Scene67『盾と戦』
都市ティターニア各所には大小様々な円形広場が無数に存在し、大きな物となると巨大エレベーター跡地、小さい物になると転送球が存在している。
エレベーターを使えば、止まっている階層までショートカットでき、転送球を使えば狭間の森に戻ることができる。それ故に、それぞれの場所に用があるプレイヤーによって重宝されていた。
だが、それはフェンリルが現れる前までの話。
今やどの円形広場も都市の中で最も危険な地帯と化していた。
エレベーター跡地にはスパイダーバイオミメティクスの自動兵器・土蜘蛛を中心とした大部隊が配備され、地下ダンジョンへのプレイヤー達への大規模侵入を防いでいる。
転送球からは大体一時間ごとに新たな自動兵器が追加され都市各地に送り込まれるので、迂闊に近付けば新たに現れた部隊と常駐部隊の二部隊を同時に相手しなくてはいけない危険性があった。
二カ所とも妨害と防衛の目的は違えど、常時兵力が存在している場所であることには変わらず、普通のプレイヤーはもはや近付けない場所となっていた。
そう、普通のプレイヤーはだ。
巨大エレベーター跡地がある円形広場に、白銀の鎧とローブで身を固めたプレイヤー達が現れた。
その先頭には、西洋式の全身甲冑を纏ったプレイヤー鳳凰。
全員が全員、その身に纏っている装備のどこかに盾を持った乙女のシルエットが描かれており、彼ら彼女らがあらゆるVR空間で活動する慈善救済保護ギルド盾の乙女団であることを表していた。
VRMMO武装精霊を始める前からギルドとして活動しているためか、その行軍は一糸乱れぬものであり、前を行く鳳凰が右手を上げるだけでピタリと全員が立ち止まる。
「戦闘準備」
手を上げたまま出された指示に応え、全員が虚空から武装化武器を取り出す。
多くが剣・槍・弓と基本的な武装ばかりだが、団長である鳳凰だけが防具である大盾だった。
だが、現在主流となっている武霊使いとしての戦い方から考えれば、どんな形態であろうとさほど問題はない。
円形広場を防衛している自動兵器は、広い空間であるためか黒い蜘蛛に似ている土蜘蛛ばかりであり、常に腹部の砲台が四方に存在する大通りと、空中に向けられている。
その数、四十機。
これ以上進めば、砲弾の雨が降り注ぐのは誰が見ても明らかだ。
しかし、
「行くぞ!」
鳳凰は躊躇わず右手を振り下ろす。
それと同時に鳳凰の両足に炎が宿り、駆け出すその身体を噴射によって一気に加速させる。
ただし、その後ろに続く者は誰一人としていなかった。
結果として、土蜘蛛から放たれる砲弾は鳳凰に集中することになる。
降り注ぐ砲弾が、鳳凰の周りに着弾し、周囲の高層ビルを揺らすほどの爆発を生じさせた。
強烈な爆風は後ろにまで及ぶが、集団の前にいる者達がシールドの紋章魔法を拡張展開して防ぐ。
砲火に直接さらされた鳳凰は、爆炎広がる中から飛び出す。ライオンの意匠が施された大盾を構えながら。
白銀の全身甲冑が焦げていること以外を抜かせば、ほぼ無傷であり、その速度も衰えるどころか更に加速される。
しかし、相手は自動兵器。一度攻撃を外せば、直ぐに軌道修正を行う。真っ直ぐ向かってくるたった一人など格好の的だった。
十機以上から放たれる砲弾。その半分以上が、鳳凰の構える大盾に当たる。
起きる爆発は、初撃の倍以上。周囲のビルの一部が吹き飛ぶほどの威力だったが、鳳凰は変わらず爆炎の中から飛び出す。ただ一つ違うことは、大盾の獅子が炎を宿し始めていることだ。
弾丸が命中した瞬間、大盾が爆発反応装甲のように爆発し、砲弾の威力を相殺していた。
