Scene100『そしてかつての英雄は世界の敵へと堕ちていた』
アメリカの国立公園にて、DEM最後の残党が極秘研究を行っているという情報がケルベロスからもたらされる。
大国とその施設独自の防衛網を組み合わせたセキュリティは強固であり、いかに歴戦の傭兵集団であるフェンリルとはいえ直接的な攻撃は不可能だった。
内陸であるが故に、大々的に動けばなにも知らない国を相手にしなくてはいけない。
下手すれば表から犯罪者扱いになりかねない上に、残党を支援しているのが国の内部に深く喰い込んでいる者達だったのだ。
これによって残党を始末するためには、施設外の表と裏を同時に攻撃する必要があり、フェンリルに対する支援・協力を行う余力はなかった。
そのためギルバートは単独スニーキングミッションを決行し、施設外への総攻撃が始まるまでに施設のセキュリティを無効化することを試みた。
厳重な警備を潜り抜けられる人数が一人であったが故の無謀は、DEM残党によって作られていた人工天才の子供達(Artificial Gifted Children)・通称AGチルドレン達によって妨害される。
なんとかそれらを退け、次々と保護していき、総攻撃が始まるギリギリとタイミングでセキュリティシステムを破壊。
駆け付けたフェンリルの仲間達と共に残党を追い詰めることに成功する。
だが、そこでアメリカ政府の暗部が正規軍を使って介入してしまう。
結果として人体改造されるためにさらわれていた子供達、既にAGチルドレンにされてしまった者達は助け出すことができたが、最後のDEM残党はアメリカに逮捕されるという事態になった。
DEMの技術を欲していた者達の表と裏の動きであるが故に、簡単に手出しができない場所に収監され、正規の手段で裁かれる。
こうして決着は闇で動いてきたPMScsフェンリルの手から離れることになった。
そして、同時に彼らは姿を消す。
表の社会に帰せないほどサイボーグ深度が高かった四人のAGチルドレンと共に。
「四人?」
「そうじゃ。フェンリルの下にいるAGチルドレンは日暮翼を合わせて四人おる」
「あと三人も……」
「言っておくが、どんな機械化能力、いや、AGモードか。は知らんからな」
「そうなんですか?」
「アメリカがAG技術の独占を図ったからの。施設も爆撃で破壊されとるから、あの子らのことはギルバートから保護していると聞いた以外は知らんのじゃよ。ただ、フェンリルの活動だろうと思わされるいくつかの事件や事故から鑑みるに、どの子も戦闘に特化しているAGモードを持ってるのじゃろう」
「改造守り人の四肢を奪うなんてことをしていましたものね」
「同じような話は半年ほど世界各地で続いておったよ」
「残党は不完全とはいえ、全て始末し終えたのにフェンリルの活動は続いていたってことですよね? しかも、支援してくれる小河さんとの接触を断って」
「理由はわからん。なにも知らせずに姿をくらませよったからな。ただな。推測はできる」
「限界ってあの時言ってましたよね? こうなる前にや、救うだけじゃ駄目だったとか」
「限界と問うたのは、機械的劣化のことじゃよ」
「機械的劣化? ……サイボーグ部位の?」
「そうじゃよ。いかに優れた機械化技術でも、劣化は避けられん。現在の医療技術に転化したものであっても、定期的なメンテナンスや交換が必要じゃ。多くのAGチルドレンは、AGから一般の義体へと変え、社会に戻っておる。だが、四人はその当時の医療技術はそれすらできないほどの深度になっておったのだろう。フェンリルに所属しておる連中も大体そんな感じじゃしな」
「フェンリルの隊員達もサイボーグなんですよね。そうじゃよ。わしらの中に潜入しておった時は、VR体を治療のために用意されたVR体を使っておったようじゃが、次会う時は本来の姿で来るじゃろうな」
「戦闘用DEM製サイボーグ体ってことですか……」
「しかも紋章魔法を組み込んどる可能性もあるからの。空想科学兵装とまではいかんでも、似たような強さを持っとると考えた方がいいじゃろう」
「そうですね……それで、フェンリルに保護された子達は隊員と同じように戦闘用の交換とメンテナンスを受けなくてはいけなかったというわけですね」
