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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
1.仮想世界で踊る黒刀の武霊使い編
16/107

Scene15『守り人のペケさん』

 どうなるかわからない結果への不安を紛らわすためか、脱出を選択した尊は即座に次の行動に移った。

 「まずは正確に相手の位置と行動パターンを知ろう。カナタ。狭間の森みたいにVRA地図を展開してくれる?」

 「了解しました。VRA地図展開します」

 未だに正座したままのカナタは頷くと共に、尊の前にVRA画面を展開する。

 通路は規則正しくマス目上になっており、尊がいる部屋の周りにも部屋があり、六部屋ごとに一ブロックを作っているようだった。

 「あれ? 赤い光点がない」

 尊のいる地点を中心に九ブロックが描かれているVRA地図上には、自分とカナタを表すらしき黒い点が二つ。それ以外がないということは、少なくとも近くには他に動く存在がいないということになる。

 「えっと……あ、そういえば、これってどうやって調べているの? ゲーム的な仕様ってわけでもないでしょ?」

 「回答します。精霊領域を応用展開しています」

 「うすーく展開していって感じ?」

 「肯定します。『探知領域』と名付けられているそうです」

 「そうなんだ……ちなみにどんな感じなの?」

 「確認します。どうとは?」

 「いや、ほら、どんな風に探知しているのかな? って思って」

 「理解しました。回答します。精霊領域は私達武霊の身体の一部と言えますので、探知のみに限定拡張した範囲内を武霊自らの五感と同じように感じ取っています」

 「え? それって大丈夫なの?」

 「問題ありません。大丈夫です。あくまで同じように、ですので」

 「そう? ……ならいいんだけど……えっと、じゃあ、探知領域を拡張はできる?」

 「可能です」

 カナタが頷くと共に、VRA地図の表示が九ブロックから段々と範囲が広がっていく。

 「ちなみにこれで僕達がどこにいるかわからないの?」

 「不明です。現状で知り得た範囲内と、妖精広場で公開されている探索済み地図と合致する場所はありません」

 「つまり、未踏域ってこと?」

 「肯定します」

 「そっか……」

 などと会話していると、地図は二十四ブロックまで拡張され、端の方にゆっくりと動く魔物を表す赤い光点が現れる。

 「思ったより近くにいるみたいだね」

 ジーとその行く先を見ていると、どうやら尊がいる部屋を中心に一定の距離を保ったまま幾つかのパターンで巡回しているようだった。

 (ん~この距離だと、僕の足では逃げ切れそうにないかな? 常に二・三ブロック先にいるみたいだし、体感した連れ去られている時の疾走感から考えると、どのタイミングで脱走してもすぐに追いつかれそう)

 そう分析する尊の考えが、現時点ではこの場から動くことは不可能だと結論付けさせてしまう。

 しかし、一度脱出すると決めた以上、その程度で諦めるという選択肢はできない。

 腕を組んで目を瞑り、ん~とあれこれ考えだす。

 が、通常モードの尊に解決策が直ぐに思い付く訳もなく、ただ可愛らしくうんうん唸っているのが関の山だったりする。

 そんな主をじーっと見ているカナタは、思考能力の激しい上下が不思議なのか、小首を傾げた。

 尊がゾーン癖といえる状態に至るためには、なにかしらの条件で追い詰められなくてはいけない。

 恥ずかしさや、極度の緊張などの、思考を深く沈めたくなるような強いストレスがなければ、なり易い人格であってもなることはできないということだ。

 もっとも、尊は自分がそんな状態になれるなどと知りもしないし、思ってもいない。

 根本的にどっちの状態であっても尊は尊であることに変わりはないが故に、なにもしなければ危害を加えられることはない、今の普通ではないが最悪ではない環境は、自覚なく窮地を招き――尊は間違えさせる。

 「カナタ。攻撃魔法は使えないんだよね?」

 「肯定します」

 「そっか……」

 ガクリと項垂れて落ち込む尊。しかし、直ぐに顔を上げて、目の前のカナタを見る。

 「とりあえず、挑んでみるしかないよね」

 その言葉と共に尊が手を差し出すと、若干間を置いてカナタはその手を握る。

 が、何故か立ち上がらない。

 「……どうしたの?」

 「説明します。足が麻痺しています」

 「あ~……なるほど。その状態だと人と同じことが起きる……んだね?」

 一瞬、なにか引っかかるものを覚えたが、懸命に立ち上がろうとプルプルと震え出したカナタを見て、苦笑と共にそれは思考の彼方へと消えた。

 「武装化しよう。黒姫黒刀になれば痺れも消えるんじゃない?」

 「……了解しました」

 カナタがちょっと辛そうに頷くのを確認して、尊は武装化のキーワードを口にする。

 「共に歩む精霊カナタに、主たる僕が願う。我願いに応え武装せよ」

 「承認しました。我が身、主ミコトを守る盾となり、敵を屠る刃とならん」

 互いの目線を合わせ、声を揃えて若干抑え目に唱える。

 「「武装化『黒姫(こっき)黒刀(こくとう)』」」

 二人の言葉と共に、カナタの身体がふわりと浮く。

 尊の肩より高く上がると共に、彼女の全身から光と闇が噴き出し始め、握り合う手ごとその奔流に巻き込まれる。

 二色の渦の塊となってカナタの姿が完全に見えなくなると同時に、弾け、白と黒の粒子となって周囲に四散し、急激な大気の変化によって、白い小部屋の中に突風が巻き起こった。

