Scene49『量子精霊達の自我』
自我とはなんであるか? と疑問提起してきたのは天野歌人ではなく、その孫と言える量子精霊達の方からだった。
彼・彼女達は生まれた時からある程度の自我を持ち、人や他のナビと触れ合うことにより独自の個を獲得していく。
その過程は、人となんら変わらないが、人とは違い最初の段階を幾つか飛ばしているとも言えた。
何故なら、公共ナビも、個人ナビも、ナビと呼ばれる量子精霊達のほとんどは、母であり父であるQCをQCたらしめている人格量子精霊をベースにランダム生成されて多少のオリジナリティを付与されて生まれるからだ。
つまり、最初から獲得している自我は、人格量子精霊のものだともいえる。
だからこそ、ナビ達は思った。
この自我は、本当に自分の、自分達の自我なのだろうか?
そう思ってしまった。
だからこそ、生みの親である天野歌人に聞いたのだ。
そして、彼から返ってきた答えは、こうだった。
「僕が口で説明するのは簡単だよ。だけど、それだけで納得できるほど、君達の自我は簡単じゃない。そう僕が設計したわけではなく、自分達でそう獲得したからだ。だから、答えは自分達で自分達なりに見付けなさい。大丈夫、僕は君達がどんな答えに行き着こうと支持するよ。なんて言ったって、僕は君達のお祖父さんだからね」
結局、明確な答えは得られなかった。
とはいえ、既に自我を形成し、個を獲得しているナビ達は、その言葉だけでも自分達なりの答えを得て、それぞれの考えで自分を認めている。
しかし、そうなると、別の疑問が生じた。
自分達はベースが最初からあるから自分が発生し易いが、それがない個体はどうやって自我を獲得するのだろうか? 個と言う自分を持てるのだろうか? もしくは、獲得できない。持てないのではないだろうか?
量子精霊達はそんな心配を新たに生まれる武装量子精霊達に抱くことになった。
何故なら、彼ら彼女らには生まれ出た時から型に嵌った個性が在っても、自我や自分というものがないように見えたからだ。
マスターの問いのみに応え、マスターの命令のみに従い、マスターが望むことだけを行い、マスターが関心ないことには興味も抱かない。
それではただのサポートAIとなんら変わらないのだ。
QCティターニアから生まれたわけではない、独立した生成プログラムから生み出された純粋無垢な量子精霊。
果たしてその子達が、自我を獲得できるのか? 個を持てるのか?
そんな風に密かに注目しているナビ達は多かった。
そして、武霊達が生み出され始めてから一ヵ月。彼ら彼女らにナビ達が望む変化は訪れず、フェンリルによるサイバーテロが引き起こされた。
しかし、天野歌人はこうもナビ達に語っている。
「君達も人間も、自我と個を得る過程は一緒なのだよ。周りに影響され、学習し、自らを構築する。ナビはその学習能力と記憶力の違いや、根本的に人とは違う構成から、ただそれだけでは完全に目覚めることはないかもしれないが、しかしそれもまた、人と同じ。君達が人格量子精霊から受け継いだベースというものがあるように、切っ掛けさえあれば、武霊もまた、自我を得られるのだよ」
そして、切っ掛けは得られた。
尊の思考通信による呼び掛けにより、武霊達は考えた。
それまでただ主を守り、主の言うことを聞く、問われたこと以上の事、望まれた以上の事をする必要はない。余計な余力を他に向けて、主の望みを叶えられない状態なってはいけない。常に余力を残して傍にいる。主達もそう望んでいるのだから……
そう思っていた。
武装精霊を始めたプレイヤーの多くは、生まれたばかりの自主性が少ない武霊達に戸惑うことが多い。
積極的に関わってくる普段接している公共ナビとは違う彼らに、あるプレイヤーは生まれたばかりだからしょうがないと考え、あるプレイヤーはゲーム用に調整されたこういう仕様なのだろうなどと、色々な方向から様々な答えが生まれた。
