セツと姉
学園では才色兼備で通っている姉の実態を知る者は少ない。
なにせ、家で二人きりになると毎度のように突拍子もないことを唐突に言い出すのだ。
まあ、2人して黙々と過ごしすのも味気ないから、それもいいと思っていたが、
「セツ、驚かないでね。子供はね、コウノトリに運ばれてくるんじゃないのよ!」
などと、真顔でのたまわった時にはどう反応すればいいのか思いつかなかった。
「姉さん……」
なにやら突っ込むべきなのかわからず、なんとかそれだけを呟く。
だが、姉はそれを別の解釈に受け取ったらしい。
「だからね、わたし達は本当の姉弟じゃないの」
そんな事実にショックを受け驚いているという解釈に……。
残念ながら、それは違う。当時3歳だった自分には本当の両親の記憶も、
色々あった末に引き取られた記憶も、きちんとあるのだ。
(ふっふっふ、ナユ。今日はコウノトリさんが弟をプレゼントしてくれたわよー)
そういえば叔母さんはそんなこといって姉さんに自分を紹介したっけ。
「大丈夫よ、セツ。わたしはそんなこと気にしないし」
(むしろ、本当の姉弟じゃないから結婚だって……。ぐふふふふ)
などと、姉が不気味な笑いと妄想を繰り広げるのはいつものことと半ば諦めながら、
後半の呟きが聞こえなければ良かったのになあ、と嘆息する。
しかし、まあ、なんというか…。
「コウノトリをいまだに信じていたんだ」
その言葉で、姉はやっと自分の勘違いに気づいたらしい。
ショックを受けているのではなく、呆れているという事実に。
「セツは知っていたのね、いじわる」
「いや、普通知ってるだろ」
「そうやって、自分の常識を世間に当てはめるなって教えてきたわよね?」
「いや、それ姉さんのほう」
ときどき、姉は無茶を言う。
だいたい、コウノトリを世間一般の常識にするのは無理がある。
「てか、学校でも習っただろ」
「日本の学校なんて外面とテストだけでどうにでもなるわよ」
そのあたりは詳しくテストにでないから勉強しなかったし、
それになんとなく恥ずかしかったしとか言い訳っぽく告げる。
「それといじわるってどういう意味だ?」
「わたしはコウノトリって愛し合ってる2人がキスしたり、
抱き合ったりすると赤ちゃんを運んでくると思っていたの」
頭が痛くなってきた。なんで、こんな人が優秀なんだろう?
「だからね、そういうことをするのはセツが働き出すまでって我慢してたの」
「ええと、そのまま一生我慢していてくれるとありがたい」
そんなことをいいながら抱きつこうとしてくる姉をかわして、
本心からそう言いため息をついた。
このたびは、最後まで読んでいただいてありがとうございます。少しずつでも書いていきたいと思っていますので、よろしくおねがいします。