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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
1.仮想世界で踊る黒刀の武霊使い編
13/107

Scene12『武霊プレイヤーVS自動兵器』

 尊達がいる転送球広場に現れた人の五倍以上の大きさを持つ巨大な黒い蜘蛛。

 それは、蜘蛛型戦闘用BMRである多脚自動戦車『土蜘蛛』と呼ばれる自動兵器だった。

 一見するとただ蜘蛛のような姿をしているだけのように見えるが、頭胸部に機銃二門・腹部に砲台一門など兵器が搭載されている強力な攻撃力を持つ。

 もっとも、日本の自衛隊で主に配備されて使われているため、実際の戦闘で使われているのはこの劣化コピーか、亜種であることが多いのだが、このVR世界においては、そもそも正規の軍ですらないフェンリルにとっては関係のない話なのだろう。

 飛び出した土蜘蛛は地響きを立てて鳳凰の背後に着地し、背伸びして腹先を向ける。

 それに反応した鳳凰が振り返り盾を構えた瞬間、土蜘蛛の腹部砲台が火を噴く。

 発射された砲弾は狙い違わず鳳凰に当たり、強烈な爆発を発生させた。

 その威力は爆炎で鳳凰の姿が見えなくなり、廃ビルの中から覗きこんでいた尊を引っ繰り返すほどだった。

 「ほ、鳳凰さん!」

 爆風が収まると共に慌てて窓枠を掴んで外の様子を見ると、爆炎で生じた煙の中から砲撃された時と変わらなぬ位置で立っている鳳凰の姿を目撃した。

 ほっと胸をなでおろす尊だったが、状況はよくない。

 (手助けするべきなんだろうけど……)

 今の尊には遠距離から攻撃してくる自動兵器達に対抗できる手段がない。

 精霊領域で銃撃ならある程度は無視できるようだが、それをするための精霊力の余力がない。加えていえば、どうやら防御に特化しているらしい鳳凰ならいざ知らず、生身のままであの砲撃など受ければはたして万全の状態であっても耐えきれるか疑問なのだ。

 もはや、つい先程武霊を手に入れたばかりの尊とではどうしようもない次元となっていた。

 迷うことすら無意味だとわかっていながら逡巡してしまっている尊の前で、戦いは過熱化し始める。

 ノーフェイス達が鳳凰を中心に円を書くように移動しながらサブマシンガンを撃ち始めた。

 絶え間なく撃ち込まれる銃弾は甲冑を傷付けるほどの威力はないようだが、だからといってなんの影響もないわけではないようで、鳳凰の身体が僅かに揺れている。

 まるで銃撃によってその場に縫い付けられてしまっているかのようだった。

 当然、状況を見逃す自動兵器ではない。

 後ろを向いていた土蜘蛛が、僅かにジャンプして振り返る。

 触肢のように頭部に生えている機関銃が瞬時に鳳凰を捉え、凶悪な音を発てて弾丸を吐き出し始めた。

 ノーフェイス達が持つサブマシンガンの音とは比べ物にならないぐらいのそれに尊は思わず耳を塞ぐ。

 しかし、その目はしっかり鳳凰を見ており、だからこそ目撃してしまう。

 それまでなんともなかった全身甲冑が、後ろに大きく吹き飛ばされ転送球に叩き付けられるのを。

 土蜘蛛も戦車と名が付く以上、その機関銃の口径はサブマシンガンより大きく、放たれる弾丸の威力も倍。一発で終わった砲撃を耐えられても、絶え間なく続く強烈な銃撃には流石の鳳凰も耐えられなかったのだ。