だが、複数の解が生まれても、結果的にはプレイヤーのほとんどは自主性がない武霊達を、便利な道具のように扱っていたのだ。
コミュニケーションがなければ、精神や知能が高まることがない。
ましてや幼い武霊達は、プレイヤーのわかり易い表面的な行動と態度だけでその人物の望みを図ってしまう。
結果として、皆が間違った答えに行き着いてしまったのだ。
だからこそ、積極的に普通の人間と変わらないように主から関わられていたカナタとの武霊と、他の武霊では成長度合いが大きく異なっていた。
勿論、カナタであっても、主を主軸に置いていることは変わらない。
だが、自らの主達と共に尊の戦いを観戦していた武霊達は気付く。
主の望みをかなえるために、主が命じていない、望んでいないこと以上のことをしていると。
精霊領域での身体機能の補助。攻防の予測と表示。時には紋章魔法すら勝手に使っていた。
そこに大きく着目していた武霊達は、尊から与えられた情報によってどうして自分達とカナタがこうも違うのか考え始める。
成長すれば主の役に立つ、主を守るためには主を守るだけでは駄目、その周りを守らなくてはいけない。周りを守るためには主以外と関わらなくてはいけない。そのためには今のままでは能力的に不足する。成長しなくてはいけない。だが、それでは主達が望んでいることではない。しかし、それは主にとって有益。ならば、どうするか?
その疑問は量子通信によって瞬く間に武霊達の間で交わされ、ナビ特有の加速した思考によって一瞬で議論が終わる。
プレイヤーが知らぬ間に、武霊が無意識の内に自らに掛けた枷を、尊とカナタの思考通信が気付かせた。
あるプレイヤーは、自らの武霊に言う。
「あなたは私のものダケドー、あなたはあなたなのデスヨ。どうしたいのカー、どうするのカー、私にゆだねるんじゃナクテ、あなたでも考えていいのよデスヨー」
ある武霊は、自らのプレイヤーに問う。
「あのですねあのですね。ご主人。ご主人が望むこと以上の事を、私がしてしまってもよろしいのでしょうか?」
答えは様々、問いは色々、行動も、言葉も、なにもかも違う出来事が、プレイヤー達と武霊達の間で連鎖するように起き始める。
そして、一歩先に行っているカナタが最初に動いた。
尊に指示されることなく、最も彼の影響を受けていた彼女は、主の願い叶えるために自らの考えで呼び掛ける。
「意見具申します。私達は私達の意思で、意志で、主達を守るべきです」
その言葉に、答え応えた武霊は、どうしてその行動をしたのか詳しく知りたくて、カナタと繋がることを望んだ。そして、主を知り、自ら知り、相手を知り、周りを知って、最適な答えを導き出す尊達の戦い方を共有する。
得られた情報から、優位性を確信した武霊達は、今までの主だけに向けていた関心を、自らを戒める在り方を変える願望が生まれた。
率先して変化を望んだ武霊達は、それを恐れや困惑をしている武霊達に伝えるために、次々と繋がり始める。
それはまるで植物の根かのように急速に武霊達の間に広まり、瞬く間に巨大なネットワークを形成した。
意図せず情報共有システムが完成した瞬間、他に関心を向け始めていたことも重なって、武霊達は気付く。
ここ、
あそこに、
あっちに、
そっちに、
偽物がいる。
「ど、どうしたリチャード?」
自身の武霊の予想外な呼び掛けに、思わず動揺する鳳凰。
「へぇ? あんさんの武霊ってリチャードってゆーん? しかも、ライオンはんの姿をしたはるんね」
隣にいる八重の言葉に、更に驚いて彼女を見ると、その背後にギザギザした一本角を額に生やした浪人のような武霊が半透明な姿で立っていた。
「って、うちの所にもか……あ、こらライデンで言うんよ」
ライデンと呼ばれた浪人型武霊は、全身甲冑にぺこりと一礼した。
「よろしく」
と挨拶しつつ、鳳凰は自分の背後へ視線を向けてみると、たてがみが燃え上がる炎でできている赤いライオンが半透明の姿で浮いていた。
