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第三話 揺れる心の槍術士

 突如入団テストを言い出したシェリーに、エレナさんが提案したのは、実際に依頼を俺にこなして貰うことだった。


「そういう事なら、依頼を一つ受けてもらうのはどうだろう?」

「そうですよ! ヒカルがちゃんとギルドの仕事をこなせるか確かめるには、それが一番です」


 その提案にサクラも同意し、丁度受けていたイーリス近郊の農村からの依頼に、俺が挑戦する事になったのだ。


「……で、なんであんたと一緒に私まで行く事になってるのよ」

「はは……」


 農村への道中、俺に同行する事になったシェリーは、終始不満げであった。


「右も左も分からないヒカル一人に任せるのは、流石に酷じゃないですか」

「彼について疑念があるのなら、実際に自分の目で確かめてみるのが一番良いんじゃないか?」


 というサクラ達の提案に、その時は渋々ながら同意していたようだったが、やはりまだ不満があったようだ。


「ってあの時は納得しちゃったけど……」


 そんな事を話しながら、俺達は目的地の農村、ノボルト村へと辿り着いていた。 


「着いたわね」

「ここが」


 そこはいかにも田舎の農村と言った感じののどかな場所で、幾つかの小さな家がぽつんと並んでいる意外は、見渡す限り広大な畑の村であった。


「おんやおんや、わんざわんざ町の方からご苦労なこってぇ」


 ギルドに依頼をしたの村長宅を訪ねると、中からいかにも村長と言った感じの白髪の老人が、ゆっくりと進み出てきた。


「依頼書によると、畑に魔物が出るそうなんですか?」


 俺の問いに、村長は困りきった顔で答える。


「んだ、少し前までは、んなことながったんだがあなぁ」


 詳しくは分からないが、ここ二、三ヶ月程で旧に農作物への被害が増え、戦う術を持たないこの村の住人は困り果てていたらしい。

 魔物を全滅させる必要は無く、畑に近付かないように追い払って欲しい、とのことだった。

 

 魔物の被害に合ったという畑へ向かう途中、俺達は依頼について話していた。 


「確かに初心者には打って付けみたいな依頼ね、ここの魔物は下級が殆どだし」


 シェリーの話では、駆け出しのギルド団員でも問題なくこなせるような、かなり簡単な依頼らしい。


「それで、どうやって魔物を追い払うのよ」

「……取り合えず、畑を荒らす魔物がどんなのかを見ないことにはなんとも」


 俺はこの世界の魔物について全く知識が無いし、実物を見てからではないと判断のしようが無かった。


「まあ、確かにそうね……」


「この家の人の話だと、ここで待ってれば魔物がやって来るらしいんだけど」

「それまでひたすら待つしかないって訳ね……」


 俺達は村民に教えられた地点で待ち伏せをすることにし、魔物が現れるのを待っていた。

 どれくらいの頻度で魔物がやってくるかは良く分からないそうで、気長に待つことになるかも……

 という話だった。 


「まあ丁度良いわ、あんたの事を聞かせなさいよ」


 シェリーは近くの切り株に腰を下ろすと、同じように座った俺に向かって問いかけた。


「俺の?」

「あんたがどんな奴か知らないでギルドから追放するのは、流石にあたしも寝覚めが悪くなるしね」


 そうさっぱりとした口調で告げるシェリー。

 追放するのは前提なんだな……

 

「えーっと、何処から話せば良いのか……」


 それから俺は、俺がこの辺りの住人では無い事、丁度魔物に襲われていたサクラを助けた事などを、かいつまんで話した。


「つまりあんたはニホンって所から来た旅行者、みたいなもんなの?」


 流石に異世界から来た、なんて突拍子も無い話は出来なかった。

 それを体験した俺自身ですら未だに実感が沸いていないのだ。


「まあ、大体は……」

「それで路銀も尽きて途方に暮れていた所を丁度サクラに会った訳ね」

「ええ」


 それからシェリーは、暫く考え込むような動作をし。


「……怪しいわね」


 俺をジト目で睨み付けた。


「そ、そんな事無いですよ!?」


 俺が窮地に陥っていたその時、タイミング良く魔物の唸り声が辺りに響き始めた。

 

「どうやらお出ましのようね」

「あれは……」


 内心ホッとしつつ声がしたほうを振り向くと、そこには細部こそ違う物の、猪や兎のような動物の集団の姿があった。

 あれが魔物なのだろうか。


「ストライクボアにファニーラビットに…… やっぱり下級ばかりね」


 集まった魔物の群れを見て、シェリーは少し残念そうに呟くと。


「取り合えず手分けして叩くわよ!」

 

 切り株から立ち上がり、背中に担いでいた槍を大きく魔物へ向け振りかざした。


「あ、ああ!」


 俺も一歩前へ進み出て、戦いの準備を始めた。

 まず両腕を前方へ伸ばし、クロスさせる、そして両腕を腰の位置へ引き寄せ、ベルトがゆっくりと俺の腰に出現していくのを確認してから。

 右腕をゆっくり前方へ伸ばしていき、伸ばしきった後。

 

「変身!」

 

 RIDE ON! RIDE HERO DASH!


