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第3話 許嫁は突然に

「い、許嫁ってあの許嫁?」

「はい、あの許嫁です」

 どうやら聞き間違いではないらしい。

 我が家に俺の許嫁がやって来たのだ。

 よく見ると背中には大きなキャリーバッグが置かれていた。

「え〜と、でも俺君のこと覚えてないんだけど」

「仕方ありませんわよ。十年以上も昔の話ですから。そう思って写真を持ってきましたので見てくださいまし」

 ポケットから取り出されたのは大人二人と子供二人が見覚えのある家の前で笑顔で写っている。

「確かにこれは昔の俺だ。あ! 光哉(みつや)おじさんもいる。一体いつの写真だ?」

 オレンジ色の髪の子供、これが今俺の目の前に現れた彼女なのだろう。

 その後ろに立っている金髪の男性は良く知っている。

 何故なら彼こそが親父の親友であり、馬鹿でかい我が家をくれた張本人であり、世界的に有名な虹咲グループの社長、虹咲 光哉だからだ。

「この家が建った時の記念に撮ったものです。私と興様が出会ったのはこの時でしたね」

「でしたね、と言われても俺は覚えてないって言ってるだろ。でも、まあ許嫁……か。いかにも親父が勝手に決めそうなことだな」

 多分、酒を飲んで気分良くなってそんなこと口走ったのだろう。

 全く、子の気持ちも知らないです呑気なものだ。

「え? ああ、興様は本当に何も覚えてないんですね。少し残念です」

「ご、ごめん。でもいきなり許嫁とか言われてもなぁ〜。丁度今朝、親父が外国に出かけたから確かめようがないな。というか君はどうして俺の家に来たの?」

 許嫁で、昔会ったことがあるのは写真が証明しているがそれを伝えるだけにわざわざ来た訳ではないはず。

「あ! はい。実は明日から興様と同じ学校へ通うことになったので街を下見しておりました」

「へ〜、転校してくるのか。……というか君は何処に住もうとしているのかな?」

「勿論、この家ですわ」

 何の躊躇なく、キャリーバッグをひいて我が家へと入ろうとする。

「なんで⁉︎ 探せばいくらで見つかるのに何故ここを選んだ?」

「興様と一緒に住めるのはここだけですから」

「いやいや、さっきにも言ったけど親父は外国に行ってしばらく帰ってこないだよ。だから一つ屋根の下、男女が一緒に住んでることになるんだぞ?」

 何かする気はないが高校生でそれをするとなると傍から見たら、かなりいけない方向に勘違いされてしまう。

「それを狙っております」

「狙ってるの⁉︎ でも泊める気はないぞ」

 いきなり許嫁だから、といって我が家に勝手に引っ越してくるのはとても困る。

 相手が誰であろうと絶対に断る。

「そんな……ここ以外に私の居場所はないんです。お願いします」

 態度を変えて八恵は両手を合わせて上目遣いをして強請(ねだ)る。

 その視線からは訴えというよりも願いが強く、何よりこの幼気な少女を放っておけなかった。

「うっ……、分かった分かった。お前は何言っても無理そうだ。それにどうせこの家は俺一人が住むにはデカ過ぎる」

 ぶっちゃけ、何故ここまで広くしたのか謎なほどで部屋なんかは両手では収まり切らないほどの数だ。実際に使っているのは片手で数えられる数で手付かずの部屋が幾つかあるのでそれを使えばいい。

「八恵です。ちゃんと名前で読んでください。昔は八恵ちゃん、興ちゃんと呼び合った仲ではありませんか」

「虹咲さん……じゃ駄目?」

「八、恵、です」

「や、八恵……さん」

 迫力に負けて観念するもやはり久しぶりとはいえ一切覚えていないので何となく照れてしまう。

「ふふっ。そうですそうです。何だか興様にそう呼ばれると昔を思い出します。私、興様に会うのが楽しみで楽しみで夜も眠れなかったんですから」

「そ、そうか…とにかく中に入ろう。その荷物の整理とかしなくちゃだし」

 八恵のキャリーバッグは興の親父の物より一回り大きく本当にここに住むつもりなんだなと思い知らされる。

 玄関の鍵を開けてそのキャリーバッグを持ち上げて適当な部屋に入ってそのど真ん中に置いた。

「よっ……と。仕方ないから余ってるこの部屋使ってくれ。場所が気に入らなかったら他にも空きがあるから言ってくれ」

「間取り的には問題ありません。ですが私、ベッドでしか眠れないんですよ。明日にはここに届く予定なんですけど……どうしましょう」

 ここに届く予定、って俺が承諾すると分かっていたなこいつ。

 いや、今はそれはいい。聞かなかったことにしよう。

「なら俺がソファで寝るからに……八恵は俺の部屋のベッド使えよ」

 一階のテレビの前にあるソファは親父のお気に入りだが別に使っていて怒られたことはないし、ちょっと使うくらいなら許されるだろう。

「いいえ。興様に迷惑を掛ける訳にはいけません。両者が得をする方法があります。今日はそれでこの状態を打破しましょう」

 しかし、そんな真面目なこと言いながら八恵が提案したのは……。

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