第22章
いつの間にか眠ってしまった私にそっと布団をかけてくれたのはトシさんだった。
「にやけながら寝やがって(笑)」
起こすと寝顔が見れないので暫く寝顔を見ていた。
「……トシさん家族写真撮ろうよぉ……」
ドキッ!俺の名前?家族?
愛美って夢の中でどんな夢を見てるか想像はついた。
俺と家族か……。
俺には幸せよりかっちゃんと故郷を離れる時に心に誓った事がある。
一生を捧げて京に上洛したのに愛美が未来から来てから『幸せ』を求める様になってきた。
「明日の命も保証もないのに……」
手離したくないモノが二つ。
愛美がいつ未来に戻るのかも解らないけど戻らないかもしれない。
俺は欲張りなのだろうか……。
二つを手にしたいけど愛美を悲しませる事もやがてやってくる。
こんな気持ちになるなんて……。
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「うーん!よく寝たぁ」
はっ!布団が掛けられてる。
トシさん、部屋に戻って来てくれたのかな?あぁ……しまった‼
新年会の途中に寝るとか、のぶ姉さんの見送り出来なかったとか、後片付けしてないとか最低やん私!
ガバッと起きたらトシさんも私の横に座り眠っていた。
「起きたか?」
「うん、ごめんなさい」
「謝る事ない。疲れてしまったんだろ?姉ちゃんは来るし芹沢と合同で宴会だったからな」
「トシさん……。私ね」
言いかけた時、そっと私の頬に触れ
「準備しろ、初詣行くぞ」
「うん!初詣行く♪」
準備が出来たのでトシさんに
「出来たよ♪どぉかな?」
トシさんに買って貰った簪にリップだけど少し塗って
「紅は俺と出掛ける時だけにしとけよ」
「うん!」
この無邪気な愛美が可愛いんだよな……。
やっぱり可愛い///////////。
微笑んで俺に向ける笑顔が可愛い過ぎる。
「ちゃんと着いて来いよ。」
「はいっ!」
元旦の町は人で賑わっていた。
私には右も左も解らないからトシさんの袖を掴み
「はぐれそう……。」
「仕方ねぇな、今日だけだぞ」
トシさんが私の手をとりしっかり握ってくれた。
嬉しい!トシさんと手を繋いで歩くってタイムスリップに感謝感激‼
こんな気持ちも夢の中で何時かは終わりになるなんて……。
だけどこれも平成に戻ったら思い出になるなら満喫しようかな。
テクテク歩いているけど視線が気になる。
やっぱりトシさんと私は釣り合わないのかな……。綺麗な人がトシさんを見てる。
それにしてもこんなに人が多いと思わなかった。
「愛美はやっぱり目立つな」
「 チビなのに?」
「そういう意味じゃねぇよ!手繋いでて良かったかもな」
「?」
首を傾げながらも考えてみる。
そっか‼この髪の色が目立つのかも。
純日本人ですが(笑)
異国の人と間違えられてるとか(笑)
神社に着き賽銭の順番を待ちながらも私には幕末の人が新鮮に感じて思わずキョロキョロしてしまった。
「あっ!」
最悪……。最悪最低な人物を発見。
桂、坂本、岡田、吉田にお竜さん……。
お互いに初詣に来たのは仕方ないけど近付いて来る桂小五郎に寒気がした。
トシさんに隠れる様にしていたけど見付かったらしく私達の方に向かって歩いて来る。
「トシさん……、私こ……怖い」
「あぁ……。大丈夫だ」
半径1メートルまで近付いてきた。
先に言葉を発したのは
「明けましておめでとうございます。今年もよろしゅうに」
お竜さんだった。
「以蔵、ちゃんと挨拶しなさい」
「///////////。あ……ま……」
えっ?人斬り以蔵って感じもなく赤面しまくって恥ずかしいのか何なのか普通にウブな男子やん(笑)
今、笑っちゃったのバレたかな?
「あの……え、え……」
「?」
90度に首を傾げてしまった(笑)
笑ってはいけない。
歴史には書いている人物は私の思ってた人斬りの『闇に生きる』みたいな感じが全然なく照れ屋な人だった。
「美しき姫、会えて嬉しい」
うわっ!寒気全快になるような言葉……。
苦手以前にキモい。
流石にトシさんと手を繋いでいるので今日は強引にされる事もないけど
「おい、桂が言ってた姫って異人か?」
吉田さんが私を珍しく見ながら言ってきた。異人って……。しかも勝手に『姫』とか言われてるし‼
「姫の唇を何度思い出したことか……。はぁ……、運命的な出会いと思ったのに」
トシさん……。ちらっと見たけど意外にトシさんは怒ってもなく笑顔で交わしていた。と、思ったけど目は怒ってる
「あ……あのぉ、わ私、土方さんと「悪いが俺の妻には手を出さないで頂きたい」
えっ?『妻』って
トシの笑顔が怖いです。
「旦那に飽きたら俺が満足させてあげるからね」
キモいって!!!
もぅ本当にイヤ!
早く去って頂きたい!
「桂の勝手を許してください。私達はこれで失礼します」
冷静なお竜さんが私に謝り一同は去って行った。
「桂は長州藩だ。いずれ決着をつける日が来る。愛美、気分は大丈夫か?」
「気持ち悪い……。」
決着は私も知ってる。
『池田屋事件』
『暗殺計画』
あの人たちは敵なんだ。
桂はあの様子じゃまだ何も幕府派に対して仕掛ける様子もなく脱藩した連中の集まりしかまだなかった。
せっかくのデートなのに!
くそっ!桂のせいで……。
私が斬ってやりたい!
と、言っても剣道は5段の腕でも本物の刀なんて模擬の時にしか使わなかったし
「もう考えるな!俺が守ってやるからな、安心しろ。」
と、こんな人ごみの中で肩を抱いてくれた。
トシさん……。私の事を『妻』と言ってくれた。その場しのぎの言葉であっても本心じゃなくても私、幸せ。




