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第三十八話 虹色の光の中で……

 その体を光に変え、俺は全ての元凶である闇の災厄と相対していた。

 最早体の感覚も定かではない、どうやら俺の体そのものが光となったようだった。

 目の前には俺を先程圧倒した黒い英雄、それでも俺の戦意は全く揺るがない。

 それどころか俺の心の中には、どこか爽快感に似た清々しい感情が生まれていた。

 その俺の心を反映したかの如く、人型の光の塊となった俺の体が眩い虹色を放つ。


「行くぞ!」


 黒い英雄に一瞬で接近し、その体を抱きかかえるように遥か空中へ運んでいく。


「理解出来ない――こんな力は」


 下に見えるサクラ達が点のように見える所まで上昇してからその体を離した。

 これで周りに被害が出ることもないだろう。 


「我が――知らない?」


 困惑した様子の黒い英雄は、その途中俺にされるがままだった。


 遥か上空まで飛び上がった光と闇の化身。

 それを呆然と眺めていたサクラ達に、慌てた様子の声が掛けられた。 


「サクラ!」

「ナタリアちゃん、みんなも!」


 あの黒いドームが消滅すると同時に、街を占拠した漆黒の魔人達もその姿を消した。

 それによってナタリア達はここまで駆け付ける事が出来たのだ。


「一体何が起こっているのですか……?」

「ヒカルが戦ってるのよ、皆の為にね」

「先輩……」


 サクラ達が見上げるその先で、全てを終わらせる戦いが始まろうとしていた。 


「これで!」


 拳が、蹴りが、その全てが命中する度に、敵の姿は次第に薄れていく。

 俺の体から放たれた光が、その体を包み込む闇を照らし消滅させていく。


「消えていく――我が?」


 苦し紛れに繰り出した分身も、その全てが俺の体に触れる前に消えていった。  


「お前がどんな存在なのか、どうしてこんな事をするのか、結局俺にはよく分からないけど」


 言葉を紡ぐ度に、体から放たれる光がその強さを増す。


「俺はみんなを守りたい! ヒーローとして、俺として!」


 これが俺の力、光を操り、闇を消し去る力。

 ベルトによる体の変化のせいなのか、この世界に来た時に得たのか。

 理由は分からない、分からないけど、確かに力が俺の体には満ちていた。


「だから、お前を、倒す!」


 かつて闇の災厄と呼ばれ、イーレンを、サクラ達を滅ぼそうとしたもの。   


「我は――我は――」


 それは只の兵器だったのかもしれない、存在理由もなく、目の前の敵を滅ぼす兵器。

 本来なら時代の流れの中に消え、こうやって現れることも無いまま眠っていたのかもしれない。

 

 決着の時に浮かんだのは、そんな感傷めいた思いだった。


「そ・こ・だ!」


 俺の拳がその体を貫き、ゆっくりと闇は消えていった。

 後には何も残らなかった、まるで、最初からその存在が無かったかのように。   

 

「終わった……の?」

 

 消滅した闇の災厄を目にし、下から見上げていたシェリーが呆然としたまま呟いた。

 こうして、俺の、俺達の、長くて短い戦いは終わった。    


 先程までの戦いが嘘のように静寂に包まれた街の中で、サクラ達はまだそれが実感出来ない様子で立ち尽くしていた。


「サクラ、みんな」

「ヒカルさん!」


 俺は上空から降り、そのサクラ達に声を掛けた。


「その姿は……」


 ナタリアが驚いた通り、俺の体はゆっくりとその形を失い始めていた。

 恐らく、この力を使った反動だろう。 


「ごめん、ナタリア、約束守れなくて」


 自身の命を粗末にするな、そんな風に俺を気遣ってくれたナタリア。

 その言葉を俺は守れなかった。


「ヒカル!」

「アイリスもごめんな、お願い聞けなくなっちゃった」


 目に涙を浮かべて俺に縋り付こうとするアイリスだったが、その手は俺の体をすり抜けていった。

 呆然とするその姿に、俺はつとめて優しく声を掛けた。


「どうして……なんで!」

「シェリー、色々ありがとう、おやじさんにもよろしく」


 声を荒らげて怒り出すシェリー、その怒りが俺を思ってのことだと分かり、俺は申し訳ない気持ちで一杯になった。

 だが俺の体は、既に半分ほどが消滅していた。


「言いたいことだけ言って、あなたは……いつもズルいですわ」

「確かにな、俺もそう思うよ、カレン」


 俺を非難する口調で呆れた声を出すカレン。

 しかしその目には、薄く涙が滲んでいた。


「ヒカルさん……」

「短い間だったけど、サクラと、みんなといた時間は、今までで一番楽しかったよ」


 何かに耐えるかの様に、顔を引きつらせたまま俺の顔をじっと見つめるサクラに、俺は今までの感謝と別れを告げる最後の言葉を紡ぎ始める。


「私、待ってます!」


 サクラの両頬を、抑えきれなくなった涙が滝の如く流れ出す。  


「ずっと、ずっと待ってますから!」

「……ありがとう、さよなら、俺の大切な……」


 そして、俺の意識はゆっくりと―― 

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