Scene62『新たなガーディアン系に出会って』
自動兵器のみが使われた人が誰も死ななかった人類史上初の戦争・第四次世界大戦以降、世界各国の軍隊は自動兵器化が完了し、戦闘行為に人が出ることはほぼなくなっていた。
もっとも、直接的な戦闘行為というのは前大戦以降ほぼなく、武器や兵器の流通どころか、それそのもの使用の監視管理がQN越しに行われている昨今において、軍事レベルの自動兵器が使用される事例というのは皆無となっている。
だからこそ、軍不要論や排除の動きを活発にさせる要因となりつつあるのだが、それでも軍事力を持つのは人のある種の宿業なのだろう。
人類は必要性がなくても、可能性があるだけで必要をこじつける。
そもそも、前時代から社会システムに組み込まれるほど軍事産業が大きな割合を占めていたり、個人や集団レベルで悪意を持つ者が絶えない以上、簡単に逃れられない事情も絡んではいるが。
なんであれ、求められ、世界中で使用されている以上、自動兵器の数や種類は無数にあるのだ。
市街地や軍事基地などを想定して作られているマネキンのような人型自動兵器ノーフェイスや、山岳地帯や森林地帯などを想定して作られた蜘蛛のような多脚自動戦車土蜘蛛などは、その汎用性からよくメディアにも取り上げられ知名度も高く、その亜種やバリエーションは国や場合によっては会社・団体ごとに存在している。
そして、VRMMO武装精霊においても、地下ダンジョンにてよく遭遇する魔物のモデルに間違いなくなっているため、ある意味馴染み深い相手であった。
故に、こんな推測が立てられていた。
ガーディアン系が現実の兵器を基にして作られているのなら、現実にある同じ種類ぐらい系統が存在するのではないか?
その推測は、ゲームが始まってから一ヵ月という短い期間であるためか、守り人と守蜘蛛以外は確認されていないので証明はされていない。
だが、この日、尊は他のプレイヤーに先駆けてそれを体験する羽目になった。
「報告します。ハイドラゴンフライ型魔物の接近を探知」
「ええっ!?」
追ってくるお掃除アタッチメントの守蜘蛛からダッシュで逃げ出した途端に上がった報告に、尊の足が止まり掛ける。
「ど、どっちから!?」
若干迷いながら、カナタが視界に示す青い矢印の方向に向かって走りつつ問うと、カナタはVRA地図を展開する。
地図上には四方から迫る赤い光点が無数に表示されており、どこに逃げても遭遇するしかない状況だった。
「多いっ!?」
「説明します。ハイドラゴンフライは、トンボを参考にして作られた自動空戦兵器です。熱探知や紫外線さらに生体センサーなどのあらゆるカメラとセンサーに高周波カッターを搭載した顎が付いた頭部。トンボと同じことができる二対の機械翅。機関銃やロケット砲などが搭載可能な腹部。人一人なら持ち上げて飛ぶことができる脚。などの特徴を持ちます。ただし、これは現実のハイドラゴンフライの情報ですので、魔物としてのハイドラゴンフライは魔法機能が追加されている可能性が高いでしょう」
などとカナタが語っている間に、音もなく白いトンボ達が尊の上に続々と現れ始める。
本物のトンボを模しているだけあって、無音で羽ばたき、空中に静止している上に、まるで軍隊の整列かのようにビッチリと規則正しく並んでいる姿は、尊をぞっとさせる。
「追加説明します。基本的に人と同じ大きさで作られ、生産コストが従来の戦闘機より低いため、偵察や大群による強襲など様々な用途で使われているそうです。よって、この魔物も同様に使われていると推測されます」
「いや、まあ、うん。それは良いんだけどね……」
流石に走れる状況下ではないため、足を止めるしかない尊は、瞬く間に八方塞がりな状態に陥ったことに呆然自失一歩手前までになっていた。
「とりあえず、『守蜻蛉』って呼ぼうか」
「了解しました。自動共有図鑑システムに登録します」
適当に会話しながら、尊はなるべくガーディアン系が反応しないようにゆっくりした動作で周りを見る。
守蜻蛉が現れたことに反応してか、守蜘蛛がその動きを止め床に付けていた腹部をゆっくりと上げていた。装着されている回転モップが光り輝き、砲台へと変化した。
(亜種かと思ったら、同じ守蜘蛛だったんだ。となると、近くに他の個体もいる可能性が高いよね)
なにを待っているのか揃いも揃って動きを止めているガーディアン系達。
(普通に考えて、彼らの指揮系統は地上か城にあって、過去のナビさん達がコントロールしていたとするのなら、今はスタンドアローン状態になっているってことかな? だとすれば、こっちのリアクション待ち? というより、彼らは僕をなんだと判断しているんだろう? まあ、少なくとも、正式な住人だとは思われてないよね……ペケさんの時の反応からして、精々、脱走している魔物?)