「そう連中も思っておったんじゃろうな」
「どういうことです? 同じDEM製なんですよね?」
「同じではあっても、第三次世界大戦当時より更に先に進んだ物じゃ。恐らくじゃが、フェンリルが持っていたDEMの技術ではどうしようもなかったんじゃないかの? だから世界中のDEMの遺産を奪取し回っていた。わしらには破壊しているように見せかけての」
「DEMの遺産……もしかして、簡単には利用できないですか?」
「そうじゃな。奴らの技術は狂気に染まっておる。転換する作業を変えさんと使いようがなく、そのまま一般に流せば余計なことが起きかねん。じゃらから、わしらであってもおいそれと使えんようになっとるからの。勿論、時間を掛ければ使えんこともないが……」
「それが待てないほど劣化が進んでいた?」
「戦闘に子らを参加させていたのは、使っている方が劣化しにくいからじゃろう。道具というのは使うことを前提にして作られとるからの」
「それで救うだけじゃ駄目だったってことですか?」
「そして、アメリカに拒絶されたんじゃろう。AGチルドレンを作り出した最後の残党であればなんとかなる可能性はあるからの。まあ、子らを犠牲にして使われた技術なんぞ、表に出ては国としての体面が危うくなるかの」
「スレイプニルさんがとかも言っていましたよね?」
「うむ。今の奴はアメリカ大統領をやっとるからの」
「ええ!?」
「なにもおかしいことはないじゃろ? 元軍人がアメリカの大統領になることなんぞ珍しいことじゃないからの」
「それはそうかもしれませんけど……ニュースでたまに見る人が知られざる超人特殊部隊出身って」
「まあ、奴は脳筋じゃったからの。正直、政治家に向いとるとは思っておらんかったが……案の定、暗部のコントロールもけん制もできとらん。まあ、ギルバートも言っておったが相手が悪いといえば悪いが、結果として奴に決断をさせる切っ掛けを作ってしまったことはため息が出るの」
「決断ですか……」
「仮に今の環境のままAGチルドレンを治療できたとしたらどうなる?」
「それは……その状況を暗部に利用される?」
「そうじゃなそうなる可能性は高かろう。なんせフェンリルは幾多の戦いで世界の中でもっともDEMに近い知識と技術力を持っとるからの。戦力としても自動兵器に依存している今の軍隊からしたら隔絶したものを持っとる。しかも、その存在は公にはなっておらんからの。暗部としてはいい手駒になるじゃろうよ。そんな奴らが、強力な戦力であるAGチルドレンを一般社会に帰すと思うか?」
「思いませんけど……子供を救うために今の世界に見切りをつけたと?」
「あいつはどこまで行っても甘いからの……子らのために世界の敵になるなんてことを選らばんなんてことはまずないじゃろう。なにより、このままではDEM残党を確保したアメリカ暗部を起点に、再び第三次世界大戦と同じことが起こらんとは限らんからな。結局、奴らが台頭したのは、今の世界じゃからと失望もしておるのじゃろう」
「……小河さんはどう思ってるんですか?」
「ん? わしか? わしは……まあ、どうしようもないと思っとるの。既に生まれてしまった技術はどうしたって世にあふれることは避けられん。それによって生じる欲望もな。仮に奴がQCティターニアを乗っ取り、世界中の自動兵器を使って世界征服を成し得たとしても、果たしてそれでなにが変わるというのかの? 今の世は、人が人であるが故にできてしまっている世じゃかの」
「人の世である以上、なにもかわらない?」
「既に老い、己の職からも退いたわしの見解じゃがな……さて、わしが話せるのはここら辺までじゃろう。空想科学兵装やフェンリルが所有する兵器などに関しては、一二三から情報を貰っておくれ」
「わかりました」
「では、聞こうかの」
「はい?」
「かつての英雄が世界の敵となった。その理由を知った尊は、どうするかの?」
悪役がシンプルに悪であるパターンも好きですけど、こういう複雑なパターンも好みだったりします。
かつての英雄がそのまま世界の敵になる。英雄だからこその悪落ちってのはある種のロマンがあるような気がしますね。まあ、毎度毎度そういう敵ばかり考えるのは疲れますけど。




