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終わりの、始まり

#1 出会い


「はあ?なんだこれ?」


ボソッとつい口に出たのだろうか?清潔感ある短髪、色は栗色。サイドは刈り上げており、天辺にかけて髪を盛り上げている。まつ毛は、男にしては長め。


長テーブルにパイプ椅子、広々とした会場には十数名の男女が入り乱れており、その最後列に短髪栗毛の男は席を取っている。


再度、契約書に目を通し深くため息を吐く仕草。首を両サイドにゴキゴキと鳴らし、真っ白なワイシャツの首根っこをつまみ新鮮な空気を地肌に送る。


壇上では、説明会の司会の女性が、契約者候補達の明後日な方向の質問を簡潔に捌く光景。


「しっかし、某番組なんかでやってる様なヤツじゃあなくて、本当のサバイバルを御所望なんだろーな。生死の関係無しにリタイア禁止って、やる奴いるのかね?」


ふと、斜め前の席から声が上がる。長髪で黒髪、結ってあるが解いたら肩ぐらい迄はあろうか、黒と白のストライプのワイシャツの男だ。


「おたく、やる?」


不意に短髪栗色の座する方に振り向き、長髪の男が声をかけた。


「ん、んー、どうですかね…。」


「どうですかねって、無茶苦茶怪しくね?」


「え、じゃ、あなたはやらないんですか?」


「いや、はは、やらざるを得ないと言うか、まあ、仕方ない感じ?」


長髪の男は表情を一瞬引きつらせながら続けた。


「借金、あんだわ。で、これ紹介されて……あんたもそんな感じだろ?」


一瞬、短髪の男の顔が強張るが、直ぐに素に戻った。


「いや、自分はそう言うのではないんですが、金、必要なんでやる方向ではいますよ。」


「借金じゃ無しに、2500万も必要なの?あ、なんか飲食店とか開いちゃう感じ?」


「いや、そう言うんでも無いんですよね…」


「んー、ま、いっか。俺は森大地(もりだいち)一緒にやるんなら、協力しようぜ」


すっと、森大地と名乗った長髪の男が右手を差し出した。


「自分、山中海(やまなかかい)って言います、ども」


森の差し出した右手を山中海と名乗った短髪栗色の男は握った。


「森と大地と山と海ってか?こりゃ、サバイバルやる為の巡り合わせだな!」


「はは、本当っすね」


「海君、幾つなの?俺は21」


「あ、タメです」


「タメ?おいおい、じゃあ敬語なんて良いよ〜、それと、俺ん事は大地って下で呼んでね」


大地の急接近は、普通ならば随分と馴れ馴れしい筈なのだが、契約書の内容からも取れる様に協力者は絶対必要な過酷な状況にいつ立たされるか分からない。一年という長いサバイバル生活に対し、少しの安堵からか、海の緊張がある程度、解れている様にも見えた。


「宜しく、大地。」



#2 上陸


バババババババババ…


ヘリコプターのプロペラが物凄い勢いで回転する。煽って来る風に、皆眼を細めずには居られない。


ここは、先程の説明会が行われた会場があるビルの屋上。参加者は、先程の説明会に参加した全員。中には女性の姿もあった。


ヘリコプターは、全部で3機。大地、海を乗せたヘリが今飛び立とうとする所。ヘリコプター内、機体に背をあてる様に安全ベルトを絞め横並びに10名ビッシリと固定されている。向かい側もそれと全く同じ状態。


海は、思い返していた。説明会で、あの女性がスピーカー越しに話していた内容を。


「衣類も当然所持品ですので、島に着き次第こちらで預かります。」


ザワつく会場、しきりに衣類の必要性を熱弁する参加者。映像として海の頭にしっかりと浮かび上がる。


「支給品なども、一切御座いません。如何なる理由であっても支給は御座いません」


意気揚々と話す司会者、段々とザワつきも収まりはじめる。


「例え、あなた達が生死の境を彷徨う様な事が起ころうとも一切の関渉も致しません!」


そしていつの間にか会場は静まり返り、司会者の声だけがスピーカー越しに力強く響いていた。


「…………っ」


「……いっ」


「かいっ!」


ハッと我に返る海、右横の席の大地の呼び掛けであった。


「わり、どした?」


呆れた様な表情の大地、気怠そうに首を右上に上げ、顎を突き出した。


「ま、緊張してんのも分かるけど、皆で協力すればどうにかなるんじゃねーの?」


「ああ、だと、いいけど。」


俯き加減で、海は応えた。海の脳裏には、えも云われぬ一抹の不安がよぎる。


にんげんは、そんなに強くない。病、怪我、空腹…平常心でいられるなら、果たして金銭に追い込まれる様な状況になる人間は信用出来ないのではないか?


