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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
2.機械仕掛けの戦乙女は阿修羅編
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Scene89『決死の結果』

 (なにが起きたの!?)

 僅かに感じる滅茶苦茶に振り回される感覚に混乱するが、少し遅れてシールドが展開され同時に揺れも収まる。

 一先ずほっとする尊だったが、直後にカナタからもたらされた答えは衝撃的なものだった。

 「報告します。敵日暮翼が自爆しました」

 「じ、自爆!? 嘘でしょ!?」

 「否定します。虚偽ではありません」

 「いや、まあ、カナタのことは信頼しているけど……VR体だからそんな無茶を、それに向こうは普通に転送が使えるんだよ? こっちが封じてはいたけど」

 「不明です。強調します。ですが、マスターを倒すためならこれ以上に絶好の機会と方法はなかったのだと推測できます」

 「それって……」

 そこまでするほど自分を倒したかった彼女の執念とカナタの推測が、尊に今の状況を知らしめる。

 普通の爆発であれば、衝撃が収まれば直ぐにシールドを解除する。だが、そうならないということは外がどうなっているかの最悪を想像させた。

 「動けない?」

 「肯定します」

 「周囲の環境が正常に戻るにはどれくらいかかる?」

 「回答します。この部屋には環境調整魔法は破壊してしまっています。閉鎖空間が維持された場合、長時間元に戻ることはありません」

 「ドアが閉じてるの?」

 「肯定します。急激な環境の変化に反応したのか、ドアが強制閉鎖されているようです」

 「破壊できないの? まだ外に改造守り人は残っているよね?」

 「肯定します。そして、強調します。ただし、脅威優先度が引きあがったのか、囮を無視してガーディアン系がこの部屋の周りに集まってしまっています」

 「みんなの助けは期待できない?」

 「肯定します。現状の改造守り人だけは守蜘蛛の集団には囮はできても、勝つことは難しいでしょう」

 「部屋は壊れないの?」

 「否定します。地下ダンジョンの構造は環境に対して強固であり、熱伝導も起きません。それ故に生じた高圧力・高温・有毒ガスが解消され難くなっています」

 「つまり、この部屋から自力で脱出するしかないんだね?」

 「肯定します」

 「なら、直ぐに脱出しよう。カナタ、ナビゲートして」

 尊のその命令に、普段であれば直ぐに応えるはずのカナタが沈黙した。

 「カナタ?」

 「……報告します。現状の精霊力・所有紋章魔法では、脱出することは不可能です」

 尊の視界に映る精霊力ゲージは既に辛うじて見える程度しか残されていなく、防御系の紋章魔法も今使っているもので最後だった。

 いや、そもそも、有毒ガスで満たされ高圧高温で荒れ狂っている環境であれば、前面展開をベースにしているシールド魔法では防ぐことはできず、そんな状況で武装化が解ければ全身どころか内まで焼かれることは想像に難くない。

