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第六話 魔法使いの帰還

 今日もサクラと朝食を取っていたが、なんだかサクラの様子がおかしい。

 何時もよりも落ち着きが無いようで、さっきから窓の外を何回も見ては、何かを待ちかねているようだった。


「今日は何かあるの、そわそわして」

「はい、今日は友達が帰ってくるんです」

「友達?」

「ええと、その人は私の幼馴染のような人で、ずっと遠くに勉強で行っていたんですけど、ようやくそれも終わって今日……」


 成程、その友達が帰ってくるのをずっと待ってたってことか。

 それにしても、こんなに待ちかねてるなんてよっぽど親しい友人なんだろうか。 


「何の勉強なの?」

「それはですね……」


 サクラが答えようとしたその時、玄関の扉が勢い良く開け放たれ、息を切らして誰かが走りこんで来た。


「あいつが帰ってくるんですって!?」


 それはかなり慌てた様子のシェリーだった。 


「シェリーちゃん! いらっしゃい」

「お、おじゃまします……じゃなくて!」


 サクラのどこか気の抜けた挨拶に律儀に礼を返したが、それどころでは無い、といった感じのシェリー


「シェリーも知ってる人なんだ」


 サクラの幼馴染ってことは、確かにシェリーが知っててもおかしくないな。


「知ってるも何も、あいつには散々……」


 そうシェリーが怒ったような口調で返そうとしたその瞬間。


「きゃっ!?」「何だ!?」「何か……落ちた!?」


 玄関先で物凄い轟音と共に閃光が光り輝き、辺りを激しい振動が包んだ。


「これって……?」

「隕石……か?」


 慌てて外に出ると、何かが落ちて来た様な巨大なクレーターが見えた。


「……いやー、本来なら丁度玄関に着く予定だったのだが、どうやら座標がずれてしまったようだね」


 視界を真っ白の包む煙の中から、何者かの声が響く。


「女……の子?」


 それは、俺と歳の変わらないくらいの女の子の声であった。


「その声、その口調……!」

「もしかして!」

「久しぶりだね二人とも、相変わらず仲良しで何より」


 煙が晴れて現れたのは、ボサボサの真っ赤な髪を無造作に頭の両側で纏めた白衣姿のいかにも研究者、といった感じの女の子だった。

 身長は俺の腰くらいで、顔付きからしても俺よりかなり年下に見えるのだが、さっきのサクラたちの話からすると……


「ええっと……この人が?」

「私は世紀の天才魔術師、ナタリア・ブレームだ、始めまして、ヒカル君」


 どうやらこの子が、今日帰ってくる予定のサクラたちの幼馴染、ということらしい。


「あんた、玄関先に何してくれてんのよ!」

「ヒカル、紹介するね、この子がさっき言ってたナタリアちゃん、首都で魔法を勉強してた、凄い頭の良い子なの」


 この惨状を引き起こした事を糾弾するシェリーに対し、まるで気にしていない様子で俺にナタリアを紹介するサクラ。


「サクラも普通にしてないで、怒りなさいよ!」

「でも何かナタリアちゃんっぽいし……」

「まあ、それはそうだけど……」


 それで流されるって、もしかして何時もこんな感じなんだろうか……


「はは、心配しなくても大丈夫だ、この私に掛かれば、この程度の損傷くらい」

「あんただから心配なのよ……」


 自身有りげに答えるナタリアに、心底うんざりした顔で答えるシェリー。

 

「そう言えば、急に帰ってくるなんて、あんた学校は?」

「辞めて来た」

「……はぁ!?」


 ナタリアの行動に慣れているらしい二人にもその言葉は流石に予想外だったようで、シェリーは口を思いっきり開けたまま少しの間硬直しており、サクラも目を見開いて停止していた。


「あんな頭の固い馬鹿共に付き合っていたら、こちらの知性まで低下しかねないからね」


 そう呆れたように話すナタリア、二人の驚きもまるで気に留めていないようだ。


「馬鹿って、あんたが行ってたのは……」

「公国一の魔法学校と呼ばれる、ドルドムント魔法学校……でしたよね……」


 そんな場所に行っていたなんて、天才って言うのもあながち間違いじゃないのか?

 でも、途中で辞めてきたんだよな……


「何、既にあそこで吸収出来る知識は全て学んできた、辞めるには丁度良かったのだよ」

「……あのー?」


 さっきからの怒濤の展開に、流石に状況が良く飲み込めず、俺は話の途中で口を挟んだ。


「おっと済まない、君には何が何だか分からないだろうね」

「ナタリアは、魔法使いなのか?」

「ああ、先程も言ったが、今世紀最大の天才魔術師だ」


 そう言って自信満々に胸を張るナタリア、傍目から見れば、子供が無邪気に自慢しているようで微笑ましい光景にも見える。

 でも、これまでの会話の流れからして、本当にナタリアは凄い魔術師なのかもな。  


「よく自分で言えるわね……」

「しかもさっきより偉くなってます!」


 呆れ顔のシェリーと、割とどうでも良い所に目ざとく気付いたサクラ。


「そもそも、何で初対面なのに俺の名前を?」


 さっきナタリアは俺のことを普通にヒカルって呼んだけど、何で知ってたんだ?