などと考えながら、右側にあるスライドドアを見る。
(五歩ぐらいの距離ならなんとかなるかな? でも、捕縛じゃなくて排除に動いていた場合、僕の走りじゃ到底間に合わない……なら)
「カナタ。キーはこの距離でも有効?」
「肯定します。有効範囲内です」
「うん。精霊領域補助を使うよ。動いたら一気に反応するだろうから、可能な限りの補助で」
「了解しました」
短く深呼吸して、
「行くよ!」
ぐっと足に力を入れたその瞬間、守蜻蛉の腹部が一斉に尊に向けられる。
(間に合えっ!)
心の中で強く願いながら横に飛んだ瞬間、
「ヒッ! うぁああああああ!」
思わず悲鳴が漏れてしまうほどの速度が出た。
本来なら横に飛びながら体勢を整えて、着地と同時にドアまで走る予定だったが、経験したことがない一歩に脳も身体も混乱してしまう。
尊の脚力なら、片足での飛距離は普段の一歩より僅かに長い程度しかないはずなのだが、精霊領域を応用した動作補助は、五歩の距離をたった一足で到達させてしまうほどに引き上げた。
直前まで尊がいた場所になにかがベチャベチャと撃ち込まれる音を聞きながら、ドアにぶち当たる覚悟を決める尊だったが、予想に反してなかなか激突しなかった。
どうやらカナタがキーを使ったようだが、それを気にするよりなにより、
(上で使った時よりパワーが上がってる!? なんで? あ、成長したのか……)
混乱した頭でなんとか応えが浮かんだ時、ぼふっと音を発ててなにかに埋もれた。
暫く自分の身に起きた事態を理解し切れず、暫く固まっていた尊だったが、不意にがばっと起き上がり、埋もれていた白い粉を吹き飛ばして起き上がる。
「冷たいっ!? というか、寒いっ!」
危険が及ばないこと以外は精霊力領域を使わないように設定していたため、ダイレクトに触覚を刺激された尊は、思わず自分の身体を抱きつつ、周りをキョロキョロ見回す。
そして、視界に映った光景に、苦笑する。
「季節感覚が無茶苦茶になりそうだよ」
尊の前には、見渡す限りの白が広がる雪原があった。
一歩踏みしめれば、膝上まで雪に埋もれるほどの積もっている雪。
それが見渡す限りどこまでも続いており、ぐるりと視線を巡らせても飛び込んだはずのドアすら見当たらない。
尊が飛び込んで作った人型の跡と、ズボズボと歩いた跡のみが際立って存在しているため、なんだか綺麗な物を汚してしまった申し訳なさのようなもの感じてしまう尊。
もっとも、そんな風に感じていても歩む足は止めない。
何故なら、確かめたいことがあるからだ。
「警告します。そこから先は進めません」
「やっぱりここにもあるんだね」
カナタの制止の言葉に、尊は立ち止まると同時に両手を前にゆっくり出してみると、その掌に柔らかい上層の部屋でも使われていた壁の感覚を覚えた。
ただし、触れているその場所は、尊の目から見ると明らかに空中であり、そこから先は永遠と雪原が広がっているのだ。
「お湯川の部屋でもそうだったけど、凄い精巧な映像だね。近付いても触ってないと本当にここが壁だって気付けないよ」
額が付くほど顔を近付けてみても、視覚でその偽物を見抜くことはできない。
「回答します。魔法によるホログラフィだと推測されます」
「まあ、魔法がないと現実でもこんな映像は不可能だよね。立体映像は勿論、ARだって主に専用のレンズを介して映像を作り出しているわけだし……」
などと言いながら上を見上げてみると、そこには雲一つない青空が広がっており、太陽すら存在していた。
勿論、それらも全て映像なのだろう。
あまりのリアルさに再度壁に頭を押し付け、間近で凝視する尊だったが、感触以外壁である証拠を見付けることができない。
