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第三十五話 奇跡の輝き

俺たち三人が突入したそこは、視界ゼロの闇の中だった。

 敵の気配も物音もせず、辺りには不気味な静寂のみが漂っている。


「ここが敵の……?」

「真っ暗で何も見えないです」

「何処から攻撃が来るか分からないわ、注意して!」


 三人で全方位を警戒しながら奥へと進む、どれくらい歩いた地点だっただろうか、それは唐突に現れた。


「よく来てくれた、歓迎しよう」


 鈍い光と共に、薄暗い影の中からゆっくりと黒いローブが姿を見せる。


「お前は……時計塔の!」


 それは間違いなく、あの時計塔で俺たちと戦った男の姿だった。


「丁度退屈していた所なのでね、暇つぶしに相手になってくれる者を待っていたのだよ」

「馬鹿にして……!」


 男の態度には全くこちらを恐れる様子も見えず、俺達の反応を見て楽しんでいる気配すら感じられた。

 その男の不気味な気配に底知れぬ恐ろしさを感じながらも、俺達はそれぞれに武器を構え、戦闘を開始する。


「この前の借りを返させてもらうぞ!」

「連携で行きます、ヒカルさん!」

「ああ、クラッシュ・ストライク!」


 サクラの呼びかけに応え、俺は素早くフォームチェンジを終えると、クラッシュ形態の大火力を一斉に敵に放つ。

 たちまち黒いローブ男が激しい爆炎に包まれ、その姿が白煙の中に消える。


「シェリー!」

「分かったわ、轟槍乱撃!」


 その煙が晴れる間もなく、長槍の連撃が敵に襲いかかった。


「サクラ!」

「これで決めます、極・無影斬!」


 完全に動きを止めた敵に、サクラが目にも留まらぬ速度で渾身の斬撃を食らわせる。

 サクラが片刃剣に持ち替えてからの僅かな期間で生み出した連携だったが、この連続攻撃をまともに食らえばあのローブ男とはいえただでは済まないはず……


「……これで全力かね?」

「そんな……!?」


 完全に白煙が晴れたそこにいたのは、まるで無傷のローブ男の姿だった。


「どうやら、期待外れのようだな」


 呆然とする俺達に向け、ローブ男は冷酷な声と共にその右手を翳し。 

 その手から禍々しい黒い波動が放たれた。


「きゃぁっ!?」「ぐぅっ!」

「サクラ、シェリー! ぐわぁっ!?」


 重力がそのまま縦に働いたかの如き凄まじい圧力に、俺達は為す術もなく吹き飛ばされる。

 その衝撃で俺の変身が解け、そのまま頭に巻いていた包帯も―― 


「ヒカル……さん?」

「何よ……それ……」

「出来れば、見られたくなかったんだけどな……」


 サクラ達が驚くのも無理は無い、俺の髪がまるで老人の様に全て純白に染まっていたのを目にすれば。 

 これに気付いたのはあの時計塔での戦いの後だった、恐らくベルトの副作用が更に進んだ結果だろう。 


「ごめん、黙ってて」


 皆を動揺させたくないと隠していたが、結局こんな時に明らかになってしまうなんて。


「……それが、あんたの隠したかった事なのね」


 以前から察していたのだろう、シェリーは腑に落ちた様子で静かに呟く。  


「どうして、なんでヒカルさんが、そんな……」


 対してサクラは全く疑いを持っていなかった様子で、まだ衝撃を受け止めきれていない顔だった。


「気にしなくていいよ、俺が勝手にやった事だから」


 そう告げると、俺はゆっくりと体を起こし、ローブ男に対して戦闘態勢を取った。


「ほう、その体でまだ戦うか」


 その俺の姿を見て、呆れた声を放つローブ男。

 俺の体は、元から大分かけ離れてしまったかもしれない、このまま戦えば、更に取り返しの付かない事になるかもしれない。


「だけど、俺は……!」


 その時、俺の服のポケットから、小さなブレスレットが地面に落ちた。   


「これは……!?」


 拾い上げたそれは、ナタリアから受け取っていたボロボロの"超越変身"エクストラチェンジャーだった。


「そんなガラクタで、私を倒そうと?」

「ガラクタなんかじゃない!」

「何?」


 確かに、今は只の壊れた玩具だ。

 でも、俺にとっては、あのヒーローにとっては違う、絶望の中でたった一つ見つけた未来への道標、破滅の運命を変える逆転の切り札。

 腰のベルトと同じように、こいつもその力を持っているのなら。

 俺にその力を使う資格があるのなら。


「頼む、俺に……力を、貸してくれ!」


 祈るような言葉と共に、俺はそのブレスレットを右手に装着する。


「光が……!?」


 それと同時に、装着されたブレスレットが勢い良く発光し始める。

 そして、俺の視界は眩い光に包まれた。


FINAL RIDE ON! RIDE HERO FLASH!


 聞き慣れた電子音声と共に、俺の体は新たな力、ライドヒーローフラッシュへと変わっていた。

 全身の結晶が神秘的な黄金色の光を放ち、黒地だったスーツも白地へと変化。

 背部に装着された八枚の光り輝く羽が、その神秘性を更に高めている。

 その姿は、まるで世界を救う神の使いの如き。


「ヒカルさん……!?」

「ふ……はは、成程、姿を変えたか」


 驚くサクラ達とは対照的に、ローブ男はまるで動じず、興味深そうに俺にその視線を向ける。 


「であれば、私も真の姿を見せるとしよう!」


 そして、男が勢い良くローブを剥ぎとったそこに現れたのは。

 全身が黒い硬質の毛に包まれ、脚部と腕部には鋭い爪、その口には凶暴な鋭い牙を持ち、更に肩部に二つ同様の頭を付けた、三頭の狼魔人だった。


「我はコントン、究極の混沌を望むものなり!」

「お前が誰だろうと関係ない、俺はお前を倒す!」


 そして、俺は一気にコントンへ突進した。


「消えた……!?」

「ここだ!」


 俺は一瞬でコントンの背後を取り、懇親の力で上空へその体を蹴り上げた。

 それに対応する間もなく、コントンは一気に上空へ飛ばされ。


「一気に決める!」


 常人には視認不可能の速度で浮かんだコントンに連続攻撃を掛ける。

 端から見ていれば空中に浮かんだコントンがまるで見えない力で次々と吹き飛ばされている様に見えただろう。  

 これがフラッシュの能力の一つ、超加速である、あらゆる動作を通常の1万倍の速度で行うことが可能で、全方位からの連続攻撃を一瞬で敵に叩き込むことが出来るのだ。


 数え切れない程の連撃を加えた後に着地、自分以外の全てが静止した空間の中で、俺は空中に浮かんだままのコントンに照準を合わせる。

 

「止めだ!」


FINAL MAXIMUM CHARGE!


 ブレスレットをベルトに翳し、各所の結晶が一層激しく発光する。

 俺は一気に上空へと羽ばたくと、全身に漲る力を右足に収束させた。


「フラッシュ・ファイナル・デストラクション!」


FLASH FINAL DESTRUCTION!


 全てを包み込む眩い閃光と共に、コントンの体を光の矢が貫いた。


「これでいい、これで……全ての……」


 着地した俺の背後で、視界を埋め尽くす程の凄まじい爆発が巻き起こり―

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