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第29話 観覧車と不公平

「さ、次に行きましょう」

 八恵はたった一つのアトラクションで満足などせず、一直線にジェットコースターの前まで連れてかれた。

「こ、これはなかなか……」

 見上げるとそこには客を乗せたジェットコースターがてっぺんまで登り、途中で一瞬止まったとみせかけて一気に落下して行くというありがちな光景があった。

 これはお化け屋敷とは違う怖さがある。

「このジェットコースターは人気で長い時は五時間待ちもあるのですが今日は空いているようですわね」

 一目見た時は我が妹が登校している時のことを思い出すほど混んでると思ったがこれでも空いているとなるといつもは一体どれだけ人が集まるのか……考えただけでも頭が痛くなる。

「ああ、そうだな」

「興様どうしました? 顔色が優れないようですけど」

「何でもない。気にするな」

「はぁ……、そういえばこれもおじ様が制作に参加したとお聞きしておりますわ」

「本当にあいつは一体何をしてるんだ」

 お化け屋敷といい、親友である八恵の父親を手伝っているだけなのだろうがそれが出来てしまうのが怖い。

 我が親父ながらどんな仕事しているか一切話してくれないのでブラック的なのをしているのではないかと心配になってくる。

「ここも予約してありますのですぐ乗れますわ」

 待ち時間はこのアトラクションにしては珍しい一時間待ちだったが、八恵にとってはその時間も勿体無いらしい。

「じゃ、じゃあ乗るか」

「興様……足が全く動いておりませんが」

「ち、違う。ちょっと金縛りにあってるだけだ」

 自分でも分かるが今は非常出口のマークの人のような形のまま固まってしまっている。

「まさか伊勢海老の呪い⁉︎ 私たちが持って行かなかったことを憎んで……」

「いや冗談だからその話を掘り返すのはやめてくれ」

 気分的に伊勢海老という単語を聞くのも、それ自体も見たくない。

「もしかしてですけど興様、ジェットコースターはお嫌いですか?」

「うーん、お前に意地張っても仕方ねーな。そうだ、俺はジェットコースターが大の苦手だ。小さい頃に親父と一緒に乗った時に落っこちそうになって、それからジェットコースターに乗るが怖いんだ」

 いわゆるトラウマというやつで今でもジェットコースターの前に来るとその記憶を思い出してしまい、さっきのような不甲斐ない感じになってしまう。

「そうなのですか。意外ですわ」

「笑いたきゃ笑えよ。男の癖にかっこ悪いだろ」

 女子なら可愛いがこれが男だと弱虫みたいに思われてしまう。俺はそれが嫌で隠してきた。

「いいえ、そんな事はありませんわ。誰にでも得手不得手はあるものです。それを恥じる必要はありませんわ。それに、私は今凄く嬉しいのです」

「嬉しい? 何がだよ」

 別に八恵が喜ぶようなことをした覚えなどないが。

「はい。私の知らない興様を知れましたから。なので私も興様が知らない私を見せていくつもりですわ!」

「気持ちだけ受け取っておく」

 俺もまた俺の知らない八恵を知れたから。




***




 結局、ジェットコースターは諦めて他のアトラクションに行くことにした。

 メリーゴーランドやコーヒカップ、カートなどに乗ったりして遊びた尽くして、気づいたら夕日になっていて、俺たちは最後に観覧車に乗っている。

「興様、夕日が綺麗ですわ」

「ああ、そうだな」

 雲がオレンジ色に染まり、なんとも言えない景色だ。

「えーと、興様。唐突ですが私、許嫁をやめることにしました」

「ふーん……ってええ⁉︎」

 本当に唐突すぎて一瞬普通に答えてしまった。

「華蓮さんに言われたんです。不公平だと。なのでおじ様に電話して取り消してもらいました。しかし、興様が嫌いになったわけではありません。正々堂々と勝負したいと思ったからです。なので見守っていてください」

「よく分からんが、見守るくらいならお安い御用だ」

 そう言い返すと八恵は手を伸ばせば届く距離にいる興に聞こえない声で呟いた。

「やっぱり不公平……ですわ」

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