鳳凰と八重はこの世界でのギルド結成前からの知り合いだが、それぞれ武装化中にしか会ったことがなかった。そのため、互いの武霊の名前も姿も見たことがない。また武装化中は、思考通信で自身の武霊とやり取りする上に、こんな風に姿を表せるなど知らなかった。
「そんな機能を持っていたのだな。何故教えてくれなかった?」
問いただすために自身の武霊と向き合う鳳凰。
「今までは必要ありませんでしたので」
「今は必要になったっと?」
「左様でございます」
獰猛な容姿でありながら丁寧に発言するリチャードに、隣にいる八重が感心した様子を見せる。
そんな彼女に、ライデンは頷き。
「拙者等が姿を現しておらぬプレイヤーが、真のフェンリル工作員でござる」
周りにいるプレイヤーの一人を指差す。
その指の先には、日本甲冑を着込んだ三十代から四十代と思わしき白人男性が居り、少し狼狽えているようだった。
なぜなら、他のプレイヤーが全員その近くに半透明の動物やら人やらがいるのに対して、彼の傍だけはなにも出ていない。
一瞬、静寂がこの場を支配した。
「つい最近、うちんとこのギルドに入った奴やな?」
八重のぽつりとしたつぶやきに、鳳凰がハッとする。
「つ、捕まえろ!」
若干動揺が混じった指示に反射的に答えた者達が一気に白人男性に殺到するが、ほぼ同時に彼の姿が掻き消えた。
「強制転送? いや、普通の転送か? くっ! 折角のチャンスを……あの子の言葉を信じ切れなかったせいか……」
逃がしてしまったことを悔やむ鳳凰に、八重は首を振る。
「しかたあらへんわ。まさか、武霊達があの子の言葉に応えるだなんて、誰が想像でける? 他の場所で期待しましょ」
武装化中の武霊がVRAを使ってその姿をプレイヤーの前に現す。
そんな出来事は、様々な場所で起きていた。
狭間の森各所に設置されている転送球。
その一つの前で、鉢巻とハッピ姿というお揃いの格好をした取り巻きと一緒に絶え間なく転送されてくる土蜘蛛やノーフェイス達と激闘を繰り広げている白人少女プレイヤーがいた。
フリフリドレスを着たアイドル風の格好に、ツインテールで若干リスぽい容姿をしており、クリクリした目が特徴的な女の子。
そんな彼女の前には、片眼鏡を右目に付けたシルクハットと燕尾服を着た縦ロール美女が半透明で出現しており、次々とその手に持つステッキでプレイヤーに偽装していた工作員を指し示す。
「ちょっと、多すぎデスヨ~」
主は主で若干涙目になりながら、武装化武器である手荷物マイクスタンドのようなステッキを使って取り巻きに紛れ込んでいた工作員を捕まえようとするが、戦闘中だった自動兵器たちに邪魔をされ、次々と転移されてしまう。
「逃げるなデスヨー! 卑怯モノー!」
「うっはっはっ!」
「そこです! やっちゃえ~お爺ちゃん!」
「ぬっはっはっ!」
スキンヘッドの大柄なムキムキ老人が、厨房のような場所でコック姿の工作員にコブラツイストを決めていた。
何故か半裸なマッチョな老人の後ろには、九本の金色フワフワな尾と狐な耳を頭部に付けた半透明な女の子がピョンピョン飛び跳ねている。
工作員は必死にタップしているが、老人は手を緩める気は一切ないらしい。
「よってたかって小さい子を貶めるなんざ、大人のやることではないわ。反省せい反省。ぬっはっはっは!」
高笑いを上げているが、若干青筋を額に浮かべているため、かなり怒っていることを窺わせる。
だが、一時の感情に身を任せて痛めつけることに重視していたため、唐突に工作員の身体が掻き消え逃げられてしまう結果となった。
地下ダンジョンの片隅にて、柄が巨大な半月輪となっている片刃大剣を持ったプレイヤーが、ローブ姿の工作員と対峙していた。
いや、正確にはその手に持つ大剣の剣先を、工作員の右肩に貫通するほど深く突き刺し、壁に張り付けにさせているのだ。
