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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
2.機械仕掛けの戦乙女は阿修羅編
81/107

Scene80『EPM弾』

 尊は勘違いしていた。

 我流羅戦の最後に、彼の片腕を切り飛ばし、その後なんともなかった。

 だからこそ、できると思ってしまっていた。

 しかし、それができたのは尊が精神的にも肉体的にも追い詰められた極限状況下だったこと、自身の身体的損傷すらいとわなくなっていた我流羅が相手であったこと、その二つが重なった異常な状態だったからに他ならない。

 だからこそ、余力がある状態で、かつ、心構えが整ってない普通に近い精神で近いことを行ってしまえば、ただの少年が耐えらえるはずもなかった。

 特異なところがあったとしても、結局はまだまだ尊はただ子供なのだから。

 そして、それは、カナタも同様だった。

 情報生命体である武装量子精霊は、基本的に一度成功したことは二度目以降の失敗はしない。複雑な事象が絡む同一でありながら異なる事柄であれば別だが、そうでなければできない、できなくなるという経験は滅多にない。

 だから、主ができるはずのことを僅かに失敗し続けていることに対応できないでいた。

 勿論、長く経験を積めばナビと人の違いを熟知し、それに気付き、なにかしらの手段を講じただろう。

 だが、カナタはまだ生まれて二週間と少ししか経っておらず、しかも、尊という特殊な少年を主とし、それ以外の人間とほとんど接触せずにこれまで過ごしていた。

 カナタは経験にない主の成功するはずの失敗をどうサポートすればいいかわからず、尊はできた時の自分が異常な状態であったことを正しく認識していない。

 故に、ヴァルキューレはその一瞬が訪れることを確信していた。

 二人の状態を手に取るように理解していたから。

 (辛そうですわね。そして、どうして辛いのか理解はしていてもわかっていないのですわね)

 尊の表情、呼吸、体温、仕草、瞬き、あらゆる情報を部屋の外から感じ取っていたヴァルキューレは機械仕掛けの戦乙女の中で微笑む。

 彼女が知れるのは尊のみだが、その反応、意識したものから無意識・生理的なものまで、あらゆる情報が主と一体化している武霊の様子を確定させる。

 (そのままだと、もうそろそろ限界ですわよ?)

 そう思いながらヴァルキューレは翼型ブースターを羽ばたかせた。

 瞬間、翼が赤く大きくなりエインヘリャル達が開けた大穴の前に彼女を一瞬で移動させる。

 ほぼ同時に尊は血砂に足を滑らせた。

 (ほら、やってしまいましたわ)

 肩越しに構えている大型機関銃既の照準は既に彼に合わされており、間髪を入れずにトリガーが引かれた。

 発砲音が一つに繋がって聞こえるほどの連射速度で大口径弾が撃ち出される。

 着弾は刹那。

 もっとも、その時にはカナタによりステルスシールドが展開されており、いかに連射したとしても尊に届く前に阻まれる。

 はずだった。



 自動兵器が台頭し始めた第三次世界大戦時。まだ人戦力は主力として使われており、彼らによる対自動兵器戦が世界各地で行われていた。

 当然、従来の人が扱える武器兵器では金属の塊である自動兵器には敵わない。

 だからこそ、多くの対自動兵器用装備が開発されており、ヴァルキューレが使った弾丸もその一つだった。

 爆裂貫通金属噴流弾。Explosion penetration Metal jet。通称EPM弾。

 着弾点に一点集中で爆裂を起こし装甲に小さな穴を開けると共に金属噴流を流し込み内部を破壊する。

 これによって撃ち抜かれた自動兵器は、小型であれば一発で、中型大型であっても、命中した個所は機能停止に追い込まれる凶悪な弾丸だった。

 ただし、その二段構えの爆発構成の都合上、どうしても大口径にならざるをえず、当然のことながらそれを扱える重火器は大きく取り回しも悪く、命中精度もあまりよくない。

 しかし、それをカバーできる装備があるのであれば、その威力は絶大なものになる。

 例えば幾度の攻撃で半分以上の魔力を消費させられたステルスシールド群など、一秒もかからず消滅させるほどに。



 尊を守る多重シールドにEPM弾達が刹那的に叩き込まれた。

 その瞬間、見えない壁に弾丸がへばりつくように潰れ、起爆し、メタルジェットが更に負荷を掛ける。

 多段に攻撃されることに弱いシールドは高威力なことも加わって一発で一枚消え、十数枚あったはずの見えない壁が一瞬で消えてしまう。

 立て直している瞬間にそれをやられてしまった尊の頭に、肩に、腹に、腰に、計四発着弾。

 小さな身体を包み込むほどの爆発が生じ、吹き飛ばされる。

 ヴァルキューレの攻撃はそれだけで終わるはずもなく、宙に浮く尊を銃口が追い、追加のEPM弾を叩き込む。

 精霊領域で防がれてはいるが、全てを無効化していないが故に尊の身体は部屋の壁に激突してしまう。

 更なる追撃を、というところで連射が止まる。

 弾が尽きたのだ。弾丸が大口径である分、装填弾数はどうしても少ないが故に。

 が、それがさしたる問題というわけでもない。

 ヴァルキューレはトリガー前のマガジンを落とし、兵装に組み込まれている異空間収納から新たな弾倉を呼び出し素早く装填。

 その動作と共に砂漠の部屋に突入し、吹き飛ばされた威力で壁に張り付け状態になっている尊に銃口を向けようとした。

 が、直ぐに右に回避する。

 直前までいた場所に光線が走り壁に穴を開けた。

 紋章魔法による防御機構を組み込まれている空想科学兵装であっても、それに過信して直撃を受けるのはよろしくない。

 なによりそういう無茶をするタイミングでもないことを承知しているヴァルキューレは己に向けて嘆息した。

 (少し焦りましたの)

