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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
2.機械仕掛けの戦乙女は阿修羅編
75/107

Scene74『願いを叶わせる時』

 灰色のサムライスーツの塊が瞬く間に隆起して巨大な山となる。

 その光景を天井に着地した尊は呆れた表情になってみていた。

 「えっと……あの中に巻き込もうとしたのかな?」

 「否定はしません」

 「そりゃ巻き込まれたらひとたまりもないけど……」

 山の内側にいる者達は乗っかられている者達のせいで動けず、外側にいる者達は隆起し続けるが故に動けない。

 かといって部屋を埋め尽くすほどの数と勢いであるわけもなく、例え尊の言葉通りの意図があったとしてもただただ無意味な行為でしかなった。

 「こんなその場の思い付きみたいなことを誰が考えたんだろう? ううん。そもそもなんで止めないどころかみんなで実行しちゃうわけ?」

 「回答します。それが彼らなのでは?」

 「う~ん……」

 でぃーきゅーえぬの現状を知らない尊からしたらこれになにかを意図がありそうで気味悪さに怖さがプラスされ始めていたが、なんであれこのままというのは少々不味い。

 今は山の形成で動けない彼らだが、その隆起が止まれば一斉とはいわずとも動き出す。

 流石にこの状態で範囲攻撃を使ったとしても表面を強制転送させるだけで終わってしまうので、これはこれで厄介なところがあった。

 「しょうがないか」

 「肯定します」

 尊はマントを外し、音を立てて下に振るい始めた。

 その瞬間、ぽろぽろとサッカーボールぐらいの白い球体が次々と現れる。

 でぃーきゅーえぬの山に落ちたそれは、少しバウンドすることなく着地した。

 側面がスライドし手のようなアームが現れ落下の衝撃を殺したのだ。

 「あ? なんだこれ?」「ボール?」

 山の表層にいたでぃーきゅーえぬ達がそれに気付くが、地下四階に到達したばかりの彼らが守球のことを知るはずもない。

 そのため着地した守球達が次々と手をしまい、代わりに銃口を出すまでその危険度を認識できなかった。 

 ほどなくして起こるのはガーディアン系魔物達による一方的な銃撃だった。

 「思ったよりいっぱいあるね~」

 「肯定します。収納魔法一つに付き三体は入りましたので」

 「あ~だとすると三百体はいるんだ~」

 などとのんきにカナタと会話しながら尊はもふもふマントを振り続ける。

 毛の代わりに守球を排出しているというわけではない。

 マントの裏には乱獲した守り人から手に入れた収納魔法が組み込まれており、そこにそこら辺を破壊して誘き寄せた守球を押し込んでいたのだ。

 ほどなくして三百体の守球は全てで終わり、山の隆起以上の速度ででぃーきゅーえぬ達を倒し始める。

 「思ったんだけど、もしかしたら上の人達の重さで精霊力切れになっている人達いない?」

 「肯定します。山の内部からもリスタート転送の反応を探知しています」

 「そういうこと考えないのがなんとも……」

 どうしても呆れが顔に出てしまう尊だったが、その表情は直ぐに違うものへと変わることになった。

 (報告します。二千三十五人との接触が完了しました)

 (ホント!? 思った以上に早く終わったね!)

 (肯定します。確認します。それでは次のフェーズに進みますか?)

 (勿論だよ。みんなに伝えて)

 (了解しました)

