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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
2.機械仕掛けの戦乙女は阿修羅編
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Scene65『PMScsフェンリルについて』

 八重とヴァルキューレの一戦を見たギルド長達は一様に沈黙していた。

 ある程度まで成長した武霊であれば廃ビルを破壊することは造作もない。が、八重と同じことをやれと言われてできる者はいない。

 斬撃を増幅し、更に精霊魔法を付与した攻撃は、武霊とその主が互いのことを把握し、息を合わせて初めて出来る事だからだ。

 しかも、それを思考制御のみで行っていた。

 普通の精霊魔法の使い方は、互いが出来る事を役割分担しつつ、言葉による合図で合わせる。

 そうしないと武霊への負担が大きく、意思疎通も出来ていないため、プレイヤーの意図しない魔法が起きてしまうこともあるのだ。

 思考制御で互いのことが繋がってはいても、全部が全部知りえるわけでもなく、また、互いにまだまだ成長段階。

 故に、今の八重とライデンは現状で到達できる武霊使いとしての理想の形といえた。

 だが、

 「ん~やっぱりまだまだやね。尊ちゃんのようにうまくいかへんわ」

 本人はまだまだ満足していないらしい。

 「十分過ぎると思うんですけど……」

 流石の尊も呆れの視線を八重に向けるが、当人は首を横に振る。

 「これはあくまでうちの本来の戦い方の延長線上にしかすぎんわ。武霊使いの戦い方やない。ライデンに負担をかけまくっとんから戦闘持続力も低過ぎやしね。そういう意味では、尊ちゃんとカナタちゃんの方が優れとるな。なにより、破壊力だけ優れとっても、あたらな意味ないやろ?」

 廃ビルを十数瓦礫の山に変えても、それが向けられた相手は無傷だった。

 もっとも、一撃でもかすっていれば、その威力と性質から生身である彼女は無事では済まなかった。だからこそ、相手からすればそれ以外の選択肢がなかっただけとも取れる。

 「八重さん。もし、制限なく戦えていたら彼女に勝てました?」

 尊の問いに、八重は腕を組んで悩む。

 「……どうやろうね? 彼女とうちでは、相性が良くないんよね。なによりうちが技一つしか見せなかったみたいに、向こうも回避しかせえへんかったしな。シールドの紋章魔法も持ってるやろうし、範囲攻撃やとシールドを壊せるほどの威力はでえへんし、工夫も出来ひん。仮に通せる威力を出せたとしても、一瞬だけ防げればリスタート転送で逃げられるやろ? 負けはしないやろうが、勝てもせえへんやろな」

 嘆息する八重に、尊は困った顔になるしかない。

 「では、皆さんの中で彼女に勝てると思える人はいますか?」

 念のために武霊ネットで繋がっている全員に確認してみるが、誰もなにも言わない。

 八重から受け取った動画は思念会話も同時に流れているので、相手が自分と同等かもしくはそれ以上だと思っている感想はかなりの重さを持っているのだ。

 なによりこの場にいるのは大なり小なり人を率いている者達。下手に勝てると口にできるはずもない。

 「他の工作員が撤退する中、ヴァルキューレのみが撤退を確認できませんでした。そして、こちらの動きに彼女が直接リアクションを起こした。彼女のフェンリルの中での立ち位置は先兵的なものなのかもしれません。八重さんと同じ技術を身に付けているのなら、スカウトに相応しいってことなんでしょうけど……フェンリルの情報が少な過ぎるのは問題ですね。彼女がフェンリルの中でどの程度の実力なのか、もし八重さんの懸念通り全員が全員、同じかそれ以上の実力であるのならギルバートに辿り着くのはより困難になります」