同じ現象は次の着弾でも起き、二度、三度、四度と撃ち込まれても、鳳凰の進撃を止めるに至らない。
勿論、進めば進むほど、正面以外からの砲弾が撃ち込まれ始める。だが、それらは後方で待機しているプレイヤー達による魔法支援によって防がれる。
杖から放たれる電撃によって砲弾が空中で爆発させられれば、火球を放つ大筒によって土蜘蛛自体が吹き飛ばされ、放たれた矢に当たり瞬時に氷漬けになる別個体など、円形広場の各地で魔法現象が巻き起こった。
当然、そんな攻撃が始まれば、土蜘蛛の攻撃の矛先が後方にも向き始める。
しかし、放たれた弾丸はシールドで防がれ、仮に抜けられても拡張展開する精霊領域に阻まれ命中しない。
「スイッチ」
不意に鳳凰の指示が飛び、それに応えた盾の乙女団の面々が前列と後列を素早く入れ替える。
砲撃のダメージを防いだことにより消費したプレイヤーが後ろに引っ込み、魔法攻撃もせずに温存していたプレイヤーが前に出る。ただそれだけのことだが、そうすることで次の行動を躊躇うことなく行えるのだ。
鳳凰は既に巨大な穴であるエレベーター跡地の前まで辿り着いている。
後数歩、駆ければ飛び込むことができる距離。
そこまで詰めれば、必然的に土蜘蛛の密度も高くなり、接近戦を仕掛けようと三機が鳳凰に迫る。
土蜘蛛の足に仕込まれた刃が煌めき、前足二本計六つが襲い掛かる。直前、
「フルブースト」
鳳凰のつぶやきと共に、足だけじゃなく背面全てから炎が噴き出す。
一気に加速したことにより土蜘蛛達の刃は地面を砕くだけに終わり、それを潜り抜けた鳳凰はそのまま正面の土蜘蛛に体当たりした。
自分の三倍以上の巨体をあっさり宙に浮かし、そのままの勢いでエレベーター跡地の穴へと飛び出す。
「全てを巻き込む」
穴の周りにいる土蜘蛛達が一斉に自分に砲身を向けているのに気付きながら、鳳凰は唱え始める。
「地獄の業火よ」
リチャードが応えるように言葉を紡ぎ出す。
「我が願いに応じ」
「現れいでよ」
「「インフェルノフレア!」」
二人が魔法名を重ねて叫んだ瞬間、鳳凰の鎧が紅蓮の炎に包まれ、一気に膨張し火球となってエレベーター穴の真ん中に停止。ほぼ同時に土蜘蛛達が砲弾を放つ。
仲間達から離れている上に、土蜘蛛達の攻撃も激しくなっているため、最早支援すらできない状況になっていた。
が、盾の乙女団は、団長を助けるどころか、真逆の行動を取り始める。
全員一斉に踵を返し、全速力で逃走を開始したのだ。
この場にいる土蜘蛛は防衛のために配置されているものなので、砲撃以外の追撃はないが撃ち込まれる砲弾を撃墜すらせず、精霊領域で強引に防ぎながら、それどころか者によっては加速魔法を使い、使えない者を抱えたりして一気に戦闘領域から離脱。
人間だったら唖然とする逃げっぷりなのだが、自動兵器に感情があるわけもなく、ただただ組み込まれたプログラム通りに行動するのみ。
つまり、この場にいるただ一人のプレイヤーの排除。
四十機もの土蜘蛛から集中砲火を受け、エレベーター跡地が爆炎に包まれる。
砲弾に包まれた炸薬によるものであるため、僅かな間を置いて炎は消える。はずだったが、なぜか消失するどころか砲撃を受ける度に、爆炎は大きくなって固定されていく。
まるで鳳凰が自らの周りに展開した火球が爆炎を喰らっているかのように。
巨大化していく炎は、とうとうエレベーター穴の縁にまで到達し、地面を赤く変色させていく。
流石の自動兵器も自己防衛が働き、一斉に後退しようと動き出すが、既に遅かった。
「「バースト!」」
巨大火球の中心で、鳳凰とリチャードが叫ぶ。