 それを理解した時、尊は手に持つ黒姫黒刀を強く握りしめ、隠れている場所から飛び出そうとした。

 思考の挟まない感情的な行動に、心の中で止める声を聴きながら尊は廃ビルから出る。寸前、その肩に何者かの手が置かれる。

 「ちょい待ちよし」

 「にゃっ!?」

 背後からの制止の声に、尊の身体は硬直した。

 後ろに気を配ってなかったとはいえ、自分以外誰もいないはずだったし、なにより触れられるまで気付けなかったことに戦慄したのだ。

 「ここはお姉さん達に任せよし」

 尊の状態に気付いているのかいないのか、気楽な様子でその女性は尊の横を通り抜け、外へと出た。

 全身甲冑を着ていた鳳凰と違い、彼女の格好は何故か白い花が描かれた青い着物だった。

 カナタのようなコスプレ感があるものではなく、普通なものであったためこの場では逆に違和感を覚えさせ、尊は自分が着ている物を忘れて目を瞬かせてしまう。

 「ほらほら隠れて」

 ドアすらなにもない出入り口で硬直したままの尊に、女性は長い黒髪のポニーテールを揺らして振り返り、微笑み掛ける。

 その目は何故か瞑られており、尊を軽く混乱させたが、銃撃を続けているノーフェイス二体がこちらを向いたため、慌てて建物の中に引っ込む。

 「ほな、やりまひょか?」

 尊が隠れたのを確認した彼女は、浮かべていた笑みを微笑から獰猛なものへと変化させ、その左手に持っていたシンプルな杖に右手を掛ける。

 そして、まるで刀でも抜くかのように腰を僅かに落とし、つぶやいた。

 「電光石火」

 ほぼ同時に彼女に狙いを付けたノーフェイス二体がサブマシンガンを撃つ。

 「あ――」

 先程と同じ位置に戻って外の様子を覗き込んだ尊が、ノーフェイス達の動きに警告の言葉を口にしようとした。だが、その次の瞬間には、着物姿の女性の姿が無くなっていた。

 僅かな電光を残して。

 「え?」

 尊が間抜けな声を上げると共に、ノーフェイス二体の銃撃が止む。

 「おやー? 随分手応えがないわね?」

 なにやらがっかりした声が少し離れた場所から聞こえたことに、尊は反射的に確認すると、ノーフェイス二体の少し後ろに着物女性がおり、首を傾げていた。

 いつの間にかそれだけ近くに接近されているというのに、ノーフェイス二体は反応しない。

 代わりに反応したのは、鳳凰に銃撃を加え続けているノーフェイス達だった。

 彼らは仲間がいるというのにかまわずサブマシンガンを撃つ。

 だが、銃弾が着物女性に届くより前に彼女の姿が再び電光を残してその場から掻き消える。

 撃ち込まれた弾丸は残されたノーフェイス達に当たり、その身体をバラバラに吹き飛ばした。

 銃撃の影響ではない。

 崩れたノーフェイスのパーツは鋭角的だった。つまり、なにかに切り裂かれたかのようになっていたのだ。

 それによって機能が停止していたところを弾丸が襲い、辛うじて保てていた形が崩れた。

 そして、それを成し得たのは――

 「もしかして、これもかしら?」

 消えた着物女性が次に現れたのは、土蜘蛛の真下だった。

 自動兵器達に感情はない。故に尊のように驚嘆することなく、目の前に彼女に対応する。

 土蜘蛛の両前足から刃が飛び出し、着物女性を十字に切り裂こうと上と横から振う。

 「ぬるいわー」

 そのがっかりした感じの言葉と共に、彼女の姿が電光と共に霞み、位置が僅かに後ろになる。

 土蜘蛛の刃がターゲットの僅か前で空を切って振り抜かれると同時に、その足が何故か取れ、地面と廃ビルの壁に突き刺さってしまう。

 (嘘でしょ!?)

 飛んで行った足パーツを見た尊は、それが鋭利な断面を見せていることに驚愕する。

 (切られているってこと? ノーフェイス達も同じだったから……じゃあ、あの人の武装化って……)

 再び着物女性に視線を戻すと、僅かしかそらしていなかったというのに彼女は土蜘蛛の背後に移動していた。

 そして、ゆっくりと土蜘蛛の身体が地面に付き、頭から尻に掛けて真っ二つに割れる。

 (仕込み杖なの?)

 目の前で起きる現象と彼女が常に両手で杖を持っていることからそうだと判断するしかない。

 (でも、見えないほどの斬撃って……居合抜きだとしても普通じゃないよね? これも魔法なの?)

