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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
1.仮想世界で踊る黒刀の武霊使い編
35/107

Scene34『偽りは撒かれる』

 「いや~なかなか思い通りにいかないものでございやすね」

 自分と同じ大きさのハイ・ドラゴンフライから切り離されたギルバートは、音も立てずに臨時会議室の中に着地した。

 そのことに八重が僅かに反応し、握っている仕込み杖を一瞬だけ強く握る。

 プレイヤー達の注目が敵に注がれていたため、その緊張に気付くものは味方側には誰一人としていない。

 「デスゲーム化もあっさり嘘だと見抜かれて、ある意味、感服でございやすよ。皆様方素晴らしい。拍手でございやす」

 パチパチと胸の前で拍手するギルバートにプレイヤー達はどう反応すればいいか戸惑ってしまう。

 周りには爆薬物が仕掛けられている上に、フェンリルの工作員だけでなく、協力者までいる状況下で下手に動けばどうなるか、あるいは動くべきなのか、状況が混迷し過ぎて、ただのゲームプレイヤー達の身動きを取れなくさせてしまっているのだ。

 だからこそ、ただのプレイヤー達ではない者達がまず先に動き出す。

 「褒めて貰うのは光栄だが、それだけでは満足はできないな」

 鳳凰がギルバートの前に出て、八重が無言でその隣に並ぶ。

 「ほほう? 欲張りでございやすね? ようござんしょ。素晴らしい皆様に良いことを教えてあげましょう」

 「ギル!?」

 驚きの声を上げる工作員を手で制したギルバートは親指を立てて自分の胸を刺す。

 「あっしを殺せばゲームクリアでございやすよ」

 それは可能性の一つとして奪還作戦の根拠として考えられていたことだった。

 ゲームシステムを利用してQCティターニアに接触し、VR体を通してクラッキングのための経路を作り出している。

 ただ、誰がその経路であるかまでは予測できず、あからさまに表に出ている人物がそうである可能性は限りなく低く、また、一人である可能性もないだろう。

 と、考えていたのだが……

 「おやおや? 嘘だと思っていらっしゃる方が多いようでございやすね? それはショックでございやすよ」

 角突き赤フルフェイスの下ではきっとニヤニヤとしているであろうギルバートは、大げさに首を横に振り、右手を額に当てる。

 明らかな隙と、直前のゲームクリア発言。

 この二つが、状況の打開をなによりも望んでいるからこそ集まっているギルド長達にどんな影響を及ぼすか、それに気付いた時は全てが遅かった。

 「阿呆!」

 八重の叱責に、我流羅と白ゴスを見張っていたプレイヤー達がハッとする。

 全員の注意がギルバートに向けられていたからだ。

 それは僅かな間だったが、その一瞬で状況は一変する。

 我流羅は短槍を尊に向けて振るい。白ゴスの姿が消えていた。

 最初から我流羅への警戒を怠らず、ギルバートに対して背を向けていた尊は、自身に突き刺さらんとしている槍を黒い刃であっさりそらす。

 まさかそんなことをされるとは思ってもみなかったのか、我流羅は驚愕の表情を浮かべる。

 「あぁっ!? んだく――」

 「十分ですの」

 我流羅が悪態を吐き切るより早く、白ゴスが尊の脳天めがけて降ってくる。

 ギルバートに注意が集まった瞬間、天井へと飛び、蹴って加速していたのだ。

 流石の尊とカナタも、そんな現れ方をするとは思っていなかったため、直前に槍をそらしたことも重なって反応できない。

 いつの間にか白ゴスの両手に握られていたナックルガードが付いた大型片刃ナイフが襲い掛かる。

 しかし、それがカナタの精霊領域に防がれることはなかった。

 八重が振り返りざまに居合斬りを放ったからだ。

 しかし、

 「残念ですの」

 自動兵器相手なら一刀両断する一撃は二本のナイフに防がれ、かつ、鋭い凹凸が付けられた峰によって仕込み杖であるがゆえに細い八重の武装化武器を絡め捕られ、納刀を防がれてしまう。