「その疑問に答えるのは容易いよ、私はサクラから、度々手紙を貰っていてね」

「確か、ニホンとか言う国からやってきた異邦人……でいいのかな?」


 成程、サクラからの手紙で知ってたのか。

 それを聞くと、サクラが俺についてなんて書いてたのか、ちょっと気になるな。 


「ええ、まあ」


 異世界から来たなんて話しても、流石に信じてもらえないだろうしな。


「しかし、この私でも聞いた事が無い国があるとは……」

「す、凄く小さい国なんで……」


 困惑した様子のその言葉に、俺は少し動揺しながら答えた。

 自称天才なら、この世界の全ての国を知っててもおかしくないもんな……


「あんたにも知らない事があるなんてね」

「そんな国からやって来たなんて、やっぱり凄いです、ヒカルさん!」

「あんたは何処に感心してんのよ……」


 そんな俺達の後ろで、なんだか漫才のような光景が展開されていた。


 玄関先の惨状は取り合えず後で何とかすることになり、俺達はテーブルに掛けてナタリアから話を聞くことになった。


「それで、ナタリアちゃんはこれからどうするんです?」

「それなのだが、君たちに問題が無ければ、私も虹光旅団に入れてもらえないだろうか?」

「本当ですか!」


 そのナタリアの言葉に、心底嬉しそうに答えるサクラと。


「ええー……大丈夫なの……?」


 先程より更にうんざりした表情で答えるシェリー。

 まあ、玄関先があんな事になってるしな……


「実は、それについて少し問題があってだね」

「問題?」

「やっぱり……」


 シェリーはそれ見たことかとでも言いたげな顔だった。


「まるで私が何かやらかした、とでも言いたげな顔だね」

「あんたには昔っから散々迷惑掛けられてるからよ」

「安心してくれたまえ、今回は私のせいではない」


 「は」 の部分を強調して言うナタリアに。


「今回 "は" ね……」


 渋々と言った感じで頷くシェリー。

 その口振りからすると、ナタリアは昔から色々とんでも無い事態を引き起こしてきた様に聞こえるけど……


「それで、問題って?」

「ふむ、実は既にこの街での私の住居を購入しているのだが……」

「へぇ、あんたにしてはちゃんと考えているじゃない」


 確かに、もうここでの住処を決めてるなんて、意外にしっかりした性格なのかも。


「その家に少々問題が……いや、実際に見てもらったほうが早いだろう、着いて来てくれ」


 そう言うナタリアに連れられ、俺達はナタリアの家へと向かったのだった。


「何だかえらい不気味な家……っていうか廃墟じゃない!」


 しばらく歩いて付いたナタリアの家は、どう見ても居住可能な場所には思えないボロボロの家だった。

 ってこの家、どこか見覚えのあるような……


「ふむ、相変わらず切れの良い突っ込み、流石だな」

「何処褒めてんのよ!」


 何故か関心した口調のナタリアに、すかさず突っ込みを入れるシェリー。


「この家、広さの割りに凄まじく格安でね、何か事情が有るのかとは思っていたが、ここまでとは……」

「ここって……」

「うん、この前の幽霊屋敷……だよね」


 そこは、俺達がこの前巨大スライムと戦ったあの廃屋であった。


「ゆ、幽霊!?」


 その幽霊という単語に敏感に反応するシェリー、もしかして幽霊苦手なのか?


「あ、大丈夫ですよ、もう幽霊はヒカルさんが退治しましたから……多分」


 多分って、あのスライムはもう倒したから、確実に大丈夫だと思うんだけど……


「居たの!?」


 さっきからシェリーの突っ込みの精度が上がってきているような、ナタリアのお陰?


「そこで君たちに頼みたいのだが、この家を居住に適するようにするのを手伝ってもらえないだろうか?」


 俺達に真剣に頭を下げるナタリア。


「私は、新しい団員の為ですし、大丈夫ですけど」

「俺も、これから仲間になる人が困ってるんだったら、ほっとけないよ」

「……はぁ、仕方ないわね」


 その頼みを俺たちは、快く承諾したのだった。


「三人とも、感謝する」

_____________


 そんな風に会話しているヒカル達を、廃屋の二階の割れた窓から見つめる視線があった。


「あの人……この前の」


 それは先日ヒカルと会話したあの黒のドレスの少女で、薄汚れた廊下の中にあっても、彼女だけはまるで時間が停止したかのような神秘的な美しさを放っていた。

 そしてヒカルを見つめる彼女は、心底嬉しそうに口の端を歪め、掻き消えるように一瞬でその姿を無くしたのだった。


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