 ゾーン癖が少し発動しているのか、そんなことをつぶやく尊。

 「やっぱりより正確なフェンリルの実体を知る必要があります。鳳凰さん。頼んでいた人は見付かりましたか?」

 問われた鳳凰は頷く。

 「諜報系ギルドのグラスペッパーズに確認してみた。彼らや彼らの知り合いにはリアルで情報収集を趣味とする者達が多いからな。QNへ繋げられない現状では彼ら以上の情報源はないだろうと思ってだったが……」

 「なにか問題でもあったんですか?」

 「いや、この場で直接話したいと言われたので、まだ私もどの程度知っているのか確認できていないのだ」

 「そうですか……わかりました。直ぐに繋いでくれますか?」

 「ああ、少し待ってくれ。彼は今、ようやく連絡が付いた姪を説教しているところでな」

 「姪さんですか? ああ、あのニンジャーな人ですか」

 独断専行の困った性格なのは妖精広場でも公開されている動画を見ればわかるので、なんとなく苦労してそうだなというのが尊を含めて全員の感想だった。

 「じゃあ、その間に情報交換をしましょう。こちらも少しですが手に入った情報がありますので」




 「わりいな。遅くなった」

 情報交換が終わってほどなくして武霊ネット会議に現れたのは、茶色いよれよれのトレンチコートを着ている男性だった。

 ぼさぼさ頭で目まで隠しているため表情は読み取り辛く、無精ひげがやや不信感を誘発させ、ニンジャっ娘の叔父とはいまいち連想し難い。

 「俺が情報系ギルド『グラスペッパーズ』代表・早見(はやみ) 一二三(ひふみ)だ。ああ、名乗りは良いぜ。今繋がっているメンバーぐらいの名前と顔なら把握してるからな。特に黒樹尊君。君はうちの最重要取材対象だ。現実に帰還できたら是非独占取材を申し込みたいね」

 先んじて名前を呼ばれたことに困惑しつつ尊は頬を掻く。

 「えっと……タイミングが良かったというか悪かったというか、そんな感じだと思いますよ? 僕程度ができることなんて、ここにいる皆さんならきっと同じか違ったことを考え付くはずですし」

 謙虚な発言にギルド長達は苦笑したり、首を横に振ったりと、大体否定的な反応を示しているが、初対面の相手に緊張している尊は気付いていない。

 そんな彼と周りの様子に一二三は吹き出す。

 「あはははっ! 君は面白いな。うん。確かに君と同じような状況下に置かれた場合、ここのメンバーの幾人かは現状と同じか違った形に導けるかもしれないな。才能・経験・能力と全員が全員なにかしら秀でているからこそ、こんな状況下でもギルド長をしていられる。知ってるか? ここ以外のギルドは、結構な数が瓦解しているんだぜ」

 「はい。聞いています。だから、たまたまなんだと思います」

 「いいや。君だからこそさ」

 「でも、なにも解決してませんよ?」

 「状況は変わっているさ。なにより、なんか企んでるんだろ? 結構な数のギルドが君を見捨てるって宣言しておきながら、こうして集まってるんだからな」

 尊のお願いの詳細を聞かされていないで呼び出された彼はニヤリと笑う。

 ほとんどのギルド長は平然としていた。が、不自然なほどの無反応だったため、なにか企んでいるのがバレバレだった。

 なので、尊は苦笑するしかない。

 「それほど隠してませんし」

 「だろうな。じゃなきゃ、俺みたいな奴をここに呼び込んだりしねぇだろう。差し詰め、二次メンバーってところか? まあ、信頼を得られるように努力するさ」

 「すいません」

 「いいってことよ。俺は現実でもジャーナリストの端くれだからな。こういうことには慣れてる。まあ、とにかく、あれだ。確かにここの連中ならできたかもしれない。君が偶々というのも事実だろう。だが、こういうことは、その偶然が重要なんだ。最悪を解決できる変化できる者が、そこに偶々いる。それは何者にも代えがたい天運ともいえる。どんな才能も経験も能力も、使う場所にいなければ発揮なんてできないわけだからな。そういう意味で言えば、不謹慎で君にとっては不運でしかないだろうが、私達にとってみれば君が巻き込まれてくれた幸運だったと言えるな」

