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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
2.機械仕掛けの戦乙女は阿修羅編
70/107

Scene69『アイドルの精霊魔法教室』

 フェンリルによるログアウト不能から十二日目の現在、狭間の森は各地で戦闘が起きている都市ティターニアに比べて大きく落ち着いていた。

 プレイヤー間の争いもなく、時々転送球から現れる自動兵器への対応も持ち回りで行われ、フェンリルからの直接介入もないので混乱することもない。

 例えでぃーきゅーえぬのような問題行動を起こすプレイヤーがいたとしても、即座に解決されるほど安定している。

 その理由は元日本の総理大臣である小河総一郎が中心となって混乱していた人々をまとめ、早々に秩序とルールを作り出して簡易的な社会構造を用意したため。

 というのもあるが、それだけでは今の安定を得られなかった。

 物理的に安全が得られても、精神的な安心は生じないからだ。

 フェンリルによって武装システムの薄いゲームシステムが乗っ取られ、ログアウトが不能になり、彼らを倒せなければ現実世界に戻れても戦争世界に叩き落される。それなのに、狭間の森ではなにもできない。

 事態を打開しようと意気込んでいた直後に一気に強制転送されてしまったことも重なって、体制が整った後でも雰囲気は殺伐としていた。

 なにかの切っ掛けで暴走してしまいそうなほどの空気。

 それを吹き飛ばしたのが、シャーロットを始めとする芸能人達だった。

 VRMMO武装精霊は、ゲームとしての有名度より高額である個人ナビとの契約を比較的安価にすることができるという他のVRゲームにはないメリットがある。

 それ故に話題作りや、優秀な仕事上のパートナーを得るなどの目的で始める者も結構おり、特に芸能人はそんな動機で武霊と契約している者達が多かった。

 そして、仕事の関係上、あまり長くプレイしていない彼らは、ものの見事にフェンリルの攻撃を受けてほとんどが狭間の森に送られていたのだ。

 もっともそれが結果として良い方向に働き、狭間の森のプレイヤー達に娯楽を提供できることになったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。

 演劇や、漫才、音楽などなど、様々な芸能が狭間の森のプレイヤーの心を落ち着かせ、それが二本目の柱となって安定をもたらしたのだ。

 そんな中で、最も活躍しているのが、尊のもう一人の師匠であるシャーロット=彩夏=オルティース。

 彼女は世界的に活躍するアイドルであり、同時にティターニアワールド内では指折りの精霊魔法使い。

 ただでさえ有名な彼女が、精霊魔法を駆使しながらライブを行えば、ひと時であろうと今の状況を忘れさせるほどの熱狂を生み出す。

 勿論、それはあくまで一時しのぎであり、使い過ぎれば効果が薄まる。

 それを自覚しているからこそ、シャーロットは尊からのお願いを受け入れ、武霊ネット会議にも参加せずに忙しく動き回り、時間を作っては精霊魔法の教授を行っていた。




 「HEY! 今日から集中的に訓練するのデース?」

 お湯川の部屋にて、シャーロットは自身のVRA立体映像を確認するかのように飛び跳ねつつ首を傾げた。

 「ええ、そのつもりです」

 頷く尊にシャーロットはなぜか三回転ジャンプをしてから着地し、大輪の花のような笑顔を浮かべた。

 ちなみに狭間の森の本体の方も同じ動きをしているで、近くで様子を見ているその他プレイヤー達がその笑顔にやられていたりするが、尊の方に意識を埋めているシャーロットは勿論、こちら側しか見えない尊は知りようもない。

 「oh yeah! でしたらまず最初に確認から始めマース。演算領域解放はどれくらいまで進んでますカー?」

 「八十パーセントぐらいです。今日中には全てのロック解除と削除終わるって言われました」

 「OK! 順調なのデース。良かったのデース」

 武霊ネットが使えるようになったことによって、カナタに託されていたQCティターニアの救援データを動かせるようになっていた。

 条件である一定数以上のナビは、武霊であっても問題なく、ロックは尊のお願いと共に解除されたのだ。

 のだが、得た情報はクラッキングが開始された当初の情報でありどんな被害が出ているのか、どこが危険か、どこから入れば安全かなどの外から介入するために必要な情報がメインであり、役に立ちそうな情報は皆無だった。