瞬間、溜まりに溜まっていた爆発エネルギーが一気に解放され、エレベーター跡どころか、円形広場、周囲のビル群を巻き込む大爆発を引き起こした。
当然、至近距離にいた土蜘蛛はひとたまりもなく消滅する。
爆発による風と振動が収まり、生じた煙が晴れた後にはただただ巨大なクレーターと、その中心に着地する鳳凰だけ。
ゆっくりと周りを見回し、自分が起こした破壊の惨状を確認する鳳凰は頷く。
エレベーターの跡どころか、地下ダンジョンに繋がる全ての通路すらクレーターとして埋まってしまっているのだが、鳳凰は特に気にせず足元に炎を宿してその場から去って行った。
「なっ!」
廃ビルの壁にナイフを突き刺して止まっていたヴァルキューレは目の前で起きていた戦闘の結果に絶句した。
でぃーきゅーえぬ再侵攻から四日後。
日課の地上偵察をしていた彼女の下に、盾の乙女団がそれまでと違う動きをし始めているという情報がもたらされた。
盾の乙女団の構成員は、その目的上個人情報の管理がしっかりしている上に入団条件も厳しいため諜報員は入り込めていない。
故にその情報が別のギルドに入り込んでいる諜報員から送られてきた時には、既に盾の乙女団は行動を開始していた。
なんとも厄介なことにその情報が流れる各ギルドに流れるタイミングが調整されているらしく、即座に反応すると諜報員が特定されることはなくても位置がある程度特定されてしまう可能性があった。
おかげでなんの対策できずに、模造神隠しのヴァ―ルを持っているヴァルキューレとカスタムノーフェイスのみがなにをするのかを確認するのが限度。
もっとも、ここ数日の情報戦での攻防で、諜報員の位置を大分絞り込められている可能性はあるのだが、そこを気にするのはヴァルキューレの役割ではない。
彼女が今気にするべきは、目の前でされた盾の乙女団の行動だ。
エレベーター跡地は、地下ダンジョンに侵入するルートは集団戦を得意とする盾の乙女団からしたら確保を優先するべき場所なのに、潰した。
しかも、各地に派遣しているカスタムノーフェイスから、他のエレベーター跡地も盾の乙女団の分隊によって同じように潰されていると報告が続々と入ってくる。
(今まで盾の乙女団は地上にいたプレイヤー達の地下ダンジョンへの避難誘導をしていましたわ。多くのプレイヤーは主戦場となっている黒姫尊がいる場所へと繋がるルート以外へ。しかも、特定の場所に集まらせずに、簡単に動ける小集団に変え、常に地下ダンジョンを移動させてこちらに位置を掴ませず、地下ダンジョン上層全域を動き回らせる指示のおまけ付きで。おかげで地上には規模の大きいギルドしか残っていませんし、自動兵器の戦闘回数も激減してしまったのですから、盾の乙女団としては目論見通りであるはず。なのに、なんで今更になって経験を積ませるようなことを?)
魔法を使った戦闘は、現実の兵器である自動兵器にとって高い経験値を得られる。故に、昨日まではRS持ち以外は逃げに徹していた。
避難誘導中の盾の乙女団を襲っても、防御に徹せられ、手間取っている間に戦の聖人が乱入してくる。なんてことが頻発していたのだ。
(避難誘導が終わり、周りを気にせずに戦えるようになったから。とも考えられることは考えられますの。でも、それをすることによってこちらの目的が達成させられてしまうとわかっているからこその前日までの動き。だとすると、目的は地下ダンジョンへの侵入ルートを潰すこと? なぜ? いえ、盾の乙女団の行動がプレイヤーを守ることであるのなら、自動兵器が避難させたプレイヤー達の下へ向かうのを防ぐため? そう考えると自然ですけど……)
やはりちらつくのは麗しの男の娘。
(本当に彼を見捨てますの?)