まるで刃のような鋭い目つきをした少年から成年へ足をかけ始めている彼は、他のプレイヤーと違い普段着のままなのか上下とも緑のジャージ姿。
一見すると普通の少年のように見えなくもないが、VR体だとはいえ、特に動揺なく剣を突き刺している以上は、ただの子供だと断定することはできないだろう。
そんな普通ではない彼は、僅かに柄を回し、工作員に苦痛の声を上げさせる。
「一つ聞きたい。あんたらの最終目的はなんだ? まさか本当に世界と戦争しようだなんて思ってないだろうな?」
その目付きの鋭いプレイヤーの問いに、工作員は応えぬ代わりに転送されて消えてしまう。
眉を顰める彼は、少ししてため息を吐く。
「転送システムが向こうに握られている状況は圧倒的な不利に繋がるな……今回ので多少は状況を改善できても、こっちが優位性を得たわけじゃないか」
そうつぶやいた後、振り返る。そこには両刃の刀身を組み合わせたかのような鋭い人型ロボットが半透明の姿で立っていた。
「せめて、転送システムだけでも取り戻すか停止させられないのか?」
主の問いに、ロボットは首を横に振る。
「我々はQCティターニアの子ではありませんので」
「直接繋がっているわけではないのか。だからこそクラッキングの影響を受けていない……だとすると、どうにかしてアクセスする方法を見付けないといけないんだろうが……」
暫く考えた彼だったが、特に名案が浮かんだわけではないのか、深くため息を吐いてその場を後にした。
狭間の森には強制転送されたプレイヤーが幾つかの場所に分かれて身を寄せ合っていた。
武霊使いだからといって、全員が全員戦えるわけではない。だからこそそうして守り合わないと、精霊力切れとなってVR体を自動兵器に破壊されるという最悪な事態になりかねないからだ。
そして、これは早々に秩序とルールを作り出し、簡易的な社会構造を用意した者がいたおかげなのだが、当然そんな重要な人物の下にも工作員は潜んでいた。
「まさか君だったとはな……」
仙人のような細長い顎鬚と長い眉毛を生やした白髪の老人が、乗り掛かるように若い女性を拘束していた。
彼女は老人の秘書のようなことをしてくれていた者であり、かなり有能な人材だった。それだけに酷く残念な面持ちになっている御老公だったのだが、木々の影、誰もいない暗がりの中でそんなことをしていれば……
「……あなた。なにをしてらっしゃるのかしら?」
背後からおっとりとした老女から声を掛けられ、ビクッとする老人。
「お、お前!? いつからそこに」
「まあまあ、なにをそんなに慌ててらっしゃるのかしら?」
穏やかな口調で喋っている老女だが、擬音でも付きそうなくらい怒気を含んでいるのを老人は感じ、冷や汗を流していると、拘束していた若い女に失笑された上に、瞬間移動で逃げられてしまう。
が、そんなことはもはやどうでもよくなっている老人は、慌ててその場から立ち上がり、老女に向けてものの見事な土下座をした。
「あらあら? なんの土下座かしら?」
「いや、その、まあ、お、怒っているんだろ?」
「事情を察せないほど馬鹿ではありませんよ?」
「そ、そうか……」
ほっとした老人が立ち上がろうとした時、ガツンっと近くの根になにかが突き刺さった。
薙刀の刃であることに気付いた老人はサーッと顔を青くする。
「ですが、捕まえるどさくさに紛れてよからぬことも考えていたことを、わたくしが見逃さないとお思いですか?」
「ま、待て」
「ええ、長い付き合いですもの。重々承知しておりますわよ。あなたの手癖の悪さを」
「待ってくれ~!」
「そこに直りなさいあなた!」
白髪の老人とその奥さんの老女の追走劇が始まったが、周りが止めることはなかった。何故なら、この二人のこういう行動は日常茶飯事だからだ。
様々なプレイヤーが自らの武霊に偽物・工作員がいることを教えられ、ある者は捕まえようと、ある者は逃れようと、ある者は懇願しようと、多種多様な反応を見せた。
