Scene103『予期せぬ襲来』
都市ティターニアに残っているほとんどのプレイヤーが協力して行った戦略級融合魔法サンフレアバースト。
それの影響が完全に消えた地上部分は、それ以前の光景から激変していた。
廃ビルが所狭しと立ち並ぶ滅びた都市から、灰や黒が入り混じった暗いマーブル色のガラスの大地へと変わっているのだ。
もっとも全てがそれに代わっているかというとそうではない。
三つほど光景を乱すものが存在していた。
一つは、都市ティターニアを覆っている守護の大樹の根。
黒々とした根は、この世界を創っているQCティターニアが直接管理しているが故にいかなる干渉も受け付けず、法則そのものに干渉する武霊の精霊魔法すらはじき返す。
そんな根が地上部の真下に幾重にも張り巡らされていたため、疑似的な太陽が発する高温で溶けたビルと大地が全てダンジョンに流れ込み地下一階を潰す事態にさせなかったのだ。
もっとも、ある程度は地下に流れ込んでしまっているため、地上のいくつかの場所に根が露出している場所があるためそれなりに目立つ光景を生んでいる。
もう一つは、元々巨大なエレベーターシャフトが在った上に建てられた半球形の大型トーチカ。
周りのガラスを精霊魔法で操り作り出した物だが、様々な色を持つ紋章魔法を周囲にこれでもかと埋め込んで強固にしているが故に妙な派手派手しさが出ていた。
現在の地下ダンジョンへの侵入ルートは、各所にあった階段が解けたビルによって埋もれたが故に埋もれ切れなかった元エレベーターシャフト以外ない。
だからこその建物なのだが、景観を壊して仕方がない。そもそも気にしている者が誰一人としていないが。
最後の一つは、白く輝き宙に浮く球体・転送球。
転送ゲートを開き、これがある場所にプレイヤーを瞬時に移動させる。
が、今はPMScsフェンリルによって操作権限をQCティターニアから奪われ、自動兵器を送り込む起点とされてしまっていた。
暗い周囲の中で白い輝きは目立ち、当然の如く光景を乱している。
特にそれが酷くなるのは転送ゲートが開いている証である輝きの増加だ。
それに伴って自動兵器が現れ、尚且つ、トーチカから精霊魔法が撃ち込まれて即座に破壊される。
ただでさえ台無しな光景が、更に駄目押しにされるのだ。
破壊されて散らかる部品が周りに積もれば、それもまた良い光景ともいえない。
一部のこの手のが好きな者達からは歓喜されたりもしているが、そうでない者からするとそれなりに気が滅入る。
周りも周りでいまいち調和が取れているとはいいがたく、出てきた自動兵器をただ狙撃するだけの単調作業をしているトーチカ配置のプレイヤーはうんざりしていた。
「なあ、なんかおもしれえことねえか?」
「はい? そんなこと言うならあんたが先に面白いことしなさいよ」
「まあまあ、こんな場所でそういう無茶ぶりは感心しませんよ」
「くだらん」
「あんたそれしか言わないよな? いい加減飽きないか? というか、どうでもいいけど、ちゃんと前向けよな。いつ来るかわからねんだからよ」
などと若干ぎすぎすしながら五人のプレイヤーはトーチカの中で待機していた。
北を見ているのは手斧を持った鼻ピアス男、南を見ているのがショートボウを持った女子高生、西を見ているのが鉄扇を持った袴姿男、東を見ているのが大型ハンマーを持った迷彩服の男、最後に上空を見ているのが蛇の意匠が付けられている杖を持ったチャラ男。
彼らは我流羅の策略によって多くのプレイヤーから尊が追われるようになった時に襲い掛かってきた五人組だった。
それぞれが別々のギルドに参加している実力者であるが故に、万が一を考えて一定以上の強さが求められる地上の防人をしているというわけだ。
皮肉にも尊との戦闘でチームとして周りから認識されてしまったが故に、仲がいいとは言い難いのに一緒にいたりするのは本人達からすればかなり不満ではあった。
それに加えて周りの光景の悪ければ、どうしたってギスギスとした会話がいつものことになってしまう。
「そもそもよ。なんで上まで見る必要があるんだ?」
「ばっかじゃない? 上にはティターニア城があるでしょうが」
「そうですね。繋がる塔は破壊されたとはいっても、出入り口まで塞がれたわけではありませんからね」
「くだらん」
「正直、寝っ転がり続けるのもダリくなってきたんだよ。誰か変わらね?」
「てめえがそっちがいいとか言ったんだろうがよ!」
「そうよ。ちゃんとじゃんけんで決めたでしょうが」
「まあまあ、また決めればいいじゃないですか。今度はどうします? VRAトランプとかでもいいかもしれませんね」
「くらだん」
「もうローテーションでいいんじゃね?」
とはいえ、そんな風にしながらも、それでもやるべきことはやっているのだから、彼らが所属するギルドが送り出しただけのことはあるということだろう。
定期的に出てくる自動兵器を、それぞれの精霊魔法で現れた瞬間に破壊する。
炎で、砂で、風で、そろそろ交代の要員が現れる時間になろうかとしたその時、それは現れた。
「また来た」
自分が担当している北側の転送球が輝き出したことに嘆息する女子高生は、それでも自身の武器化武霊であるショートボウを構える。
転送ゲートが発動した強烈な輝きと共に、弦を離した。
撃ち出された矢がトーチカから出る。
その僅かな間に炎の矢に変わり、千メートルほど先にある転送球に到達した瞬間、強烈な爆炎と変わった。
「いちいちうっさいよな」
「あんたがうっさい!」
「まあまあ、どちらとも煩いということで」
「くだらん」
「別にいちいちくだらんって言わなくてもいいとも思うがな? というか……ちょっと待て! もう一撃だ!」
チャラ男の言葉に、女子高生は反発せずに即座に二撃目を放つ。
各武霊の特性上、チャラ男の探知能力は女子高生より優れていることをわかっているからこその反応。
だが、その二撃目が着弾しても、チャラ男の緊張感は晴れることはなかった。
「えらく硬いぞ! 武霊ネットにアクセス。緊急ライブ情報を流す。俺達は精霊領域を展開して、防御強化と共に攻撃をサポート」
「てめえが命令すんな!」
鼻ピアスが反発しながら、言われた通りに精霊領域を展開。
四人の精霊領域が、女子高生が放つ爆炎の矢を強化し、彼らがいるトーチカにまで迫る爆発を発生させた。
「やった!?」
「ちっ! まだだ……いや、待て、なんだ人型?」
精霊魔法の影響によってなにが来たのか正確にはわからなかったが、ようやく詳細がわかるようになってきた。
が、それによって自身の武霊から伝えられた情報にチャラ男は困惑する。
「おいおい。マジかよ……」
その言葉と共に、爆発により生じていた煙が唐突に晴れる。
トーチカの北側に寄って、視覚強化と共に転送球の方を見ていた他四人もそれを目撃して息を飲む。
「茶を飲みに来ましたぜ」
不敵に笑って現れたのは、ギルバート=レギウスだった。
ラスボス襲来!