 現実ではありえない剣術に戸惑っていると、鳳凰の方でも状況の変化が起きる。

 「ホーミングフレア」

 それまで自動兵器達の銃撃を受け続けるだけだった鳳凰の全身から青い炎が吹き出し、まるで無数の蛇かのようにとぐろを巻く。

 「喰らいつくせ」

 鳳凰の命令と共に、炎の蛇達は一斉に離れ、宙を泳ぐかのようにノーフェイス達に襲い掛かった。

 ノーフェイス達はその場から飛び退いて回避を試みる。が、その瞬間、蛇達は一気に圧縮され矢じりとなって加速し、宙に浮いているノーフェイス達の胸を穿ち、爆発した。

 「凄い……これが魔法……ううん。武霊使いか……」

 僅かな時間で自動兵器の戦車一機と歩兵十六体が倒されたことに、尊はただただ感嘆するしかできない。

 そんな尊の視線の先で、次を警戒して転送球を見ている鳳凰に着物女性は近付いた。

 「もしかして余計やった?」

 問いに鳳凰は警戒しながら首を横に振る。

 「いや、助かった」

 「そない?」

 「精霊力ギリギリの子が近くにいたからな。下手に全力を出すわけにはいかなかった」

 「なるほどね……あの子初心者やろ?」

 二人して自分の方に顔を向けたことに、尊は思わずビクッとなってしまう。

 「今日始めたばかりのようだ」

 「そら災難ね」

 「だが、そのおかげで貴重な情報を手に入れているようだがな」

 「そらどないな意味や?」

 「とにかく、今はここから離れよう。君、こっちへ来てくれ」

 鳳凰に呼ばれた尊は、おっかなびっくりビルの中から出て二人の下に向かう。

 そんな尊を気にもかけずに、着物女性は空を見上げた。

 「そやね。どうにもまだ終わってへんようやし」

 上空にはまだハイ・ドラゴンフライが飛び回っており、着物女性は目を瞑っているのにどうやってか正確にその位置を把握しているらしく顔をその方向に向けた。

 「他の場所はどないなっとるんかしらね?」

 「この程度ならどこも問題はないだろう。転送球をこちらで使えなくなっている以上、ここを死守する必要もない。なにより()がある」

 (次! そうだ! 早く伝えないと!)

 鳳凰の言葉にするべきことを思い出した尊は、慌てて二人の下に駆け寄る。

 「あの! 実は――」

 だが、その言葉は途中で遮られてしまう。

 着物女性が僅かに顔を動かすと共に、唐突に尊に飛び掛かり、その身体を脇に抱えたからだ。

 「えっ! ええ!?」

 抵抗する暇もなく着物女性に抱き抱えられたことに驚きの声を上げられても、それに対する疑問の問いはその直後に生じた強烈なGによって口にできなくなる。

 喋れば下を噛んでしまいそうなほどの圧と、痛いほどの風。

 「ふ、ふにゃ~」

 たった一瞬だったが、思わず猫語が出てしまうほど尊をグロッキーにさせるには十分だった。

 「あれ? もしかして精霊領域も張れへんの?」

 「み、みたいです」

 などと会話をした直後、背後で強烈な爆発が起きる。

 (土蜘蛛の砲撃!? じゃあ、この人はそれを察知して?)

 尊のその考えを肯定するかのように、モーター音を伴って前から土蜘蛛が現れた。

 どうやら足に車輪が付いているらしく、それを使って高速移動しているようだった。

 「四方八方からくるわね」

 着物女性はため息を吐くと共に尊を地面に下ろした。

 「ちょい暴れるから、ちびっとん間どこぞに隠れてくれへん?」

 「わ、わかりました」

 正面から現れた土蜘蛛は一機だけでなく、二機三機とビルの上やら十字路の右左から現れており、更に随伴歩兵のようにノーフェイス達も周りに付き従っているのでその数は瞬く間に百を越えてしまう。

 尊は隠れるための場所を探そうと周りを見回しつつ、最初に砲撃が撃ち込まれた場所を見ると、そこには背中をこちらに向けている鳳凰の姿があり、その周りには無数の土蜘蛛とノーフェイス達が取り囲んでいた。

