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第十九話 妄執を断つ紅の刃

 夕食の時間が過ぎてもサクラが帰ってこない事を心配した俺は、サクラ達が向かった学園へ到着していた。

 俺の目の前にはかなり高い塀に囲まれた豪華な校舎、あっちの世界で言えば私立高校と言った感じだろうか。

 普通の公立高校にしか通ったことのない俺にとっては、結構敷居が高い。


「勝手に入っちゃ駄目だよな」


 堅牢そうな正門が、俺の侵入を阻むように立ちはだかっている。

 もう先生とかも居ない時間だろうし、どうやって中に……


「あれは……!?」


 そんな時、校舎の奥から激しい衝撃音が聞こえ、そちらに目をやると。

 巨大な芋虫の様な魔物の群れと戦闘している何者かの姿が見えた。 


「変身!」


 RIDE ON! RIDE HERO DASH!


 考えるより先に体が動き、変身すると共にその場に駆け込む。

 そこで戦闘していたのは、あの黄金同盟のカレンだった。 


「大丈夫か! カレン!」

「貴方は……!」


 カレンを庇うように魔物の群れと相対し、ベルト両脇のボタンを一気に押しこむ。


 MAXMUM CHAGE!


 右足にエネルギーが溜まると共に、一気に空へ駆け上がる。


「ダッシュインパルス!」


 DASH IMPULS!