 満面の笑みと共に尊は天井を走り出し階段下エリアから消え、残された守球達はでぃーきゅーえぬを駆逐し終えると共にどこかへと去っていくのだった。




 「ふざけんな! ふざけんなよこの  共がっ!」

 ギルドメンバー全員が精霊力切れによる強制転送で拠点であるコロシアムに帰ってきたことに激昂する正翼。

 だが、その周囲で彼の言葉を聞いている者達の目は白けていた。

 お前こそ最初にやられただろうが。

 とか。

 お前の指揮が悪かったんだろうが。

 とか。

 色々と思うことはあるが、それを口にしたところで正翼が反省するどころか更に喚き散らし始め、どこぞの巨漢デブがぼこぼこにされるだけなので誰もなにも言わない。

 これだったら自分の方ができる。

 と中には思う者がいなくもないが、それはそれでしたくないというのが全員の認識だった。

 何故なら、そんなことをすれば責任を負わなくてはいけなくなるからだ。

 たった一人にいいようにやられた以上、ファンリルが、いや、今このコロシアムで空中を睨んでいるヴァルキューレがなにをしてくるかわからない。

 もしまた八日前のような暴力の嵐が吹き荒れた場合、確実に指揮をした立場の人間がターゲットになる。

 そう思っているからこそ、正翼に好き勝手させているのだ。

 だからこそ、次の指示にも嫌でも従うしかなかったりするが。

 イライラしながらアリーナの上を歩き始めた正翼は、不意に足を止め近くにいたタヒ太郎の頭を蹴る。

 もはや慣れっこのタヒ太郎は気にすることもなく自身の武霊の脇に鼻を突っ込みふごふごしていたが、正翼はそれを気にせず周囲に宣言した。

 「次は精霊領域を切れ。あの餓鬼ならそれで手出しができなくなる。っで一気に全員で行って数で殺す」




 でぃーきゅーえぬ全員の精霊力が全快するのを待ってから正翼の策ともいえない作戦が実行に移された。

 だが、精霊領域を切った百人が再び階段下エリアにリスタート転送した時、そこにはなにもなかった。

 「あ? どういうつもりだあのガキ」

 「タヒタヒ。僕達に恐れをなしたでタヒ」

 「  がっ」

 またなにか企んでいると考えつつも正翼はなにもしてこないならと、残りのメンバーを呼び出し十人前後でパーティを組ませて探索に向かわせた。

 全てのメンバーが地下四階に集結し、二百のパーティによるにより尊を探すが、なかなか発見の報告が上がらない。

 それどころか一切の魔物に出会わなかった。

 この時になってようやくその異常性に気付くでぃーきゅーえぬ達だったが、指揮を執っている正翼が発見の報告以外聞こうともしないため探索はそのまま続けられてしまう。

 そしてほどなく、尊は見付かった。




 「マスター」

 「うん」

 口汚く喚く集団の声が四方八方から聞こえ出す。

 尊が今いる場所は、階段下エリアからさほど離れていない十字路だった。

 特になにをするわけでもなく、そこでぼ~っと待っていたのだ。

 ただし、その視界にはしっかりでぃーきゅーえぬ達の位置が表示されているVRA地図を表示しながら。

 「ん~……」

 地図上の光点を見ながらなにやら悩み始める尊

 「確認します。どうしましたか?」

 「いや、これって追い立てているつもりなのかな?」

 一向に見える範囲に現れずに、ただただ「おらおら来いよー」「ビビってんのかー」などと口々に言っているのだ。

 発見されてからそれなりに経っており、包囲網も完成している。

 奥の方がまだ薄いとはいえ、既にでぃーきゅーえぬ達は尊の周りに集まり終えているのだ。

 二千三十五人今までの彼らであれば考えなしに突っ込んできそうなものだが……

 (推測します。マスターの罠を警戒しているのでは?)

 (うん。そうかもね。散々痛い目に合わせたし)

 (肯定します)

 (まあ、正解だしね)

 (肯定します)

 なんてのんきに思念会話しながら、尊は待っていた。

 でぃーきゅーえぬをではなく――

 不意に尊の前にVRA画面が展開された。

 映し出されたのは西洋甲冑の上半身・鳳凰だった。

 「すまない少し遅れた」

 (いいえ。まだ動き出していませんから大丈夫ですよ)

 「そうか……では、タイミングは任せる」

 (はい。よろしくお願いします)

 「ああ……あまり無茶をするなよ」

 (ええ)

