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第62話 晴奈の覚悟

 いつか大きな選択を迫られることがある。

 それを決めるのは困難なことだが、最終的に自分で決断をしなくてはいけない。

 魅雨姉は自分の将来について大きな決断を下した。それが良い結果を招くかどうかはまだわからないが人生というのはそんなものだろう。

 俺もまずは目の前にある放置され続けた選択をしようと精進している最中なのだが、晴奈に連れて来られたのは病院。

 彼女の兄であり、俺のことをライバル視していた奴が入院をしているからだ。前回も一度だけ一緒に訪れたことがあるのだが、どうやら回復に向かっているようで晴奈も最近は足繁く通っているらしい。

「それにしても良かったじゃないか。目が覚めたら色々と取り戻すのは大変だろうけどな」

 病室で長居するわけにもいかないので少し様子を見て途中で買った花を花瓶に刺して中庭にあるベンチに腰をかける。

「でも激しい運動は無理そうだってお医者さんが言ってた。だからテニスはもう……」

「そうか……。またもう一度テニスをしたかったんだがーーまあ、あいつならきっとケロッとラケット握りながらキザな台詞を吐くようになるさ」

 ライバルーーだったらしい俺が言うのだから間違いない。

「あんたはテニスはもうしないの?」

「色々と忙しいからそれどころじゃないな。たまに遊ぶ程度ならするが、お前みたいにがっつり部活をするってのは無理だろうな」

「けど、大学生になったらどうせ時間あるでしょ? それだったらサークルに入ってやるとかあるじゃん」

「大学……ねぇ。正直、まだそこまで考えてないな。魅雨姉は結構前から決めてたみたいだけど。一年ってそこんとこどうなの?」

「私は推薦で入ろうと思ってるから大会で優勝できるように頑張ってる。愛華は頭良いし、お金持ちだから何処にでも入れるだろうけど私と同じところに行くの一点張り」

「それなりに考えてるんだな。俺なんて大学行くかどうかも悩んでるのに……。それこそテニスどころじゃないよ」

「もうやらない?」

「多分ね。何でそんなにテニスをやらそうとするだ?」

「だって私がテニスをするきっかけはあんただったから」

「俺が? そうだったのか。全然記憶にないんだが」

 てっきり兄貴の影響で始めたのだとばかり思っていたのだが、まさかそうだったとは。というか俺といつ出会っていたのだろうかーーどんどん自分の記憶を信じられなくなってきた。

「でしょうね。私は名前まで覚えたのにそっちは全然みたいだったし」

「わ、悪かったって。でも何で今更なんでそんなことをーー」

「これが最後のチャンスだと思ったから。ほら、あんたが決めようとしてるからそれで色々変わるのかなって」

「ああ、そういうことか。別に変わらないさ。今まで通りお前たちは我が家に住めば良い。だから何も気にする必要ないぞ」

「ふ〜ん。あっそ」

 心配事がなくなったせいか晴奈はいつもの素っ気ない感じに戻った。こいつに関しては何故かこっちの方が落ち着く。

「この際だから言っとくけど、私はあんたよりも強くなるから」

 それだけ吐き捨てると病院を後にする晴奈。相変わらずの上から目線に興は頭を掻き毟る。

「いや、今でも十分に強いと思うんだけどな」

 晴奈は薄汚れたボールを見て中学時代に出会ったとあるプレイヤーを思い出す。

 兄に連れられて行った大会で飛んできたボールから助けてくれて、その後格好良く優勝した男を。

「絶対に超えてやるから」

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