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バレンタインデー特別編

 バレンタイン。

 それは男性にとっては貰えるか貰えないかで状況が一変し、女性にとっては大切な人に想いを伝える特別な日。

 天坂家でもその準備が着々と行われていた。




《理紗の場合》


 幼馴染として興と長い間一緒にいた。

 なのでバレンタインチョコを渡すのは当たり前のようになってきている。だから彼女にとってそれを渡す渡さないかで悩むことはない。悩むとするならどんなチョコレートを作るかである。

 興は最低でも自分を含めて五個のチョコレートが貰えるはず。

 つまりいつものような普通のチョコレートでは印象が薄くなってしまう。幼馴染だからといって油断してはいけない。

 勝って兜の緒を締めよ、と言う。

「いつも以上に頑張らなくちゃ」




《八恵の場合》


 虹咲グループには有名な高級チョコレートを使用したスイーツを販売している店がある。

 つい最近、テレビで取り上げられ人気を博しているそのお店はバレンタインに向けての新商品を準備中なのだが一流のパテシエたちに紛れて八恵の姿があった。

 彼らたちと自分とでは雲泥の差がある。だが、確かに彼らたちに作らせれば自分より美味しいチョコレートを作ってくれるだろうがそこに愛はない。

 そもそも八恵は興にチョコレートを食べて欲しいのではない。気持ちを伝えたいのである。

 今まで散々アピールしてきたが成果はなし。

 だが、だからこそこの絶好の機会を見逃す手はない。彼女はいつも通りに興に喜んでもらえるように努力を惜しまない。

 そこで八恵はパテシエたちによる新商品の開発に潜入してあわよくばアドバイスをもらい、一工夫してしまおうという算段である。

「興様、待っていてくださいませ。最高のバレンタインチョコレートを作ってみせますわ」




《魅雨の場合》


 彼女は才色兼備で女性からは憧れの的、男性からは高嶺の花と見られているがそんは彼女にも欠点がある。

 それは料理が絶望的に下手だということ。

 どのくらい絶望的かと言うと卵焼きを作ろうとすると黒いスクランブルエッグになるくらい。しかも味はこの世とは思えないものでまさかに『暗黒物質』。

 今では天坂家に住む者たちにとってそれは周知の事実で誰もが彼女に包丁を握らせまいとしている。

 そんな彼女に手作りチョコレートはあまりにもハードルが高いが誰かに教えて貰っても結局大半がその人に作ってもらうことになるのは自覚している。そしてそれでは意味がない。

 気持ちを伝えるのは手作りが一番。たとえ下手でも下手なりに腕を振るって弟に感謝の意を示そう。

 そう決意し、彼女は台所に立った。

「よし……」




《晴奈の場合》


 部活一筋の彼女にとってバレンタインという甘ったれた行事には興味ないが日にちが近くにつれ、周りの女子たちはその話題で持ちきりだ。

 しかし、彼女にとって渡す異性は兄と現在世話になっている家主であり兄のライバルであった天坂興しかいない。

 だが彼女が渡す義理はない。だからバレンタインなど気にせず、部活に打ち込むがどうにも調子が悪い。サーブも入らないし、やけにボールがネットに引っかかる。

 流石の晴奈もその積み重ねで苛立ちを隠せないでいる。そしていつもの帰り道、ふとコンビニが目に入った。

「何でこんなことを……」




《華蓮の場合》


 妹からのバレンタインチョコはインパクトが弱い。それは家族からのプレゼンであり、異性からのものではない。

 特にアイドル稼業をしていて何回か渡しそびれてしまったことあるのでその分を取り返す。

 そのためには飛び切りのものを用意しなくてはいけないがいつもよりも勝手が違う。

 幼馴染の里沙だけでなく、許嫁を名乗るお金持ちのお嬢様、更には姉や後輩など強敵が増えている。

 アイドルをしていて異性を魅力する技術は身についた。だがそれは肝心の相手にはまるで効果はなく、焦りを感じていた。

 そこにこのバレンタインという大イベント。

「お兄ちゃん、妹の底力を見せてあげる❤︎」




***




 二月十四日。

 来たる日は来た。

 まず最初に顔を見せたのは八恵。朝早いというのにやけに嬉しそうにしている。

「興様、どうぞ私の愛を受け取ってください」

「お、おう……。ありがとな」

「実はこの日の為に修行してきましたの。早速、食べてみてください」

「いや、悪いけど流石に朝からチョコはな。それに食べるなら皆で一緒にだ」

「むぅ〜、興様がそう仰るなら……」

 八恵を諌めてリビングへと足を運ぶと我が家の住民が各々チョコを用意して待ってくれていた。

「お兄ちゃん、おはよう。今日はみんなからプレゼントがあるよ」

「ありがと。ん? これは……」

 手作りの包装された中で一つだけ十円で買えるようなチョコが置いてある。

「別にあんたの為じゃないから。他が渡すっていうから渡すだけ。勘違いしないでよ」

 それを手に取ると里沙たちの目の色が変わる。

「興くん。今回は自信作なんだ」

「わ、私も手作りに挑戦してみたんだ。」

「お兄ちゃん、可愛い可愛い妹が作ったチョコなんだよ。兄として食べないと全妹に謝罪ものだよ」

「いえいえ。私が一番最初に渡したのですから私からです」

 いつも以上に騒々しい。

 だが自分しかいない我が家よりも断然良い。少し疲れる時もあるが寂しい思いをすることはない。何故なら彼女たちがいるからだ。

 興はその幸せを噛み締めながらチョコを口の中へと放り込んだ。

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