 俺は何度も練習した通りにあの言葉を叫び、ベルトから発せられる電子音声と共に視界が真っ白に包まれる。

 伸ばされた右腕が引き戻されたその時、俺はあのヒーローへと変身を完了していた。 


「……な、何よそれ!?」


 シェリーは、いきなり姿を変えた俺にかなり驚いているようだった。

 この世界には変身ヒーローなんて当然居ないだろうし、当然と言えば当然の反応だよな。


「何って、変身だけど?」

「そんな魔法、見た事も聞いた事も……って、話してる場合じゃないわね」


 さも変身が当たり前のような俺の言葉にそれ以上の追求を諦めたのか、彼女は気を取り直した様子で魔物へ向かって行き。 


「操風槍!」


 先頭を走っていた猪へ向け思い切り槍を振り下ろした、それと共に風が巻き起こり、幾つかの魔物を巻き込んで猪が吹き飛ばされる。


「凄い……!」

「こ、これくらい、大した事ないわよ」


 俺の驚愕した様子に、謙遜した様に答えるシェリー。

 だがその口調は、どこか照れている様でもあった。


「って、魔物が皆逃げちゃったじゃない!」


 どうやらシェリーの技と気迫に驚き、魔物は散り散りになって一斉に逃げ出してしまったようだった。 


「良かった、これで依頼達成かな」


 これで人間の恐さが分かってくれたなら、畑への被害も減る……かな。


「良くないわよ、あんたのテストが……」


 そう不満そうにシェリーが言ったその時。

 魔物がやって来た方角から、突如空気を切り裂くような殺気が漂ってきた。

 俺はその殺気に覚えがあった、確かこれは、森でサクラを襲っていた……


「この気配は……!?」


 俺達がそちらを振り向くと、そこには牛頭の、巨大な斧を持った怪人が悠然と歩いていた。

 もしかして、魔物が急に畑を襲い始めたのは、こいつに住処を追われたから……?

 そして、その怪人もこちらへ気付いた様で、巨大な咆哮を上げ、こちらへ向け凄まじい勢いで突進して来た。


「何……あれ……」


 その異形の怪人はシェリーも見たことの無いものらしく、怯えるように一瞬その動きが止まる。

 

「危ない!」「きゃあっ!?」


 シェリーへ向け一直線に突進してきた怪人の軌道からシェリーを抱え込むように退避させた。

 そのまま怪人は勢いを落とすことなく大木へ衝突し、その大木が真っ二つに割れ、辺りに大きな衝撃と音が鳴り響いた。


「な、何なのよこいつ!?」

「多分、この前の奴と同じ……」


 俺はこの前戦ったあの蜘蛛怪人を思い出していた。


「この前って!?」

「シェリーは下がってて!」


 混乱した様子のシェリーにそう告げ、俺は先程の衝突などまるで意に介していない様子の牛怪人へ向かい、少し距離を置いて相対する。

 牛怪人は俺を敵と認識したようで、俺に向けまた凄まじい勢いで突進を繰り出す。


「うわっ!」


 その力は変身した俺よりも上のようで、組み付こうとした俺は為すすべも無く吹き飛ばされた。


「ちょ、ちょっと大丈夫なの!?」


 倒れこんだ俺に振り下ろされる斧を転がって回避し、起き上がって体勢を立て直す。


「力に力でぶつかっても駄目……それなら!」


 俺は、ライドヒーローダッシュ第十一話「ブロークン・ハート」の内容を思い出す。

 確かあの話も、こんな風に力自慢の相手が敵だったよな……


「あの時のように!」


 俺は再び突進してきた牛怪人とまともにぶつかり合うのではなく、その勢いを逆に利用して、合気道の様に相手を投げ飛ばした。 

 それは圧倒的なパワーに一度は敗北したヒーローが、力で勝る相手に取った戦法で、力に力で対抗するのではなく、逆に相手の力を利用する戦い方に、俺はいたく感動したのを覚えている。


「よし!」


 そのまま牛怪人は木々を薙ぎ倒しながら飛んで行き、大きな岩に衝突してめり込んだ所で、ようやく動きを止めた。

 それでもまだ倒すには足りなかった様で、岩から何とか這い出した牛怪人だったが、その動きは鈍っていた。


「これで!」


 俺はその隙に一気に接近し、真下から後転の要領で思いっきり牛怪人を両足で蹴り上げた。

 空中へ浮かんだ敵へ向け、俺は視線を合わせると、一気にベルトの両脇のボタンを押し込む


 MAXIMUM CHARGE!