 「……まだ渦中なのですから、そうとも言い切れないと思いますけど」

 「うん。君はそれでいいのさ。だからこその結果であれば、無理に変える必要もない」

 「えっと……」

 なんて言えばいいのか困ってしまう尊は視線を彷徨わせて、鳳凰に助けを求めるように目を向けた。

 「……とりあえず、あなたが知っているフェンリルのことを教えてくれないか?」

 「ん? ああ、そういえばそういう用件で呼ばれてたんだったな。ああ、いいぜ」

 ニイっと笑みを浮かべた一二三は、自身が投影されているVRA画面の横に新たな画面を出す。

 そこには狼が地球を喰らおうとしているエンブレムが映し出されていた。

 「PMScsフェンリル。第三次世界大戦後に結成され、主に自動兵器の演習相手や自動兵器を導入する前の小国などを相手に要人や施設の警護、兵站や輸送、情報収集業務等などをして世界各地を転々として活動している。所属している人間は二千三百五十四人だったかな? 自前の戦艦やら自動兵器も持ってるから、ちょっとした小国レベルの軍事力はあるだろうよ」

 小国レベルという言葉に動揺が広がるが、現状からその程度のことは予測の範囲内だったため直ぐに収まる。が、少しして困惑が広がった。

 話が終わったとばかりに、一二三がコートのポケットから取り出した棒付き飴を舐めだしたからだ。

 「あの……それだけですか?」

 「ああ、これだけだな」

 尊の問いに事も無げに頷く一二三。

 「どう考えてもそれって表向きの情報でしかないと思うんですけど?」

 「だろうな。この程度の民間軍事会社がこんなことできるはずもない」

 予測の範囲内な情報と当たり前なことしか口にしなかった一二三に、期待外れといった視線が集まるが、幾人かのギルド長達は思案気な顔になる。勿論、尊もその中に含まれていた。

 「……なんでフェンリルのことを知っているんですか?」

 「今は転向しているが昔は戦場ジャーナリストだったからな。ペーペーの時に第三次世界大戦にも従軍記者として同行していた伝手で、その手の話題は未だに勝手に入ってくるのさ」

 「じゃあ、どの程度までフェンリルの活動内容を知ってます?」

 「どこで活動し、どんなことをしたかの記録は持ってるよ。ただ、全て普通のPMScsがするような内容ばかりだぜ」

 「では、その活動時期と地域で起きているなにか重大な事件はありませんか?」

 尊のその問いに、一二三は飴棒を転がす動きを止め、ニヤリと笑った。

 「まあ、こんな感じか?」

 一二三が映るVRA画面の周りに無数の画面が展開される。

 画面ごとに違う国のニュース映像や記事であり、フェンリルがその時期になにをしていたのかも添付されている。それによると、フェンリルの活動と同時期に政府や企業の大規模施設が事故や事件により崩壊・破壊されていることが示されていた。

 それを見た尊はため息を吐く。

 「現状ではこれが限度なんですね?」

 一二三はなにも答えない。代わりに面白そうに尊を見ている。

 その様子に尊は頭の中で言葉を選ぶが、なにが正解なのかわからず素直に口にすることにした。

 「……どうしたら教えてくれます?」

 答えを期待してのものではなかったが、しかし、返事は返ってきた。ただし、一二三からではない。

 「この事態を打開できると思えるほどの実績を見せればいい」

 その言葉と共に新たなVRA画面が展開され、仙人のような細長い顎鬚と長い眉毛を生やした白髪の老人が映し出された。

 新たな人物を見た時、尊は目を見開いて驚く。何故なら、

 「こ、小河(こがわ) 総一郎(そういちろう)総理!?」

 「元だよ元」

 尊の反応に老人は快活に笑うのだった。

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