第8章
夢を見た。
私の夢の中で顔がわからなかったけど、固い約束を誓った。
「何回、生まれ変わっても絶対に見つけ出してやるから」
「絶対に見つけてね。」
「あぁ約束だ!」
「この桜の花を大切に持ってる。貴方と思って……。」
「愛してる。」
二人はずっと抱き合って約束を交わした。
この温もりも大きな手も貴方の声も忘れないから……。
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……ぅっ……。
ちょっと寝返りをしたら何かにぶつかった。少し寝ぼけてウッスラと目を開けてみた。私、変な夢だったな……とか思い返し寝起きで頭が回らなかったけど私、自分の部屋じゃない。
あっそうか、忘れてた!
幕末にいるんだった。
って言うか手を握ってるのは……。
ひゃっ!土方さん。
「起きたか?」
「はい……。お……おはようございます」
ひゃっ!土方さんと手を握ってる!
しかも一緒に寝てたんだ。
寝顔とか見られてなかったのかな?
「寝相が悪くてビックリした(笑)」
「えっ?本当ですか?」
恥ずかしいって言うか何もかも恥ずかしい!寝間着がぐちゃぐちゃになってるし
「それだけ乱れてたら見るつもりなくても見えたぞ(笑)」
本当に穴があったら入りたい!
確かに寝る前も適当に着たから起きたらぐちゃぐちゃはわかるけど土方さんがバッチリ見たのは何ですか?
ちょっとムスッとなっちゃったから唇をとがらせ『アヒル口』をした。
それを見逃さなかった土方さんは
アヒル口を摘まんで悪戯っぽく
「そんな顔するとそんな口になるぞ(笑)
」
「んーんっん!」←痛い
珍しい生態としてからかわれる!
土方さんの寄ってくる女子は綺麗に着飾ったり大人の色気がプンプンと漂う方々を相手にしてると私なんてチビで化粧っ気もなく着物もしっかりちゃんと着れず品も無ければ手のかかる『おチビ』なんだろうな……。
やっと摘まんでた唇が解放されヒリヒリ痛かった。
「めちゃ痛いんですが腫れてませんか?」
少し切れ気味で言ってしまった
「どれ?見せてみろよ。」
さりげなく土方さんは私の顎をクイッと上向きにし、接近距離がお互いの息がかかるかってぐらいだから目を合わせるのも恥ずかしすぎて真っ直ぐ視線を向けれなかった。
こんな事って土方さんは慣れてるんだろうな。
だから普通に私に触れたりからかったりと簡単に出来るんだろうな。
「ひ……土方さんは、わ、わ、私の反応を楽しんでるんでしょ!唇は痛いし土方さんの周りの綺麗な方達に比べたら確かにチビで意地悪するのにピッタリな存在ですが……痛い」
「ごめんごめん(笑)まだヒリヒリするのか?」
「……。」
と無言の私の顔に土方さんの顔が……。
「……んっ」
「これで治るだろ?」
今、触れたような何があったのかパニくってる私。
頭の思考回路が停止……。
「早く支度しないと朝飯ないぞ」
「はっは……はい!」
土方さんは何もなかったかの様な態度で話すから私が逆に対応に困るんですが。
「着物を用意してたからそれを着れば良い」
着物と言っても今、目の前にある着物は簡単に着れる着物じゃなく本格的に着る着物。
どうやって着れば良いんやぁ!
また幽霊みたいな着崩れになってしまう。
帯も簡単な仕組みの帯じゃなく自分で結ぶ帯が用意されていた。
「どうしよぅ……」
「はぁ、そうなるかと思ったが……」
ですよね……。
ショボンとしていたら
「おい山崎、着せてやれ」
と土方さんが山崎さんを呼び、呼んでまさか天井から登場するとは思いもしなかったのでビックリした!!
「わいが愛美さんの着物、着せちゃるわ。たまに女装して調査しやんとアカン時あるからな。」
「はぁ……おねがいします」
山崎さんってあの『山崎丞』なの?
はじめまして。じゃないけど写真で見た山崎さんのイメージが全然違う感じで小柄で顔つきも中性的な人。
潜入調査とか変装も大変なんだろうな。
「山崎さん……。」
「なんや?」
「聞き慣れた話し方やったから嬉しくなって(笑)ホンマに朝からスミマセン!」
「自分も河内の方か?」
「河内ではないんやけど、うち泉州の方やねん」
「ほなわいの言葉もわかんねんな」
「めちゃ親しみあるから落ち着くわ。着物、ちゃんと一人で着れる様にはよ覚えんな」
「せやな、わいも屯所おらん時あるからな。ほい!出来たで」
「ごめんな!ありがとう」
「はよ覚えてもらわんとわいも男子やからな(笑)アカン事思ってまうわ」
そう言い残し、また山崎さんは天井に戻っていった。
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「えらい山崎となかようしゃべってたな」
プフッ!土方さん、馴れない関西弁で笑いそうになったけど
「そうだったかな?関西弁やったからそんな感じで聞こえたと思うよ」
「ふぅ~ん……。なんか俺の時はよそよそしい様に聞こえるが……。」
うわっ土方さんって結構嫉妬深い?
