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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
3.黒い者と駆ける地下迷宮編
103/107

Scene102『ブレイド会議な日々』

 尊がトップになった武霊使い同盟ブレイドは概ね正しく機能した。

 一部のプレイヤーが参加を表明しなかったこともあったが、その者らが離れて行動しているかというとそうでもなく、結局は共にいらざるを得ないので問題になることはなかった。

 犯罪行為に関してもでぃーきゅーえぬという存在が、それをすればどうなるかという反面教師になっていた。

 そもそもそういう趣旨のことをしたいのであれば、そういうVRゲームに行けばいいだけの話なのでプレイヤーの中にその手の人物は少ない。

 とはいえ、問題が起きなかったかというと、人がより密接に強く集まればそんなことがあるはずもなく。

 時間加速化によるログアウト不能になってから二十八日目。

 本日はこれまでの活動成果と、各所で起き始めている問題についてのギルド長会議が武霊ネットを使ったVRAで行われることになった。

 直接集まって行うには集まる人数も多く、割り振られた役割から様々な場所に散っている。

 加えて狭間の森という物理的に隔離されている者達もいることもあり、基本的に会議はどこでもできるVRAを使うことが通例になっていた。

 「地上でのトーチカの完成と長距離攻撃を得意とする武霊使いのシフトも完成し、今のところ地下への侵入どころか地上への自動兵器を展開させることを許していない」

 この手の進行に慣れている鳳凰の報告から会議は始まる。

 「転送球の転移限界と配置を考えて、送ればどうなるかわかった上で自動兵器が送られてくるのを考えて、フェンリルはこちらがどういう体制を整えたかを探っているのだろう。いずれは集められた情報を下になにかしらの対策を打ってくる可能性があるが、だからと言ってなにもしないというわけにはいかない。単調な迎撃によって自動兵器管理プログラムの成長を遅延させる意味もある。故にここは既に完成しているといえる。勿論、対策された時のことは既に手を打っているので安心してほしい」

 そう言いながらその内容については語らない鳳凰に不満の視線が集まるが、話は別の方向へと移行させられる。

 明言はしてないが既にフェンリル諜報員の存在はこの場に集まったギルド長全員に分かるようにしていた。

 情報の秘匿性が必要な状態だとわからせておかないと、トップ同士の話し合いでは円滑に物事が進まないからだ。

 もっとも、そういう存在がいるだろうと予測できないような者にまでわからせれば、いずれはプレイヤー同士による疑心暗鬼を生み出すだろう。

 だが、既にプレイヤー全体の組織化も済み、状況が進んでいる以上は例え隠し続けたとしても遅いか早いかの違いしかない。

 そう判断したが故に、あからさまな秘匿を行っているというわけだ。

 勿論、これの開示を段階的に行って、諜報員のあぶり出しも忘れてはいない。

 こうした水面下での情報戦はこれ以外でも常に行われている。

 今のところ表面に出るほどの成果はブレイド側もフェンリル側も上がってはいないが、少なくともこちらはやりやすく向こうはやり難くなっているのは間違いないだろう。

 それ故に次のステップに進む余力が生まれている。

 「続いてだが、地下四階の探索は順調に進んでいる。全域のマッピングまでにはまだ時間が掛かるだろうが、それも近日中に終わるだろう。また同時並行で地下五階へのアプローチ準備も進行中だ。こちらはその準備と改造守り人の予定数製造が終わり次第、探索系ギルドを中心に行ってもらう予定なのだが……みなも聞き及んでいるだろうが、少し問題が起きている」

 鳳凰のその言葉と共にVRA画面にギルド長達以外の映像が表示される。

 簡易的な木の皿に盛られたスープ。

 二つほど提示されており、一方はゴボウらしき物などが入った全体的に茶色。もう一方は肉団子やニンジンらしき物が入った彩鮮やかな内容だった。

 「端的に言えば食糧問題だ。茶色いスープは狭間の森で作られている物、もう一方のはこちらで作られているものだが……見てわかる通り、この落差を知った狭間側のプレイヤーから不満が噴出し始めている」

 「うーむ。そう言われてもな。流石にわしら料理人でも材料がなければ同じようなものは作れんぞ?」

 鳳凰の問題提起に、ブレイドの食糧事情を担当している商業組料理人ギルド・国境無き料理団の団長・神室鉄人が答える。

 「それについては重々承知している。だが、今はまだそこまで大きな火種ではないが、いずれはより大きなものになりかねない問題ではある。深刻になれば今は順調に進んでいる各計画が滞り始めかねない」