 もっとも、そうであったが故になんのためらいもなく削除ができるのだから、現状から考えれば役に立たなくて幸いだったといえなくもない。これでようやく尊達は精霊魔法をちゃんと使えるようなったのだから。

 とはいえ、ただ使えるようになっただけで扱い切れるほど精霊魔法は甘くもないが。

 「デハー改めて復習なのデース」

 「またですか? 昨日もしましたよね?」

 「精霊魔法はただ使うだけの紋章魔法とは違うのデース。武霊使い側が正しく理解して納得してないとどうしても不安定になるのデース」

 「それも聞きましたけど……」

 彼女なりのルールがあるのか、短い時間ではあっても既に五日目になっている彼女の授業は基本の復習から始まっていた。

 尊としては会う度に確認されるので、十分過ぎるほど覚えているつもりなのだが、いくら言っても聞きはしない。重ねて彼女の言うことも一理あるので拒否の言葉はどうしても弱くなり、小さくため息を吐くのが今では関の山だったりする。

 「わかりました。よろしくお願いします」

 頭を下げる尊に、シャーロットは満足そうに頷きいつもの問いを口にする。

 「精霊魔法とは?」

 「QCティターニアが再現しているVR空間に対する武霊の介入。精霊領域もその一種で、精霊魔法はそれを更に高めて限定的にQCティターニアから理を奪い取る行為」

 「武霊属性とは?」

 「プレイヤーがティターニアワールドに入るためにそれぞれの契約武霊がQCティターニアから割り振られ代行している世界法則。これによって常時介入状態である法則であれば介入は安易であり、負担も軽いため、その属性に合った精霊魔法であれば精霊力の消費を少なく高い威力を出すことが可能。逆にそれから遠い法則であると属性から間接的に介入する必要があるため武霊への負担が増加する」

 「尊は真面目ですネー。得意不得意って単純に考えてもいいのデース。ちなみに普通のRPGみたいな属性で考えては駄目ですヨー。あくまで物理法則を司っているのデー、それ基準での遠い近いですからネー」

 「火なら火で起こせる現象、光や熱。起こせない現象、闇や冷。って感じでしたね」

 「そんな感じですネー。またまたちなみニー、これは司っている属性は精霊領域にも影響が出マース」

 「火が得意な武霊の精霊領域なら、熱気に触れてもそれほど精霊力を消費しないが、冷気に触れると倍の消費になるでしたね」

 「そんな感じデース。デハー、属性に付いて再確認した所で、次に精霊魔法の基本の復習デース」

 「精霊魔法は要するに、QCティターニアが演算し続けている現象の書き換え。やろうと思えばどんなことでもできるけど、その分だけ精霊力は消費します」

 「あくまで理論的ニハ―って話ですけどネー」

 「消費量は、属性・規模・威力以外に、書き換える現象がティターニアワールドの世界法則から外れれば外れるほど増えるんでしたよね? 火種がない所に火を生じさせようとすれば、火種のあるところに比べて倍以上の消費を強いられる。だから、自分の武霊がどんな属性を持っているかはとても重要と」

 「その通りなのデース。では、次はどうやって精霊魔法を使うかなのデース」

 「精霊魔法は武霊単体でも発動可能。でもより強くより効率よく使うためには武霊使いの思考制御による協力が必要。これは武霊がナビとはいっても、演算領域が遥かに高いQCティターニアが展開しているVR世界に介入することが困難であるため。工程だけでも、許可、介入、選択、想像、改竄、発現、維持が最低でも必要。属性やどんなことを起こすかによってもその負担は大分変わるため、武霊使いがその負担の一部を請け負うことが武霊使いとしての正しい精霊魔法の使い方。でしたね」

 「そういうことデース。でぃーきゅーえぬの馬鹿共みたいに、ただただ命じて精霊魔法を使わせるなんて言語道断なのデース。とは言ってモー、できることは限られていますシー、どうしたって武霊の協力が必要なのデース。尊、ではそれはなんでしたカー?」

 「許可と選択と想像でしたよね? 許可は使うためのお願い、選択はどんな魔法を使うか、想像はその魔法がどんなものか」

 「そういうことデース。武霊使いがそれに加わることで、負担が減り、より早く、より確実に、できますシー、なにより戦っている本人がそれを行えることはとても重要なことなのデース」

