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第34話 長かった三連休

 さて、酷い目に遭った。

 俺の財布の中はまるで友和の頭の中のようにスカスカ状態だ。これは俺の小遣いで生活費は別にちゃんとあるが……。

「はぁ〜〜〜」

 自然とため息が出てしまう。

 すると隣で座っていた里沙が心配そうにこちらを覗き込んできた。

「大丈夫? やっぱり今日はもう休んでたら良かったんじゃあ」

「いや、流石にお前だけ仲間外れってのはまずいだろ。他の奴ら……特に華蓮はうるさいからな」

 華蓮と里沙になついてるから里沙がいいと言ってもどこかへ連れていかないと文句を言ってくるに違いない。兄としての勘がそう囁いている。

「にしても本当にこんな所で良かったのか? 別に遠慮しなくてもお前の行きたい所に連れてってやるぞ」

 ここは我が家から歩いてそう遠くないところにある公園。特に目立った遊具もなく、ここで遊ぶ子供はあまり見ない。

「そんなに気を遣わなくていいよ。私はここに来たかったんだから」

「ここに? ここって確か、小さい頃に良く遊びに来てた公園だろ」

「うん。良く覚えてるね」

「まあな。華蓮と一緒にここで遊んでたこともあるし」

 というかここあれだ。魅雨姉がナンパされたところ+そのお母さんを説得した公園だ。

「にしてもこんなところで何をするわけでもなく散歩って、古臭いな」

「ふ、古臭いって酷いな〜。悪い?」

「別に悪くはないさ。お前が好きな文句なんて言わないし、お前のやりたいようにやればいいさ」

「私がやりたいように……」

 少し黙って俯く里沙。

 何か思うところがあったかもしれない。

「なんてかっこつけすぎか」

「うん。なんかほんとにおじさんに似てきたね」

「やめろってその話は」

 本当にあのクソ親父の話はしたくないし、聞きたくもない。最近は近況報告のメールも無視している。

「ん〜、もうそろそろおじさんのこと許してあげたら? 確かにおじさんはちょっと自由奔放でいろいろあったけどさ」

「あれは許すとか許さないの問題じゃないんだよ。それに気にしなくても今度帰って来たらちゃんと話し合うから」

 特に住民が増えてしまったことについては仕送りをしてもらっている身として報告する義務がある。

「それならいいけど……ん? あの子、興くんをずっと見てるね」

「どの子だよ」

 里沙が指差した方向には人の姿はなかった。

「あれ? さっきまでいたんだけど」

「気のせいだろ。それか、こんな何もない公園に人がいて珍しがったんじゃないのか?」

 今はもう夕方。小学生の子がいてもいいのにこの公園は閑古鳥が鳴きそうなほど人がいない。そこに俺と里沙だけ。ふと視線をこちらに向けるのは不自然ではない。

「そんな感じじゃなかったと思うんだけど……」

「それより明日は学校だ。ちゃんと宿題やってあるのか?」

「それはこっちの台詞だよ。やる暇なんてなかったんじゃないの?」

「四六時中、あいつらの相手してるわけじゃないから空いた時間にやってあるさ。俺が心配なのはお前なんだけどな」

「私⁉ ちゃんと宿題やったよ」

 里沙は心外だと言わんばかりの大声で否定する。それに対して興は首を横に振った。

「いや、そこは心配してない。友和じゃないんだから。心配なのは最近お前無茶してることだ」

「そ、そんなことないよ。むしろ興くんの方が無茶してるでしょ。一人暮らしでも大変なのに五人と一緒に住むことになったんだから」

 作る料理の数、洗濯物、それらは一人暮らしの比ではない。流石にこれは興一人では無理なので仕事を分担している。

「んなこと言ったって仕方ないだろ。てか、お前もその五人の中に入ってるからな」

 あの時は本当に驚いた。

 華蓮とかならともかく、里沙が強行手段に打って出るとは。

「う……。ごめんなさい」

「謝るなよ。お前にはいろいろ手伝ってくれてるから感謝してるんだ。ただ度が過ぎたら駄目ってことだけを言いたくてな」

 疲れて倒れでもしたら目も当てられない。きっと華蓮に怒られるだけでは済まされない。

「うん。そういえば魅雨さんがお料理の勉強してたから少しは楽になるんじゃない?」

「そ、そうなんだ。魅雨姉料理の勉強してるんだ……」

 どうしてだろう? 急にお腹が痛くなってきた。

「どうしたの顔色悪いけど」

「問題ない。それより料理はいつも通り俺と里沙でやるぞ。他の皆は忙しいだろうから」

 華蓮は残念ながら料理出来ない女子だ。ちゃんと教えればそれなりにはなるだろうが今までがアイドル稼業で忙しかっただろうからそれは後でいいだろう。

「いいけど、何を焦ってるの? そういえば魅雨さんが興くんに味見役をしてほしいって……」

「そうだ! 買い忘れてたものがあったんだ。ちょっと行ってくるから先に帰っててくれ」

 最後は逃げる形となったがこれで長い三連休は終わり、明日からは学校。

 いつものように登校。またいつものように面倒な授業が始まるはずだったがどうやら人生は俺を休ませてくそうなく、俺のクラスに教育実習生がやってきた。

 それもただの教育実習生ではない。彼女は俺の初恋の人だった。

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