その疑問が、エレベーター跡地を潰したことに考えたこととは違う意味がある可能性をもたげさせる。
だが、相変わらず尊に関する情報が入ってこない状態では、いくら考えても無意味という結論しか出ない。が、能天気なスルトと違って、真面目で考えるタイプのヴァルキューレとしてはどうしても答えを求めたい。
「しかたありませんの。無意味でしょうけど、一応見に行きましょう」
ヴァルキューレはため息一つ吐き、もう一つ昨日とは違う行動を見せ始めたギルドの下へと向かった。
転送球が置かれている円形広場に、ふらりと現れたプレイヤーがいた。
常に目を瞑っている着物姿の女性・高城八重。
本日の着物は龍が描かれた黒い反物で作られており、纏っている獰猛な雰囲気も合わせて目撃した者が一般人ならお近付きになりたくないと思わせるだろう。
そんなやる気満々な彼女の後ろには、同じように剣呑な気配を撒き散らしている者達が続く。
相撲取り、プロレスラー、ボクサー、ガンナー、剣道家、空手家、槍術家、弓道家、フェンサーありとあらゆる武に関する格好をした彼ら彼女らが九名ほど。
対する自動兵器は、ガーディアン系魔物と違い、全てが黒色。そんなわかり易い違いの彼らは、円形広場に繋がる四つの道路を塞ぐように蜘蛛を模した土蜘蛛が四機。周りに全身を大盾とショットガンを装備した人を模したノーフェイスが十機。更に上空はトンボを模したハイ・ドラゴンフライが三十機ほど。
計七十四機の自動兵器を前に、まわしと両手足の和式籠手しか着ていない相撲取りがにやりと笑う。
「カッ。御大層な出迎えじゃねぇか!」
思わずといった感じで出た言葉に隣にいるスパッツと両手足の洋式籠手しか着ていない金髪青目なプロレスラーが掛けている眼鏡のブリッジを中指で上げるクイッと上げる。
「ログアウト不能になったその次の日から定期的に襲撃していれば、当然の結果だと思いますが?」
「そうかあ? つい最近まで大した戦力の増強なんてなかったじゃねぇか」
「微増はしていましたよ。増加が顕著になったのは、ここ数日のようですが」
「そりゃまずくねぇか? そんだけQCのクラッキングが進んでるってことだろ?」
「だからといって、今の我々にできることは限られていますが」
「だよな……って、おい! 先行すんなって!」
二人が呑気に会話している間に、前を歩いていた八重が唐突に走り出した。
それまでただ立ち尽くし、飛んでいるだけだった自動兵器達が一斉に反応する。
向けられる砲口と銃口に、ニヤッと笑う八重が呟く。
「疾きこと」
そして、その言葉に続くように、彼女の武霊ライデンが唱え、
「雷の如し」
二人が声を揃える。
「「電光石火」」
その瞬間、八重の足に電撃が宿り、激しい音と共に一気に加速した。
直前まで彼女がいた場所に砲弾銃弾の嵐が吹き荒れ、余波を喰らった後続が迷惑そうに後ろに飛ぶ。
一瞬で土蜘蛛を守るノーフェイスの前に移動した八重は、裂ぱくの気合と共に脇に構えていた杖を一気に引き抜く。
彼女の武霊ライデンは仕込み杖に武装化しており、身に纏う電光と共にその抜刀は普通の人の認識を越えた速度を生み出す。
だが、相手は人ではない自動兵器。ノーフェイスは持っている盾を刃に向け、ショットガンの銃口を八重に向けた。
盾で斬撃は防がれ、散弾で吹き飛ばされる。普通ならそうなっていただろうが、八重もこの世界では普通ではない。具体的には武装化武器が。
カーボンナノチューブによって作られた黒い大盾に、仕込み杖の細い刃が触れた瞬間、なんの抵抗もなく食い込み、一気に持ち手にまで届き、腹を断ち、銃身を腕ごと切り裂いた。
真っ二つになって空へと舞い飛ぶノーフェイス。
一体が刹那に破壊されたことに反応した同機体達が銃口を八重に向けようとした時には、彼女の姿はその場所になく、土蜘蛛の下にもぐり抜身の仕込み杖を頭部から腹部に掛けて斬り駆けていた。
「……俺達いられねぇだろ?」
嬉々として敵陣に突っ込み、瞬く間にノーフェイス一体、土蜘蛛一機を真っ二つにし、更に円形広場の中へと入って、銃弾と砲弾の雨を高速移動で難なく避けながら、次々と自動兵器達を真っ二つにしていく八重を見た相撲取りが呆れた顔になるが、その隣でプロレスラーが眼鏡を上げる。
「精霊力にも限界はあります」
「だよな。なら、やるか!」
「ええ」
突撃を開始する戦の聖人メンバー達。
