Scene94『いずれ始まる次なる戦いのために』
「う~ん」
ギルド長会議は同盟発足が決定してからつつがなく進行し、尊が可愛らしく唸っている間に色々と決まった。
地上と地下の入り口を建築系ギルドが中心となって改築し、トーチカのような物を造り蓋する。
そこに戦闘系ギルドが中心となって交代で入り、フェンリル側の転送の拠点であろう破壊不可能の転送球を監視。輝き次第範囲攻撃で出た瞬間に潰す。
こうすれば自動兵器が学習する余地もなく、目的を潰しつつ時間も稼ぎ、地下での活動人員を可能な限り増やせる。
地下は地下で、探索系ギルドを中心に地下四階以降を調査しつつ、武霊使い達の活動及び拠点の拡張を行う。
同時に可能な限りガーディアン系を確保し、小河総一郎を中心とした強制転送組を改造守り人で戦力復帰できるようにする。
その他にも生産系ギルドを中心に守蜘蛛の改造ができないか試みつつ、地下四階以降で手に入れた素材を素に新たな紋章魔法の開発を行う。
大まかな方針は事前に決めていた通りに行われることが確認された。
同盟長に任命された尊を尻目に。
「単に象徴として使いたいというのはわかりますけど……それだったら鳳凰さんの方がもっと相応しいと思うんですけど?」
会議がいったん閉幕したと同時に、ようやく唸ることを止めた尊をそんなことを隣に座っている少女に言う。
彼女は苦笑と共に鎧姿を映し出していたVRA画面を閉じた。
会議中、彼女は今の姿をさらさずに自身の武霊が作り出したいつも身に纏っている全身甲冑の映像を介して参加していたのだ。
「尊ならわかると思うが、今回に関して言えば既に私の知名度と実績より尊の方が勝っている」
「その口ぶりからすると事前に根回しされていましたね?」
「ま、まあ。幾分か思うところはなくもないが、あれだけ活躍してしまったのだ。今更一プレイヤーになるというのも無理な話だろ?」
「それはそうですけど……不可抗力ですし」
「望むと望まざると、己のした行動は己に返ってくる。なに、私も経験したことだが、なんとかなるものだよ」
「鳳凰さんもですか?」
「尊に比べれば自業自得なことが多かったがな」
「盾の乙女団結成の話ですか?」
「ああ。ウィッチ&ナイトは知っているか?」
「EUのQCオーディンの領域で展開されている世界で二番目に作られたVRゲームですよね?」
「そうだ。プレイヤーは魔女が支配する異世界を舞台に、外付けQCごとに分けられているどれかの国に所属し、騎士あるいは魔女として国や住民からの依頼をこなしていくゲームなのだが……初期に作られたゲームの一つなだけあって色々と不備があってな。プレイ人口と運営側の数が釣り合ってなかったことも重なって、特にプレイヤー間でのトラブルは放置されることが多かった。それらに対してVRゲームを始めたばかりの私はトラブルを目撃するたびに首を突っ込んでしまってな。あれよあれよという間に問題解決の中心に添えられてしまっていた。で、気が付くと盾の乙女団などと言われていたよ」
「え? 鳳凰さんが作ったギルドじゃなかったんですか?」
「いや、自然発生といった方がいいだろうな。もっとも、急激に大きくなり過ぎて当初はバラバラに動くことが多かった。おかげでトラブル解決するつもりがトラブルのもとになるなんて事態が頻発してな。それをなんとかするために後付けで今のような組織化はさせたが」
「その頃って鳳凰さんは今より幼かったですよね?」
「当然だ」
どう見ても中学一年生の自分と同じぐらい、場合によっては下にも見えなくもない彼女が堂々と頷く姿に尊は少しの間だけ目を瞬かせた。
「よく組織化できましたね」
「幸い、私の周りには京子をはじめとする頼りになる仲間が大勢いたからな。こんな子供でもなんとかなった。それにウィッチ&ナイトには駆動騎士という職業があってな。ここでも使っている機械仕掛けの全身甲冑を使うことができたことによって、子供だと周りに思わせずに済んだというのも大きいだろう」
「ああ、だからそんな口調でいるんですね」
「そういうロールだったというのもあるが、人をまとめるには外聞というのも大事だからな。慈善による救済と保護を信条としているギルドの性質上、少女というのはなにかと都合が悪いというのもある。舐められてしまえばそれだけギルド員に迷惑を掛けてしまうからな」
