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第35話 初恋相手と謎の少女

 初恋。

 俺のそれは随分と前に遡る。

 今となってはその頃の記憶はとても曖昧だがその初恋の相手の顔は覚えていた。

 だがその人は引っ越してしまい、もう会うことはないだろうと思っていたがまさかこんなところで出会うことになるとは運命とは数奇なものだ。

「嘉納 美由です。短い間ですがよろしくね」

 簡単な自己紹介を終えて教室は拍手で包まれた。気のせいか男子は気合を入れて拍手をしている。

「おい、興。何見惚れてるんだよ」

「別に見惚れてなんかない」

 ただ懐かしんではいたかもしれない。彼女はもう覚えていないだろうけどあの頃の記憶はとても大切なものだから。

「そう恥ずかしがるなって。他のクラスの連中も実習生が美人で喜んでるらしいぜ」

「へぇ〜」

「興味なさそうだな。お前は家には美少女がたくさんいるからもういいってか⁉︎」

「そんなこと言ってないだろ。てか相手は実習生だぞ」

 本人が言っていたが期間は一、二週間とかなり短い。たとえ親しい間柄になったとしても必ず別れがくる。それならいっそ……と俺は考えてしまうのだが。

「関係ない。男ってのはいつだって素敵な女性を探しているのさ。そこに地位とか年の差があったとしても」

「じゃあ興くんは男じゃないね。昔からそういうのには疎いから」

 唐突に横から割って入ってきたのは何故か昨日から元気が戻って来たように思える里沙。

「里沙、こいつの言うことは八割嘘だから気にするな」

「今回に限ってはそうじゃないと思うけど。今回は」

「え〜、お二方俺の扱い酷くね?」

「気にくわないなら日頃の行いを見直してみろ。お前また宿題忘れただろ」

 今朝、提出をしていなかったのは友和一人だけ。常習犯だから先生もまたかという顔だったのは印象的だ。

「それは姉貴のせいなんだよ。俺は暇で暇で仕方なかったから宿題でもやるかって思った頃に邪魔してきてよ。興は遊びにこないのかって駄々こねて大変だったんだぜ」

 大変だったのは何件も送られたメールから察している。

 だが残念ながら三連休は全て予定が埋まっており、メールの返信すら忘れていた。これは友和だからとかではなく純粋に忘れていた。

「夏芽さんが? また何か嫌なことがあったのかな。今度寄ってみることにするよ」

「そうしてくれ。このままだと俺の身が持たない」

 夏芽さんはたまに情緒不安定になるから大変だ。それは何度か体験しているから友和の気持ちは痛いほど分かる。

「んで、里沙は俺に用があって来たんだろ」

「またまた。いくら幼馴染ったってテキトーなこと言っちゃいけないぜ。俺の魅力に気づいた女子たちが耐えきれずに教室まで来ちまったんだろ」

「実は晴奈さんが呼んでるんだけど今大丈夫?」

 隣でキメ顔をしてたアホは放っといていい。これはいつものことだから。

「ああ。にしても教室まで来るなんて珍しいな」

 我が家でもだが晴奈とは基本的に必要最低限以外のことでは話さない。それに部活のこともあって同居はしているがまだ彼女のことを良く知らない。

「なんでも紹介したい人がいるみたいだよ」

「な! まさかこれ以上にまだハーレムの輪を拡大させる気か」

「前にも言ったけど違うって」

 傍から見たからそうなのかもしれない。前に魅雨姉が言ってたけど一つ屋根の下で年端もいかぬ男女が同居をするのはまずい。

 だから俺もこれ以上我が家に同居人を増やすつもりはない。

「ちょっと、まだ?」

 待ちきれなかった晴奈は興たちの教室へと入って来た。

「ごめんごめん。それで急にどうしたの」

 そそくさと急かされるままに廊下へと出るとそこには恐らく紹介したい人がそこにはいた。

「いや、この子があんたに会いたいって言うから」

 晴奈とは対照的に肌は雪のように白く、横で束ねられた髪もそれと同じ色をしている。何とも不思議な雰囲気を醸し出すその少女は小さな声で呟きながらぺこりとお辞儀をした。

「はじめまして」

「じゃあ、私はこれで。あ、それと……」

 晴奈は興に耳元で囁くようにこう忠告した。

「気をつけて。この子普通じゃないから」

 そのまま帰って行く晴奈。

 なんだか面倒事を押し付けられた気分ではあるが他の誰でもない俺に用があるらしいから無下に出来ない。

「え、え〜と何か用があるんだよね」

「天坂 興。天坂 晋也の息子で間違いないわね」

「あ、うん。そうだけどどこでそんなことを?」

 晴奈から聞いたのか? いや、でも何のために。

「そんなことどうだっていいでしょ。ここだとなんだから場所を変えましょう」

 疑問と違和感を抱いていると目の前の少女は涼しげな顔で吐き捨てた。

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