 尊の頷きにやや躊躇ったかのように少し間を開けVRA画面は閉じられた。

 そして、僅かな時を置き、通路の角に隠れていたでぃーきゅーえぬ達が尊の直線状の通路にわらわらと現れ出す。

 床以外にも壁に張り付いて迫ってくる者達もいるので、なんとなく自動害虫駆除機がない田舎の親戚宅で目撃した別名Gと呼ばれる害虫を連想してしまい顔をしかめる尊。

 その表情の変化になにを思ったのか、進行速度が速まるでぃーきゅーえぬ達。

 十字路を隙間なく埋め尽くし、逃げ道を潰し終えた彼らは、その手に持つ武器兵器を尊に向けた。

 いつでもシールドの紋章魔法を発動できるようにしながら、その時を待っていると、

 「くーろーきー! みーこーとぉおおおお!」

 灰色のサムライスーツをかき分けて白黒のサムライスーツが現れる。

 「タヒタヒタヒ」

 その後ろに黄色いサムライスーツが付き従っているが、妙な笑い声を上げているだけで決して白黒前に出ないし、武器も出さない。

 「てめえがなにを企んでるのかしらねぇが。わかってんのか? 俺らは今、精霊領域を切ってる。その意味がわからね  餓鬼じゃねえよな?」

 サムライスーツのフルフェイスマスクは基本的に顔を見せない仕様になっているが、電圧を変えることにより透明化する素材が使われているため表情を見せることは可能だった。

 それ故に尊は正翼嘲りの表情を向けていることをしっかり見ていたが、特に動揺らしいものは見せない。

 上で見せた様子とは明らかに違う尊に正翼は激しい舌打ちをした。

 (強がって見せているけど、あきらかに警戒しているよね?)

 (肯定します)

 (精霊領域が切られていることは、探知領域で既に把握しており、わざわざ教えてくれなくてもわかること。なのに、したということは、それは挑発であり、それによって僕がなにを企んでいるか掴もうとした。ってところかな? ここで僕になにか言っても無駄なのにね)

 (同意します……報告します。始まりました)

 (うん)

 尊はただ立っているだけ。精霊魔法も、紋章魔法も使うようするはない。

 だが、それなのに変化が起きた。

 「なっ! なんだっ!?」

 「タヒヒッ!?」

 でぃーきゅーえぬ達が一斉に驚きの声を上げた。

 何故なら、

 「ゆっ揺れてる!?」「地震!?」「嘘でしょ!? そんなの一度だって!」

 サムライスーツの動作補正が勝手に動き転倒しないように身体を硬直させられるほどの揺れ。

 その揺れは短い間に強くなり、転倒する方が安全とスーツのAIが判断したのか、でぃーきゅーえぬ達が一斉に倒れ、床にへばり付く。

 無事なのは精霊領域で守られている尊のみ。

 もしでぃーきゅーえぬ達と同じように切っていたら、彼の身体は激しく飛び跳ね骨折ないし打撲で苦しむ、場合によっては死ぬかもしれないと思わせるほどの振動。

 それは僅かな間だったが、二千人を無力化するのに十分過ぎるほどの威力だった。

 だが、それが目的な物ではない。あくまで主目的のための副次的な現象。

 「な、なにをしたあっ!」

 振動が収まっても未だにサムライスーツの動作補正により床から動けない正翼に睨まれながら、尊は微笑む。

 「なにも」

 「あぁあ゛っ!?」

 「僕がなにかをするのはこれからですよ。カナタ!」

 「始めします。シールド」

 尊の呼び掛けに応え、半透明な姿を彼の背後から見せたカナタが両手を振るう。

 その瞬間、尊の周りに天井まで届く円柱の多重シールドが展開される。

 が、それはあくまで準備。

 「キーアンロック」

 続く言葉ででぃーきゅーえぬ達がいる通路に面している全てのドアが一斉にスライドし、

 「なっ!? なんだ!?」「み、水!?」「津波だあ!」

 大量の水が噴き出し瞬く間にでぃーきゅーえぬ達を飲み込み、尊すら水底に覆い込む。

 「シールド」

 しかも、通路の途中に多重シールドの壁が現れ、水が流れ去るのを防ぎ、瞬く間に十字路を使った水牢が完成する。

 「うあああああっ!」「くそがあああっ!」「タヒヒ~イっ!」

 流石のサムライスーツでも水流には耐えられなかったのか、床や壁から剥がされたでぃーきゅーえぬ達がもみくちゃになって高速で漂う。

 「洗濯機の中ってこんな感じなのかな?」

 「不明です。確認します。洗濯機とは?」

 「え~っと……お洋服を洗う機械?」

 「理解しました」

 「カナタはここら辺の知識もないんだね」

 「肯定します」

 なんて会話をしながら二人が呑気に周りの光景を見ていると、水流が急速に落ち着き始める。

 身体を翻弄する強い力がなくなったためか、でぃーきゅーえぬ達が次々と水面に顔を出す。

 実は固形化空気による内臓ボンベがサムライスーツにはあるのでそんなことをしなくても全く問題ないのだが、まさかここまでの規模の罠があるとは思ってもいなかった彼らはそれを咄嗟に思い出さないほど混乱していた。

