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第57話 女子会議

 天坂家。

 つい昨年までは二人暮らしであったとは思えないほどの賑わいを見せていて、隠し通すのが難しくなってきた今日この頃。

 リビングに神妙な面持ちで家主以外の者たちが集まり、机に置かれた各々の携帯を見つめていた。

 どれも同一人物からのメールが開かれた状態でこの緊迫した空気はその内容が原因である。

「きちんと皆様にもこのメールが届いているということは興様は本気のようですわね」

「ああ。どういう心境の変化があったかは姉である私も知る由もないが、このデートの誘いを受けるかどうかは自由と記載されている。そして順番は早い者順らしい」

「お兄ちゃんもやる時はやるね〜。私は信じていたよ」

 どこか遠い目をする妹。それを尻目に幼馴染は問いかける。

「それで、皆さんはこのお誘いを受けるんですか?」

「ここでそれを言及する必要があるのかと私は疑問に思うが、気になるのもまた事実。ここは参加するか否かだけでも把握しておけば後々問題が起こらないだろう。それでは参加しない者は挙手をしてくれ」

 結果は全員参加。誰も手を挙げようとしなかったのである。

「へ〜、ゆきねんが参加するのは意外だな〜。私はてっきり恋愛ごとには興味ないかと思ってたのに」

「興味ない。でも、一応彼は恩人。礼を言う良い機会だから」

 メールにはデートという単語は出ていない。二人きりで出かけないというお誘いであり、雪音はデートという意味合いとして捉えていた。

「ふ〜ん。それで順番はどうするの? 一斉に送ってお兄ちゃん困らせてみる?」

 楽しそうにイタズラな提案をするがそれは利他的な姉によって静止された。

「いや、ここはちゃんと話し合って決めよう」

「なら私は何番でも良いから抜けさせて。これから『世界パワースポット発見』が始まるから」

 返事を聞く前に自室へと戻っていく雪音。この自由奔放さには流石の魅雨も驚いたが、それならばと話を進める。

「それなら残った私たちだけで話し合うとしようか。では順に何番が良いか教えてくれ」

「もちろん、一番ですわ。真っ先に興様にアピールして他のライバルと差をつけませんと」

「私は里沙ちゃんの後なら何番でもOKだよ」

「私は日曜日なら何番でも。その日なら兄貴も空いてるだろうから……」

「わ、私はーー」

 そこで里沙は言葉が詰まる。

 この状況に戸惑っているからだ。何となく手を挙げなかったが自分が興とデートをしたいかどうかはわからない。

 八恵のように大胆で自分の気持ちのように素直にはなれない。興と一緒にいると心の奥がポカポカするが、これは恋なのかそれとも幼馴染としての感情なのかーー。

「まだ期限はある。それまでに考えておいてくれ」

 結局、その場は雪音以外が参加するということだけが決まった。

 その後、言葉に詰まった幼馴染の部屋に華蓮がやって来た。これからのことについて相談するために彼女が呼んだのである。

「やっぱりいきなりは戸惑うよね。お兄ちゃんは何を考えているんだか……」

「華蓮ちゃん……ごめんなさい。私、自分でも思っている以上に優柔不断みたい」

「そんなところも似てるんだねお兄ちゃんと。けど、お兄ちゃんは決めたよ。いや、これから決めるって感じかな」

「華蓮ちゃんは怖くないの?」

「怖い? どうして?」

「だってこの件が終わったらきっと今のままではいられないから」

 それはあの場にいた者たちは全員悟っていた。誰かが選ばれたらそれ以外の人たちはこの場にはいられないかもしれないと。

「でも、ずっとこのままってわけにもいかないよ。大丈夫大丈夫、私がバッチしサポートするから。それともお兄ちゃんが誰かの手に渡るのを指を咥えて待ってるの?」

 いつまでもこの状態は続かない。

 そういう結果になる未来も訪れてしまうのだと華蓮は少し脅し気味に言うと里沙は大きく首を横に振った。

「それじゃあ、決まり。私が良い順番になるように根回ししておくから、それまでに心の準備しといてね」

 嵐のように去る彼女の後ろ姿を見送り、静けさを取り戻す。

「私も覚悟しないとだよね……」

 机の上に置かれた幼い頃の写真に目を向け、小さく呟いた。

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