 そして尊の手の中に現れたのは、刀身も、柄も、全てが漆黒な全長一メートル以上の日本刀。

 まるで黒曜石でできたかのような黒い輝きと、優雅に波打つ波紋によってまるで芸術品かのような刀身をまじまじと見た尊は吐息を漏らす。

 武装化中のカナタをしっかり見たのは、今が初めてなのだ。

 最初はギルバートを目前にしていたが故に、二度目は時間制限がある狭間の森でだったために、大太刀であるという以外の情報を得られるほどの余裕はなかった。

 しげしげと黒い刀を見ながら、若干恐る恐る角度を変えて刀身を見てみると、面が変わる度に違った輝きを見せた。

 その美しい光沢に見とれながら、ふとさっきも思ったことも思い出す。

 「……そういえば、ここって明るいよね?」

 改めて上を見てみると、床や壁と同じ材質ぽい天井と、そこに埋め込まれている小さな球体が目に入った。

 どうやらそれが光り輝き、部屋や通路を照らしているようだが……

 「上の階は真っ暗だったのに、ここは明るいのってなにか理由があるのかな?」

 「回答します。『紋章魔法』です」

 「紋章魔法? 紋章ってことは精霊魔法とは違うんだね?」

 「肯定します。紋章魔法は、この世界の魔法法則そのものを利用したもう一つの魔法です」

 「この世界……異世界シミュレートだものね……ん~天野さんは魔法を組み込んでなにがしたかったんだろうね?」

 「不明です」

 「まあ、本人じゃなくちゃわからないよね……えっと、とにかく、もしかして、紋章魔法って僕達にも使えちゃったりする?」

 「可能です」

 「ほんと!? やった!」

 あまり期待していなかった喜ばしい返答に思わず刀を持ったまま万歳して、その荷重移動に尊はよろけてしまう。

 「にゃ、にゃ!」

 若干猫になりながらなんとか倒れるのを耐え、恥ずかしそうにしながら、それ以上に興奮したように顔を赤らめて刀状態のカナタを見る。

 「どんな紋章魔法が使えるの? 教えてカナタ!」

 「回答します。照明です」

 「……へ?」

 「もう一度回答します。照明です」

 「…………ああ、そっか、この場にある紋章魔法って、この部屋を照らしている物だけってことだよね?」

 「肯定します」

 「………………そっか」

 がっくりと項垂れ、落ちた剣先があっさり床に埋まるが、それを気にするほどの元気は残っていなかった。

 暫くぼ~っとした後、尊は気の抜けた声でカナタに問う。

 「他の紋章魔法ってどこで手に入るの?」

 「検索します。地上の店。プレイヤー間との取引。地下ダンジョンの探索。自ら製造する。の四通りです」

 「その中で、今の僕達に可能なのは?」

 「回答します。ありません」

 「……要するにそれもこれもどれも、全部ここを抜けなくちゃ駄目ってことだね」

 結局どれに対してもそれに行き着くことに、尊はぎゅっと強く柄を握り、キッと前を向く。

 その先には扉が壊れて空きっぱなしになっている入口。

 視覚内にはVRA地図と、中心に向かって近づいてくる赤い光点。

 それ以外の反応はない。

 改めて一対一の状況を確認した尊は、大きく息を吸って吐く。

 「当面の目的は、守り人を倒して、ここから脱出すること」

 誰かに語るかのように言葉を口にしながら、尊を通路へと出て、黒姫黒刀を上段に構える。

 通路の横幅は、大の男が三人両手を広げても十分なほどある。高さも尊の身長の三倍以上あるとなれば、刀を振り回すのに十分だ。

 ほどなくして十字路から顔にバッテン印が付いた守り人が現れる。

 その姿を真正面から見て、ごくりと唾を飲むと、尊の姿を確認したのかほぼ同時に守り人が立ち止まる。

 脱走者がその手に持つ武器を警戒しているのか、ピクリとも動かず顔だけを尊に向けてきた。

 周囲は静寂に包まれ、うるさいほど高まった心臓の音だけが尊に聞こえる。

 いつこの睨み合いのような状態が解かれるのか、緊張というより不安にさいなまれ始めた時、尊の思考はそれから逃れるためか変な方向に動き始める。

 (守り人さんって言うのも呼び難いよね? ……多分、あの顔の傷はこの個体だけのものだよね?)

