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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
1.仮想世界で踊る黒刀の武霊使い編
30/107

Scene29『フェンリルの目的』

 少しの休憩の後、尊達はフェアリードレスを後にした。

 八重を先頭に都市の中を歩いていると、尊の前に現れるのは荒廃以外の真新しい破壊の後だった。

 半ばから折れ、道路を挟んで向かいに倒れ掛かっている廃ビル。

 地下一階どころか、二階まで到達してそうなほど深く巨大なクレーター。

 あちらこちらにある大小様々な銃痕や爆発痕に、大きな斬撃痕やらかぎ爪痕、現実的に想像できるものもあれば、ファンタジーを連想させるものまで、戦闘後の見本市のような光景が途切れることなく続いている。

 そんな場所を歩きながら、八重はなにが起きたか尊に語り出す。

 「尊ちゃんの予想通り、奪還作戦はVR耐性限界を切っ掛けに失敗に終わったわ。尊ちゃんが地下ダンジョンに入ってから数時間もたってないかしらね?」

 エセ関西弁を止めて普通に喋っている八重に尊はちょっとだけ微妙な顔をしつつ、

 「作戦規模はどれくらいだったんですか?」

 「ほぼこの世界にいる全員ね」

 「十万人全員ですか!? きゅ、QNも妖精広場も使えない状態でよくそんなに集められましたね」

 「地下三階の未踏域を巡って争いが起きたかもって言ったでしょ? そこに行ける新たなルートを発見したギルドが、自分達でイベント化しちゃってね。そういうのが全くないゲームだから飢えていたプレイヤーやら、面白がって観戦しようとしたプレイヤーやら集まっていたのよ」

 「元々ギルバートの宣言があった時に結構な人数が集まっていたわけですね」

 「そういうこと、混乱を予想した盾の乙女団もフルメンバーで参加していたから、あっという間に臨時ギルド同盟が築かれ、狭間の森にいるプレイヤー達の救出を並行して行いながら、奪還作戦の準備が急ピッチで行われていたのよ

 「でも、それだけの人数だとなんらかの通信手段が必要なんじゃないですか?」

 「そこは生産系のプレイヤー達が頑張って通信用の紋章魔法を作ってくれたわ。まあ、時間が足りなかったから連絡班を作らなくちゃいけなかったし、それでも情報伝達が遅れるところが出て被害が増えてしまったのだけれどね」

 「被害総数は何人ですか?」

 「正確なところは現在調査中らしいけど、大体半分ぐらいじゃないかしらね?」

 「は、半分?」

 「奪還作戦の舞台はフェンリル達がいるティターニア城に唯一繋がるティターニア塔だったのだけど、ここからだと見えるかしら?」

 「ええ」

 頷いて倒壊しているビルの上を見ると、そこには天井の照明の中に消えるほど長い線があった。

 少し注視していると、カナタが気を利かせてか拡大VRA画面を展開し、線を塔に見えるまで大きくする。

 白い円柱の建築物なのだが、ところどころになにかが爆発したかのような穴が開いており、場所によっては今なお立っているのが不思議なほど破壊されている場所もあった。

 「あの塔の中を戦闘に特化したプレイヤーが侵攻し、その周りの広場で援護する。そんな形をとっていたわ。本当ならもうちょっと集団的強みを生かした戦闘をするべきだったのでしょうけど、急ごしらえの軍団では無理って判断したのよ」

 「数が多ければ単純なことでも強力になるでしょうしね」

 「ええ、実際、最前線に行っていた私らはティターニア城に到達していたわ。フェンリルの自動兵器が弱すぎたってのもあるのでしょうけど」

 「ナビさん達が操ってないでしょうからね。でも、それも時間の問題でしょう」

 「確かに最近ちょっとずつ強くなっているわね……とにかく、後々に考えてみれば、それも含めて罠だったのでしょうね」

 ため息を吐く八重に、尊は頷く。

 「VR耐性をログアウト不能などの宣言や自動兵器の投入などで調整し、奪還作戦をなるべく早くさせようとしていたってことですね。相手にする敵が弱ければ、勝てると思って多くの人が集まるでしょうし」

 「しかも、順調に作戦が進んで戦力が前線に集中し過ぎた上に、戦線が間延びしてしまったのも痛かったわね。おかげで、ストレートにまとまっているところいっぺんにドカーンとやられ、混乱して散り散りになって、駄目押しのように自動兵器に襲われちゃったから。私達が分散していたらもっと被害を抑えられたかもと思わなくもないわね」

