完ぺきではないが、一生懸命なのは間違いない。しかし興奮したプレイヤーは、もはや妖精の説明など、聞こうとはしていない。
彼らは、批判がしたいのだ。
大声が出したいだけなのだ。
妖精たちが、泣きそうになりながら説明し、謝罪するのを、ほとんどのプレイヤーは笑いながら見ているか、「批判は正当だ」という風な態度で、彼女たちを鋭く睨みつけるか、大体どちらかだった。
――どうせNPCだ。それにしても、ここまで感情があるよう見せるとは、メサイヤの人工知能システムは本当にすごい。
とはいえ、中には、ついNPCに同情してしまうプレイヤーもいた。
その一人が、カナエだった。
初心者だった頃、カナエも、妖精たちには随分世話になったのだ。
先ほどのプレイヤーが、大剣を出して、転んでしまった妖精の足元の床に突き刺した。
立ち上がろうとした妖精は驚いて、再び転んだ。
NPCは、殺すことができる。
彼らは、オブジェクトと同じように、数時間でまた復活するから、「殺す」というよりは、プレイヤーからすれば、「破壊する」である。
しかしNPCも、そして妖精も、刃物を向けられれば、本気で怖がる。
本当は、本気で怖がっている演技をするようプログラミングされているに過ぎないのかもしれない。
――いや、そうに違いない。
彼女たちは皆、プログラムの産物だ。感情はない。命じゃない。それがあるように見せかけてある、作り物だ。
カナエは、頭ではわかっていた。
しかし気づくと、手にショットガンを握りしめていた。