 などと思った尊は、今度はほとんど考えずに思い付いた名前を口にした。

 「ペケさん。うん。カナタ。あの守り人さんはこれからペケさんって呼ぼう」

 「了解しました」

 尊により安直で微妙な名前を付けられたその瞬間、白いマネキンことペケさんが猛然と襲い掛かってきた。

 「お、怒った!?」




 「うにゃん!」

 最初の激突は、あまりの迫力に刀を振るう間もなくタックルされ捕まり、ペイっと元の部屋に投げられる結果となった。

 うつぶせに倒れた尊は、ゆっくり起き上がろうとして、途中で項垂れる。

 「ま、まあ、当然だよね……」

 ただ単に決意だけなんでもできるのなら、狭間の森でもスムーズに勝っていた。

 そもそも、尊は平均的な中学生より劣る身体能力なのだ。

 いくら強力な武器を持っていても、正しく使うことができなければなんの意味もない。

 それを既にリビングストーン戦にてわかっていたはずなのに、普通の少年状態の尊ではすっかり忘れてしまっていたようだった。

 とはいえ、いくらなんでも今ので自分の失態に気付いたらしく、じーっと武装化中のカナタを見る。

 「とりあえず、リビングストーン戦でやった方法を試そう」

 「了解しました」




 VRAにより展開される斬撃軌道。

 それが上段に構える黒姫黒刀の刀身から守り人の左肩へと繋がっている。

 ナビが導き出した最適最短のそのルートは、確かに必殺の一撃となりえるものだろう。

 勿論、当たればの話だ。

 「いやぁああああああ!」

 気合いの声と共に放たれた斬撃は、パンっと音を発ててペケさんが合わせた両手にあっさり受け止められた。

 最適最短ということは、それだけ素直な剣ということ。つまり、これから攻撃しますよと知らせながら振れば、真剣白刃取りという曲芸が一番確実な防御手段だと剣術プログラムに判断されてしまうほど駄目なものだった。

 もっともそんな実状を知る由もない尊は、キョトンとした顔になるしかない。

 「へ?」

 なにが起きたか理解し、表情から少し遅れて間抜けな声を尊が上げると、ペケさんがクイッと両腕を曲げた。

 急激な回転力が柄に加わり、瞬間的に尊の握力を越える負荷が発生。あっという間に黒姫黒刀を奪われてしまう。

 「か、かえして!」

 反射的に手を伸ばす尊に対して、ペケさんは奪った刀をあっさり脇に捨てる。

 思わず刀へと手を上してしまう尊だったが、直ぐに失策だったと気付かされる。

 手を伸ばすことによって伸びきった身体を、ペケさんがすくうように持ち上げたからだ。

 「離して! うぅ~」

 懸命に暴れてみる尊だが、金属ベースの人工筋肉により人体よりはるかに硬いその身体の掴みを解くことはできない。

 押しても引っ張っても叩いてもペケさんはビクともせず、淡々と尊を押し込めた部屋へと投げ入れようと進む。

 通常の守り人と違いバッテン印がある分まだましだが、元々のっぺりとした顔無しであるため、その行動は恐怖を誘う。

 武器を失った状態であるのなら尚更であり、尊は無意識の内に安心を求めて落ちている黒い刀に手を伸ばす。

 「カナタ!」

 そう叫んでから、尊は気付く。

 (こんなことをしても刀が飛んでくることなんてないのに)

 思わず赤面しそうになるが、それより早く、黒姫黒刀が床から浮き上がった。

 「へ?」

 間抜けな声を上げると共に差し出した手の中に黒姫黒刀は収まり、唖然となる尊。

 「こ、こんなこともできるんだね……」

 「説明します。私の本体はあくまでマスターの中にあります」

 「へ? そうなの? あ、だから武器化ではなく、武装化なのね」

 「肯定します」

 などとやり取りをしている間にペケさんは部屋の前に辿り着き、またしてもペイッと尊を投げ入れた。




 「つまりさ。あれだよね。僕はカナタ。ううん。刀を上手く扱い切れてないんだよね」

 目の前でちょこんと正座しているカナタに言った尊は、腕組みしながら目を瞑っていた。

 どうやら考えているつもりらしい。

 「考えてみれば成功したのは、ギルバートの動きを模倣した上段からの一撃だけ。それ以外は知らないし、試してもいない。それ以外を身に付けないと、人型で、きっと色々な戦闘プログラムを組み込んでいるペケさんには敵わない……わかってはいたことだけど、これは時間が掛かりそうだね……」

 こうしている間にも刻一刻と状況は変化しているかもしれない。しかし、それを確認できる手段はなく、どうにも込み上げてくる不安感が増してしょうがない。

 「……カナタ。索敵範囲内で他のプレイヤーさんの気配とかある?」

 「索敵します。ありません」

 「まあ、未踏域だものね……そもそも、今の事態にダンジョンに潜るようなプレイヤーさんはいないよね……」

 わかっていながらの問いだったが、それでも落胆の色は隠せない。

 「向こうはどうなってるのかな……」

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