第二十五話 失われし過去との邂逅
ギルド協会会長が行方不明になってから数日、本部は未だ混乱の中にあるらしい。
上級ギルドの精鋭達を護衛に付けていてのこの事態に、内部の陰謀説が噴出、後任を決めるのもままならない状況だそうだ。
と言っても、俺達虹光旅団の様な中小ギルドにはそこまでの影響は無く、何時も通りの業務を続けられていた。
そんなある日、俺はナタリアから見せたいものがあるとの事で、ナタリア邸に招かれていた。
「お邪魔します」
「いらっしゃいなのじゃ!」「いらっしゃいませ、ヒカル先輩!」
館に入って俺を出迎えたのは、メイド服姿のアイリスとハーミル。
……結構気に入ったのか?
だが当のナタリアの姿が見えない。
「ナタリアは?」
「それはのう……」「見てのお楽しみですね」
何故か楽しげな二人に案内されたのは、ナタリアの研究室。
「ナタリア、入るよ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
軽くノックをして入ろうとしたが、何故か部屋の中で物凄く慌て出すナタリア。
「往生際が悪いのじゃ!」
「あ、ああー!」
抵抗するナタリアだったが、アイリスによって無理やりドアを開けられてしまった。
部屋の中には……
「ナタリア……その格好……」
「よくよく考えれば、ナタリアだけ着ていないと思ったのじゃ」
「一人だけ不公平ですからね!」
そこには、アイリス達と同様のフリフリのメイド服に身を包んだナタリアの姿があった。
「み、見るなぁ……」
相当見られたくなかったのだろうか、顔を真っ赤にして身を捩るナタリア。
いつもの飄々とした態度とは真逆の姿に、なんだかこっちまで照れくさくなってしまう。
そんなに恥ずかしがらなくても……
「ヒカル?」
「えーっと、に、似合ってる……よ」
戸惑うナタリアに近づき、素直な俺の感想を伝えた。
普段の白衣姿も似合っているが、こういう可愛い服装もナタリアの魅力を引き出していて良い、と思う。
少女体型だから余計に似合っている、というのは本人が怒るだろうから流石に言わなかったが……
「そ、そうか?」
「そうなのか……」
俺の言葉に暫し戸惑っていたナタリアだったが、一人で何事か納得した様子を見せ、ようやく落ち着いた表情になっていた。
「それで、見せたいものって……」
「いやいや、違うぞ!」
メイド服を見せるために呼んだのかと思ったが、どうやらそれはアイリス達が勝手にやったようだ。
研究室の奥からナタリアが持ってきたのは小さな小箱。
「見せたい物というのは、これだ!」
「これは、もしかして……!」
その中に入っていたのはくすんだ金色のブレスレット、経年劣化だろうか、かなりボロボロになっている。
だが辛うじて元の形を保っており、俺はその形と色に確かに覚えがあった。
「やはり知っていたか」
俺の答えに満足そうに頷いたナタリアは、そのブレスレットを置いたテーブルに腰掛けて語り始めた。
「知り合いの学者が珍しいものを手に入れたと聞いて見に行ったのだが、そいつも誰もこれについて全く分からないらしくてな」
物理学者などがいくら解析しても素材すら不明、歴史学者もまるで見当が付かなかったらしい。
「それで俺の世界の物だと思ったわけか」
「あくまで可能性程度に思っていたのだが、偶然というものはあるのだな」
「それで、これは何なのじゃ? どうやって使うのじゃ?」
アイリスの問に、俺は慣れた手つきでそれを右腕に装着し始める。
これは恐らく俺の腰のベルトと同じあちらの世界の玩具。
ダッシュの後期変身アイテム、"超越変身"エクストラチェンジャーであろう。
右腕にこれを巻きつけ、側面のボタンを押してからベルトに翳すことで、ベルトと連動して光が輝き音が鳴る。
と、言ってみればよくあるタイプの玩具であったが、この世界に何故これが有るのだろうか、しかもかなり昔から存在していたように見える。
もしかすると、ベルトと同じようにこれも……?
