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第59話 デート開始

 デートの定番とは?

 と聞かれると困るのだが、恐らくここは数ある候補の中に必ずしも入るであろう。

 多くの人が集まるが、何故かそれが気にならず自分たちの空間を楽しめるこの場所で二人は目の前の光景に感嘆の声をあげた。

「神秘的ですね興様」

 日光の輝きで煌めく水の中で漂う魚たち。それを眺めながら歩くというのは不思議な感覚に陥り、まるで自分も魚になったような気持ちになる。

 ここは日の丸水族館、その目玉の一つであるトンネル型水槽である。距離が他の水族館と比べ長い上に魚の種類が豊富だということで有名らしい。

「確かにこれはすごいな」

 今日から連続デートが始まる。これが終わったら友和あたりから質問責めにあうだろうが、そんなことはどうでも良い。

 俺にとってこれからの時間は重要な意味を持ってくる。あんな奴のことを考えている余裕などない。

 しかし、これ程までにも静かなのは水族館だからではなく虹咲グループの力によって貸し切り状態であるからだ。

 毎度のことながらこいつはやる事なすことが大きい。男として入場料を払わせるどころか、こうして貸し切り料金を払わせることになるとは……。

「それにしても何で水族館なんだ? 確かにデートの定番ではあるけど」

「覚えていませんか? 一度だけ二人で来たことがあるんですよ。もっとも、その水族館は残念ながらなくなってしまったようなので」

「そうなのか……。悪い、昔のことはあまり覚えてなくて」

 どんどん大人になっていくにつれ、小さい頃の記憶は薄れていく。印象的だったことは覚えているのだがそれ以外は言われてもまるで思い出せない。

「大丈夫です。これからたくさん思い出を作っていけば良いんですから。これはその一つですわ」

 満面の笑みで肯定してくれる彼女。

 最初は突然の許嫁として我が家に転がり込んできて対処に困ったものだが、この笑顔にはいつも救われてきた。

 まだ答えは出さなくて良いのだと。

 けど、もうこの笑顔に甘えるのはやめた。

「なあ、突然で悪いけど俺はもう逃げたくないんだ。もしかしたらお前の望む結果にはならないかもしれない。それでも答えは出す」

 先延ばしにはしない。

 友和はそんなに焦らなくても良いんじゃないかとも言ってくれたが、それは自分のためにも他のみんなのためにもならない。

「はい。でも、今は楽しみましょう。これはデートなんですから」

 こちらから誘っておいて仏頂面でデートをしていたらお互いに楽しくない。わざわざ貸し切りにしてくれたのだから満喫しようではないか。

 とはいえ、イルカショーといった大勢で見るようなものをたった二人だけのために開いてもらうのも忍びないのでそれ以外を見ることにした。

 水槽のトンネルを抜け、順路に沿って歩く。道中は八恵の目を惹く魚たちが並び、それを目にするたび彼女は目を輝かせた。

 終着地点であるレストランに着いた頃には二人ともヘトヘトの状態になっているのは言うまでもない。

「今日は楽しかったですわ。また二人で来ましょう」

 遠くにある水槽を眺めながら優雅に食事をしながら他愛もない会話を楽しむ。こいつとの会話は時たま疲れる時もあるが何だが自然と落ち着く。

 覚えてはいないが昔会っていることがあるからかそれともーーいや、決めつけるのは時期尚早か。

「ああ、その時は貸し切りはなしで頼む」

 意外にもいつものようなアピールはなかった。こいつのことだからデートとなるとより一層激しくなるものだと思ったが、どうやら俺の思い過ごしらしい。

 デートが終わり、解散した後に八恵はとある人物から問いかけられる。その正体は今しがた別れた興の妹である。

「良いの? 一番にお兄ちゃんにアピールするって言ってたけど、あれじゃあ、意味ないんじゃない」

「関心しませんわね。人のデートを盗み見とは。ですが、興様の妹君ということで大目に見て差し上げますわ」

「随分と余裕なんだね。許嫁だから?」

「いいえ。私は許嫁という肩書きに頼ることはやめましたの。興様に許嫁としてではなく、虹咲 八恵として見てほしいですから」

「ふ〜ん。私にはわかんないや」

「それよりも貴方はどうなんですか? 貴方も興様を慕っているのでしょ」

「そりゃあ、お兄ちゃんだもの。この世にお兄ちゃんが好きじゃない妹なんていないもの」

 これはあくまで個人の意見であり、異なる場合がございますのでもし兄のことが嫌いな妹がいるという方の批判は一切受け付けておりませんのでご了承ください。

「いえ、妹としてではなく一人の女性としてですよ」

 その問いに華蓮は口を噤んだ。

 天真爛漫で明るい彼女が普段しない思いつめた表情を見せながらもすぐにいつもの調子に戻す。

「それは関係ないことだよ。私はお兄ちゃんの妹。それ以上でもそれ以下でもないんだから。じゃあ、私は準備があるからこれで」

 嵐のように颯爽と立ち去る華蓮。それを眺めながら八恵は誰にも届かないと知りながらも今回のデートで思ったことをそのまま口にする。

「難儀な方ですわね。まあ、そんなところも興様に似ていますけど……。でもあの子もきっと知ることになりますわね。興様が既に答えを出しつつあることに」

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