 ベルトが光り輝き、俺の全身に力が漲る。

 そのまま大地を踏みしめ、牛怪人へ向け渾身のとび蹴りを放った。


「ダッシュインパルス!」


 DASH IMPULSE!


 空中で技名を叫ぶと共に俺の右足の結晶が凄まじく発光し、エネルギーを集中させた飛び蹴りが空中の怪人に命中、反動でスピードを増しながら落下し、土煙を上げながら着地すると、その背後で更に高度を増した怪人がまるで花火のように大爆発した。


「大丈夫か?」


 変身を解き、座り込んでいたシェリーに手を差し伸べて助け起こす。


「あんた……本当になんなのよ」


 そのてをシェリーは少し躊躇った後勢い良く掴み、俺の隣へ立ち上がると。


「まあ、実力は確かにあるようね」


 俺の顔をまじまじと見つめ、服の埃を払いながらそう軽く笑ったのだった。


「あれ程の魔物を倒して、報酬がこれだけ……か」


 村からの帰り道、俺達は村長から貰った野菜を両手一杯に抱え、夕日に照らされながら帰り道を歩いていた。

 その道中で、シェリーは不満そうに呟いた。


「少ないのか?」

「相場からすれば、かなり、ね」


 シェリーの話では、あの強さの魔物を倒す依頼なら、こんな野菜程度で支払える依頼料では済まないらしい。


「でも、村長さんが喜んでくれて良かったよ」


 俺は魔物を追い払った後の、村長や村の人の心底喜んだ顔を思い出していた。


「……あんた、本気でそう思ってる?」

「え……?」


 そう真剣な顔で問いかけられ、予想外の反応に思わず動きが止まる。


「成程ね、サクラが気に入るわけだ」


 その俺の反応に、シェリーは何か納得した様子で頷くと。


「仕方が無い、あんたがギルドに入るのを認めてあげるわよ」


 俺のほうに向き直り、改まった様子でそう告げた。


「本当!?」

「今回は私も助けられちゃったしね、それに、あんたはどうやら悪い奴では無さそうだし」

「やったー!」


 喜ぶ俺に、照れた様子でシェリーが答えたその時、俺達の背後から突如歓喜の声が鳴り響いた。


「ってサクラ!? あんた何時の間に!?」


 その声を発したのは、ギルドで帰りを待っているはずのサクラだった。


「二人が心配で、ここで帰りを待ってたんですよ」


 その言葉に辺りを見回し気付いたが、いつの間にか俺達は西門のすぐ近くまで着いていたようだ。


「シェリーちゃんも納得してくれたみたいで、私嬉しいです!」

「い、一応ね、一応だからね!」


 そう心底嬉しそうに話すサクラに、顔を真っ赤にして答えるシェリー。

 そのやり取りをほほえましく見ていると、サクラから俺に突然右手が差し出された。


「サクラ?」


 戸惑う俺に、サクラは満面の笑みを浮かべると。


「ヒカル、ギルド虹光旅団に、ようこそ!」


 そう高らかに宣言した。


「こちらこそ、これから宜しく!」


 俺もその言葉に答え、しっかりとサクラの手を握る。


「いやー良かった良かった、これで我がギルドにも、ようやく二人目の団員が入る事になった訳だ」


 その時、サクラの後からやってきたエイラさんが、感慨深そうに衝撃の事実を告げた。


「……二人目?」


 その信じ難い事実に俺が硬直したままシェリーの方を向くと。 


「私は色々あって偶にしか手伝えないから、正式な団員じゃないのよ、まあ、特別団員って感じかしら」


 そうエプロンの裾を握りながら答えるシェリー、そこには「定食屋ノーブル」という文字と何かのマークが刺繍されており、どうやらシェリーの本業はその定食屋のようだった。


「え、エイラさんは……」


 最後の望みを託し、エイラさんの方にゆっくりと向き直る。 


「私は見ての通り、前線で戦える体ではないからね、顧問とかご意見番って所かな」


 そう生身の方の腕で義手を撫でながら答えるエイラさん、確かに魔物などと戦うのは無理そうだ。


「やったー! 初めて団員の勧誘に成功しましたー!」


 そんなやりとりをしている俺達の周りを走りながら、無邪気に喜ぶサクラ。

 その伸び伸びとした声が、夕暮れに包まれる街に響きわたっていたのだった。

  

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