09 紫煙の先
『潰すって、どういうこと!?』
「〈ルミナス王国〉ってクランです。ちょっと、いざこざがあって」
『……ええとね、〈ルミナス王国〉、総合クランポイントランキング35位、メンバー数90。マスターは、〈アレクサンダー〉。そこ、いわゆる大手ですよ』
「ギルド戦争って、あるんですか?」
『あぁ、それ、実装計画書の中にあったやつでしょ。あれは、まだ未実装。ちょっと時間かかりますよ。やるなら、デュエル・アリーナです』
カナエは、GMマニュアルの1ページを思い出していた。
流し読みした程度だったが、「PK泥沼化対策案」という項目があった。PK、PKK、PKKKという繰り返しにより、個人やクランが終りのない報復合戦を繰り広げてしまうこと。それは、プレイヤー社会、経済に悪い影響を与える可能性があるので、運営はそれの対策として一つの案を提示している。
それは、デュエル・アリーナだ。
チャンピオンシップとは別に、デュエル・アリーナというのがある。金やアイテムを賭けるのも自由、人数制限等のルールも対戦者同士で決められる決闘戦だ。ただし、申請はギルドを通すため、報酬の未払いやルール違反は基本的にあり得ない。
運営は、クラン同士の戦いの決着に、このディアル・アリーナを使うことを推奨している。
「やっぱりデュエル・アリーナがいいですかね」
『それがいいだろうねぇ。でも、何賭けるんですか?』
「ええと……」
所持金1万M未満、賭けるものなんてこの体以外にないじゃないか。
しかし、人身売買はできない。デュアル・アリーナで賭けることができるのは、金とアイテムだ。
『はした金じゃ、たぶんやらないですからね。――あ、カナエさん、あるじゃないですか、賭けるもの』
「え?」
『その家ですよ。プライベートルーム。不動産はアイテム扱いなんで、いけます』
「あぁ!」
その手があったかと、カナエは手を打った。
『あ、でもダメですね』
「え、ダメなんですか?」
『キャンセル料の支払いも必要なんです』
「キャンセル料?」
『要するに、不戦敗ってなったときに、相手に支払う報酬の事です。正規勝利報酬の評価額の3分の1が必要です』
ということは――。
980万の不動産アイテムに対して、キャンセル料で必要なのは……。
326万M。
「無理ですね……」
『ちなみに、いくら足りません?』
「326万Mです」
『うわ……結構足りませんね。あ、でも、方法はありますよ。キャンセル料もそのプライベートルームにしちゃえばいいんです』
「ってことは――」
『不戦敗でも、闘って負けても、プライベートルームを取られることになりますね。まぁ、普通のプレイヤーはそんな条件出しませんけど』
「ありがとうございます、助かりました」
カナエはVCを切って、早速手続きのため、ギルド会館に向かった。
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カナエがギルド会館でデュエル・アリーナの申請をしている頃。
ケイは、アイテムモール九階武器エリアにVCを繋いでいた。
「どーもどーも、GMオペレーションルームのケイです。ええと、九階武器担当の方?」
『はい、九階武器エリア担当のミムです』
「オッケーミム、ちょっとその階にある銃のことで聞きたいんだけどいいかな」
『はい!』
「ショットガンって、売ってる?」
『はい。先日一つ売れました』
あぁ、たぶんカナ君だな、とケイは思った。
「そのショットガンって、強いの?」
『ええと、それは……でも、先日購入いただいたメサイヤ様は、レベルAのモブを試し打ちでたくさん倒していました。見たことないような速さでした。あの……銃って本当は強いんですか?』
「いや、銃は強くはないと思うんだよね……。わかった、ありがとう」
『はい、お役に立てて良かったです』
VCが切れる。
ちょうどそこへ、開発センターのセンター長、白衣のクロップがやってきた。
「あ、どうも、クロップさん」
「彼の映像、見せてもらったよ」
「新しいのありますよ」
そう言って、ケイはカナエがモコゲーターを倒し、その後複数のプレイヤーと戦う映像をモニターに流した。
「これは、すごい。いや、信じられない」
クロップが映像を見ながら呟く。
「――しかし、困るな」
映像が終わり、クロップは近くの椅子に座った。
「間違いなく人気出ますよ、あの戦闘スタイル。まさに〈ガンナー〉って感じじゃないですか」
「だが、万人向けじゃない」
「どうやったらあんな戦い方、できるようになるんですか?」
「それが分かれば苦労しないね。いくつかの仮説は立てたが、検証ができない」
「ガンナーセット、作りますか?」
クロップは、頭を抱えた。
その反応を知っていて、ケイは質問したのだった。
メサイヤ・オンラインには、プレイヤーをこう育てる、という育成計画がある。「多くのプレイヤーに」というのが観点の一つ目。「確実に」というのが二つ目。三つ目は、「より強力な戦闘能力」
要約すると、「より確実に、多くのプレイヤーをできるだけ強くする」のが運営局のプレイヤー育成方針である。
メサイヤ・オンラインには、バトルクラスが5つ存在する。
「存在する」というよりも、運営が「設定した」といった方が正確だが、まず、一つ目が〈アーマーソルジャー〉。次に〈ベルセルク〉。そして、〈ソーサラー〉。
この3クラスは、英霊から聖印を得ることによって、誰でもなれる。残り2つ、〈プリースト〉と〈サマナー〉は、試験に合格すれば、聖印を得ることができる。
現在、クラスはその5つきりである。
それぞれ専用の武装――聖約霊装を装備することによって、プレイヤーは肉体に潜む潜在能力を解き放つことができる。
・誰でも
・一定以上の戦闘能力を
・確実に
上記5つのクラスによる育成ならば、この三要素を満たすことができる。
しかしこの世界、それから外れるプレイヤーも、少数ながら存在する。
運営はそのようなプレイヤーを〈イレギュラー〉と呼んで警戒している。カナエはまさに、その〈イレギュラー〉の最たる例だった。
「受け入れるか、排除するか、それは局の判断だよ」
クロップは葉巻を切り、火をつけた。
紫煙がゆらゆらと伸びてゆくのを、クロップは見上げ、その先を見つめた。




