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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
3.黒い者と駆ける地下迷宮編
106/107

Scene105『トーチカでの攻防』

 「お茶を飲みに来た?」

 臨時作戦室とした地下四階の部屋へ向かう途中、ギルバートが現れた直後の言葉を聞いた尊は疑問の視線を鳳凰に向けた。

 「……いつものふざけではないのか? 煽っているのだろう」

 「そうですね……」

 何事かを考え始めたのか、それ以降黙ってしまう尊。

 思考が沈んでいる時は必要以上に話し掛けても反応がない場合もあることを、短くてもそれなりにやりとりをしていることで知っている鳳凰も沈黙する。

 そんなトップ二人に緊迫感を感じたのか、周囲にいるプレイヤー達の面持ちが否応なしに固くなっていく。

 状況的に考えれば、まだ余裕はある。

 ギルバートは精霊魔法を無効化してはいても歩みは緩やかで、まだトーチカまで到達していない。

 そのため、こちらは余裕をもって迎え撃つ準備を出来ている。

 ただし、それが不気味さにも繋がっているのも確かなことだった。

 現状、他の転送球もティターニア城の真下も特に動きらしい動きはない。

 本当にたった一人でこちらに向かっているのだ。

 それもまるで準備万端になるのを待つように。

 そこになにかがあるのは当然のことだろう。

 いったいなにを企み、なにを誘導しようとしているのか。

 不安は募るばかりであり、尊と鳳凰にそういう意図はなくともトップが緊張した状態で集まっているとなれば、余計に。

 二人は二人で、ギルバートの意図を考えていた。

 今最も警戒すべきは謎過ぎる奴の行動であり、整いつつある内側への意識は薄かった。

 それは他のギルド長達も同じであり、皆がボス敵に着目してしまっていた。

 もしこれでオールドマスターズのような多くの経験を積んだ者達が近くにいたのなら、この後起こる状況は変わったのかもしれない。

 しかし、その僅かは変化に気付くには都市ティターニアに残されていたプレイヤーは若かった。




 「いや~茶を飲みに来ただけなのに、この手厚い歓迎。おじさん困っちゃいやすね」

 などと言いながらゆっくりとトーチカに迫ってくるギルバート。

 「ど、どうするのよあれ!」

 ショートボウの女子高生が喚きながら炎の矢を撃つ。

 どれも着弾し紅蓮で包み込む。

 だが、次の瞬間には爆炎ごとなにもなかったかのように平然としたギルバートが現れる。

 他四人の武霊によるサポートにより、彼女の精霊魔法は強化と共に効率力精霊力を消費できるようになっていた。

 そのため絶え間なく連射は出来るのだが、歩む速度が変わらないところを見ると妨害にすらなってないようだった。

 なのに、特に上からの指示はない。

 混乱しているのか、対策が決まらないのか、現場はよくわからず。

 かといって、勝手な行動ができないほど相手は不気味。

 結局、他四人は女子高生の喚きに黙るしかなく、彼女をイラッとさせているのだった。

 既に距離は出現した転送球からトーチカまでの半分まで到達している。

 五人は五人ともパニック寸前なのだが、それでも持ち場を離れないのはある意味では真面目なのかなんなのか。

 「ほんと、どうするのよこれ……」

 若干女子高生が泣きそうになった時、ようやく通信が入る。ただし、音声通信のみであり、精霊領域による完全防音のおまけ付きだ。

 「黒樹尊です」

 「ようやく来た! 遅いよ!」

 「すいません。意見をまとめるのに少し手間取りました」

 「で、どうするの!?」

 「もう少し精霊魔法による攻撃を続けてください」

 「なんで!? もう結構怖いんですけど!」

 「すいません。使うなら混ぜた方がいいという意見が多かったので」

 「使う? ああ!」

 「なので、そのタイミングで撤退を」

 「いいの!?」

 「直接戦闘で倒せる自信はありますか?」

 「ない!」

 他四人も激しく頷く。

 「現状、ギルバートの戦闘能力は未知数です。こうして一人で現れていることを考えるのなら、露わになっているトーチカ程度なら切り抜けられると考えているのは間違いないでしょう」

