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第二十九話 現れし闇の化身

「避けろ!」


 突如サクラに放たれた黒い閃光、だがそれは。


「大……丈夫……か」


 射線上に割り込んだ鎧男によって、サクラに到達する前に防がれていた。


「サクラ!」

「わ、私は何とも無いです、けど……」

 

 倒れこむサクラに駆け寄り、助け起こす。

 その顔が心配そうに見つめるのは、胴体に大穴の空いた鎧男だった。


「一体何処から!?」

「今の一撃、相当強力な魔法だぞ!」


 シェリー達がサクラを取り囲むように陣形を組み、襲撃者に備える。


「ほう、娘を狙った筈が……まあよい」


 その時、時計塔の外の何もない宙空から突如、地の底より響く様な声が聞こえた。


「な……!?」

 

 黒いローブを着た男がそこにいた、一見今まで見たトウコツやキュウキと同様のものかと思ったが、ローブ全体に金色のラインが走り、全体的に豪華な印象を受ける。

 それよりもその男の周りに漂う、黒い靄の塊は何だ……? まるでそこだけが夜になったかの如く、男の周りには完全な闇しか存在していなかった。

 その姿を目にするのと同時に、体全体に悪寒が走り、心臓を鷲掴みにされるかの如き威圧感で、体が完全に停止する。 

 

「貴様何故! 従っていれば、サクラに、虹光旅団に手出しをしない約束だった筈!」

「フ……そのような約束、私が本気で守るとでも思ったのか」

「お前も本気で信じてなどいなかったから、こうやって回りくどい手に出たのだろう?」


 鎧男がローブ男に向かって激昂しながら叫ぶ。

 だが、気の弱い者なら心臓が止まってしまうかもしれない程の迫力を持った叫びにも、ローブの男は全く関心を見せず冷徹に返す。


「それは……」


 それきり黙り込んだ鎧男を一瞥し、ローブの男は俺達に向き直る。


「さて、私の配下達が世話になったようだな」


 トウコツ達の事か……?


「貴公らの健闘は賞賛に値するが、流石に目障りになって来たのでね」


 ローブ男が言葉を紡いでいくと共に、その周りの闇が更に濃くなっていく。


「ここで消えて貰おう」


 そしてゆっくりと翳された右手から、俺達に向け先程の黒い閃光が放たれようとした、その時。 


「そんな事……させるかよ!」

「ほう、この闇の中で動く事が出来るとは」


 確かに全身が凍りつく様な寒気と、目の前のローブの男から感じる圧倒的な威圧感は無くなっていない、だが、それよりも皆を守らなければという思いが勝っていた。


「変……身!」


 RIDEON! RIDE HERO RUSH!


 震えが止まらない体をどうにか動かし、変身を完了させる。 

 目の前の男は明らかに異常だ、出し惜しみをしている場合では無い。

 俺はそう判断し、いきなり必殺技を繰り出した。


「ラッシュストライク!」


 RUSH STRIKE!

 

 右足の結晶が一際強く紅く輝き、ノーモーションの飛び蹴りが、ローブ男に直撃―― 


「無駄だ」


 するかと思われたが、男の周りに集まった闇によって、まるでクッションに受け止められる様にあっさり防がれてしまった。


「まだまだ! ラッシュブレード!」

 

 RUSH BLADE!


 空中で体制を立て直し、双剣を素早く引き抜いて☓の字に斬撃を放つ。


「その程度か?」


 だがそれも、男を覆う闇を切り払うことは出来ない。


「ならこれで! ラッシュバースト!」


RUSH BURST!


 時計塔に着地するのと同時に、全身の火器を一斉発射、紅い光弾が連続で発射され、たちまちローブ男は煙に包まれて見えなくなった。


「やったか……!」


 これだけの攻撃を撃ち込めば……


「これで終わりかね」


 だが俺の思惑は外れ、煙が晴れたそこには無傷のローブ男が立っていたのだった。


「それならば、こちらからも攻撃させて貰おう」


 呆然とする俺に、ローブ男の右手から漆黒の閃光が放たれる。


「ぐぅっ!?」


 たった一撃食らっただけで、俺は大きく吹き飛ばされ、背中から勢い良く床に倒れこんだ。

 そしてローブ男は時計塔に着地し、俺達に悠然と近づいていた。

 倒れたままの俺と、全く動けないサクラ達、、このままでは……

 そう思った時、階段を勢い良く駆け上がってくる音が聞こえ。


「ヒカル、サクラ!」「先輩!」


 時計塔に現れたのは、大きな斧を持ったエイラさんと、それに肩を貸すハーミルの姿だった。 

 ハーミルは何かあった時のために、旅団本部に残しておいたのだ。


「エイラさん!? ハーミルも!」


 その突然の乱入者に、一瞬場の空気が静止した様に思えた。


「今だ!」

「ほう、まだ息が有ったか」

 

 ローブ男の隙を付き、今まで蹲っていた筈の鎧男が瞬時に駆け出し、ローブ男にしがみついて拘束した。


「サクラ、今の内に逃げろ!」

「でも……!」


 こちらに背を向けたまま、鎧男が必死に叫ぶ。


「易々と逃げられるとでも思ったか?」


 だがローブの男はその凄まじい力もまるで効いていない様子で、拘束を振り払うと再びこちらに右手を向け黒い閃光を放つ体勢になった。


「させない!」


 その右手を、勢い良く振るわれた大斧が弾き飛ばした。 


「エイラさん!?」


 人一人分程はある大斧を構え、ローブの男と相対するエイラさん。

  

「私も加勢させてくれ、いや、させて貰えませんか」


 起き上がった鎧男に優しげな口調で話し掛け、その隣に寄り添うように立つ。


「貴方が私を覚えているかどうかは分かりません、ただ、あの時から抱えていた荷物を降ろさせて欲しいんです」

「……すまん」

 

 少ない会話からでも、二人の間には見えない強い絆がある様に感じられた。


「サクラ、君は生きろ」

「時計塔が!?」「崩れ……!」


 そうエイラさんが淋しげに告げた次の瞬間、俺達の足場が勢い良く崩れ去り――


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