 眩い閃光を放ちながら懇親の飛び蹴りが魔物の群れを蹴散らし、吹き飛ばされた残骸が煙を放ちながら消滅した。


「取り合えず片付いたか……」

「貴方、どうして此処に?」

「サクラがいつまでも帰ってこないから、心配になって探しに来たんだ」


 訝しげな表情のカレンに、変身を解除して俺の方の事情を説明する。

 その説明に一応は納得した様子のカレンだったが。


「加勢に礼は言いますが、貴方、無断侵入ではなくて?」


 そんな身も蓋もない事を言ってきた。


「い、今はそんなこと言ってる場合じゃないって!」

「はぁ……本来なら捕縛する所ですが、仕方ありませんわね」


 呆れた顔で溜息を付くと、カレンは何処かへ悠然と歩き出した。


「付いて来なさい」

「ついて来いって、何処に?」

「この事態を引き起こした者に、心当たりがあります」


 こちらを振り返りもせずに早足で歩きながらしゃべり続けるカレン。


「その者の名は、ハーミル・フェルメール」

「ハーミルって、確か……!」


 その名前を聞き、俺の頭にあの緑髪の女の子の顔がよぎった。


「知っているのですか?」

「今日家に来て、サクラを連れて行った……確か後輩だって」

「……成程、それが本当の狙いでしたか」


 俺の言葉を聞き、カレンは確信を持った口調で続けた。


「私の調査で、フェルメールは所謂いじめの被害者だった、と言う事が判明しました」

「そして、今までの事件が、全て彼女の周囲で起こっていると言う事も」

「それって……」


 カレンの話によれば、事件のあった場所がハーミルの教室だったり、被害生徒が彼女をいじめていた人物であったりしたそうだ。 

 ハーミルを中心に考えれば、一見無軌道に見える複数の事件が全て一直線に並ぶ、そうカレンは結論づけたらしい。


「だったら、何で学園側は何も……?」

「彼女に対するいじめは、ある期間の間は止んでいたのです、彼女がある生徒と知り合い、その生徒が彼女の先輩としている間だけは」

「それが、サクラって事か」


 確かに、あの天真爛漫なサクラと一緒ならそういう事とは無縁でいられそうだな。 


「ええ、学園側はもうすっかり彼女のそれを忘れていたようですが、アークフィールドの卒業を期に、また……」

「そして、不可解な事件が起こり始めた、か」


 俺が見た感じではそういうふうには全く見えなかった、ただの元気な子だと思ってたけど、そんな事情を抱えていたのか……


「ハーミルの部屋は既に調べてあります」


 そして、カレンが話し終わるのとほぼ同時に、俺達はある学生寮の前に到着していた。 


「ここが?」

「ええ、この寮の二階に……」


 俺達が寮の中に入ろうとした、その時。


「何だ!?」

「どうやら、私達を先には進ませたくないようですね」


 突如地中から、先程の芋虫のような魔物が大量に現れた。


「ってことは、やっぱりここが当たりか!」

「貴方、先に行きなさい」


 レイピアを抜いたカレンが、芋虫達と相対しながら告げる。


「良いのか?」

「効率的な判断を下したまでです」

「貴方の方こそ、私が死地に貴方を送り込む事を考えたとは思わないので?」


 俺の問に、逆にそう言って聞き返すカレン。


「……そんなこと、思い付きもしなかったよ」

「やはり、貴方は不可解ですわね……」


 呆気に取られた様子の俺を見て、カレンは理解出来ない物を見る様な顔をしていたのだった。


 寮の階段を駆け上がり、二階のハーミルの部屋の扉を押し開けた。


「サクラ!」

「これは、繭……か?」


 部屋に入った俺の目に入ったのは、白い糸のようなものに包まれ、眠っている様子のサクラだった。


「ふふ、もう来ちゃったんですね」

「その声、ハーミル!」


 戸惑う俺に、背後から声が掛けられる。


「どうして私が引き離されて、あなたの様な人が、先輩の傍にいるんでしょうね」


 その声はどこか悲しげで、それでいて激しい感情を含んでおり、ハーミルの複雑な思いを表しているようだった。


「ハーミル、何でこんな事を!」

「答える必要が、有りますか?」


 急にハーミルの声のトーンが激しくなったかと思うと、部屋の天井から巨大な羽を生やした魔人が現れた。

 極彩色の羽根に複眼、かろうじて人型を保っているが異様な様相のその魔人は、俺の目には羽虫の様に見えた。


「蝶、いや、蛾か!?」

「お願い、あいつを……消して!」


 ハーミルの声が掠れる程の絶叫と共に、蛾魔人が俺目掛けて突進する。


「取り合えず、こいつを何とかしないと!」


 両手で受け止めようとしたが、逆に手足を掴まれ、寮の外へ運びだされてしまった。 


「強い……だけど!」

 

 空中で藻掻く俺に業を煮やしたのか、蛾魔人の拘束が解けそのまま宙に投げ出される。


「変身!」

 

 落下しながら変身ポーズを取り、俺の体は空中で紅い閃光に包まれた。


 RIDE ON! RID EHERO RUSH!


 激しい土煙を上げながら着地。

 煙が晴れたそこには、紅い結晶に包まれたライドヒーローラッシュの姿があった。


「貴方、その姿は……!?」

「カレン、俺の隣に!」


 落下してきた俺に驚くカレンを引き寄せ。


「ラッシュバースト!」


 RUSH BURST!


 全身の火器を全方位に乱射、轟音とともに辺り一面を紅の閃光が包み、地面を埋め尽くしていた芋虫が消滅した。


「なんで、なんであなたは!」


 寮の窓から、半狂乱したかのように叫ぶハーミル。


「君の事情はなんとなく分かる、だけど……!」


 俺は彼女を一瞥すると、地面に降りてきた蛾魔人と相対した。


「ラッシュブレード!」


 RUSH BREAD!


 両腰の双剣を引き抜き、俺の叫びと共にその刀身にエネルギーが充満していく。


「ラッシュ・スラッシャー!」


 RUSH THRASHER!


 俺に向け突進して来た蛾魔人に向け、全力で双剣を振り抜いた。 

 宙を滑る二つの紅の刃が一瞬で交錯し、刀身から光が消えるとほぼ同時に、蛾魔人は激しい爆炎を上げながら消滅した。 


 少し後、蛾魔人が消えた事でサクラの拘束も解け、事情を聞いたサクラが泣き腫らすハーミルを慰めていた。


「先輩、私……ごめんなさい」

「私の方こそ、あなたが苦しんでいるのに気付けなくて……」


 ハーミルの顔は安心しきった様子で、先程までの何かに取り憑かれたかのような凄みは消えていた。


「取り敢えず、一件落着かな」


 俺はそんな二人を見ながら、取り敢えずの事件解決に一息付いていた。


「それにしても、あの魔人は何故彼女に……」


 そう言って疑問を呈するカレン。

 確かに、一介の学生のハーミルがなんであんな魔人を……? 


 そのヒカル達の様子を、物陰から伺うローブ姿の少女、あのキュウキの姿があった。

 

「サクラ・アークライトを人質に取る作戦の筈が、思い入れが強すぎた様ですね……」


 キュウキの作戦ではハーミルにサクラを人質に取らせ、闘えないヒカルを仕留める手筈だったが、ハーミルが暴走して冷静さを失い、ただ徒に魔人を戦闘させるだけになってしまっていたのだ。 


「やはり、私が直接……」


 そう呟いた直後、キュウキの姿は音も無く掻き消えていたのだった。

 

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