 尊自身も言葉にはしなくてもわかってはいた事実を、カナタが確定させてしまい口を閉ざすことしかできなくなってしまう。

 「こんなことだったら全身を覆うシールドも作っておけばよかったね」

 「否定します。そうであったとしても、結局は動けません」

 「そうだね……」

 光の壁によって周囲を囲んでいる状況は、絶対的な防御を発揮しているが、なんの影響も受けないということは与えられないこととイコールだった。

 「あと、どれくらい持つ?」

 「回答します。二分です。確認します。カウントしますか?」

 「……うん。お願い」

 「了解しました。カウントを開始します」

 精霊ゲージの隣に数字が表れたのを確認しながら、尊はなにかを決意したような表情になる。

 「……部屋の外は?」

 「確認しました。先程と変わらず広範囲でガーディアン系が展開されています」

 「なら、ルカさんに救援を頼んでも難しいね」

 「事後報告します。地上への救援要請は出しています」

 「そっか……でも、間に合う? ここ、地下四階な上に、周りは僕達のせいでガーディアン系がうようよしているんだよ?」

 「……推測します。限りなく低いです」

 「そっか……」

 空間湾曲により作られた小さな閉鎖空間の中は二人が沈黙すると完全な無音になる。

 精霊領域で調整されているため、尊に今は不調が出るようなことはない。だが、直ぐに不調などというレベルを超えた事態が起きてしまう。

 もっとも、そんなことを人に寄り添い導くために生まれたナビが許すはずもない。

 カウントが一分を切った時、カナタがVRAで尊の前に姿を現す。

 主を真っ直ぐ見ながら自分の胸を指出し、

 「提案します。私をさ――」

 「却下だよ」

 期間は短くとも片時も離れることなく過ごしてきたが故に、なにを言わんとしたか先んじてわかった尊は言葉にさせない。

 「何度も言っているけど、ここで優先されるべきはカナタなんだ。僕じゃない」

 「否定します。現状ではどちらも生き残れません。ならば、優先されるべきはマスターであるべきです」

 「そんなことはないさ。カナタは生き残るよ。ううん。生き残らせる。例え、僕がどんな目に遭っても」

 「マスター?」

 落ち着いているようでいて、しかし、カウントが三十秒を切る頃から僅かに手が震え出し、息も少しずつ荒くなり出す。

 「僕はカナタのことを忘れてしまうかもしれないけど、カナタは僕のことを覚えていてね」

 恐怖が表面化しながら、それでも笑顔をカナタに向けると、彼女はなにを言えばいいのかわからなくなったのか無表情の中に僅かな戸惑いを見せる。

 そして、カウントがゼロになり、シールドが消失。

 尊の視界に全てが灼熱に輝く部屋の光景が映り、ガーディアン系の残骸が天井に迫る勢いで急坂を作り出していた。

 爆心地が部屋の端であることを考えれば、それによって出口は埋もれているのは見なくてもわかる。

 が、今の尊達にそれらを退かす術はない。

 「マスター……私は――」

 なにを言いたかったのか、カナタの言葉は途中で搔き消え、武装化が解除され、光と闇の粒子が舞い出す。

 急激に暑さが増していくのを感じながら、尊は着ているアンゴラベアのコートを脱ぎ、両腕で広げ待つ。

 空中で人の姿に戻ったカナタを抱き留め、直ぐに毛皮で包んだ。

 「これで、だい――」

 安堵の笑みを浮かべようとした尊の顔が苦痛に歪む。

 吸い込んだ空気が熱い。いや、痛い。

 それが怒涛となって内を、外を焼き、アンゴラベアのコートに包まれたカナタを必死に抱え込む尊を燃やす。

 (ああ、ああぁあああああああああっ!)

 思考はもはや言葉にならず、尊の姿は一瞬で人型の炎となってしまう。だが、それでもなお、カナタを抱く手は離さず、それどころか一歩前へと歩を進めた。

 (あああああああ――)

 だが、刹那に襲う形容しがたい激痛は、尊の意識を立ったまま刈り取る。

 その瞬間、VR体リセットが発動し、身体だけが元に戻ってしまう。

 気体化した尊だったものが保護膜となり一瞬だけ彼を守るが、それも直ぐに荒れ狂う気流によって吹き飛ばされる。

 再び激痛の世界に叩き込まれ、意識がかき消える直前で、一歩、前へと歩みを進めた。

 動けばその分だけ地獄に触れる。

 動かなくても一秒も満たずに地獄が始まる。

 (行かなくちゃ! 少しでも前に!)

 燃え、蒸発し、復元されるたびに、尊の姿はやせ細っていく。

 それは、蒸発によって体外に出たVR量子が回収されずにリセットが行われるため。

 VR量子が失われても、VR体リセットはその対象人物が生きられる状態に優先的に戻し、それ以外は足りなければ復元しない。

 だからこそ、水分不足によって喉が渇くという現象が起こり、外部からVR量子を補給する必要があった。

 しかし、今はそんなことすらできない。

 故に、一歩、一歩、前に進むたびに尊の身体に欠損が起きる。

 髪が消失し、爪が消え、指が先端からじわじわと消えていく。

 VR体リセットはただのシステムであり、それをある程度管理できる契約武霊は意識を失ってしまっている。

 そこに慈悲はなく淡々とリセットが起こるたびに、尊の姿は変わって行く。

 活動の支障が出る部位がすべて消失すれば、その対象は内へと向かい、脂肪が、筋肉が、骨が無くなり始める。

 ただでさえ小さな体が、痩せ細り、欠損が至る所にあるその姿は、もはや動く亡者だった。

 そんなになっても尊は歩むことを止めない。

 もはや思考も、感覚も、意識さえも消失しかかっている。

 それでも前に進むのは、ただ一念。

 (カナタだけでも! カナタだけでも!)

 この世界に存在しているが故に、この世界の死が存在の消滅に繋がる己が契約武霊のため。

 思いの強さが尊を突き動かす。

 が、それだけで願いが叶うほど置かれている状況は優しくなかった。

 なぜなら、出口は塞がれ、周りはガーディアン系が囲み、助けが来る見込みもない。

 無情の現実がとうとう尊を歩ませる止めさせる。

 片足が消失したのだ。

 それにすら気付かずに一歩進もうとしたが故に、尊は倒れる。

 もはやまともに維持できていない意識であっても、ただ一念のみが身体を動かし身体を反転させた。

 仰向けに倒れ、カナタを抱える腕すら消失し始める。

 もはや、生命維持に必要なVR量子の余裕は残されていなかった。

 次の瞬間には尊はこの世界から消滅し、一人の武霊プレイヤーが消える。

 かに思われた瞬間、新たな爆発が生じた。

 それによって外への穴が開いたのか、一気に空気が入り乱れ部屋全体が炎で満たされる。

 バックドラフト現象が起きたことにより、それは致命傷となる。前に尊は抱えられた。

 守り人のガラクタが吹き荒れる爆風によって舞い散る中、

 「すまない尊。遅くなった」

 「ほ、鳳凰さん」

 白銀の騎士甲冑の手によって。

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