 「武霊は情報生命体ですからね。まだ幼いことも重なって、どんな現象かイメージするのは結構な負担なんでしょうね。人間がパッとイメージできても、武霊だと物凄く考える必要があることを理解していれば、そこだけでも武霊使いがやればかなりの精霊力の削減になるんですよね?」

 「その通りデース。ではその具体的なやり方は?」

 「まずは、どんな魔法を発動したいか話し合う」

 「デスヨー。プレイヤーの中には他のゲームを参考にしろとか命令するクズがいますけドー、それは良くないのデース。武霊はここに得意なこと不得意なことがありますシー、成長という要素もありますからネー。勿論、普通の武霊は最初っからある程度の精霊魔法を使えるものですケドー。マイナス方面に特殊というのも困ったものですネー」

 「だからこそ、どんなことができてどこまでできるのか、よく話し合って考え合う。使える範囲がわかったら、その範囲内でできることを他の人と話し合うことも、精霊力の消費を抑えて高威力・広範囲な精霊魔法を起こすこともできる」

 「物理学と専門的な知識もある程度必要ですけどネー。ただ、この世界には魔法法則も組み込まれているかラー。そこら辺をわかってないで精霊魔法を発動させるトー、逆に負担が増しちゃうってことがありますから要注意ですヨー」

 「色々と難しいですよね。ここ数日、カナタと話し合ったり、色々な人に知識を借りたりしてますけど、なかなか上手くいかなくって」

 「大丈夫デース。尊には私がいマース。きっととってもGoodな精霊魔法を作れますヨー」

 「よろしくお願いします」

 「よろしくされるデース。では、最後の確認デース。どんな魔法を使うか考えるだけでは、精霊魔法は上手くいきまセーン。武霊との意思統一を効率よくおこなうために、その考えた魔法に二つの必要なものがありマース。それはなんですカー?」

 「これから行う魔法の許可・選択・想像の確認であり道標の言葉『ガイドワード』。その魔法の発動のための改竄・発現・維持を行う合図である作動の言葉『トリガーワード』の二つでしたね」

 「OKなのデース。ちなみに、トリガーワードだけで精霊魔法を使っている人はいますが、それをすると武霊への負担が増しますシー、なにより思った通り武霊の主導で効果が発言しますカラー、息が合っていないと最悪、放った魔法が自分に返ってくるトカー、味方を巻き込むなんてことも起きちゃいますからネー。だからこそ、口でも思考でもどっちであっても二つの言葉は必要なのデース」

 「後は、ガイドワードやトリガーワードはなるべく統一したイメージを基に使った方がやりやすく。慣れれば、異なるガイドワードとトリガーワードを唱えながら、思考制御で別の魔法を、なんてこともできる。でしたね」

 「その通りなのデース。完璧デース。後は実践あるのみなのデース。宿題はしてきましたカー?」

 「はい」

 「なら、私に向けて撃ってきてみてくだサーイ」

 「……え~っとVRA越しにもわかるようなのを撃てってことですよね?」

 「YEES!」

 サムズアップするシャーロットに頷き武装化しようとした尊だったが、ふと思う。

 「今更ですけど、なんで自動翻訳システムをそんな風にいじってるんですか?」

 「キャラ付デース」

 「……そうですか。えっと、じゃあ、昨日作ってみた魔法を撃ちますね」

 なんとも言えない表情になりながら、尊はカナタと武装化し、黒姫黒刀改を納刀したまま両手をシャーロットに向ける。が、

 「Ready go!」

 予告なく走り出すシャーロットにちょっと驚き、固まり掛けるが、彼女は精霊魔法のこと以外は説明不足だったり唐突だったりすることがよくあるので、落ち着いて狙いを定めつつ尊とカナタはガイドワードを口にした。