「だとすると、やっぱり僕がトップっていうのはまずいんじゃ?」
「今回に関してはあまり関係ないな。どれだけ納得できるか、求心力がどれだけあるかが大事だ。その点、尊は容姿・実績・人気とどれをとっても最適だ」
「いまいちよくわからないんですけど……こういうのって普通、男らしい人の方がいいんじゃないでしょうか?」
「いくら否定する要素を探してももう駄目だぞ? 私達だけならどうとうでもできるかもしれないが、動いたのは日本のトップになったことがある人物だ。現役を引退したとはいっても流石の政治力だと唸らされたよ。気が付けば尊の作戦に関わっていた者達のほとんどの説得が終わっていたからな。まったく、向こうだって忙しかったはずだのによくまあ、並行してそんなことができたものだ」
「ううっ」
「結果としてハメた側に付いた私が言うのもなんだが、諦めてくれ。私達だけではまとまり切らないのは既に経験済みだからな」
「わかってます。だから、同盟長になるのは……嫌ですけど。受け入れるしかないって分かってます。ここまでしてもきっと次の戦いはあるはずですから。その時に少しでもこちらが有利になるようにもっと環境を整えないといけないですし……でも、その。結成会でみんなの前でお披露目をするっていうのが」
「耐えてくれ。としか言えないな」
深いため息を吐く尊。
「ああ、そうだ。一つだけ謝っておく」
「はい?」
「尊を同盟長にするという話は、先日の作戦が始まる前に決まったことだ」
「みたいですね」
「だから、ほとんどの者が間違えて準備をしていた」
「はあ?」
「だからすまない」
具体的なことを言わずに謝られても尊としては困るしかないが、その意味が分かるのはそれから三日後・時間加速によるログアウト不能が始まってから二十二日目のことだった。
「ほほう。黒樹尊を同盟長にして一つにまとまる方向にしやしたか。相変わらずあの爺さんは利用できるものをなんでも利用しやすね」
ティターニア城謁見の間でQCティターニアの攻性抗体プログラムの処理を担当しているPMScsフェンリル代表取締役ギルバート=レギウスの下に武霊使い同盟の話が入ってきたのは、それが決まったギルド長会議が終わって半日経った頃だった。
つまり、その情報伝達範囲に工作員が紛れ込んでいるということだが、それを尊達が把握できる手段は今のところない。
少なくともこの情報を得たからといって即座に行動を移すほどフェンリル達は愚かではないからだ。
「ギル。ごめんなさいなのです」
ギルバートに同盟の話を持ってきたトールというコードネームで呼ばれている青髪青目の少女は顔を暗くして謝罪した。
「まあ、こうなることなど誰も予想はできやせんからね」
「でも、私達が見誤ったから――」
「それを言うのなら、あっしが大本の原因でございやすよ。なんせ黒樹尊を呼び込んだのはあっしでございやすからね」
「そんなことは!」
「ないとは言い切れんでしょう? まあ、これを言い出したら切りがございやせんからね。既に終わったことを口にするのは不毛でございやすよ。今は未来の話をしやしょうや」
「でも、あそこまで体勢を整えられてしまってはそれを覆すのは難しいのです。このままでは……間に合わないのです」
「そうでございやすね……まあ、それでしたらこうしやしょう」
ニヤリと笑ったギルバートが口にした内容は、しおらしくしていたトールを激怒させるものだった。
「ばっかじゃないのなのです!」
「それぐらいしないと引っ繰り返せないのは既に証明されているでございやしょ? でございやしたら、こちらもそれをやるだけでございやすよ。というわけで準備をよろしくでございやす」
「…………了解なのです」
言っても聞かないことをにやけ顔の裏に見たのか、トールは深いため息を吐いて謁見の間から出ていくのだった。
なろうで投稿されているVRゲーム物を読んでると、初盤は普通にプレイ日記的な話でも面白かったかな~とか設定説明が分割できて都合がよかったかな? とか思わんでもない今日この頃です。まあ、初期案ではその案もあったのですが、紆余曲折あって今の形になってるので今更過ぎるんですけどね。とりあえず、このまま話は続ぎます。




