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第五話 切り裂くは蒼光

 今日は俺とサクラで行って欲しい依頼があるという事で、俺達はテーブルに並んで座り、エイラさんから説明を受けていた。


「幽霊屋敷?」

「ああ」


 依頼者の大家の話だと、誰も住んでいないはずのその家は、真夜中になると怪しげな光が目撃されたり、激しい物音が響いているそうなのだ。

 しかもその家は、かつては裕福な一家が住んでいたものの、悲惨な事件で全員が死亡しており、いわゆるいわくつきの物件、という事らしい。


「わわわ……」


 エイラさんの説明に怯え、俺の服の裾を握ってくるサクラ。


「とまあ、こんな噂が最近立つ様になってね、もしかすると本当に何か有るかもしれない、そう思ったそうだ」


 エイラさんは大家と知り合いで、その話を聞いて調査の依頼として請け負ってきたそうだ。


「つまり、家の中に入って、異常が無いか調べればいいんですね」

「わ、私も行くんですよね……」


 サクラは本気で恐い様で、俺の服の裾を握りながらガタガタと震えていた。


「そこそこ広い家らしいし、手が多いほうが良いだろう」

「別に恐いんなら無理しなくても……」


 そのサクラの様子を見かね、親切心から助言したのだが。


「こ、恐がってなんていません!」


 何故か顔を真っ赤にして怒られてしまった。


 その家は、暫く誰も住んでいない様子で、壁面には鬱蒼と何かの植物が生い茂り、窓ガラスも割れ、庭先には何かの破片が散乱し、まさに幽霊屋敷そのものといった様相だった。


「ここかぁ」

「も、もう何か出そうな……」


 サクラはこの家が見えてからずっと青い顔で俺の腕にしがみついており、正直かなり動きにくかった。


「お、お邪魔しま~す」


 貸してもらった合鍵で玄関を開け、中に入る。

 中も酷い様子で、あちこちの床や壁にはヒビが入り、今にも崩れそうな危うさであった。


「今のところ特に異常は無いし、やっぱり只の噂だったのかな」


 そんな中を二人で暫く進んでいくが、何かが現れる気配も無く、順調に調査は進んでいた。


「そ、そうですよね! お化けなんていませんよね!」


 次第に慣れてきたのか、サクラも最初よりは顔色が良くなって来ていた

 だが、その時。


「きゃぁぁ!」

「さ、サクラ!?」


 何かに反応したのか、急に俺に正面から物凄い力で抱きついてくるサクラ。

 この体勢は不味い、色々柔らかい感触が……


「い、今あっちで何か……」


 どうにかサクラを落ち着かせ、話を聞いてみると、建物の奥のほうで何か黒い影が動いたとのことだった。


「うーん、特に何も無いように見えるけど?」


 サクラが指差すほうを見ても、俺には何かがいるようには見えなかった。


「幽霊なんて気の持ちようだよ、いると思うからいるように見えるんだ」


 俺は幽霊を全く信じていなかった、自分の目で直接見たことは無いし、正直非科学的だと思っていた。

 幽霊の正体見たり枯れ尾花、何て言葉もあるしな。


「だから恐がらずに素直に……」


 そうサクラにアドバイスしながら廊下を進んでいた時、不意に後ろを振り返ると。


「サクラ!?」


 俺の後ろから着いてきていたはずのサクラの姿が、忽然と消えていたのだった。


「もしかして、はぐれた……!?」


 辺りが暗くて気付かなかったけど、いつの間にか離れてしまっていたのか……!?


「サクラー!」


 サクラを大声で呼びながら廊下を引き返してみるが、まるで反応が返ってこない。

 と、その時。


「うわっ!?」


 突然廊下で誰かとぶつかり、思わず尻餅を付く。


「ご、ごめんなさい!」


 立ち上がって頭を下げる、慌てていたので、前を良く見ていなかったらしい。


「大丈夫……」


 そこに立っていたのは、俺の半分くらいの歳のとても綺麗な顔立ちの薄い水色の髪を腰まで伸ばした髪型の女の子だった。

 いわゆるゴシック&ロリータ風の黒いドレスが良く似合っており、まさに深窓の令嬢といった感じだろうか。


「あのさ、俺と同じくらいの年の、薄紅色の髪の女の子見なかった?」

「その子なら……あっち」


 女の子が指差す方向には、下の階へ続く階段があった。

 道理でここを探しても見つからないはずだ。


「ありがとう!」


 女の子に礼を告げ、下り階段を全速力で駆け下りた。


「ここって、地下か……?」


 薄暗い通路を走っていると、突如空気を切り裂く悲鳴が響き渡った。


「サクラ!」

「ヒカル!」


 悲鳴がした部屋の飛び屋を蹴破って中に入ると、半透明のスライムのようなものに捕らわれ、脱出しようともがいているサクラの姿があった。


「な、なんだこれ!?」

「分かりません、いきなり床が抜けて、ここの部屋に……」

「こいつが出て来たって訳か……!」


 その明らかに異様な魔物の姿に、即座にベルトを出現させる。


「変身!」


RIDE ON! RIDE HERO DASH!