それぞれが持つRSと高速移動魔法を組み合わせた戦い方によって瞬く間に自動兵器達を破壊していく。
相撲取りが足元の地面を隆起させて加速し、ノーフェイスを数体まとめてぶちかまし、土蜘蛛の残骸に叩き付け吹き飛ばす。
プロレスラーの具足の裏から金属の円柱が飛び出し、その巨体を一気に空中に飛ばすと同時に、全身が金属で覆われその身体を更に巨大化させ、ジャンピング・ボディ・プレスを上空に飛んでいたハイドラゴンフライを数機巻き込んで土蜘蛛の一グループを押し潰した。
他にも爆発を駆使してヒット&アウェイで戦うボクサー、撃ち出した弾丸が木の根となって絡めとるガンナー、振り抜く竹刀と身体に風が纏い切り裂き抜ける剣道家、炎を纏い打ち抜く拳と蹴りで触れたものを溶かす空手家、水で刃を瞬間的に拡張しまとめて切り裂く槍術家、氷の矢を射り次々と上空の自動兵器を凍らせる弓道家、電撃を纏った突きを放つフェンサーと縦横無尽に暴れ回り、瞬く間に円形広場の護衛を全滅させてしまった。
無残に黒い残骸が散らばる周囲に目を瞑りながら見回した八重は、若干つまらなそうに嘆息。
「ほな、撤収」
その言葉と共に停止して輝きを失っていた転送ゲートである転送球が輝き、周囲に新たな自動兵器が現れ始める。
だが、八重達は彼らを無視してあっさり円形広場から引き上げ始めた。
行き掛けの駄賃とばかりに、進行方向上から応援に駆け付けたであろう自動兵器達を蹴散らしながら。
集団になってもただただ暴れまわる戦の聖人メンバーを目撃しながら、ヴァルキューレは離れた廃ビル屋上にて眉を顰めてつぶやく。
「意味わかりませんの」
と口にしておきながら、思考はその意味を求めて巡り始める。
(昨日まで単独で一つの技しか使わずに暴れまわっていたのは、自動兵器の成長を可能な限り遅くするため。そして、その傾向は今の戦いの中にもありましたわ。だとすれば、集団戦に切り替えたのは、単独単一技へ対応し始めた自動兵器対策と考えるのが自然ですの。では、主戦場を転送球の周りに変えたのは? そこに行けば確実に戦えるから? 集団戦で戦うのなら、プレイヤーを求めて都市内を彷徨っている個体達と戦うより、防衛のために戦力を充実させている個所を襲う方が戦果を得られやすく、手応えもある。そんなところですの?)
一応納得できる答えを導き出せたが、しかし、それだけだ。どうしても引っ掛かりを覚える。
勿論、チラつくのは銀髪銀目の美少女風美少年。
(彼の介入があると想定した場合、戦の聖人というギルドの性質のみで答えを求めるのは愚策ですわ。こちらに入ってくる情報では接触している証拠はなにもなく、実際の行動も接触していないように見える。でも、自然だからこそ不自然である以上、裏が存在すると考えるのなら……)
ふと着目したのは、全滅させて直ぐに撤退する戦の聖人達の姿。
(ただ戦闘を求めるのであれば、転送球の周りに陣取れば無限に戦えるでしょうに……それをしない? 殲滅スピードから考えれば、精霊力はまだまだ残されているはずですわ。防衛戦力が再び整うのを待つため? リアルな戦いに自分達のRSが通用するか確かめ、更なる高みを目指すために武装精霊にやってきた者達の集まりなのですから、そう考えれば自然な撤退ですの。でも、こうも考えられますわ。転送球の性能を調べている。と)
それに気付いた時、ヴァルキューレは深いため息を吐いた。
(もう手遅れですわね。まだ戦術プログラムの成長ではなく、戦闘プログラムの成長を優先させたのが仇になりましたわ。常に自動兵器の戦力が一定になるように設定していなければ……今更悔いてもしょうがありませんわね。現状、それが知られたからといって状況が引っ繰り返される要素はありませんし……そう、今のままなら無意味だからこそ、調べているというのは推測の領域から出ませんわ。ですが、もし、仮にその推測が正しかったとしたら……)
パズルのピースは揃い始め、次々とはまってはいても、どんな絵が描かれているか未だにわからない。
決定的なピースである尊の動きが見えないからだ。
(いっそのことわたくしが先行して……駄目ですわね。模造神隠しのヴァ―ルでは警戒している武霊・ガーディアン系の探知から逃れることができないですわ。下手にわたくしが前に出てしまうと……結局あの連中を使うしかありませんのね)
そう結論付けるしかないヴァルキューレは先程より深いため息を吐くのだった。