 が、八重は即座に上半身を回転させ、鞘を白ゴスに向けて放つ。

 両腕で居合を防いだ上に空中にいる白ゴスがそれを防げるはずもなく、胸に打撃を受けて元いた場所まで吹き飛ばされる。

 だが、白ゴスはただではやられず、スカートの中から安全ピンの抜けた手榴弾が十以上ばら撒かれた。

 「ちっ! 防ぎよし!」

 八重の警告に尊が反射的に後ろに飛ぶと同時にテーブルに落ちた手榴弾は炸裂する。

 強烈な爆炎が会議室を満たし、全員の姿が僅かな間見えなくなってしまう。

 そして、爆炎が晴れたその時、

 「助けに来やしたよ」

 ギルバートが妙な言葉を口にした。

 その腕の中に尊を抱えながら。




 (にゃ? にゃにそれ?)

 ギルバートの発言に最も驚いたのは、お姫様抱っこされている尊だった。

 尊はこれまでの戦い方から、攻撃をなるべく少ない精霊力で防ぐ&回避する癖が付いていたため、他のプレイヤー達が精霊領域でその場で防いだのに対して、爆心地からなるべく離れ、かつ、爆風の影響をなるべく小さくするために後ろに飛んでいた。

 位置からすれば、ギルバートの横を抜け、壁に空いた大穴から外に吹き飛ばされるはずであり、そういう調整も尊の思考を受け取ったカナタは行っていたのだが、気が付けば抱き抱えられていたのだ。

 (どうやって?)

 その疑問に、カナタがVRA画面でその瞬間の俯瞰映像を映し出す。

 尊の身体なの紙のように吹き飛ぶほどの爆発の中、通り過ぎる尊を右手で掴み、その場で回転しながら掛かる負荷をいなしてお姫様抱っこに移行している様子。それに加え、左足の踵下にひび割れが生じている瞬間と、ギルバートが立つ位置が鳳凰の精霊領域によって爆風の影響が少なくなっていること、更に尊自身に展開される精霊領域も上手く利用されている可能性を爆風の流れを矢印で説明して示唆していた。

 その全てが刹那の出来事であり、例え申し合わせていたとしても成功させることなどどれだけの困難なことか。

 サムライスーツが爆炎で黒く焦げていることから、精霊領域のような補助があるわけでもないことを理解させるため、尊はギルバートの腕の中で戦慄する。

 (サムライスーツは動作補正プログラムが組み込まれているだろうけど、それだけではできないよね?)

 (肯定します。動作補正はあくまで事前に用意された動作へ着用者の動きを補正するものです)

 軍用兵装であり、かつ、現在は主流として使われていない代物であるため、尊には詳細はわからないが、それだけで下手に動けばどうなるか。

 最悪な創造しか浮かばない尊は、精霊力が全快近い状況でも動くに動けなくなっていた。

 だからこそ、流れが加速し始める。

 悪い方向へと。




 尊が自分の身に起きたことを理解している間、ギルバードが発した言葉の意味を探るために沈黙が支配していた。

 空調を整える紋章魔法が発動しているのか、まだ残る煙や炎などが急速に外へと排出される中、多くの視線が白ゴスのいた位置に向けられたが、彼女の姿はいつの間にか消えている。

