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武装精霊 RDO  作者: 改樹考果
prologue
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Scene0

 赤い警告灯に照らされ、警報が鳴り響く白い通路。

 その中を悠然と歩く異様な集団がいた。

 頭に漆黒のフルフェイスマスク。その身体に纏わせているのは、筋骨隆々のボディビルダーを連想させる人工筋肉で作られた同色のスーツ。手には、鍔の無い刀が握られており、周囲を警戒するように構えながら前へ前へと進む。

 そんな武装集団の中に、一人だけ素顔を晒している男がいた。

 光沢としなやかさを持った高級ブランドスーツを着込み、その上に白衣を羽織っている彼は、一言でいえばライオンのような人物だった。たてがみのように縮れ広がった黒髪、鋭く獰猛な顔立ち。それら外見だけでなく、いるだけで周囲を威圧するような存在感と、有無を言わさず支配してしまいそうな雰囲気を持ち合わせている。

 色々な意味でこの場に相応しくないその男は、武装集団に取り囲まれながら彼らと同じ方向に歩いていた。

 しかし、決して彼らに捕縛されているわけではない。

 むしろその逆、この白衣の男こそが、最新鋭の近代兵装を身に纏った者達を率いていた。

 彼の指示一つで全体が動き、それでいて彼を確実に守りながら、長い通路を進んで行く。

 行く手を遮るものはなにもない。だが、その代わりのように通路の各所に転がっているものがある。

 それは洋服店のディスプレイに使われているようなマネキン。に見える物体だった。

 ただの人形でないと断言できるのは、四肢や胴体を分断され、散らばっているそれの断面から、人工筋肉や骨格配線などが露出しているからだ。

 一体何十体分あるのか、先行する者達が蹴散らさなければ足の踏み場もないそれらを一瞥した白衣の男は小さくつぶやく。

 「『のっぺらぼう』とて、スタンドアローン状態ではただの『ノーフェイス』と変わらないか」

 どこか残念そうな言葉と共に、集団は通路を抜け、広大な空間へと出た。

 「おや? もう来たんですかい?」

 軽い男の声が、集団の進行方向上から発せられる。

 白衣の男がその声の主へと視線を向けると、そこには周囲を取り囲んでいる者達と同じ人工筋肉スーツを着ている人物が一人立っていた。

 彼のスーツは特別製なのか、その色はフルフェイスマスクも含めて赤一色であり、額部分に鋭い角のような物が付けられている。

 「ちょっと待ってくだせぇ」

 そう言う赤スーツが両手で握っている刀には、道中に見掛けたマネキン・のっぺらぼうが突き刺さっていた。

 刀身が胸から背中へと突き抜け、四肢は既に斬り飛ばされてなくなっている。そんな状態でも致命的なダメージを受けていないのか、芋虫のようにもがく。

 その無様な姿を楽しむかのように刀をグラグラ揺すった後、赤スーツの両腕が掻き消えた。

 次の瞬間には、胸から頭部まで斬り裂かれたのっぺらぼうが宙に飛び、刀は上へと振り抜けている。

 放物線を描いて落ちた残骸は、少しだけ身体を捻り、それでようやく動きを止めた。

 「お待たせしやした」

 満足そうに構えを解いた赤スーツに対して、白衣の男は片手で額を抑え、深いため息を吐く。

 「なんだその姿は? 勝手にカラーリングを変えた上に、なんの意味もない角まで付けて……」

 「そりゃ勿論――」

 「いや、いい。お前の冗談に付き合う気はない」

 白衣の男は再度溜め息を吐きつつ、赤スーツの周りを見回した。

 今、破壊したのっぺらぼうは勿論、同様の機体がバラバラに切り刻まれて四散している。

 その量は優に百を超えるそうなほどであり、通路以上に足の踏み場もない。

 道中も含めて、この場にあるもの全ての手に強力なスタン機能が付いた警棒や銃火器が握られているのだが、赤いスーツにはなんの跡もなく新品そのものに見えた。

 「最新鋭の『サムライスーツ』を着ているとはいえ、ここまでやるとはな……流石だ」

 そう言いながら、白衣の男はのっぺらぼうの残骸を踏みつけ、前へと進み出す。

 人工筋肉スーツ・サムライスーツを着ている者達に合流した赤い男は肩を竦めて見せた。

 「現代量子技術が父・『天野(あまの) 歌人(かじん)』が一番弟子・『城鍵(しろかぎ) 露騎斗(ろきと)』がチューニングしたサムライスーツを着ているですぜ。これくらいできない方がどうかしてますさあ」

 わざとらしく説明口調で語る赤いサムライスーツの男に、白衣の男・鍵城騎斗は呆れた視線を向ける。

 「褒めているつもりか?」

 「事実ですさあ」

 赤い男の言葉に、露騎斗は鼻で笑う。この男は、いつもこんな調子だからだ。

 のっぺらぼうの瓦礫の山を抜けると、そこには巨大なスライド扉が待ち構えていた。

 扉には『QCソロモン』と書かれたプレートが埋め込まれている。

 その文字を確認した露騎斗は、思わずといった感じで口角を上げる。

 「いよいよか」

 つぶやきと共に集団の中から扉の前へと移動し、そこに付いていたタッチパネルに手を触れた。

 「パラケラスス」

 その呼び掛けに応えたのは、その場にいる誰でもない。

 「「お任せください」」

 女性の声で返事があったのは、男が触れるタッチパネルからだった。ほどなくして扉がゆっくりと開き始め、サムライスーツ達からどよめきが起きる。

 「この程度で騒ぐな。行くぞ」

 開いた扉から、サムライスーツ達を先行させ、中に入る露騎斗。

 その部屋は大量ののっぺらぼうが配備されていた場所よりも更に広大な空間。広さもさることながら、見上げるほど高い天井は円形に作られており、ちょっとしたドーム球場以上はある。