 「僕達が望むのは」

 尊のさえずるかのような言葉に続き、カナタが空気を震わす。

 「我らの前に」

 交互に途切れなく言を紡ぎ、尊はイメージし、カナタはそれに応える。

 「立ち塞がる」「有象無象を」「集める」「引力の」「塊」

 尊の想像がカナタによって結実し、

 「「回転草(かいてんぐさ)!」」

 二人同時に唱えたトリガーワードが精霊魔法を発現せる。

 尊の手の前に拳大の黒い塊が発生し、シャーロットに向けて発射された。

 だが、その速度はお世辞にも速くなく、クルクルと無駄に回りながら飛び回っている彼女に当たらず、直前までいた場所に着弾してしまう。

 「HEY! そんな魔法じゃべ――」

 余裕の笑みを浮かべるシャーロットだったが、次の瞬間にはその笑みは凍り付く。

 黒い塊が着弾と共に高速回転し、強烈な引力を発生させたのだ。

 その引き寄せはシャーロットだけじゃなく、周りの石、岩を集め上げる。

 「うきゅ!」

 妙な声を上げてシャーロットは岩団子になり、直ぐに崩れて埋もれてしまった。

 「み、見事の魔法なのデース」

 石と岩の山から僅かに出ている手をガクッとさせる彼女に、尊はため息を吐く。

 「VRAなんですからダメージなんてないでしょう?」

 「気分なのデース。ノリが悪いデース」

 なんて言いながらシャーロットはその場に立ち上がった。

 「NEXTデース」

 「まだそんなにできてないんですけど……」

 「ならここで創るデース。時間はたっぷりあるんですカラー。私も協力するデース」

 こんな感じにシャーロットの授業は続き、着実に尊とカナタを真の武霊使いへと変えていくのだった。

次話からちょっとしたおまけを後書きに書こうと思ってます。

武装精霊はその設定上、多くの人物がいるのですが、その全てを作中に出してしまうと物語が飽和してしまうので考えたけど出すのを止めたキャラというのも結構います。

私は性格上一度考えると頭の中で勝手に物語を考えてしまう質なので、そんな設定上はいるけど登場しないキャラクター達のエピソードもあったりするのです。

まあ、そんなわけで次話の後書きから、そのキャラの設定や物語を武装精霊RDOの裏設定裏話的に載せていきます。

勿論、尊の物語には直接関係ない・出さない方々なので、読み飛ばしてくれてもかまいませんし、全く支障がありません。

ちなみに、尊で例を出すと、


名前『黒姫(くろき) (みこと)

性別『男』

性格『引っ込み思案で恥ずかしがり屋。特に同年代に対しては過去のトラウマもあって過剰に反応してしまう。ただし、それが起因してゾーンに近い状態になることがあり、その時は冷静沈着で周りを必要なこと以外気にしなくなる』

誕生日『一月一日』

年齢『十二歳』

人種『黄色人種と白皙人種のハーフ』

国籍『日本』

容姿『シルクのようにさらさらとしたストレートショートの銀髪に、少し大きな黒曜石のような黒目。透き通るような白い肌に、薄く血色のいいピンク色の唇。繊細で頭が小さい鼻と、少し丸みを帯びた整った顔付きに、細い眉と長い睫毛、140センチぐらいの細い小柄な身体が組み合わされば、人形のような可愛らしさ、愛らしさを感じさせる』

職業『中学一年生』

趣味『カッコいいプラモデルから可愛らしい人形まで男女の趣味を幅広く』

ポリシー『特になし』

特技『特になしと本人は思ってるが、意識を集中もしくは逃れようとするとゾーン癖が発動すること』

技能『ゾーン癖による高学習・高速思考』

所属ギルド『なし』

契約武装量子精霊『カナタ(ダークエルフ。黒い反物に白い花の柄があしらわれた振袖のように見えるが、袖が膝上までの短さしかないため、若干コスプレ感が出ている。 琥珀のような茶褐色の肌に、腰まで届く僅かな風でもサラサラとなびく白髪。少し鋭い目付きの中にあるのは血よりも赤い真紅の瞳。生まれた当初は百センチ程度の身長だったが、現在は百十五センチほど)』

武霊属性『引力と斥力』

武装化武器『日本刀(黒姫黒刀→黒姫黒刀改)』

武装化防具『黒く鋭角的な籠手。これ以降はまだ不明』

備考『武装精霊RDOの主人公』


こんな感じになります。尊は主人公なので備考は書く必要がないと判断しましたが、他のキャラはここに色々と書くことになるでしょうね。

またエピソードに関してはキャラ表記とは別の話に尊の物語が追い付くか追い抜くかした後にプロット的に書くことになると思います。

まあ、あくまでおまけなので、大変になったら唐突に止めるかもしれませんのであしからず。

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