 「それは結果論にしか過ぎないと思います。多分、フェンリル側だってそんなに見事にはまってくるとは思わなかったんじゃないんでしょうか? 精々、奪還作戦のために集まるタイミングで耐性限界が続出して、混乱しているところを間引き、分断する程度に考えていたんじゃないかと」

 「間引くね……フェンリルとしてもまともに全プレイヤーと戦うほどの余裕はないってこと?」

 「いえ、やろうと思えば全員と戦えると思いますよ。大量破壊兵器を多用すればいいわけですしね」

 「身も蓋もないけど、確かにそうね。実際、爆撃でかなりの人数が削られているし」

 「ところどころ見掛けるクレーターってやっぱりそうなんですか?」

 「そうよ。塔の周りなんて、もっと凄いわよ。元の面影なんて残ってないぐらいにぼこぼこだから」

 「VR耐性の低く、高くても遠距離攻撃に対応できないプレイヤーは必要ないと考えたのかもしれませんね」

 「ん~尊ちゃんはフェンリルの目的をなんだと思っているの?」

 「僕は……高城さん達はどう思っているんですか?」

 「私達? そうね……正直、皆目見当もつかないわね。QC一基をクラッキングできたとして、それでなにになるというのかもよくわからない。特にQCティターニアは国家が使っているかのようなものじゃないから、大事なデータが保存されているわけでも、社会に大きな影響を与えるわけでもないでしょ? でも、ただの愉快犯という割にはことが大き過ぎるのよね。天野式QCは第三次でも第四次でも世界大戦で一度も人側からクラッキングを寄せ付けなかったらしいじゃない? ホワイトハッカー達によるテストでも同じ。それができるということは、少なくとも天野式QC並みの大規模な設備が必要になるでしょうし、そうなれば個人ではありえない。じゃあ、国が関わっているのか? って感じになるけど、それもありえない。今の世界各国は天野式QCに依存しているし、互いが天野式QCを持っているからこそ、世界のバランスが取れているともいえる。それをわざわざ崩す必要性はない。あったとしても、こんな形で札を切るなんていうのもおかしな話。デモンストレーションだったとしても、そんなことができるとわかってしまえば、徹底的に解析されて次がなくなってしまう。となれば金銭を目的にって考えられなくもないけど、今の通貨が各国QC相互管理によるデジタルマネーが主である以上、クラッキングで金銭を得ても直ぐに無効化されてしまう。あれこれ考えても、結局納得しきれるものはないのよね」

 八重がやけに饒舌にあれこれと推測を口にしたことに尊は目をしばたかせてしまう。

 若干間を開け、ふとある可能性を思い付く。

 「その考えって、高城さんが考えたんですか?」

 「ううん。全部受け売り。私がそんな面倒くさいこと考えるわけないじゃない」

 「じゃないって……結構な量でしたけど?」

 「記憶力はいいのよ」

 「それをなんで学校でも生かさなかったんですか?」

 「それは勿論、つまんなかったからよ」

 「面白いか必要じゃないと覚える気にもならないってことですか?」

 「そういうこと」

 あまりにも自分と違う年上女性に、尊としては絶句するしかない。

 他人とあまり触れ合う機会がないボッチな恥ずかしがり屋だったから、自分と大きく違う者と出会うことには慣れていないのだろう。

 そんな尊に八重は苦笑しつつ、

 「それで、どう考えているの?」

 「えっ? あ……え~っと、僕としても確証があるわけじゃないですけど、目的は多分推測できていると思います」

 「そうなの? どんな?」

 「思うに、できることから考えるべきなんですよ」

 「できること?」

 「はい。QCをVRMMOに調整されているとはいえ一基半ばまで支配できたということは、他のQCにもできるということです」

 「それはそうね」

 「そして、普通に考えてそれを行っているのは普通のQCのはずです」

 「でしょうね。天野式QCは人格ナビがいるからこそなんでしょ?」

 「ええ、彼彼女らが自分達の兄弟を攻撃するなんてするはずもないですからね。実際、第四次世界大戦時に他国のQCへの攻撃を命じた国があったらしいですけど、人格ナビが拒否したって話もありますし」

 「よく知ってるわね~」

 「当時随分話題になったニュースだったみたいですからね。少し調べれば出てきますよ」

 「興味ないわ~」

 「……飽きてます?」

 「ちょっと~」

 「……とにかく、天野式QCは他のQCに比べて演算能力が段違いに違います。そのため、いくら新技術というのがあってもクラッキングを完了する前に時間がかかってしまうのでしょう。だとすれば、その演算能力の差が埋まればどうなります?」