 「だ、大丈夫なんですか!?」

 「あんはんここにいればちょいややこしいわ。やから早うね」

 尊にそう微笑んだ着物女性は、電光を残して姿を消した。

 次の瞬間には、前方にいたノーフェイス達が切り刻まれて飛び散り始めたため、進攻していた自動兵器達の動きた停滞し始める。

 背後でも激しい戦闘音が聞こえ始め、尊の周りは一時的な安全圏となった。

 だが、圧倒的な数の違いがある以上、いずれは破られるのが目に見えている。

 それを理解している尊は直ぐに近くの廃ビルに飛び込もうとしたが、直ぐに止めた。

 (鳳凰さんが言っていた言葉からすると、さっきみたいにビルの中に隠れるだけじゃ駄目ってことだよね? ってことは、見えるような位置に隠れるだけじゃ駄目ってことか……)

 自分が足枷になっていることに焦りを覚えつつ、周りをきょろきょろと見ると、視界の中に矢印のVRAが展開された。

 指し示される方向を見ると、柱らしき物が倒れていた。

 (なんで柱? いや、カナタが意味もなく指し示すわけないし……)

 シンプルな円柱形のそれは、端が折れており、なにかをその上に載せていたことを窺い知らせる。

 なんとなしに柱の先を追っていくと、そこには巨大な板が地面に横たわっていた。

 (屋根? ……地下鉄の入り口みたいな。んん!?)

 注意深く板を見ていると、それが僅かに斜めをむいており、小さな穴を形成していた。

 (もしかして!)

 強い予感に襲われて近付く、その穴から階段が見え、奥へ奥へと続いているように見えた。

 しかも、都合の良いことに、丁度尊が通れそうな大きさ。

 「ここなら……」

 顔を明るくする尊だったが、直ぐにその表情を曇らせる。

 (でも、ちゃんと続いているかな? それに……物凄く暗い)

 別に尊は闇に対して強い恐怖心を抱く子供ではないのだが、流石に廃墟の闇となると躊躇を感じてしまう。

 しかし、爆音や熱波などが徐々にこちらに近付いてきているので、ここでまごつけばまごつくほど二人のプレイヤーを不利に導いてしまう。

 だからこそ、意を決して穴へと潜り込む。

 見えない瓦礫の中を黒姫黒刀の剣先で慎重に調べながら下へと這いながら降りて行く。

 (どれぐらい進めたんだろう? 結構奥へと行けたとは思うけど、全くの暗闇の中だと全然わからないや。灯りとかがあったらな……ん?)

 ふと思うのは、目を瞑りながら戦っていた着物姿の女性プレイヤー。

 (目を瞑っていたのに普通に動くどころか戦闘までしていたってことは……武霊さんが目の代わりになればできるかな? VRAで目を瞑っているように見せているだけって可能性もあるけど、どっちにしろ、武霊の探知能力を応用すれば……)

 そう思った尊は、黒姫黒刀へとお願いする。

 「カナタ。VRAで周囲の様子を疑似視覚化できない?」

 だが、なぜか無反応だった。

 「カナタ?」

 再び名を呼んでみるが、やはり反応がない。

 「……もしかして余裕がない?」

 まるでその問いに答えるかのように、尊の視界の中に精霊力ゲージが一瞬だけ現れる。

 僅かに赤いゲージが見える程度しか残っていなかった。

 (本当ならこのまま休ませてあげたいけど……)

 状況的に武装化を解くわけにはいかない。

 (ここは瓦礫の下だから、もしかしたら戦闘の影響で崩れてしまうかもしれない。もっとしっかりした場所に行かないと)

 そう思った瞬間、強烈な振動が発生する。

 まるで近くで爆発が起きたかのような激しいそれの後、なにか巨大な物が一歩一歩動いているかのような小さな揺れが起きる。

 (鳳凰さんが大規模魔法を使ったのかな? ……ということは、少なくとも攻撃範囲外には出れたんだ)

 振動だけの情報だが、尊は推測してほっと一息つく。が、直ぐに気付く。

 「ってことは、遠慮なしの攻撃魔法が始める!? ごめんカナタ。もうしばらく我慢して。僕もなるべく早くここを抜けられるように頑張るから」

 そう言っている間も爆発は続き、その度にパラパラとなにかが身体の上に落ちてくる。

 (直ぐに崩れるってことはないよね)

 ゾッとする状況下に、尊は急いで先に進もうとしたが、生じた強い不安感が余計なことを考えてしまう。

 (ずっと先まで瓦礫だったらどうしよう? 行き止まりって可能性もあるし……って、駄目だよ! 痛!)