 もっとも、この場は球場とは違い、ただ無機質で白い空間が広がっているのみ。

 そんな大広間に足を踏み入れた瞬間、露騎斗のみならず、サムライスーツ達さえその動きを止めてしまう。

 「馬鹿な!」

 露騎斗が驚愕の視線を向けている部屋の中央には、巨大なくぼみがあり、天井から無数の配線が伸びていた。

 だが、それ以外なにもない。

 色とりどりの配線コードを見ると、その先端は巨大な刃物によって一撃で斬り裂かれたかのような断面を晒している。

 その先に繋がっていたものを丸ごと持ち出したような光景に、呆然とする露騎斗達。

 「こ、これは、どういうことだ!?」

 ようやく振り絞った露騎斗の声に応える者はいない。

 「この場は常に監視していた。QCの本体が液体であるが故に動かすのが容易ではあるとはいえ、躯体ごとだと? こんなことが……こんなことが……これでは俺の計画が……」

 「露騎斗!」

 呆然としている露騎斗に、赤いサムライスーツの男が緊迫の声を上げる。

 衝撃から立ち直り切れてない露騎斗は、緩慢な動きで赤い男を見た。

 彼の顔が、部屋のくぼみにではなく、別の方向へと向けられていることに疑問を持った露騎斗は、その視線の先を追い、更なる衝撃に襲われる。

 「先生……」

 そこには白衣を着た初老の男性が壁に寄り掛かって座っていた。

 細い眉にややたれている目。白髪交じりの尖るように整えられた髪型。鋭さのある細い顔付き。常にどこに行くでもきっちりと白衣を着こなしている細い身体。

 どう見ても、露騎斗が師事する、現代量子技術の父・天野歌人その人だった。

 「な、なぜここに? あなたはアメリカに……なぜ……そんな……」

 目的のものが消失していた以上の衝撃を受け、うわごとのように呟く露騎斗。

 何故なら、座り込んでいる歌人は、その顔の穴という穴から血を流し、その場に血だまりを作っていたからだ。

 着ている白衣を真っ赤に染め、一切身動きを取らないその姿の下には、身体の面積以上に広がる赤黒い池ができていた。

 「死んじまってる」

 一目で致死量だとわかる血を見た赤スーツの言葉を肯定するかのように、鉄さびに似た血の匂いが、露騎斗の鼻孔を刺激した。

 「あなたがいなければ、俺の計画は……」

 受け入れがたい事実だが、揺るぎようのない目の前の現実に、露騎斗の身体が震える。あまりにも想定外な事態の連続に、この場にいる誰しもが沈黙するしかなかった。

 静寂がこの場を支配したその時、

 「きゃあああああああ!」

 不意に女性の悲鳴が部屋に響き渡った。

 露騎斗が振り返ると、部屋の入口には白衣の女性がいた。

 鋭い眉にややたれている目。三つ編みでカチューシャを作っている肩まであるロングヘア。鋭さのある細いその顔付きは、恐怖で歪んではいるがそれでも美人であるとわかるほど整っており、また、死んでいる初老の男性にどこか似ている。

 「『天野(あまの) 遥歌(はるか)』!?」

 露騎斗に名を叫ばれた白衣の女性だったが、全く聞こえていないかのように、おぼつかない足取りで部屋の中へと入ってくる。

 「お父様……お父様!」

 その視線は血だまりの中に座っている歌人へと向けられている。

 何度呼び掛けても反応がない父の姿に、不意に遥歌は歩みを止め、視界の隅に映ったであろう露騎斗を睨み付けた。瞬間、猛然と飛び掛かろうとしたが、それに反応した赤いサムライスーツの男が素早く背後に回り、腕を捕らえて拘束してしまう。

 それでもなお飛び掛かろうとする遥歌は叫ぶ。

 「人殺し! 人殺しぃぃいいいい!」

 明らかに遥歌は誰が殺したのか勘違いしたようだったが、それを否定する証拠も気力も露騎斗にはなかった。

 ただ茫然と遥歌を見るしかできない。

 それほどまでに露騎斗は打ちひしがれてしまっていた。

 そんな彼の耳に、不意にパラケラススの声が入る。

 「「僅かですが反応を発見しました」」

 「なん、だと!?」

 その報告に目を見開いた露騎斗は、手だけで叫び続ける遥歌を黙らせるように指示。

 「ちょいと失礼しやすぜ」

 などと断りを入れた赤いサムライスーツの男に口を押えられ、ぐぐもった声しか上げられなくなった遥歌を横目に、若干慌てた様子で問いを口にする。

 「どういうことだ? 躯体はなくなっているのだぞ?」

 「「ですが、これは間違いなく『ソロモンゲート』の反応です」」

 「馬鹿な! どうやってオンライン状態を維持しているというのだ」

 「「わかりません」」

 「ええい! そのことは後で調査する。その反応が在った場所はどこだ!」

 「「『武装精霊』です」」

 パラケラススの答えに、露騎斗は再び目を見開き、遥歌を見た。赤いサムライスーツに口を抑えられながら自分を睨んでいる彼女を凝視した後、歌人の死体に視線を向けつぶやく。

 「これは……あなたの意思ですか先生?」

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