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第三十四話 激戦

 イーレンに現れた魔人達を倒し街を取り戻す為、俺達は敵の本拠地に向かって地下通路を走っていた。


「もうすぐあの時計塔の真下のはず」

「いよいよね……」

「ちょっと待って下さい! 何かいます!」


 サクラの言葉通り、俺達の進路を塞ぐように魔人が立ちはだかっているのが見えた。

 ここを使われることを予想して、既に魔人を配置していたのか……!? 


 接近してその姿を確認すると、そこに立っていたのは、凶暴な爪の生えた四肢と獰猛な顔に猪の如き巨大な牙。

 間違いない、あのトウコツと名乗った魔人の姿であった。

 

「トウコツ……? まさか、生きてたのか!?」

「一体だけじゃない、相当な数よ!」


 その背後には、全く同じ姿をした魔人達が蠢いていた。

 しかしどれも意思の無い凶暴な唸り声を上げるばかりで、この前戦った時の知性のある様子とは違う。

 あのローブ男が後から量産したのだろうか……? 


「とにかく蹴散らして進むしかない!」

「ええ!」「そうね!」


 そして、俺達は魔人の群れと戦闘に突入して――


 大通りでゴライアス・改を駆って戦っていたナタリアの所にも、予想外の増援が現れていた。

 

「これは……」


 立ち並ぶ建造物を薙ぎ倒しながら現れたのは、ナタリアの乗るゴライアスと同様の格好をした漆黒の巨大な魔人だった。

 全体的に形が刺々しいものになっている点以外は、その材質も大きさもゴライアスと全く同じに感じられた。

 しかも、それが三体並んで現れたのだ。


「相手が魔人でなければ、ライセンス料を貰う所だが!」


 圧倒的に不利な状況ながら、ナタリアはいつもの不敵な態度を崩さず、漆黒の巨人達に戦いを挑む――    


 突入するヒカル達の為に敵を誘導していたアイリスとハーミルは、事前に仕掛けておいた罠まで魔人たちを引き寄せる事に成功していた。

 しかしアイリス達の目に飛び込んできたのは、無残に破壊された罠の数々だった。

 その真価を発揮する事無く全て魔人によって事前に壊されていたのだ。

 

「そんな、罠が全部……!?」

「こやつら、わらわ達の作戦に気付いておったのか!」


 罠を破壊した魔人達に気付かれ、身動きの取れなくなった二人、その背後から誘導された敵が更に迫り――


「ここで手間取る訳には!」


 サクラの片刃剣が煌めき、一瞬で魔人の体が両断される。

 居並ぶ魔人相手にも、サクラは一歩も引かずに互角に渡り合っていた。 


「……本当に強くなったわね、サクラ」

「そ、そんな事ありませんよ」

 

 感心したシェリーの言葉に、顔を少し赤くして照れるサクラ。

 実際サクラは相当強くなっていた、それは武器が片刃剣になった事だけでは無く、あの時計塔での出来事でなにか吹っ切れたものがあったのだろう。

 

 サクラの活躍もあり、俺達は特に苦戦することもなく目標地点まで辿り着いていた。

 量産型の宿命か、トウコツ達が俺が出会った時より明らかに弱体化していたのもあったが。


「ここが真下か」


 地図とコンパスで確認し終えると、俺はドリルを頭上に翳した。


「二人共、俺に掴まれ!」

「ええ!」「分かりました!」

「最大出力で!」


 二人がしがみつくのを確認してから、俺は柄のスイッチを最大出力まで押し込んだ。

 俺とサクラとシェリー、三人分の重量を物ともせず、ドリルは凄まじい勢いで上へ上へと進む。

 立ち昇る間欠泉の如き勢いで、あっという間に俺達は地上へと到達した。 


 地上に付いた俺達の目に飛び込んできたのは、そこだけが真っ黒な闇に包まれた、異質な半球形の黒い空間だった。    

 百メートル四方はあるその空間は内部まで深い暗闇に包まれており、外から様子を窺うことも出来ない不気味なものだった。


「あれは、エイラさんの言ってた……」

 

 恐らく、十五年前に現れたものと同一だろう。


「魔人達がいない、ナタリアたちが良くやってくれたみたいね」

「二人共、準備はいいか?」

「今更でしょ!」「ですね!」


 俺の言葉に、サクラ達は武器を構え答える。

 その目に、恐れや迷いは無かった。

 

「よし、行くぞ!」


 そして、俺達は勢い良く黒の空間へ突入し――  


 魔人達に四方を囲まれたハーミルとアイリス、奮戦を続けるものの、圧倒的な数の差にその命運は次第に尽きようとしていた。  


「凄い数です……このままじゃ」


 ボロボロになった弓を構え、諦めたように目を閉じるハーミル


「結局わらわでは駄目なのか……」


 背中合わせにハーミルを支えるアイリスも、気力が尽きその場に崩れ落ち掛けた、その時。


「諦めてはいけませんわ!」


 魔人の群れの一角を細剣の鋭い連撃が破り、金髪の剣士が現れたのだ。


「あなたは……」


 それは、ヒカル達を助けにナタリア邸から飛び出したカレンだった、イーレンに向かおうとしたが、街道から魔人の気配と戦闘音を感じ取ってこちらに駆けつけたのだ。

 カレンの格好は普段とは違う動きやすい地味なもので、豪華なドレスや装飾は一つも身に付けてはいなかった。

 アイリス達を庇うように立つカレンは、細剣を魔人達へ向け高らかに宣言する。  


「わたくしも戦います、ここで!」


 その凛々しい言葉に、アイリス達の顔にも戦意が戻っていく。

 魔人の群れと先頭を再開した時、カレンは誰ともなく小さな声で呟いた。 


「これで少しは、貴方に近づけましたか……?」


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