 ネガティブな思考が思わず出始めたことにハッとなった尊は、不安を飛ばすために首を横に振り、ちょっとだけ瓦礫に頭をぶつけて悶える。

 (カナタが指し示してくれた場所だもの。きっと大丈夫)

 涙目になりつつも自分にそう言い聞かせ、再び先へと潜る。

 しかし、この場は、狭い、先も後もなにも見えない瓦礫の中だ。

 そんな場所を亀のように這って進んでいれば、どうしても不安が湧き上がってくるので、それから逃れるために自然とあれこれと考え出す。

 (きっと今、地上は大混乱に陥っているだろうね。鳳凰さん達は大丈夫みたいだけど、他の人達はどうなんだろう? 動作補正システムがない以上、魔法を使うのが武霊使いとしての戦い方なんだろうけど……着物を着ていたプレイヤーさんのって、魔法だけだったのかな? 動きが早過ぎてよく見えなかったけど……仕込み杖の武装化を使っていたってことは、十パーセントのRS持ちって人なのかな? まあ、そもそも、本当に仕込み杖かどうかも見えなかったけど)

 などと考えながら、前方の様子を確認し、そのわかった範囲だけ這い進み、再び確認し、進むを繰り返す。

 幾度となく繰り返したからか、暗闇であるからか、同じ作業を繰り返し続けたか本格的にわけがわからなくなった頃、不意に上を確認しようとした剣先が空を切る。

 大慌てで右左に振ってみると、同じように手応えを感じなかった。

 「抜けた!? やった!」

 思わず歓声を上げと、不意に手の中から柄の感覚が消える。

 「カナタ!?」

 慌てて瓦礫の中から這い出すと共に、近くでなにかが倒れる音がし、手探りでそこに近付くと柔らかになにかに触れる。

 人肌と共に、頬にでも触れたのか息らしき僅かな風を感じ、ほっとする。

 カナタの無事を確認した尊は、周囲の情報をできるだけ確認しようと周りを見回す。

 もっとも、光源はなにもないので、視覚から得られる情報は皆無で、唯一わかることは先程から続いている振動が小さくなっていることと、瓦礫の破片が降り注いでこないことだけ。

 それだけだとなにもわからないことに等しいが、少なくとも魔法に巻き込まれる・生き埋めになるなどの危険はなくなったのは確認できたので、へなへなとカナタの近くに座り込んだ。

 「ありがとうカナタ。ゆっくり休んで」

 どれぐらいカナタが頑張ったのか、人である尊にはわからない。もっとも、会話すらできず、安全な場所に出た瞬間に武装化解除と睡眠状態に移行したことから、少なくとも大変だったことは窺い知れる。

 だからこそ、感謝を込めて頭らしきところを撫でた。

 (……このままだとかわいそうだよね? せめて膝枕してあげた方がいいかな?)

 などと思った時、近くになにかが着地した音がした。

 なにかが動き、近付いてくる気配に、尊は硬直してしまう。

 (ど、どうしよう!? 瓦礫の中に、駄目だカナタが!)

 どうすればいいか考えが浮かぶより早く尊の身体はそのなにか掴まれ、ヒョイッと抱え上げられてしまった。

 「えっ! ええっ!? ちょ、ちょっと、何!? 誰なの!? は~な~し~てぇええええ」

 じたばたと尊は暴れるが、抱えているなにかはがっちりとホールドしており、堅さを感じるその腕から逃れることができない。

 そして、そのまま動き出す気配。

 「というか、どこにつれていくのさーー」

 尊の疑問の答えは返らず、ただただ彼の絶叫が暗闇の中で木霊した。

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