 もし、仮にここで多少の冷静さがあり、水中に留まっていたら気付いただろう。

 次に起こることを予期させる白い紋章魔法が無数に水の中を舞っていることを。

 もっとも、わかったからといってもはや誰にも止められないのだが。

 「フリーズ」

 雪が降る環境再現部屋から拝借した紋章魔法達が一斉に発動し、一瞬で水を氷に変換した。

 サムライスーツは全天候型仕様であるため、氷点下であっても着用者にはなんの問題もない。が、頭以外を氷に覆われてしまえば身動きが取れなくなってしまう。

 ただし、武霊使いからしてみればなんの意味もない拘束だ。普通なら。

 「はっ  がっ! こんな罠が俺達になんの意味がある!? おらあ! リスタートだ!」

 正翼の命令に、でぃーきゅーえぬ達が次々とリスタートを宣言する。

 のだが、誰一人として転送されない。

 「おい! 話が違うじゃねえか! 俺達のリスタートは停止しないはずじゃなかったのかよぉ!」

 その叫びはフェンリルに向けられたものだったが、答えは別のところから返ってきた。

 「リスタートシステムは止まってませんよ」

 シールドを解除し、出来上がった氷の筒から一気に飛び上がり氷上に出た尊だ。

 「単純に、戻る先が安全な場所じゃなくなったからってだけの話です」

 「……は?」

 尊の言葉を理解できたものはこの場にはいなかった。

 全員が全員、正翼同様にフルフェイスマスクの下で間抜けな顔を晒しているだろう。

 「地上は壊滅して灼熱地獄になっているはずですからね」

名前『ロドリゲス=オオムラ』

性別『男』

性格『冷静沈着で誠実で責任感がある常識人。であるため、戦の聖人内では苦労人』

誕生日『一月二日』

年齢『六十五歳』

人種『黄色人種(日系ブラジル人)』

国籍『ブラジル連邦共和国』

容姿『長い白髪長い白髭の一見すると仙人に見える風貌をしている老人。ただし、その身体は筋骨隆々』

職業『農園経営者』

趣味『ブラジリアン剣術』

ポリシー『武士道に準ずる(ただし色々と混ざっている上に、本人もよくわかっていないところがあるのでたまに武士道か? という行動を取る)』

特技『太刀』

技能『ブラジリアン剣術』

所属ギルド『戦の聖人(戦闘系ギルド)ナンバー4』

契約武装量子精霊『アリッサ 陽気なサンバガール(若い頃の奧さん似ている)』

武霊属性『振動』

武装化武器『物干し竿(三尺余りの太刀)』

武装化防具『戦国甲冑胴。これ以降はまだ出ていない。胴以外』

備考『日系ブラジル人で、移民によって伝えられブラジル流に変化したブラジリアン剣術を幼い頃から習っており、更に佐々木小次郎に憧れて独学で長刀の使い方を身に付けている』

『VRが一般に公開されてから実戦を経験できるといくつもの戦闘系VRゲームを渡り歩いたが、どれも動作補正プログラムが邪魔で思うように戦えず、サイト内ごとのVR法則が余計に実戦感を遠ざけていたため不満に思った多。ところにVRMMO武装精霊の話を聞き、意気揚々とプレイを始め、より戦いやすい環境を作るために戦の聖人を立ち上げた。そのため、初代ナンバー1だったが、一週間後にチャンに力で奪われ、その翌日には何故か八重がチャンの推薦でギルド長になってしまった。加えて戦の聖人に入っているメンバーは、その下部組織も加えて戦闘狂か戦闘馬鹿ばっかりであるため、ギルド運営などまともにするものがおらず、細かな事面倒な事などが全部彼に押し付けられる羽目になった不幸な人』

『今は事態が事態なのでランキング戦は行われていないためナンバー4のままだが、トップ10の八重とリリー以外の実力は拮抗しているため普段は日単位で数字が上がったり下がったりしている。というより、彼の場合は雑用が多いため武装化による修練ができず、いまいち武霊を使い切れないところが実力を拮抗させてしまう要因になっている。もしそこの問題がクリアされれば、八重に並ぶほどの実力者』

『Scene64『高城八重VSヴァルキューレ』で暴れ回っていた一人。その後の転送球襲撃時は別班のリーダーをしており、日頃のストレスからか周りがドン引くほどの鬼神如き暴れっぷりを見せていた』

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