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第33話 お見舞い

 月日ヶ丘中央病院。

 我が家から歩いて一時間。遠くにあるため頻繁に通うのは困難だが今回は晴奈のお願い? なので同行している。

 三階にある奥の一人部屋。そのベッドの上に過去、ライバルだった男が眠っている。否、起きれないのだ。

 ベッドの脇にある花束やら色紙、千羽鶴は彼の人気さを物語っている。

「結構この状態が続いてる。医者が言うには望みは薄いだろうって」

「そうなのか。でもこいつは昔からとんでもないことをやってのけるから医者の言う事なんて当てにならないぞ」

「それもそうかもね。狸寝入りしてるだけかもしれないし、もしかしたらいきなり起きたりするのかもね」

「晴奈はその……よくこうして会いに来るのか?」

「ううん。部活で忙しいからあんまり来ない。でもたまには顔出さないと可哀想だし、あんたをここに連れて来たかったし」

「そっか。でも忙しくても来てやれよ。見る限り、見舞いに来る友人には恵まれてるみたいだけどやっぱ家族ってのは特別だから」

「でも迷惑じゃない。こう見えても兄貴は人気者でそのお見舞いを邪魔しちゃあ……」

 いつも自信ありげなのにこの時だけは少し萎縮しているように思えた。

「何があったのから知らんが俺は妹が見舞いに来ない方がよっぽど嫌だけどな」

「……シスコン」

「サラッと酷いこと言うな。とにかく、部活で忙しいのは分かるけど出来るだけ様子を見に来てやれ。俺も時間あったら自転車で連れてってやるから」

 正直言うとここまでの道順を知らなかったから晴奈に歩きながら教えてもらったが毎回一時間歩いてここまで来るのは面倒だ。まさかこんな遠いとは思わなかった。知っていたらはじめから自転車で来ていたものを。

「なんだよ。俺の顔に何かついてるか?」

 自転車で来なかったことを軽く後悔していると晴奈は不思議そうな顔でこちらを覗き込んでいた。

「あんた、兄貴が言ってた通りの人だなって思って」

「おい、一体妹に何吹き込んだんだよこいつ……」

 絶対ろくなことを言っていない。容易に家であることないこと語っている様子が想像出来る。

「私的には自転車貸してくれるだけで助かるけど」

「兄妹揃って身勝手だな。こいつもそういえば……いや、愚痴は起きてから本人に言うためにとっておくか」

 ここで言っても虚しいだけだ。それなら楽しみは後にとっておくのがいいだろう。それに兄の威厳を保つために妹の前でこんな話をするのもなんだしな。

「じゃあ帰ろ。もう用事は済んだんだから」

「もういいのかよ。折角だからもう少しくらいいてやってもいいだろ」

 来てまだ十分程度しか経っていない。見舞いにしてはかなり早すぎると思うが。

「まだ起きないんだから十分いても一時間いても一緒でしょ。だったら早めに帰ってあんたの方の用事済ませた方がいいと思ったの」

「ふ〜ん。俺のこと考えてくれたんだ」

「なっ! ば、馬鹿! 違うわよ。ただ単に私が早く帰りたいだけ。勘違いしないでよ」

 頬を赤く染めて慌てふためく晴奈。

 分かりやすいなこいつ。

「はいはい。そういうことにしとく。じゃあ、ちょっと急ごうぜ。あの道をまた引き返すのは気が遠くなりそうだが次は何も決まってい分時間が欲しいからな」

 少し不機嫌そうな晴奈は病院から出ると急に準備体操を始めた。

「じゃあ競走するわよ。負けた方がジュースを奢るってことで」

「いや、ちょっと待て。まだ俺道完璧に覚えたわけじゃないし、それに今日は本調子じゃないかというか……」

 一時間歩いてまださほど立っておらず足はまだ悲鳴を上げている。この状態で走ったら明日筋肉痛になるのは確実だ。

「男の言い訳なんて聞きたくない!」

 颯爽と走る晴奈。俺はその姿を捉えることで必死で我が家に着くまでに追いつくことは敵わなかった。

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