 砂漠の部屋を舞うように飛んで追撃してくるレーザーを回避しながら苦笑もする。

 尊の前には異空間収納から出したと思わしき紋章魔法が一つ浮いており、光線を撃ち出していた。

 (どれだけ紋章魔法を集めたのかしら? 直接的な戦いは勿論、この部屋みたいな罠部屋も用意していると考えれば……まだまだあると考えた方がいいですわね……では、ここは堅実に行きましょう)

 回避行動の流れのまま壁に銃口を向け撃ち、自らが潜れるほどの大穴を開け外に出る。

 (行きなさいエインヘリャル)

 いくらでも消費していい駒に指示を出しながら。



 「確認します。マスター大丈夫ですか?」

 カナタの淡々として問いに、尊はハッとした。

 が、現状を把握できず、困惑しながら固まることしかできない。

 「説明します。想定外の威力を持った銃撃によりステルスシールドを抜かれました。そして、謝罪します。精霊領域で威力を減退させましたが、全てを相殺することはできず、許容内ダメージを受けさせてしまいました」

 「つまり、衝撃で一瞬気絶していた?」

 「肯定します」

 尊は会話しながら、現状の理解をするために周りに視線を向ける。

 自分が壁に半ばめり込んだ状態で精霊力が一気に半分消費していること、更に続々と砂漠の部屋にエインヘリャル達が侵入し攻撃を開始していること、自身を守るためにステルスシールド全てを全力起動していることを知った。

 あまりの状況の急転に思考が固まり掛けるが、直ぐに尊は首を振るいなにをするべきか考える。

 (……何秒持つ?)

 (回答します。百秒です)

 視界にカウントが表示され、それが尊の思考を深く沈めさせ始め、一気にイメージを作り上げた。

 (この場を放棄。お土産を残すよ! 必要数は?)

 思考制御により尊のイメージを読み取っていたカナタは直ぐに答える。

 (解答します。五十です)

 (今持ってるほどんど!? じゃなくって、うんわかった! 始めて)

 (了解しました。異空間収納を開きます)

 尊の周囲に黒い壁が現れ、紫色の紋章魔法が五十個射出される砂漠の部屋にばら撒かれる。

 ステルスシールドの上にそれらが落ち、空中で転がり出す。

 それらは精霊領域でコントロールされているのか、放射線状に動いて部屋に満遍なくばら撒かれる。

 (報告します。準備が終わりました)

 (こっちの準備も終わったよ)

 尊はズボンのポケットに入れていた紋章魔法二つを取り出し、自分の背中に設置していた。

 その間にもエインヘリャルの侵入者は増え続ける。

 一秒ごとに一人増え続け、弾幕の量が増えるにしたがって、加速度的にステルスシールドの魔力が削られていく。

 カウントも秒単位以上の速度で減り始めたが、尊に焦りはない。

 ただ、カウントがゼロになるのを待ち、

 (カナタ!)

 (発動します。ストーンウォール)

 数値が消えた瞬間、壁側の砂地から石壁が飛び出し扉や穴を塞ぎ、更に天井まで伸びて砂漠の部屋を密閉してしまった。

 当然、それに反応した中のエインヘリャル達が石壁を破壊しようと動き出す。が、それより早くシールドの天井が消失し、その上に乗っかっていた新たな紫の紋章魔法が落ちる。

 それがトリガーとなっていたのか、空中・地面と部屋中にばらまかれた球体達が一斉に紫電を放ち始めた。

 これは地下四階のガーディアン系が所持していた新たな紋章魔法ボルト。

 名の通り電気を放出することができる代物だ。

 調査を主なプレイスタイルにしていた者達の考察によると、中層エリアは発見されたアンゴラベアのような生物系の魔物も飼育・観察する場所だった可能性が高いとのこと。

 その証拠として、逃げた対象を無傷で捕えるために使われていたであろう紋章魔法を地下四階のガーディアン系は必ず持っているのだ。

 そして、それは尊にとってとても都合の良いことだった。

 強烈な魔物捕縛用の電撃を喰らったエインヘリャル達は次々に意識を失い、直ぐに起き上がる。

 ただし、その動きには直前までの効率的な動きは見られず、のろのろとであり、戸惑いが混ざっていたりと、ただのでぃーきゅーえぬに戻っているのを伺わせた。

 彼らの身体を貫いた紫電が、喉に寄生したエインヘリャルたらしめる羽を破壊していたのだ。

 そして尊は電撃が自身に襲い掛かる前に脱出していた。

 石壁を発動した瞬間、背中に配置したエクスプロージョンを発動させ、人一人が通れる穴を作り出し外へ飛び出したのだ。

 だが、そんなことをしても戦場から逃れられることはない。

 「まあ! 自分から出てきてくれるなんて思いもしませんでしたわ」

 尊の出た場所正面にヴァルキューレは待ち構えているのだから。

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