「腕時計みたいですね」
「こうやって、ここを押すと……」
「何も起こらないのじゃ」
「うーん……壊れてるのかな」
あっちの世界と同じようにボタンを押したり、ベルトに翳したりするが、何の反応も返ってこない。
やはり外見同様、中身も時間経過で壊れてしまったのだろうか。
「ヒカルが使ってもそうなるのか……残念だ」
心底残念そうに落胆するナタリア、俺が悪いわけではないが、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
「これ、貰って良いかな?」
「ああ、別に構わないぞ、もうそれは調べつくしたからな」
「動かない物を貰ってどうするのじゃ?」
「ちょっとね」
たとえ壊れていたとしても、これはあっちでの思い出の品であることに変わりはなく、いつの間にか愛着が湧いてしまったのだ。
そんな未練めいた思いをまだ残していた自分に少し驚きながらも、俺はナタリアからブレスレットを受け取ったのだった。
その頃、サクラは依頼でイーレン中央区の古びた時計塔へ向かっていた。
かつて市民の憩いの場所として親しまれていたそこは、15年前の災厄で半壊し、今は記念碑扱いとなって保存されているものの、一般市民の立ち入りは禁止されていた。
道中、サクラはエイラとの会話を思い出す。
「依頼ですか?」
「ああ、だがこの依頼、かなり怪しいものでね」
サクラに依頼書を渡しながら、エイラは不審そうな顔を見せていた。
実際依頼書に書かれていたのは、虹光旅団のサクラ・アークフィールドに依頼、場所は時計塔、詳細は現地にて。
と簡単に書かれているのみで、依頼者も不明であった。
「ギルドがゴタゴタしているから仕方ないのかもしれないが……」
通常であればこんな依頼はそもそも窓口で断られている筈だった。
だが、会長が死んでからの本部の混乱で、普通の依頼がこのような適当な依頼書になっているだけかもしれない。
とエイラは話していた。
「何かあったらすぐ帰ってくるんだよ」
「はーい!」
その言葉を背に受け、サクラは家を後にしたのだった。
時計塔には特に見張りなどもなく、立入禁止の看板が掲げられているのみであった。
「失礼しますよー」
誰に聞こえるでもない挨拶をしてから、階段をゆっくりと登っていく。
最上階まで辿り付いたが誰の姿も見えず、依頼人の到着を待ちながらサクラは何とはなしに街を眺めていた。
「この場所は……」
その時、サクラの脳裏に忘れていたいつかの日の光景が蘇った。
確かこの場所は、生前の父親と訪れた数少ない――
「来たか、サクラ・アークフィールド」
「魔人!?」
そんなサクラの思慮を破ったのは、突如背後から響いた重厚なくぐもった声。
その声の主は、無骨な漆黒の鎧に身を包んだ大男。
「貴様がどれ程の腕か、見せて貰おう!」
鎧の男はサクラの返答も待たず、背中の大剣を思い切り振りかざした。
咄嗟に飛び退いて回避したが、床に打ち付けられた際の衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩き付けられるサクラ。
「強い……!」
その一撃で、サクラは相手の技量が只者ではない事を悟る。
だが、ここで退く訳にはいかない。
「それでも!」「甘い!」
近づいてきた相手に大剣を一気に引き抜き真横に振り抜く、完全な不意打ちが決まった、かに見えた。
が、大男はその勢いを逆に利用し、自身の大剣で下から掬い上げるように放り投げたのだった。
勢いを増した体が背中から地面に落下し、うめき声を発したサクラの手から大剣が落ちる。
「こ、この技は……まさか!?」
衝撃で朦朧とする意識の中、サクラの脳裏に過ったのは――
「サクラ!」
「ヒカルさん!」
その時、時計塔の壁を駆け上ってヒカルが変身したダッシュが現れた。
ナタリア邸から帰ってきたヒカルがエイラからサクラの様子を見に行ってくる事を頼まれ、到着してすぐ時計塔上部からの戦闘音に気付き慌てて変身して助けに来たのだった。
「邪魔が入った様だな」
乱入に今日が覚めたのか、その場を後にする大男。
「サクラ・アークフィールドよ、貴様に言っておく」
サクラに背中を向けたまま、大男が言い残したのは。
「貴様の腕ではいずれ無駄に命を散らすのみ、無駄なことは止め、今すぐ戦場から去れ」
サクラへの容赦の無い冷徹な言葉、だがそれは、どこか忠告めいても聞こえたのだった。




