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第31話 ありのままで

 カーテンが開くとそこには詰襟(つめえり)で横に深いスリットが入っており、白くて長い足が見える紫色のチャイナドレスを着た魅雨姉の姿があった。

「お客様、とてもお似合いです〜☆ 彼氏さんもそう思いますよね?」

「あ、ああ……似合ってる」

 やはりスリムな魅雨姉なだけにチャイナドレスはさらにそのスタイルの良さを見せつけるような形になっていて、何よりすらっとした足が横から見えるのがなんとも言えない。

「ジ、ジロジロ見るな。これは動きやすいが足がスースーして落ち着かないんだ」

 深いスリットが入っているから浴衣のように動きづらくはないが、その代わりに露出部分が多いのが不満らしい。

 だが本当に似合っている。

 友和がナース服がどうとか言っていた理由が今なら分かる。

「気に入りませんでした〜? 彼氏さんは気に入ってたようですから一着いかがですか?」

「いりません! 一体いつ着るというんだこんな服……」

 確かに、これを部屋着としては使えないだろうしこの姿はあの四人にも見せられない。八恵や華蓮あたりは面白がって同じようなやつを着そうで怖い。

 その光景を友和が見たら泣いて喜ぶだろうが俺的には遠慮したいというのが本音だ。

「なるほど、普段着られるものが欲しいと。ならこれなんてどうでしょう?」

 と、おもむろに魅雨に突き出されたのは華蓮が喜びそうなヒラヒラがついた白いエプロンドレスとその下に着る黒い衣装が合体した、いわゆるメイド服である。

 律儀にも頭飾りであるホワイトブリムまである。

「そんなもん着れん!」

 店員さんがビクッと体を震わせて驚くほどの大声で、全力で否定した。

「なんかここに誰もいない理由が分かった気がするな」

 ここのスペースはどうやら店長のオススメというよりコスプレコーナーといった方が正しいかもしれない。

「お客様はどうして服を探してるんです? 私の長年の経験によると無理して可愛いものを探している感じなんですよね」

「そ、そうだが……」

 興と一緒に何かしたいと思ったのは本心で無理などしていないがこの服探しは華蓮に勧められてのことで、実はあまり乗り気ではなかった。

 多分、着せられた服がチャイナドレスだろうとメイド服だろうと結局は買うことはなかっただろう。

 もちろん普通の服であってもそうだ。

 何かを買いたいと思ってこの店に入ったわけではないのだから例えどんな服があったとしても買うことはない。

「無理してもお客様が求めているものは見つかりませんよ」

「ならどうすれば?」

 今まで母親から自由を奪われ、こうして外に出て遊ぶのが久しぶりで何をしていいかさっぱり分からない。

 だからといってこうして他人に聞くのは良くないとは思ったが聞かずにはいられなかった。

「ただお客様はお客様がしたようにすればいいだけですよ」

 ニッコリとそう答えてくれた店員の言葉にようやく自分はここにいるべきではないと気づき、店を出た。

「それでこれからどうする魅雨姉、華蓮から教えてもらった店に行くか?」

 コスモ以外にも華蓮がお勧めの洋服店はメモにいくつかあるがどれも魅雨には合わなさそうなものばかりだ。

「いや、やめにしよう。あの店員が言っていたように私は無理をしていたみたいだ」

「なら魅雨姉が行きたいところに行こうぜ。その方が休日を有意義に過ごせるからな」

 せっかくの三連休だ。

 全て潰されるこちらとしても楽しく過ごしたいというのは当たり前の考えだし、何より魅雨姉に満足してもらいたい。

「そうだな! よしそうと決まれば行ってみたい所があるんだ。ついて来てくれるか興」

「当たり前だ。今日は魅雨姉の為に来てるんだ。どんなに遠くてもついていくさ」

 そうして連れてかれた場所は最近新しく出来たスイーツ店で中は女子ばかりで俺は浮き浮きまくっているがとりあえず魅雨姉と同じチーズケーキを頼んだ。

「ここのチーズケーキは絶品だとテレビでやっていたんだ。興と甘いものは好きだろ?」

「ああ、たまに自分でつくったりするしな」

 まだ華蓮と里沙以外に食べさせたことはないが、それくらい甘いものは大好きだ。

 しかし、そこから話は盛り上がらず、ただチーズケーキを待っているとおもむろに魅雨が口を開いた。

「興……色々ありがとう。その、こうしていられるのは興のお陰だ。母さんを説得してくれたんだろ?」

「げっ! なんでそのこと知ってるんだよ」

 あのことは友和にしか言っていないし、あいつは意外と口が堅いはずなのだが……。

「母さんから聞いた。やはり父さんはまだ許せないようだが、君になら私を託せると言っていたよ」

「なんだ結局あの人、魅雨姉のこと大事に思ってるんじゃん。素直じゃねーな」

 散々偉そうな態度をとっていたがそれじゃあまるでツンデレじゃないか。

「まあ、いいではないか。それより親公認なんだ、これからもよろしく頼むぞ」

「おう、任せとけ」

 胸をドンっと叩くと同時に頼んでいたチーズケーキが到着した。

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