会社の倒産、保証人、家族の為、運転資金の確保、夢の為、ただ金が欲しいから、様々な理由で参加者はここにいる。


ただ、私利私欲に走る奴を見極めなければならない。


強張る表情の海。


「おい、海、大丈夫か?乗り物酔い?」


大地は海の顔を覗き込んだ。


「いや、大丈夫。ただの、考えごとだから」



ババババババババババババババババババ


物凄い勢いで回転しているヘリコプターのプロペラが徐々に弱まりを見せる。機体は、無事に白い砂浜へと着陸を終えた。


ハッチが、金属音を鳴らしながらゆっくりと開いて行く。


海は、不安を拭えないでいた。



#3 始まり


島に着くと、1人づつ番号札と名前の書かれたキャリーバックを渡された。職員の指示で、そのキャリーバックに衣類を含む全ての所持品を参加者全員が入れ終えた。


皆、納得し、サインした筈だが、やはり恥ずかしさが勝るのか、皆局部を手で覆う仕草だ。女性もこのヘリに3名いたが、胸も隠さねばならないので両手が塞がり、此れからのサバイバルでは大変そうだ。


参加者の荷物をヘリコプター内に運び終えると、職員達は参加者に目もくれず、砂を巻き上げ飛び立って行った。


呆然とする参加者達、去り行くヘリコプターを眺める者、ただただ下を向き続けている女性、直ぐさま移動を始め単独行動をする者、大地と海もまた、ただただ立ち尽くしていた。


暫くし、大地が口を開いた。


「取り敢えずさ、なんか、葉っぱとか集めて服的な物でも作ろーや」


「ああ、そうだね」


少し不安が頭から消えたのか、緩んだ表情で海は応えた。


「海、あの女の子らヤバイよな」


「あ、ん、絶対ヤバいね」


「どうする?いきなり声掛けても怪しまれんべー」


「うん、だろうね」


ふと、大声が辺りに響く。


「私は、元教員の橋本だ!」


筋肉質なガタイの良い、壮年の男だ。背も高く、如何にも体育教師風で、肌の色は浅黒い。


「交通事故を起こし、今に至る。任意保険が切れ、自身がゴールド免許だった事もあり、再加入を疎かにしていた。信用しろとは言わない!だが、互いに協力しあうのは1年間生き抜く為には必須だ!食料の確保、飲み水の確保、着る物や寝床、やる事は盛り沢山だ!」


参加者達の期待が橋本と名乗る男に向けられるのが、あからさまに見える。


「だめ、俺、あーいうの苦手」


ボソッと大地が海に囁く。


「まあ、初めはいんじゃないか?全員で協力した方がさ」


海が囁き返す。


「あれ、信用すんの?」


「まあ、よーいどんで2人よかいいでしょ」


「まあなー」


尚も続く橋本の演説じみた統率。


「先ず、女性がいる。この女性達の着る物、葉っぱでもなんでもいい。取り敢えず隠せる物だ、我々は文明人だ!ルールを設け、協力し合えば一年なんてきっとあっと言う間だ!よし、そこの二人!服になりそうな物、何でもいい、集めてきてくれ!」


左手で局部を隠し、海と大地に向けられた右手の人差し指。


「は、はあ」


海が、引き吊り顔で橋本に返す隣り、大地は開いた口が塞がらない様子。


「あなたとあなたは、飲み水の確保出来そうな場所の探索を」


「女性陣は、その状態では何も出来ないだろうから、そこの森にでも身を隠していてくれ!」


「あなたと私は、食料になりそうな木の実でも何でも探しましょう!」


橋本の指示のもと、単独行動に出た1人の参加者を除いて各々が協力し、それぞれの仕事に取り掛かった。



#4 海の理由


昼間のジリジリとした陽射し、国内か否かでさえも分からぬ絶海の孤島。木々は生い繁り、草花はゆうに人の行く手を阻む。見た事の無い鳥や、虫達を避けながら海と大地は、両手一杯に大きな葉の様な緑色の植物を携えていた。


