12 ショットガンの修理
壊れたショットガンを持って、カナエはアイテムモール九階武器コーナーを訪れた。カナエを見つけた九階の担当、妖精のミムは、ほわっと笑顔を見せた。
「カナエさん!」
カナエは、ミムの笑顔から目をそらせた。
ショットガンを壊してしまった後ろめたさがあった。
「今日はどのようなご用件でしょうか!」
「あ、ええと……」
カナエは、ショットガンをオブジェクト化し、おもむろにミムに見せた。
ミムはショットガンを両手に受け取り、その銃口の歪んでいるのを認めた。
「買ったばっかりなのに、申し訳ない……」
「……もしかして、欠陥品を……っ!?」
「いや、違うんだ。こういう壊し方をしたのはこれが初めてじゃないんだよ。俺の、力量不足で……」
「そうなんですか? こんな風に壊れるって……」
しげしげと銃口を見つめるミム。
元はまっすぐだった銃の先が、ラッパのようになっている。
このショットガンは、使用者のエネルギーを打ち出す発気タイプの銃である。壊れ方としては、打ち出すエネルギーが強すぎて、銃身が耐えられなかった、という風に見るのが普通だ。
それはつまり、使用者ではなく、やはり武器側の問題である。
「在庫がまだ一つあるので、お取替えします」
「いや、この銃は悪くないよ。修理を頼みに来たんだ。治せる?」
「でも――」
「修理、できる?」
「はい。これだと……30万Mくらいになりますが……」
「30万……」
「やっぱり交換を――」
「いや、修理がいい」
「そうですか……?」
「30万は、先払い?」
「いえ、後払いでも大丈夫です」
「今持ち合わせがないから、後払いでお願いできるかな?」
「喜んで!」
ミムは、鼻歌を歌いながらショットガンを持ってカウンターに戻っていった。
「さて、どうしたものかな……」
これで、武器なしになってしまった。
水鉄砲?
あれは武器じゃない。
カナエは頑固だった。
金策の手段はいくつかある。
一番手っ取り早いのは、カジノだ。1年前にはなかった施設の一つである。カジノの為にINするプレイヤーがいるくらいの、本格的なものなのだという。似たようなのだと、アリーナの賭け、〈トトアレナ〉もある。
しかし賭けは、カナエには抵抗があった。
あれは、店側が勝つようにできているのだという理屈が、ギャンブラーによくある「俺は特別だ」という謎の自信を端から飲み込んでいる。
他の金策手段。
モンスターハウスのデイリーランキングで上位10位以内にはいる。10位~5位なら10万、そこからは一つずつ順位が上がるごとに5万ずつ増えてゆく。1位なら30万。一発で返せる。
だが、武器がない。
武器がないというより、ランキングに入るなら、銃を使って入るべきで、水鉄砲とか素手でそんなランキングに載ってしまったら、「カンフーのカナエ」とか「水鉄砲のカナエ」というイメージがプレイヤーの間に広がってしまう。
カナエは、それだけは絶対に嫌なのだった。
とすると、やはりクエストか。
人に見られないように、ソロで……。いや、そういう問題ではない。人が見ている見ていないではなく、これは、プライドの問題だ。
「(俺はガンナーだぞ!)」
素手だけでなんか戦ってなるものか。
水鉄砲なんて、論外である。
最初のモンスターハウスでの試験は、カナエにとって屈辱的だった。
「足長おじさんいないかなぁ……」
大手クランには、パトロン的な人物がいることが多い。
金持ちは、この世界でも本当に大金持ちなのだ。もっとも、金が戦闘力に直結しないこの世界では、ここの金の価値は他のネットゲームに比べて低いかもしれない。
しかし今は、その金が必要なのだ。
GMなのに、金がない。
その金を得るには、戦わなければならない。
しかし、戦うための武器がない。
あれ……詰んだ?
一瞬の思考停止。
そこへ、ミムがかえってきた。
「修理なのですが、すみません、ちょっと一週間くらいかかっちゃいそうです」
「……あの」
「はい?」
「お金……」
「後払いで大丈夫ですよ?」
「その……銃が戻ってきてから、どれくらいのうちに支払えばいいでしょうか……」
「そうですねぇ」
ミムは、顎に手を当てた。
一応、マニュアルがあった。
信用できないようなプレイヤーなら、前払いだけの対応、次に分割。踏み倒さないようなプレイヤーなら、支払いは後払いでも可能となる。もし逃げられてしまった場合は、その担当の責任になるので、本当は気安く後払いを許すわけにもいかない。
逆に言えば……信用できるプレイヤーが相手の場合、支払いは月末の決算日までならいつでもいいのだ。
「二月の最終週までに支払ってもらえれば大丈夫です」
「え、いいの!?」
「はい」
ミムは力強くうなずいた。
カナエの事を信用している。
それもあった。
人を裏切るようなプレイヤーではない。しかしそれ以上にミムは、カナエに違う感情を抱いていた。
九階の武器コーナーは、近々改修工事が入る。
武器エリアが縮小され、いくつかのジャンルの武器は、完全に売り場から消える。
その大本命は、「銃」である。
彼なら、その流れを止めてくれるかもしれない。
30万なんて持ち逃げされても構わない――ミムは、カナエに賭けたのだった。
「ありがとう。本当に助かるよ」
「いえいえ」
「もし何かあったら、気軽にVCしてね。すぐ支払わないとかダメとかになったら、間に合わせるから」
カナエはそう言うと、オプションウィンドウを開いて、白いフレンドリボンを出し、それをミムに渡した。
「これは……?」
「これでいつでも連絡取れるから」
ミムはそれを、大事そうに両手で包み込み、
「はい!」
救世主を見るような眼差しで、カナエを見つめた。