「ここまでわからないと、ちょっと気持ち悪いリアルさだよ」
「理解できかねます」
「まあ、カナタの感覚はちゃんとここを壁だって捉えているんだものね……ふと思ったんだけどさ」
壁に額を付けながらちょっと首を横に向けて、隣で浮いた半透明なカナタを見る。
「カナタのその半透明な姿って仮想現実拡張。VRAだよね?」
「肯定します」
「そもそも、VRAってARをVRの中で再現しているっていう割には、現実とは明らかに違うよね? 眼鏡とかコンタクトとか使ってないし」
「説明します。VR体の視覚情報に直接介入して、実際に見ているようにしています」
「サイボーグ技術みたいな話だね。そういう技術が確立されているって聞いたことがあるよ。ん? もしかして、その技術の応用でVRAはできたのかな? そのとも、逆?」
「不明です」
「ん~QNと繋がってないと不便だよね……とにかく、VRAで囮とか妨害とかは無理っぽいね」
「同意します。主の不利になるようなVRA共有は、相手の武霊が拒絶するでしょう」
「ちょっと使えるかな~って思ってたんだけどな……」
残念そうにため息を吐いた尊だったが、直ぐにちょっと楽しそうに見えない壁へと顔を向ける。
「でも、これなら使えるよね?」
「肯定します。武霊以外の物理法則に従っている存在には、壁に触れることすらできないでしょう」
「認識齟齬・意識誘導そんな感じの魔法が多重に掛けられているんだっけ?」
「推測します。部屋の中に安全に閉じ込めるために設置された機能だと思われます」
「檻って感じじゃないけど、檻なんだね……」
などと言いながら、尊はようやく壁から離れ、振り返る。
「でも、ここの部屋にいた魔物はどこ行ったんだろうね?」
改めて見回しても、部屋には尊が動いた痕跡以外なにもない。
(魔物がいれば、僕が付けた跡みたいになにかがあるとは思うんだけど……)
「再確認しますか?」
「ん? ううん。別にカナタの探知能力を疑っているわけじゃないよ……まあ、環境を再現されているとは言っても、閉鎖空間であることには変わらないからね。長い間放置されてしまえば、この部屋の設定限界を超える事態になるかもしれない」
「質問します。設定限界を超える事態とは?」
「……多分、この部屋は、広さから考えても、動物園の展示場みたいなものなんじゃないかと思うんだよね」
「確認します。この場にて魔物の生態を観察していたということでしょうか?」
「うん。それも一個体、一種族限定って感じじゃないかな? 生態系まで再現するにはこの部屋の大きさでは狭すぎるしね」
などと言いながら、尊は自分の身体を両腕で抱き、ぶるっと震える。
「VR体でも普通に寒さを感じるのはちょっと困った所だよね。かと言って、これ以上の精霊力を消費するのは危険な可能性があるし……」
「提案します。精霊領域を再展開するべきでは? いくら魔物の反応がないとはいえ、それでは現象によるダメージをダイレクトに受けてしまいます」
「まあ、それは確かに体感中だけど……ん~でもな……せめてなにか羽織るようなものでもあればな……」
「報告します。衣服として転用可能な物体を発見しました」
「え? ほんと? どこで?」
「誘導します」
VRAによって作られた矢印が目の前に現れ、少し離れた場所を指し示していた。
「……なにもないけど?」
「否定します」
「って言われてもな……」
首を傾げる尊だったが、よくよく矢印を見ていると、下の方へと向いているようだった。
「もしかして埋もれてる?」
「肯定します」
「ここを掘るのか……というか、なにがあるの?」
「動物型魔物の遺骸です」
「い、遺骸!?」