時折聞こえて来るヘリコプターの響音が、次の参加者達を運んで来るのが分かる。ただし、海達が降り立ったあの白い砂浜では無い何処か違う場所へ向かっている。


海、大地共に、腰にツルの様な植物を巻き付け、そこに大きな1枚の葉を前後に通してある姿。故に、両手を使えている。


「海は、あの2人だったらどっちがいい?俺は、絶対あのショートカットの娘だな」


「ああ、あの紫アフロのおばはんは、1人に含まれて無いのね」


含み笑いの海が返す。


「そりゃ、そーっしょ!何?あの3人て言わないとダメ?」


「ははは、ジョーダンだって。ってかさ、大地から好み聞いといて先に自分で言っちゃうとかって、俺への牽制だよね?」


「へ?」


「あー、何も考えて無いタイプの人だ」


「…………」


海の表情は、一変した。大地ですら、信用に値する人物かどうか分からなかった。初対面であり、最初に話し掛けられたから何となく供に行動をしていた。が、あっけらかんとした大地の性格が少しずつ見えて来て、ここで悪い奴では無いと何と無くだが思えたからだ。


「…で、海は?」


少しふてくされた表情の大地。


「ん、ま、俺はそういう気になれないな。しいて好みかどうかなら、髪長い方。」


「ほう、君とは仲良くやっていけそうだ」


「は、なんだそれ」


絶海の孤島、それが2人の信頼関係を急ピッチで構築して行くかの様に海と大地は互いを認め合うかの如く会話を弾ませた。


「でさ、言いたく無きゃいんだけどよ、海はどーして金が必要なんだ?」


ふと、うつむく海。


「ん、まあ、別にそこまで興味無えっちゃ無えかなー」


コロッと態度を変え、大地は海の変化を察した様に言葉を戻す。


「…やっぱ、教えてくれよ。」


大地のこの言葉に、海は何か感じる物があったのかふと眉間にシワを寄せ、口を開く。


「最後まで、協力し合おうな。絶対に。」


「お、おう。」


突然の海の言葉に戸惑う大地。


「俺、両親を早くに亡くして弟と2人で暮らししてたんだ。親戚の家、たらい回された挙句いきついたのが酷い施設でさ、もう、ヤクザ養成所かってくらい。そんで、高校行かずに弟と2人で暮らす為に働いてさ、どうにかボロいアパートだったけど脱出出来たわけよ」


「お、おう」


「でさ、弟には高校行かしてやりてーって、死ぬ気で働いたんだよ。何にも気がつかづにな。ある日、仕事から帰った俺は、弟がぶっ倒れてんのを見つけた。」


「え?」


「長ったらしい病名でよ、10万人に1人がなる不治の病だとか言われてよ、弟の為に高校行かせてやる為にって働いてたのに、弟の変化になーんも気付いてやれなくてよー」


肩を震わす大地。


「でさ、保険きかねーから、治療費とかスゲーかかるんだ。ま、高校行かせてやる為に貯金してたのが多少あっから、それをまあまだマシな親戚に託し、今に至るって感じだな」


「…って、おい、大地?」


「う、う、うう、おめ、それ、何だそれ…グスン」


「な、泣かなくても良いだろ!?」


大地の泣き顔に更に信用を寄せ、一抹の不安は海の中から消え失せた。



#5 協働


海と大地の収拾により、多少肌の露出が緩和された参加者達。湖の発見、野イチゴの発見など、他の参加者達の探索の成果もあり、参加者達は、砂浜でそれぞれ横になり1日目を終えた。


夜中、海を見つめる1人の女性がいた。ふと、その光景に目が入る海。大地が好みだと言っていたショートカットの女性。


海は、そっと大地の身体を揺する、まだ眠りも浅かったせいか直ぐに大地は反応を示した。




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