 瞬時に変身を終了、サクラを助け出す。


「大丈夫? 怪我は無い?」

「け、怪我はありませんけど……」

「けど?」

「ふ、服が……」


 その言葉にサクラの姿をまじまじと見つめると、あのスライムに溶かされたのかあちこち服が消失しており、かなりきわどい姿になっていた。


「と、取り合えずここは下がって!」

「は、はい!」


 しばらくそのまま時が止まっていたが、首を振って一瞬飛んでいた意識を取り戻し、慌ててサクラに退避を促す。

 気を取り直してスライムと戦闘開始。

 先手必勝とばかりに拳を繰り出すが、そのままの勢いで弾き返されてしまった。


「こいつ、攻撃が効いてない……!?」

「だったら!」


 MAXIMUM CHARGE!  


「ダッシュインパルス!」


 DASH IMPULSE!


 必殺技で一気に仕留めようとするものの、その攻撃も敵の動きを一瞬止めただけで、まるで効果が無い様子だった。


「これでも駄目か……!」

「うわっ!?」


 と、敵が突然沸騰したように暴れ出してその大きさを何倍にも増し、俺達は為す術もなく部屋の壁際まで追いやられた。


「ヒカル!」


 敵の質量はどんどん増していっている、このままではサクラも俺もあのスライムに押しつぶされてしまうだろう。


「こういう奴は、核を潰さないと、何度でも再生する……だったよな」


 確か第四話「リターン・オブ・アース」でそんな怪人が出てきた。

 あの回は、ダッシュに代わる新フォーム登場回だったのを良く覚えている。


「このベルトが、あのベルトと同じ機能を持っているんなら!」


 俺はそうである事を信じ、ベルトのボタンを右側だけ強く押し込み、左腕で虚空に円を描くポーズを取る。


RIDE ON! RIDE HERO SLASH!


 一瞬目の前が青い光に包まれたかと思ったその時、俺の記憶通りに、新たな形態への変身が完了していた。


「色が……変わった!?」


 そのサクラの言葉通り、全身の白かった結晶は真っ青に代わり、その右手には今まで影も形もなかった蒼色の片刃剣が握られていた。

 ライドヒーロースラッシュ、片刃剣"スラッシュブレード"を装備した剣撃戦用の形態で、ダッシュに比べ身体能力は少し落ちるものの、格闘戦では貫けない様な厚い装甲を持つ敵や、こいつの様な再生能力を持った敵に特に有効な形態である。


「スラッシュブレード!」


 SLASH BLADE!


 俺の言葉と共に、剣が激しく発光し始め、それに威圧されるかのように敵の動きが止まる。


「スラッシュ! ダイレクト!」


 SLASH DIRECT!


 その言葉と共に右腕を思い切り振り下ろし、剣から放たれた光波が、敵を中心から真っ二つにする。

 剣の輝きが収まり、俺が的に背を向けながら剣を収めたその時、背後で核を破壊され、形を保てなくなったスライムが、ゆっくりと消滅していった。

 

「あれがお化けの正体だったんですね」

「やっぱり幽霊なんて居なかっただろ?」


 廃墟から出る途中、俺が貸した上着で破けた服を隠しながらのサクラと事の真相について話す。

 あのスライムがいつの間にかここに住み着き、周りの動物などを捕食していた時の音や光が、幽霊騒ぎの原因だったのだろう。


「……そう言えば、ヒロさんはどうして私があそこに居るって分かったんですか?」


 サクラの疑問に、俺はあの時であった少女のことを思い出す。


「ああ、親切な子に教えてもらって……」

「黒い髪の、女の子……」


 俺の説明を聞きながら、なんだか顔色が悪くなっていくサクラ

 あの時は慌てていて気づかなかったけど、そういえばあの子って……


「あの子、遊びでここに勝手に入ってたのかな」


 勝手に近所の廃墟に入って遊ぶのは俺にも覚えがあるが、怪我とかしたら危ないし、今度会ったら注意しておかないとな。


「そ、そうですよね! きっとそうです!」

「?」


 何故か頬を引きつらせたままのサクラを連れ、俺達は家路へと着いたのだった。

 

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