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第三十三話 それぞれの戦い


 翌朝、俺達はナタリア邸の玄関に集合した。 


「みんな、準備は良いですか?」


 サクラの言葉に、皆無言で頷く。


「では、作戦開始です!」


 ばらばらに別れて走り出した皆を横目で確認しながら、昨日ナタリアが語った作戦を思い出す。


「まずは陽動だ、街の入り口近くの魔人たちを引き寄せる」


 テーブルの上の地図に矢印を引きながら、説明していくナタリア。


「行きますよアイリスちゃん!」

「分かったのじゃ!」


 そして現在、作戦通りに街の入り口に向かったアイリスとハーミルが派手に騒ぎを起こして魔人達を誘導していた。


「そして、私がこれを使って更に敵をかく乱する」


 ナタリアがテーブルの上に取り出したのは、いつかの海岸で見た土塊巨人の図面だった。


「さあ此処が見せ場だぞ、ゴライアス・改!」


 ナタリアの言葉と共に、一瞬で高さ二十メートルはあろうかという土の巨人が、大通りに犇めく魔人達を弾き飛ばしながら現れた。

 その肩に乗ったナタリアが手を翳して操ると、巨人は魔人達を蹴散らしていく。


「最後に、突入班が一気に敵の中枢へ」


 机の下から両手で重そうに持ち上げたのは、この前地下に潜った時に使ったドリルだった。

 ナタリアによると、あれから改良を進めていたらしく、サイズ小さくなり動きも安定するようになったらしい。  


「またこいつを使う事になるとは」


 足元の地面に向け、片手サイズになったドリルを突き立てる。


「頼むぞ!」


 柄のスイッチを入れると、鋼の衝角が勢い良く回り出す、それから五分も立たずに俺は地中まで体ごと掘り進んでいた。


「ここから地下に入るんですよね」

「あの真っ暗でジメジメした通路をまた歩くとは思って無かったわ……」


 俺の頭上からサクラとシェリーの声が響く。

 そう、今回の作戦には、あの時キュウキが蟻魔人を使って掘らせた地下通路を通る手筈になっていたのだ。


「あの地下通路を使うって?」

「でも、あそこは全部封鎖したはずじゃ」


 ナタリアの説明に、訝しげに問い掛ける俺。


「大部分はそうだ、が、一部はそのまま使えるようにしておいたんだ」


 崩落の危険性がない部分以外は、使用可能のまま保全していたらしいが……


「……何で?」

「い、今は細かい事は良いじゃないか、実際役に立ったんだし」

「妙な事に使うつもりだったのね……」


 しどろもどろになるナタリアを、シェリーが目を細めて睨んでいた。 


 閑話休題、気を取り直してナタリアの説明は続く。  


「それで、俺達が向かう目標は?」

「それも見当は付いている、ここ数日私が調査した結果、ある場所に魔力が凄まじい量集まっているのが分かった」


 そう言いながら、地図上の一点に大きく☓印を描くナタリア。


「この場所は……!」

「ああ、あの時計塔のあった場所だ」

「って事は、あの黒いローブが……」


 俺達の脳裏に、時計塔の上で戦った豪華な黒いローブの姿が思い浮かぶy。


「十五年前の、闇の災厄」

「恐らくは、な」


 十五年前、そしてこれまでの事件、その全てを引き起こしたのも――


 地下通路を三人で走り抜ける、既に俺は変身しており、サクラ達も戦闘態勢を整えていた。


「もし本当に十五年前と同じ状況なら、あいつを倒せば全ての魔人たちも消えるはず」

「一気にあの黒いローブの所に突っ込んで、速攻でけりを付けるって事ですね」

「急ごう!」


 この戦いで、今までの出来事全てにけりが付く、そんな予感と共に、俺達は更にスピードを上げて暗闇を駆け抜けていった。


 同時刻、魔人達を誘導していたアイリスとハーミルは、予想以上の敵の量に困惑しつつも、どうにか作戦を進めていた。


「結構追って来たのじゃ……」

「正面から立ち向かう必要は無いですよ、あくまで陽動なんですから」

「この角を曲がれば、ナタリアさんの仕掛けが……」


 街道の分かれ道に到着し、ナタリアが仕掛けた罠に魔人達を捉えようとしたアイリス達だったが。


「待つのじゃ!」

「えっ……!?」


 アイリスの叫びに一瞬動きが止まるハーミル、アイリスが睨みつける視線の先には――  


 その頃、大通りでゴライアス・改を縦横無尽に操っていたナタリアだったが。


「流石に数は多いが、この強化されたゴライアスの敵ではないな!」

「不謹慎だが、一度イーレンの街で自由に暴れさせてみたかったんだ」


 射撃武器を搭載したことで空中の敵にも対応し、まさに敵無しといった強さを見せるゴライアス・改。

 振り回される腕が、地響きを鳴り響かせ踏みつける脚が、腹部から発射される魔導砲が、次々と魔人を粉砕していった。

 十分程暴れまわった頃だろうか、ゴライアス・改の周囲から次第に魔人たちの姿が消えていった。


「敵が退いて行く……?」


 こちらの圧倒的な強さに恐れをなしたのか……?

 そう思いかけたナタリアだったが、すぐにその理由を理解した。


「いや、これは……!」


 驚愕に見開かれた彼女の目に映ったものは―

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