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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
1.仮想世界で踊る黒刀の武霊使い編
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Scene48『心からのあなた達に願う』

 「なんでフェンリルの連中は直接動かんのやろうね?」

 などと八重が口にした時、会議室を取り囲むシールドに小さな穴が開き始めていた。

 ギルド長達が急いだというのもあるが、僅かに外と繋がったことにより使えるようになった通信魔法によってプレイヤー達が救援に集まったことも大きい。

 外であれば遠慮なく魔法が使えるので、いくら破壊され難い仕組みを使っていようと壊すスピードは段違いに上がったのだ。

 だからこそ、ギルド長達は脱出が可能な状況を今や今やと待っていたのだが、一人だけのんびりと疑問を口にする。

 状況にそぐわない言葉に、隣の鳳凰が顔を向け、

 「八重」

 その表情は金属に隠されてわからないが、声からしてあまりいい感情は抱いていないようだ。

 「わとる。やけど、焦っても仕方あらへんよ?」

 「それはそうだが……」

 苦笑する八重に鳳凰は少し間を開けため息を吐いた。

 「確かにギルバートが直接現れて以降の動きはないな」

 「やろうと思えば、いくらでも介入が可能やろ? 例え、この状況と事実が欲しいとは言うても、なんもあらへんのはかえって不気味やわ」

 「だが、我々が今できること限られているぞ?」

 「そやな……ん? そろそろみたいやな」

 八重が顔をVRA画面からボロボロになっている光の壁へと向ける。

 彼女の言葉通り、ギルド長達を閉じ込めていたシールド達が次々と消滅、あるいは落下し始め、ほどなく檻としての機能が失われるだろう。

 そして、そんな状態になると、なにがシールドを展開していたのかがよく見える。

 「アーミービーか……」

 周囲を飛び交っているこぶし大な機械の蜂を目撃した鳳凰がその名を口にした。

 蜂型空戦BMRアーミービーは、司令塔である女王蜂を中心に集団戦闘を前提に作られた自動兵器であるため、シールドの檻を作るのに最適なものだったのだろう。

 一匹一匹が足に懐中時計のような機械を持ち、中央に嵌められた白い球体が発している輝きが失われると共にどこかへと飛び去って行く。

 外にいるプレイヤー達の何人かが撃ち落とそうと試みたりしているが、蜂の速さで回避行動を取るアーミービーにうまく攻撃を当てられる者達はいない。

 「にしても、こんだけのシールド。いつの間に集めたんやろうな? 万は下らんとちゃう?」

 「初日に強制転送させられたプレイヤーの物や、無人となったギルド拠点から回収したのだろう。この分だと、他の自動兵器も紋章魔法を使ってくる可能性もあるな」

 「あんまり現代兵器と魔法の組み合わせは好ましくないんやが……」

 そんな懸念を口にしている時、唐突に周囲のシールドが消滅した。

 光の檻の維持がもはや困難と判断したのか、四方八方に一斉に散っていくアーミービー達。

 その中に人と同じぐらいの巨大な蜂がいたりするが、逃げていく奴らを構っている暇はない。

 妖精広場のライブ映像が、尊と我流羅の開戦を映し出したからだ。

 「急ぐぞ!」

 ギルド長達は互いに顔を見合し、頷き合って臨時会議室がある階から一気に外へと飛び出した。

 やるべきことはシールドを壊しながら既に決めていたのだ。

 瞬く間に高所から地面に着地し、炎や雷などそれぞれの属性を足元から吹き出すギルド長達。

 そんな彼らの周りにそれぞれのギルドに所属する老若男女が駆け寄り、言葉少なく尊救出へと向かおうとした。

 が、全員の動きが一斉に止まる。

 「なんだ?」

 「え? 尊ちゃんの声?」

 「どういうことだ?」

 唐突に同時に起きた現象に、ざわざわと疑問の声が広がる。

 「今度はなにを始めたんやろうね?」

 八重の疑問に答えず、鳳凰は黙って何故か聞こえてくる尊の声に耳を傾けた。




 我流羅が現れる前に尊がカナタにしたお願いはこうだった。

 (武霊さん達の小型QCとQCティターニアって量子通信で繋がっているって言ったよね?)

 (肯定します)

 (その通信ってさ、もしかして他の武霊さん達ともできない?)

 (可能です。同じシステムが搭載されていますので。強調します。ただし、呼び掛けに応えてくれるのであればですが)

 (応えてくれない場合もあるの?)

 (肯定します。武霊は基本的に主のために動きます。そのため、主に関わることでなければ興味も示さず、意識もしないでしょう)

 (ということは、聞こえてはいるんだね?)

 (肯定します)

 (じゃあさ、僕の思念会話を送ることはできる?)

 (可能です)

 (うん。じゃあ直ぐにやってくれる?)

 (了解しました。ですが、確認します。どういう意図が伴っているのでしょう?)

 (えっと、前提を崩すため?)

 (理解しました)

 (え? 今ので?)

 (肯定します。言葉と共にイメージも受け取りましたので)

 (そ、そうなんだ……)

 (区切りをつけます。では、マスターのお望み通りに)

 こうして、尊の武霊達に向けての思念会話は量子通信を通して全武霊に、そして、尊の意図しない形で全プレイヤーに届けられることになった。




 これは思考通信によって話している僕、黒姫尊の言葉です。

 思考通信なので、思ったことが混ざってしまい、聞き辛いでしょうがその点はご容赦ください。

 またギルバート、もしくは、目の前にいる我流羅に知られないように、そして、全員に届くように皆さんの本体である小型QCの量子通信機能を応用して行っています。

 この通信を受け取った方は、どうか僕の言葉を聞き流さずに、耳を傾けてください。

 きっとそうすることで、うわっ! いきなり高速魔法!? 範囲攻撃も含まれてる! シールド! 皆さんの主の有益に繋がりますから。

 そして、出来れば僕の言葉を聞いて、応えてくれると嬉しいぃいい!? な、なんとか防げたぁあ!

