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第63話 自己満足な恩返し

 地元で誇れるところは?

 と聞かれて困った時があった。

 これといった明確な名産品があったり、有名人の生まれ故郷であるなどがあればそれを口にすれば良いのだが、残念ながら我が地域にそんなものはない。

 しかし、奴はこう口にするのだ。

「何言ってるの。ここはパワースポットの聖地でしょ」

 いや、初耳だ。

 十数年ここに住み続けているがそんな話聞いたこともない。こいつの与太話なのか、それともその界隈では有名なのかは定かではない。

「またそれか。てっきり、そういうのは辞めたのだとばかり思ってたが」

「何を言っているんだか。パワースポット巡りに終わりはない。これは常識」

「お前の中の常識なんて知らないけど、部活の奴と行ったらどうだ? どんな部活動をしてるかは知らないけど、魅雨姉のおかげで今があるんだからさ」

 徐々に部員数を増やしているようで噂を耳にするようになってきた。最近は何やら忙しそうにしているようだ。

「言われなくても部活動はちゃんとしているわ。それよりも、今回は貴方について来て欲しいパワースポットがあるの」

「そういえば、そんな話だったけか。けど、のんでこのタイミングで?」

「このタイミングだからこそよ。言っておくけど私は他の連中とは違って節穴じゃないの。貴方が決めようとしていることを。そしてポッと出の私はそもそも選択肢に入っていないこともね。だから私は良く効くパワースポットを紹介してあげようというわけ」

「それはありがたいが、何というかその……」

「何?」

「いや、お前がそんなに親切だと逆に怪しいというかーー」

 あの自己中パワースポットな琴陵がこうも優しいと何か裏があるのではないかと訝しんでしまう自分がいる。

「別に怪しまれようと構わないわ。これは単なる自己満足だもの」

「自己満足?」

「ええ。私が貴方の家に来ることになる経緯を話していなかったけど、実はパワースポット巡りをしている最中に天坂 晋也に出会ったからなの」

「親父がパワースポットに? それじゃあ今も何処かのパワースポットにいるのか?」

「それは私にもわからないわ。でもあの人は正義感の強い素晴らしい大人だと私は思っているわ」

「あの親父が⁉︎」

 琴陵が他人を褒めるとは珍しいが、その対象があのチャランポランとは耳を疑う。

「あの人の働きは称賛に値するものだと誰の目から見ても明らかだったわよ。とはいえ、あの事件が公になることはないでしょうけどね」

 あの事件って何?

 どうやら危険な匂いがプンプンするのでそこは触れないでおこう。

「そんな親父の紹介だったから我が家に引っ越す決意をしたと?」

「ええ。あの人は私を助けてくれた恩人。それに条件付きとはいえ、この街で活動するために必要な拠点を用意してくれたのだもの。本人の所在がわからない以上、あの人も息子である貴方を助けて恩返しをしたことにしようという私の自己満足よ」

 何という恩返しの叩き売り。

 これだから自己中は嫌いだ。

「俺はその自己満足に付き合わされるために貴重な時間を使う羽目になる……と。まあ、付き合うけどさ。それで、いつまでこの階段は続くんだ?」

 琴陵に案内されて現在も上っている最中なのだが一向に先が見えてこない。

 運動不足の俺にはかなりの苦行だが琴陵は顔色一つ変えずに上っている。

「間もなくだ。男なら弱音を吐かずに黙ってついてくること」

 それから十数分。

 目的地へとたどり着くとそこにはオンボロな祠があった。どうやらここがパワースポットのようだ。

「これは?」

「この祠には心の霧を打ち払う神様が眠っているの。まだ答えが出せてないなら、ここで貴方の中にある霧を晴らしてもらえば?」

 祠の前に立ち、手を合わせようとするがそれは直前で止まった。

「いや、辞めておく。これは神に頼ることじゃない。俺が決めることだ」

 そう言うと来た道を戻る興。その背中を見て琴陵は溜息を溢す。

「どうやら余計なお世話だったようね」

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