 「だよね!」

 若干やけ気味に炎の矢を連射する女子高生を、慌てて鉄扇のプレイヤーが止める。

 「もうそろそろだから、これぐらいしとかないと駄目でしょうが!」

 「あからさま過ぎるのはどうかと思いますけど、やってしまったものはしょうがないのでそのまま継続を」

 「だってさ!」

 「とにかく、どの程度なのか現状の戦闘能力を見極めるまで極力直接戦闘は避けます。なので、皆さんは緊急脱出プランに基づいて動いてください」

 「了解! そろそろだよ!」

 「カウントします! 五、四、三、二、一、ゼロ!」

 尊の合図と同時に五人が今いる場所の下を強く踏み付ける。

 するとその場所から幾何学的な模様が広がり始め、トーチカ全体を輝かせ始めた。

 ほぼ同時に四人の中央、チャラ男が寝転がっていた台座が消失し、大きな穴が開く。

 チャラ男が下へと落ちると共に他四人も穴に飛び込むと、トーチカの壁に埋め込まれていた大量の紋章魔法が輝き出す。

 そして、爆炎が再び消失すると共に、無数の光線が曲線を描いでギルバートに殺到した。

 「おやおや今度は派手でございやすね」

 そうつぶやくと共にギルバートにホーミングレーザーが着弾した。

 トーチカの下はやや歪ながら円筒状を維持した大きな空洞になっており、五人はそのまま地下四階の天井まで落ちる。

 その際に精霊領域によって落下ポイントを調整し、正確に五角形を作れる場所を砕く。

 それによって再び幾何学模様が走り、元エレベーターシャフトを光で満たし始める。

 強い輝きに目を細めながら五人はそれぞれ別方向の通路へと飛び込む。

 同時に上のトーチカが潰れ始め、エレベーターシャフトも壁が膨れ上がるように狭まり始めた。

 が、それが完全に発動し切るより早く、天井のトーチカが爆発。

 「いやいや、迫る壁なんて実にレトロでございやすね」

 爆炎の中からギルバートが落ちながらのんびりとそんな感想を口にする。

 その格好はマントを羽織った姿に変わっており、落下によりはためく裏地には大量の紋章魔法が埋め込まれていた。




 「やっぱり多重シールドを持ってましたね」

 臨時作戦室である岩の部屋にて、簡易的に岩を削って作られた円卓の上に表示されている映像を見て、尊は深いため息を吐く。

 探知領域が広い武霊使いによるエレベーターシャフト内の観測を映し出しているのだ。

 どう見ても無傷なギルバートの様子は、トーチカに埋め込まれたレーザーの紋章魔法が不発に終わっていること示している。

 シールドの紋章魔法を多重展開した有効性は尊自身が証明しており、フェンリル側もギルド長を閉じ込める際に使用していた。

 だから、これは予測の範囲。

 だが、尊達の仮定が正しく精霊魔法しか干渉できなくても、それを使われれば大量のホーミングレーザーであっても防がれてしまう。という事実は重い。

 何故なら、向こうはある程度の装備を転送補給も出来るのだ。

 実際、今もギルバートは鼻歌交じりに虚空から爆発物を取り出し、迫りくるエレベーターシャフトの壁にくっ付けていた。

 岩を削って作られた円卓の上に展開されているその光景は、たった一人であっても簡単には倒せないことを知らしめるのには十分だった。

 「直接戦闘に入る前にいかにギルバートの手札を切らせるかが鍵ですね」

 そう口にする尊の前には、地下ダンジョンを疾走している戦の聖人ギルド長の高城八重が映るVRA画面があった。

 まるで、いや、間違いなくタイミングを計ったかのように彼女が地下ダンジョンの外縁調査に向かっている時にこの襲来は起きたのだ。

 現状で都市ティターニア側にいる最高戦力が直ぐに駆け付けられない状況で現れた。

 つまるところ、ギルバートは彼女になら負ける可能性があることを暗に言っているようなもの。

 しかし、ギルバートの進行はゆったりであっても、八重が駆け付けられる距離より早い。

 このままでは彼女が到達する前に、ここに来ることは明白だった。

 そう、明らかにギルバートは尊を目指して進行しているのだ。

 「……鳳凰さん」

 「わかっている。万が一の時は止めるつもりはない」

 尊の呼び掛けに、隣にいた鳳凰は頷く。が、

 「……そんな事態にまでさせるつもりはないがな」

 そうつぶやく声は鎧の中から出させることはなかった。

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