 助けに来た。

 その意味が向けられているのが、状況的に明らかにフェンリルの仲間ではない尊に向けられていると気付くか気付かないかのタイミングで、それは始まる。

 無事な壁から爆発が次々と起こり、ハイ・ドラゴンフライに抱えられたノーフェイス達が飛び込んできたのだ。

 当然、彼らは間髪を入れずに兵器としての役割を果たさんがためにプレイヤー達を襲う。

 重火器のみならず、大型ナイフや刀なので武装した自動兵器達によって瞬く間に会議室は銃撃音剣撃音に満たさせた。

 勿論、ただの自動兵器ごときに後れを取るギルド長達ではないが、それでも屠るためには少しの時間がいる。

 その間に、唯一襲われていない我流羅が、協力しているはずのギルバートに叫びながら飛び掛かった。

 「はっ! 首魁がわざわざ救助に来るってこたぁ。そいつは随分と重要な人物らしいなぁ?」

 「ええ、ええ、その通りでございやすよ」

 突き刺さんとする穂先をバックステップで避けるギルバートは頷き。我流羅は尊を狙って突きを連続で放つ。

 「ってこたぁ、そいつがクラッキングの枝か?」

 「そいつは秘密でござんす」

 僅かな動きで後退しながら我流羅の猛攻を避けたギルバートは、入ってきた壁の大穴から外へと飛び出した。

 「逃がすかよぉお!」

 追うように駆ける我流羅に、鳳凰は獅子の大盾を向ける。

 自動兵器達は続々と会議室に侵入しており、鳳凰にも襲い掛かってくるが、八重がカバーに周り、真っ二つにされた黒いマネキンを作り出す。

 「ファイアブ――」

 なんらかの精霊魔法を鳳凰が唱えようとしたその瞬間、足元で小爆発が生じ射線軸がずらされてしまう。

 「はっ間抜けなてめぇらはここでこれから起こることを見てなぁ!」

 ずれを修正している間に、我流羅は捨て台詞を吐きながら壁の大穴から飛び出してしまった。

 「待ちよし!」

 追おうとする八重だったが、床の爆発を切っ掛けに仕掛けられていた爆薬が次々と爆発し始めたため、振動と爆風で駆けるどころか歩くことが困難になる。

 「くそ! なにをする気だ!」

 鳳凰の思わず叫んだであろう答えを求めていないであろう問いに、僅かだがそれに繋がるであろう返答があった。

 「妖精広場が再開されているわ!」

 「なんだと!?」

 絶え間なく爆音に晒される空間であっても、互いの武霊が声を拾いクリアリングしてくれるため、爆発に翻弄されながらキャーキャー言っている白衣美人の言葉は聞こえている。のだが、それでも思わず疑ってしまう内容だった。

 しかし、報告と共に鳳凰の前にVRA画面を二つ展開され、そのどちらも妖精広場であることを示す妖精を模した枠が映っていればその言葉を信じざるを得ない。

 それに加えて、映る内容が会議で尊が工作員であると疑われた瞬間とギルバートが尊を抱えた状況を繋げた動画と、空中で戦闘を開始している我流羅対ギルバートのライブ映像が表示されているのだ。

 「ならば、それが偽装だと書き込め!」

 「やろうとしたけど無理だわ。多分、この場にいるプレイヤーだけ禁じている」

 「だったら、紋章通信で――」

 鳳凰が異空間収納から白い紋章魔法を取り出し、耳に当てるが、反応がない。

 それと共になぜかそれまで起きていた連続小規模爆発が収まる。

 ほぼ同時に、ノーフェイス達も倒し終えていたので、唐突な静寂が場を支配した。

 もっとも、それは僅かなことで、直ぐに八重がギルバート達を追うために外へ出ようとしたが、その走りが途中で止まる。

 「……シールドが張られとるわね」

 八重のその言葉に鳳凰が外を見ると、あるはずの廃墟の光景がなく、代わりに光り輝く壁が出現していた。

 「どういうことだ!?」

 鳳凰の疑問の問い掛けに、白衣美人はちょっとだけ考え、頷く。

 「通信紋章はシールドの空間干渉を利用して作っているわ。だから、周りを空間湾曲で覆われてしまえば、使えなくなるみたいね」

 「だったら! 壊すだけだ!」

 急激な静寂から呆然と仕掛けたプレイヤー達だったが、鳳凰の叫びにハッとし、光の壁に向けてそれぞれの武装化武器を振るい始めた。

 今起きていることを正確に理解している者はこの場でどれほどいるか。

 ただ確実にこのまま事が動き続ければまずいことになる。

 それだけははっきりしているので、全員必死の表情で攻撃していた。

 しかし、プレイヤー達の思いとは裏腹に、シールドが何重にも展開されているのか、一枚砕いても光の壁が消えることがない。

 それは天井や床の向こう側も同じであり、完全にギルド長達が閉じ込められていることを認識させ、焦燥感だけを募らし、時間だけが過ぎて行く。

 当然、その間に尊の方に変化がないなどということはなく、より悪い状況へと変わって行っていた。

 ライブ映像に、無数のプレイヤー達に囲まれる尊の姿が映ったのだ。

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