 「それは……一瞬でクラッキングが終わる?」

 「そういうことです」

 「それって…………」

 あんまり考えずに言葉を口にしていた八重だったが、ここで初めて少し考え、眉を顰める。

 「一基乗っ取るだけで世界征服ができない?」

 「できるでしょうね」

 あっさり同意する尊に、八重の顔が少し引きつる。

 「こ、荒唐無稽過ぎるわね……流石のお姉さんもその予想にはびっくりだわ」

 「あくまでできるってだけの話です。でも、そう考えると、自動兵器を主に送ってきてプレイヤーと戦わせていることに納得が生じます」

 「ナビを使わないノウハウを構築・蓄積するため?」

 「ええ。実際、一週間前に比べて自動兵器は格段に強くなってますよね?」

 「そうね」

 「世界中のQCを乗っ取ってQNを支配下に置いても、世界を掌握できるわけではありません。精々、世界を混乱させるだけでしょうし、物理的にQCを奪還されてしまう可能性だってあるでしょう。軍の自動兵器化が進んだといってもまだ人戦力は残っているはずですし、なによりスタンドアローン機がないなんてことはないでしょう」

 「だからこそ、物理的にも支配できるように世界各国のナビ制御の自動兵器も乗っ取り、戦力として使うってこと?」

 「ええ」

 「でも、本当に世界征服なんてできるの? そもそも、なんのメリットがあるっていうの?」

 「あくまで可能性が高いできるかも、ですし、メリットは少なくとも普通の感覚ではないと思います」

 「そういえば、フィクションで登場する世界征服を本気で考えている奴って、基本的に狂人よね」

 「そういう人である可能性は捨てきれないですが、そう考えるとちょっとPMScsと名乗ったのが気になるんですよね」

 「戦場に身を置いた傭兵が狂気的な思想に染まって狂人になる。というのはフィクションの中ではよくあることのような気がするけど? 実際、狂人とまでいかなくても戦地から帰還した人の中にはPTSDになってしまう人や、自殺してしまう人だっているわけでしょ?」

 「ええ、そういう人が現代の社会に対してなにかを思い、本気で世界征服を望むというのはありなくもないような気がしないでもないですね。実際にそれができる力を手に入れたら、よりその狂気は加速されるでしょうし」

 「なら、どこが気になるの?」

 「現在のPMScsの置かれている状況です」

 「どういうこと?」

 「第三次世界大戦から軍の自動兵器化が進み、多くの軍人が退役させられました。そのほとんどはそのまま民間へと流れましたが、中には一般社会に溶け込めず、ホームレスになる者や犯罪者になる人達も多く出て社会問題化しているんです」

 「ふんふん。それで?」

 「一時期、その対策のためにPMScsが退役軍人の受け皿になっていましたが、自動兵器のみで行われた第四次世界大戦以降、戦場に人がいること自体を望まれなくなったため、PMScsも自動兵器化を進めざる得なくなり、また、安価な自動兵器を自国で持っているのにわざわざ外注で戦力を手に入れる必要もなくなりました。だからこそ、今、PMScsはその数を急速に減らしているです」

 「尊ちゃんはなんでそんなことまで知ってるの? どう考えても教科書には載ってないでしょ?」

 「えっと……いろいろと調べるのが好きなんです」

 「つまりぼっちなのね?」

 「うっ……えっと、それで、今世界は、退役軍人で溢れているんです」

 「うん。だから、それが今回のこととどう関係あるの?」

 「もし、フェンリルがその状況に不満を持っていたら、いいえ、戦友達の現状に嘆いていたら、もしかしたら、そのための行動を取るんじゃないかな? って思ったんですよね」

 「軍人が軍人として生きられる世界を取り戻そうとしているってこと?」

 「ええ」

 「……考え過ぎじゃないかしら?」

 「僕もそう思うんですけど、世界征服が手段であり、人戦争世界への帰還が目的だっと考えると、世界征服が目的であるより納得できるんですよね。動機としてもあり得る気がしますし」

 「そもそも、ギルバートがPMScsを名乗っているのは自称でしょ?」

 「ええ、そこを証明する証拠はありませんし、結局は推論の枠から出ない話だと思います。今は」

 「今は?」

 「もしかしたら、フェンリルの正体や、この事態を解決する手段を知る方法があるかもしれないんです」

 尊のその言葉に、流石に歩くことを止め、八重は振り返って尊へ顔を向ける。

 「どういうこと?」

 「僕の武霊・カナタにはQCティターニアから他のQCに向けて託された救援のためのデータが保存されているです」

 「……はい?」

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