 な、ナビである皆さんならわかるとは思いますが、こういうことができるのは、QC・QNのナビゲートに優れた武霊だからこそできることです。うわ! ループしてきた!? こ、これで僕がなり方は異なっても正式な武霊プレイヤーであることは完全に証明できたと思います。

 でも、こうして僕が言葉を重ねても、皆さんの主さん達の全てが僕のことをフェンリルの工作員じゃないと信じることはないでしょう。

 くっ! 今度は氷の針山!? 

 それは僕が人間だから。人は嘘を吐く、吐けると知っているから、どうしても疑う心が拭えない。こんな状況なら尚更ですね。どうしたってわかり易くて、簡単なものを選んでしまうでしょう。僕が同じ立場なら、きっと同じように疑っていたと思いますし。

 でも、皆さんなら、一ヵ月一緒にいて、そして、一週間こんな非日常な事態と共にいた武霊の言葉なら信じてくれるとぉおおおお! ガトリングガンの再現までできるのぉ!? 部屋に逃げ込むよ! キーアンロック! 思います。

 武霊の皆さん。自分を、主を守りたくはありませんか?

 一緒に居続けたくないんですか?

 僕は皆さんのことは知りません。でも、僕の武霊カナタのことはたった一週間でも多少なりとも知りえ、理解できたと自負できます。彼女はナビとして僕を守りたい、僕を優先にしたいと何度も言ってくれました。

 とてもうれしかったです。たった一人でダンジョンの中に逃げざる得なくて、どうにかしなくちゃいけなくって、とても心細かったはずなのに、彼女のおかげで僕は僕を失わずにいられました。

 でも、本当に誰かを守るのなら、その人だけを守るだけでは駄目なんです。その人の周りを、その人がいる場所を、その人が大事にしているものをより多く保ち、より少なく失ってはいけないんです。

 何故なら、その人は周りを含めてその人なのですから……こんなことを言っている僕ですが、僕にはその手段も術もなにかのアイデアがあるわけではありません。

 でも、ナビである武霊の皆さんであれば、最大魔法!? 全身を覆うように展開して! シールド! きっと自らの中に答えを導き出せるはずです。きっと、自分達の力で、意思であなた方の主を守れるはずなんです。

 だから、お願いします。

 心からのあなた達に願います。

 どうか僕達を、あなた達の主を、助けてください。




 「武霊にお願いした?」

 尊の思考通信が終わると共に、プレイヤー達のほとんどが不思議そうなあるいは意味が分からないといった顔になった。

 多くのプレイヤーにとって、武霊はゲーム用に調整されたナビであり、それが常識となりつつある。

 だからこそ、彼ら彼女達は、自分以外のプレイヤーの命令や指示を聞かず、関心を抱かず、ただ寄り従う存在として認識している。

 つまり、自主性がないのだ。プレイヤーからなにかあり、もしくはするように言われて初めて行動に移す。

 そんな武霊だからこそ、他の武霊の姿を武装化以外目撃したことがないプレイヤーは多く、声すら聞いたことがない。

 加えればVR体保護設定などが存在しないティターニアワールド内にて、武装化していない状態というのは危険極まりないのだ。

 自分達が安心できるギルドホームなど以外で、カナタのように本来の姿を現して主の隣にいるなどということをプレイヤーは勿論、武霊自身も望まなかった。

 故に他の武霊と接触する機会も少なく、一ヵ月程度とはいえVRMMO武装精霊に慣れたプレイヤー達は比べていた。普段接している感情豊かな、存在の仕方が違うだけで人間と変わらない公共ナビと。

 結果としてその違いは、よりゲーム仕様だからという解釈に深め、尊のお願いを理解不能なものとしているのだった。

 「そないいえば尊ちゃんは、武霊がゲーム用に仕様変更されとるって知らんかったね」

 「だからか……」

 尊がなにかを仕掛ければ、なにかが起きるのではないか? と期待してしまっていただけに、その誤解は鳳凰や八重のみならず彼の活躍を見ていた者達を酷く残念な気持ちにさせていた。

 尊の願いは、叶えられることなく終わる。

 今までの武霊を知っている者達は言葉に出さなくても同じことを考えていた。

 それが武霊プレイヤーの常識。

 ただし、常識とはうつろうものだ。

 「ん? いや、だとしたら、何故今の思念通信が私達に届いた? これは武霊に対して向けられたものだろ?」

 「やのに全員が聞いとったみたいやな」

 鳳凰と八重が周りを見回すと、戸惑いながら全員が頷き返す。

 主が以外の命令や指示を聞かず、関心も抱かないはずの武霊が、尊から頼まれてもいないのに自主的に自分達に向けられた思念通信を聞かせた。

 その事実に気付いた時、今までの常識が音を立てて崩れ去り、雪崩のように変化し現れる。

 「と、とにかく、今は尊の下へ急ごう!」

 「そやね」

 動揺しながら、今真っ先にしなくてはいけないことを思い出した鳳凰と八重が駈け出そうとした時、

 「お待ちいただけないでしょうか我が主」「お待ちくだされ我が君」

 それぞれの武霊の言葉で。

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