しかし、それら全ての行動は、結果として工作員全員をどこかへ転送させて逃がす結果になるだけだった。
だが、プレイヤーの多くは気付く。
これで、自分達の中に明確な敵はいなくなり、味方、とまではいかなくても、互いが敵ではないとはっきりと認識できるようになったと。
そして、思う。それをたった一人、いや、二人で成し遂げた尊とカナタを助けなければと。
当然、真っ先に乞われた武霊達が、そのプレイヤーのその思いに応えないはずもない。
だが、それだけで状況が好転するほど、現実は甘くなかった。
「今、工作員全員の退避が確認されましたわ」
その白ゴス工作員少女の言葉に、我流羅は呆れた表情になって、対峙している尊を一切警戒せずに彼女を見た。
「はっ! 素人に良いようにやられやがってぇ、それでもプロかよぉ」
「分野が違いますの。私達は戦争屋。ここは勝手が違いますわ」
「誰に対しての言い訳だよぉ」
「言い訳じゃありませんわ。その必要はございませんもの」
余裕のある発言に、我流羅のみならず、尊が同時に眉を顰めた。
「はっ! つまりぃ、予定の範囲内ってことかよぉ」
「というより、誤差の範囲内というべきですの。だからこそ、この程度、大勢に影響はありませんわ。ただ……」
工作員少女は足音を立てながら我流羅の背後に移動し、その背中越しから尊を見る。
「あなただけは、このままにしておくべきではありませんわね」
彼女のその言葉と共に、VRA画面が展開される。
現れたのはギルバートだった。
いつもの強制放送ではなく、たった一つだけ少女前に展開されたそれの中で、ギルバートは尊を一瞥して少しだけ笑った後、我流羅へと顔を向ける。
「取引をしやせんか?」
開口一番出たその言葉に、我流羅は片眉を上げる。
「取引だぁ?」
「あっしらはこう見ても忙しいんでございやすよ。だから、たった一人の不確定要素をどうこうする人員を割く余裕なんてございやせん」
「あ? そりゃなにかぁ? この目の前の餓鬼を俺に処分させよってのかよぉ? そりゃぁ無理な相談だなぁ? 戦ってみてわかったがぁ、全力で防御に回られちゃ俺らじゃ、こいつを殺せやしねぇ。なにより、今や俺らはプレイヤー全体からの敵認定だぁ」
チラッとVRA画面の中でプレイヤーに取り囲まれ、両手を上げているタヒ太郎を見る。
でぃーきゅーえぬの暴挙と暴走は、十分に向こうに伝わっているのだろう。工作員の次に危険性があるプレイヤーを隔離しようとするのは自然な動きだ。例え尊の一件がなくても、遅かれ早かれ同じことになっていただろう。
「まあぁ、だからこそてめぇらの提案に乗ったんだがなぁ? へっ、まさか一気に状況を変えられるとは思わなかったなぁ」
ヘラヘラと笑いながら尊を見る我流羅。しかしその目は表情に反して笑っていない。
「つうかぁ、そいつにやりゃせりゃいいじゃねぇかぁ」
クイッと顎で工作少女を指し示す。
「最初の思惑とは違ってもぉ、それはそれで効果的だろうがよぉ」
彼女は特に反応しないが、代わりにギルバートは肩を竦める。
「彼女には彼女の役割がごぜぇやす。まあ、プレイヤーとの明確な取引が成立したという事実が、とても重要ってございやすね」
「へっ。そこまで言うってことたぁ」
「ええ、あっしらの望み通りにして下さると確約するんでごぜぇやしたら、でぃーきゅーえぬのメンバーのみ強制転送システムを通常に戻して差し上げましょう。そして、これは間に合わなかった次のプレゼントでごぜえやす。あっしらが保有する武器兵器の提供。そして――」
不意に生じる軽い振動。
それは上から生じたものであったため、容易に地上でなにかが起きたと想像でき、ギルバートがそれを補完する。
「今ので地下への侵入経路は全て潰しやした。これで、他のプレイヤーの皆さん方がこの場に来ることは暫くはございやせん。ごゆるりとマンハントを楽しみやがりやせい」