「あの……食事の準備、手伝ってきます」
私は部屋を離れ台所に向かった。
道中、向こうから歩いてくる3人組。
あっ3馬鹿トリオって話の3人ね。
原田さん、藤堂さん、永倉さん。
「おはよう愛美ちゃん」
「おはようございます」
「着物似合ってるね」
「ありがとうございます」
スタスタと廊下を歩いて行った。ら、
「おい見たかよ!めちゃ可愛かったぞ」
「当たり前だろ。だって俺が可愛いから連れて帰ったんだろ」
「毎日、愛美ちゃんの飯が食えるとか幸せだよなぁ」
そんな大きい声で話してるトリオの会話が聞こえてくる、けど土方さんの部屋にも聞こえてそうな勢いで怖かった。
まるで学校の廊下みたいなノリでやっぱり普段は普通なんだって思った。
「お前らうるせえぞ!」
「「「副長スミマセン!」」」
やっぱり聞こえてたみたい。
幕末じゃなかったら普通の高校生とかなんだろうな。
台所に着くと井上さんが支度をしていた。
「おはようございます。遅くなってスミマセン!手伝います」
「おはよう。愛美ちゃん、まだ馴れないけど少しずつでいいからお願いするね」
「はい!頑張ります」
優しいなぁ。
お膳を運んだり広間と台所を何回も往復していた。
体力には自信があったのに着物だから小走りになってしまうし結構大変な労働だった。
「手伝いましょうか?」
「はい……えっと」
「齋藤です」
マジですか?齋藤一さん、写真と全然違うって言うか実物と肖像画と似てないやん。この時代の人ってイケメンばっかりやん(笑)
「齋藤さんに手伝わすとか出来ません」
「いや、本当は当番制で愛美さんが来た日からマズイ飯を作るやつは当番から外されて……」
と言うことは、齋藤さんは料理当番から外されて……。
「笑わないでください。愛美さんにも苦手な事もあるでしょ?僕は駄目なんです。」
「大丈夫ですよ。少しだけ運んでもらえたら嬉しいです。」
「それなら手伝わせてもらおう」
齋藤さんはそう言うと私が手にしてた味噌汁の鍋を持ってくれた。
本当を言うと味噌汁の鍋は辛かった(笑)
齋藤さんって良いとこ取りなタイプみたい。タイミングの良い感じで世渡り上手なんかな?
広間に沢山の人が集まりだした。
もうそろそろかな?
土方さんも呼ばなくちゃ。
「近藤さん、おはようございます。あの……土方さんを呼んで来ます」
「おはよう、トシのやつ朝帰りか?」
「……。行ってきますね」
否定できなかった。違いますって言いたかったけど昨日はお酒の席って事もあって、あえてスルーしないと。
「土方さん、食事の準備ができました。」
「ああ、入れ」
「はい。失礼します」
襖を開けると沖田さんもいた。
顔を見て昨晩の事を思い出してしまった。膝の上に座らせられあれこれ大胆な事を……。
「愛美ちゃん、おはよう。着物も可愛いね。」
「おはようございます。……。」
沖田さんは昨晩の事をどう思ってるの?
私だけが覚えてるとか?
思い出しただけで赤面しそうで隠すのに必死だった。
「総司、そういう事で頼むぞ」
「分かりました。報酬はみたらし団子で良いですよ。」
「……ちっ。」
パタパタと私が逃げる様に広間に向かった。
3人トリオと食事しよう♪
めちゃ楽しそうでオカズの取り合い(笑)
いつも勝つのは原田さんらしく負けるのは永倉さんらしい。
そんなやり取りを見ながら私は朝御飯を食べていた。
何となく土方さんと目が合った。
昨日と違い今日は機嫌は悪くなかった。
沖田さんの時と違う……。
沖田さんと私がダメなのかな?
この屯所の人達は普段は普通の人なんだ。私が生きてる世界は平和で幕末を少し恨んでしまった。こんな笑顔が消える歴史に残ってる事件。
今、笑顔の人が消える。
切ない気持ちだった。