 「VR量子とVR耐性か?」

 「ああ、既にログアウトせずに二十八日間もここにいる。そろそろ体調にまで影響が出るほどVR量子を消費している者も多くなってきているだろう」

 「特に戦闘系の奴らは消費が激しいからな。しょっちゅうわしらのところに食い物を求めに来るよ」

 「それもまた問題になりつつある」

 「食料はまだ潤沢とはいえんからな」

 「ああ。現状必要ない者まで食べさせるほどの余裕はない。汗などによるVR量子の放出であれば、水を飲むだけで直ぐに回復するからな。故にVR量子だけであればさして問題ないのだが……普段通りの行動ができないことによるVR耐性の現象もまた見過ごせないレベルになりつつある」

 VR耐性は個人個人で差異があり、対象者の精神状態やVRに対する認識なので常時変化する。

 そして、耐性値が一定のラインを下回ると強制的にログアウトされる仕様なのだが、今のティターニアワールドは時間加速によってログアウト不能状態になっている。

 これによってシステムが緊急避難として行っているのが強制睡眠だった。

 眠ることによって意識のリセットを行い、VR耐性に影響があるストレスを軽減させるというものだ。

 目覚めた時にはVR耐性値は元に戻っているというわけなのだが、この耐性値を測る基準がネックになりつつあった。

 初日にフェンリルが利用したように、過大なストレスで一気に急落することもあれば、いつも通りの行動を出来ずにいることで起きる減少もあるということだ。

 そして、その回復もまたしかり。

 「しかしだな。もう一度言うが、食料がなければいくら料理人でも料理は作れんからな?」

 「地下四階にて地上で見つかった以上の食料が発見されていると聞くが?」

 「いったい何人いると思ってるんだ? 皿一杯のスープでも全員なんて不可能だな」

 「なら地下探索に食料探索班も作るべきか」

 「それは構わんだろうがよ。こっちの状況だけ改善されても狭間の森の不満が強まるだけじゃないか?」

 「向こうでの食料改善もどうにかできないだろうか?」

 視線が狭間の森の代表である小河総一郎に向けられるが、苦笑が返ってくる。

 「あんな空が見えん森に食料があると思うか? 辛うじてゴボウや長芋的なのがよく見付かるが、だからと言ってそちらより潤沢とはいえんな」

 「でしたら、短期的な解決は諦めましょう」

 そう割って入ったのはそれまで黙って何事かを考えていた尊だった。

 「武霊の中に植物を司る子はいますか?」

 その問いに、ギルド長が答えるより早くその武霊が次々と自分がそうだと答える。

 若干不満そうな武霊使い達にちょっと困りつつ尊は続きを話す。

 「現状、地下四階以降の部屋は環境が再現されているものです。そして、そこから食料になりえる食材も見付かっています。それに伴って小動物も見付かっているのでしたっけ?」

 尊の問いに鉄人は頷く。

 「そうだ。前に少年に食べさせたのは、地下四階で見つかったリスぽい奴だったな」

 「り、リス!?」

 「うっはっはっ! だが、美味かったろ?」

 「そ、それは……はい」

 「なら問題なしだ」

 「そ、そうですね。えっと……とにかく、動物は無理かもしれませんけど、植物であれば精霊魔法で増やすこともできるんじゃないでしょうか?」

 「う~む……いや、肉もできるといえばできるんじゃないか? わしは無理じゃが、人工食肉の技術を利用すればなんとでもなるだろ?」

 「そうなんですか?」

 「しばしまて」

 どこかに確認しているのか、何人かのギルド長がVRA会議から姿を消す。

 ほどなくして、食料生産エネルギー生成システム・ジボシンに務めている者達がいることがわかり、彼ら経由で精霊魔法及び紋章魔法を使った食料生産プラントの開発が可能だと伝えられる。

 「でしたら、その開発を早急に行いましょう。そして、それが可能になったら、志願者を募って強制転送で資材や増やす食料を送るのはどうでしょうか? こちらの戦力が減ってしまうのは痛いですが、それ以上にこの問題を解決しない方が危険だと僕は思いますので」

 尊のその提案に異議が出ることはなかった。

 「この情報は即全面公開しましょう。実際に食べられなくても、いつかは食べられるかもしれないということがわかれば多少なりともVR耐性の回復に繋がるでしょうし」

 このように何か問題があれば直ぐにギルド長会議が開かれ、解決のための話し合いが行われるのだった。

 そして、ログアウト不能から三十三日目。

 事態が急変する出来事が起きる。

次話いよいよ今章の本筋が展開されます。

さて、今の執筆スタイルで果たしてうまく書けるかどうか……ちょっと心配なところです。


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